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ラインハット帰還編_十一

 あくる日の朝、ルーラでオラクルベリーに戻ったリョカは、借家にて荷造りをしていた。
 留守にすることの多いリョカの荷物はそれほど多くなく、また使いふるした鋼の昆などは別途支給すると言われ、質屋に入れた。
 その他にもお金になりそうなものは全てゴールドに換え、台所のテーブルの上に置く。
 これまでの傭兵としての給料もかなりの量であり、女一人が暮らすには十分な資産を残すことができた。
「……あ、あの……」
 荷造りが終わりかけた時、マリアがそっと口を開く。
「なんだい? マリア」
 リョカは務めて平静にそう応える。ただし視線は荷物に向けたまま、向き直る様子もない。
「私は……。いえ、リョカさんはどうなさるつもりなんです?」
「どうって……」
「ですから、ヘンリーさんと一緒にラインハットへ行くつもりなんですか?」
「ああ、僕はやっぱり父さんの汚名を晴らしたい」
「そんな……、だって……。私は……私は……」
「君にはヘンリーがいるよ」
「だって、もし、もし失敗したらどうするんですか? そうしたら私はまた……、また一人に……」
「大丈夫。きっと上手くいくさ。僕らはあの地獄からも出てこれたんだ。だから……」
 楽観的に言い放つリョカだが、本当のところ、今居る締め付けられるような穏やかな牢獄から逃げ出したいのかもしれない。だからリョカはマリアを数秒と見つめられずに居る。
「それとこれとは違いますわ。監視の目を盗むのと国一つ盗むなんて全然……全然違う……。きっと、きっと上手くいくはずなんて……ありえない……。どうしてそんな見えないようなもの……。もっとこう、小さな幸せで満足できないんですか……」
 その逃げを赦さぬマリアは彼の胸に飛び込み、潤んだ瞳を向ける。
「マリア。僕も本当は自分や、その守りたい大切な人と一緒に過ごせる程度の幸せだけで十分だと思うんだ。でも、僕もやっぱり奪われたものを取り返したい気持ちがあるんだ。それに、父さんとの約束、母さんを探すことはできそうにないし、それならせめて父さんの名誉だけでも取り返したい。だから僕は行く。暫く戻ってこれないと思うけど、その分のお金はあるよね? ゴメンね、マリア」
 リョカは彼女に深く頭を下げる。
「どうして、どうして私は……」
「ゴメン。もう行くね……」
 リョカは部屋を出る。その背後で聞こえる嗚咽を浴びながら……。

**――**

「お待たせ……」
 荷造りを終えたリョカは、宿の外で待っていたヘンリーに声を掛ける。
 彼のその鎧の紋章から街の人は遠巻きにそれを見ており、明らかに怯えていた。
「リョカよ、マリアは……」
「彼女は君が迎えに行くといい。王になってから、必ず……」
「そうか……。すまないな……」
 ヘンリーは何か言いたげな様子だったが唇を噛みそれを飲み込む。
「よし、行こう……」
 二人は頷き合うと、エマの待つ人気のない路地へと向かった……。

**――**

 ラインハット軍による東国統一作戦。
 ラインハット地方には三年前まで三カ国あった。
 東国の南の平野に位置するボンモール国と、北東の山脈に囲まれるブランカ国。
 ボンモール国は天空に城が浮かんでいたとされる神話の時代からの国家だが、融和させたはずのエンドール国の平和的な風潮に染まり、軍備を最小限の自衛ができる程度まで切り詰めていた。
 人間の敵は魔王であり、魔物である。
 この考えが堕落であるかは判断が分かれるが、闇雲に侵略を進めるだけのラインハットによって一年半前に併合されている。
 一方、ブランカ国はチップの死によるラインハット国の混乱に乗じ、侵略の準備を進めていた節がある。しかし、もともと謀殺による国王の死に混乱など無く、奇襲を仕掛けたはずのブランカ軍は敗走をする結果となる。
 だが、そのまま攻め落とせるはずもない。その頃、ラインハット国は戦力をボンモール併合、サンタローズ侵攻に分散させており、ブランカ国とラインハット国による、東国の陣取り合戦に終始していた。
 戦線に異常が現れたのはつい半年前のことだった。
 均衡状態の続く前線、ラインハルト川に臨むブランカ国の砦、レイクバニア。対しラインハット軍も急場しのぎで築き上げた砦にて望遠鏡で監視しあう日々、闇夜に紛れて奇襲が行われた。
 ある庸兵が正規兵を少数連れ立ち、闇夜にまぎれて落としたのだ。
 その庸兵こそアルベルト・アインスだった。
 彼は単身で砦に現れると、そのまま門を開け放つ。城門の開いた砦ほど脆弱なものもなく、少数の兵によりブランカ国の砦は占領された。その様子を捕虜の一人は、まるで煙のように現れたと語っていた。
 防衛の拠点を失ったブランカ軍は結束を弱め、敗走に継ぐ敗走を続け、次第に城を擁するブランカの城下町一つにまで追い詰められることとなる。とはいえ城下町こそ最大の難関であり、小手先の戦術で落とすことなどできず、再び膠着状態へと陥った。
 現在、ブランカ国侵攻はアルベルトの率いる「双頭の蛇」が主体となっている。
 庸兵から正規軍の長となったアルベルト・アインス。異例の抜擢には何かと噂が付きまとい、儀礼の席にしても兜をとらないことから彼を胡乱じるものも多い。
 彼がそのフルフェイスの兜を常に装備しているのは戦場にて受けた傷跡が故。額から斜めに走る傷を当人が「武人の恥」と語り、頑なに隠している。
 国王デールに代わり執政をとるアルミナ王女は、その有能さから特に気にする様子もなく、彼に正規軍の隊長の任を与えたのだった。
 ブランカはボンモールと違い山に囲まれた難攻不落の城。これまで何度も侵攻戦が行われたが、結局のところ頓挫してしまった。
 そこを任されたアルベルトが提案したのが、ブランカ城下町陥落作戦「ドーナツ」。
 城下町近くにて簡易の砦郡にて包囲を固め、水面下で重臣の切り崩しを行い、陸路・水路の断絶による兵糧攻め、投降する難民の受け入れなどで吸い上げを行っている。
 ドーナツのように内側を空洞にするというものだが、効果はいまひとつ上がっていない。
 その消耗戦に、アルベルトを疎く思う者は冷ややかにほくそ笑んでいた。

続く

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