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ラインハット帰還編_その十二

 リョカはブランカ国近くの野営砦「オールドファッション」にて、簡単な説明を受けていた。
 砦にはいくつものテントと大きな鍋、燃料となる蒔きとコークス。それに食料が詰め込まれており、今日も陸路にて追加が行われていた。
 まさかこのまま兵糧攻めで落とすつもりだとすれば、それはのんきを通り越して莫迦としか言いようが無い。だが、ヘンリーは特に気にする様子もなく、その報告を受けていた。
「僕のまったく知らない世界だよ……。けど、今更僕に何か手伝えるようなことは……」
 大方理解したリョカだが、兵隊の欠員なら正規軍を増員するべきで、今更一人増やす意味がわからない。
「うむ。お前には……、もう一つの作戦を頼むつもりだ。俺は言っただろう? 全てを取り戻すとな」
「ああ。それはやっぱり……」
 クーデター……。
 でかかった言葉をリョカは飲み込む。彼の正体を知られることも憚れるが、それ以上に国家転覆を図る計画などおいそれと口にすべきではない。
 ただ、正直なところ、ラインハット国の情勢は安定していないことは誰の眼にも明らかだった。
 アルベルト登場までのアルミナによる野放図な侵略により国内は疲弊しており、新たな侵略戦争の出費はボンモール国からの賠償金による自転車操業によるもの。
 内外問わず国王、女王への不満は高まっており、一部利益に興じるものに目を逸らさせられているのが現状だった。
 そしてもう一つ出始めている動き。それはヘンリー第一王子の凱旋の噂。
 ――三年前に出奔したヘンリー第一王子は、実は生きている。
 幼き頃から次期王としての自覚を持ち、帝王学を学んでは先人を平伏させ、政治学に明るく、治世に置いては自ら剣を振るう胆力の持ち主。
 暗愚とされる妾の子、デール第二王子を討ち、その時こそラインハットによる真の東国統一がなされる。それはヘンリーによるクーデターを意味し、日に日に庶民から渇望されてきているのだ。
 東国事情に疎い……というよりは、意識的に耳を塞いでいたリョカにとっては初耳だった。
「リョカよ……」
 ペンを走らせるヘンリー。リョカはそれを覗き込む。
 ――ブランカはまもなく落ちる。その後、東国統一のセレモニーが予定されるであろう。そのときこそ決起するに相応しい舞台だ。既に重臣の幾人かは抱え込んである。当然正規兵もだ。だが、城内の式典にもぐりこめるのはせいぜい副官に一人か二人。エマは姿を隠せるが、自身が限度だという。俺は一番信頼できるお前に来てほしい。共にアルミナを討つために。
 ヘンリーは何も言わず、ペンを強く握り締める。歯を食いしばり、険しい表情で居り、リョカが頷くのを見たあと、灯火に翳す。
「アルベルト隊長!」
 ノックもせずに兵隊が駆け込んでくる。
「何事だ、トム」
「はっ……、ブランカ国に火の手が上がりました」
「そうか、ならば予定通りに動け……」
 ヘンリーは一瞬考え込んだあと、立ち上がり、兜を拾い上げる。
「リョカよ、俺に続け」
 リョカもそれに続き支給された装備を取る。しかし、左肩に走る緑の三本線を見て、そのままの軽装でヘンリーを追った。

**――**

 火の手の上がるブランカ国城下町。突然の火災に国民は領内を脱出しようと大挙して押し寄せる。
 彼らは手にせめてもの財産と縁者を連れ立つのみだが、その人波は矛を向けて止まるものではなく、小競り合いが起こる。
「ヘンリー、これは一体?」
「侵攻作戦の大詰めといったところだな」
「アルベルト隊長! イーストシェル、準備完了いたしました」
 準備の整った正規兵の幾人が追いつき、ヘンリーに傅く。
「同じく、ポン・デ・リング、完了いたしました」
「ヴィアナブロード、若干の小競り合いがありましたが、作戦に支障の無い範囲の誤差に留まります」
「うむ。とにかく砦に明かりを点せ……。今日は眠れない夜になるだろうからな」
「はっ!」
 短く応えると皆散り散りに走りだす。
 ヘンリーも鉄の弾き合う音とその匂いの漂う中、高台を目指す。
「エマ、いるのだろう? これが俺の侵略作戦だ」
 ふわっと光が集まると、何時から居たのかエマが姿を現す。あながち彼のストーカーというのは間違っていないのかもしれない。
「まったく意固地なんだから。どうしてそんなに私の力を借りたくないわけ?」
「貴様が俺の子分になるというのなら考えてやろう」
 呆れた様子のエマに、ヘンリーはフンと笑って応える。

 周囲を一望できる一際高い砦、「クーヘン」に、三人はやってきた。
 既に魔法使いの部隊が待機しており、印を組みつつ「レミーラ」の詠唱をしていた。
 ヘンリーは松明を点し、炎に燃えるブランカを見る。そして東にそびえるイーストシェルを向き、松明が大きく円を描くのを確認する。ついで西にあるポン・デ・リングが描く円を見る。最後にブランカ国に隣接しているヴィアナブロードの円を確認し、松明の背後に立つ。
「よし、始めるぞ……」
 ヘンリーの声に魔法使い達は光の精霊を集め「レミーラ」と唱える。するとヘンリーの背後からまばゆい光が放たれる。
 十数人による集光魔法は辺りを真昼のように照らし、難民達の視線を奪う。
「ブランカの民よ! うろたえずによく聞け! 我らラインハット国軍は難民を受け入れる準備をしている!」
 燐とした声が響く。混乱と焦燥の避難民達はざわめきながら、その声の方、光り輝くクーヘン砦の頂上を見る。
 闇夜に一点の輝きを点す者。まるでその声の主こそが光を放つかのような、太陽のような力強く、明らかな存在感を示し、しばし言葉を、冷静な思考を奪う。
「我らラインハット国軍の求めるものは東国の統一だ。徒に戦火を広げるつもりはない。しかるに、今こうして貴様らの土地を、財産を、愛する者を奪う炎は誰によるものか? それはブランカの国王によるものだ!」
 再びざわめきだす難民達。彼らは自分達に矛を向け、自由な往来を奪うラインハット国軍の言うことは、にわかに信じられない。
「疑うのももっともだ。しかし見るといい! 貴様らの国を。何故、王宮の明かりが消えている? 何故、街が燃えている? 彼らは自力での消火を諦め、あまつさえ、混乱に乗じて逃げようとしているのだ! 彼ら、国王が愛すべき、守るべき国民を裏切ったからだ」
 国王の裏切り、逃亡という言葉に罵声、怒声が上がる。それは徐々に伝播していき、難民同士伺い合い、疑惑の目を持つ。
「うろたえるな!」
 そして再び力強い声が響く。十数メートルと離れた場所にあり、どうしてその声が届くのか、それほどまでの声量など、もはや人間の声帯には不可能のはず。そして後光に照らされる黒いシルエットはその存在を小さな人間から天照す神にすら見せた。
「今、我らラインハット国により、ブランカは併合されるであろう。しかし、それは滅亡ではない。ともに、東国の発展のために、歩むための同化だ。我らは国を違えて、地図の上の線に区切られながら睨み合うべき時ではないのだ」
 その言葉に平伏すものが出始めた頃、ヘンリーの背後で一瞬青い光が見え、次の瞬間に三つの砦が輝き始める。
「今、我らはブランカの民を愛すべき、共に歩むべく同胞として受け入れる準備がある。炎に焼かれ、国を追われた者達よ、光を求め、くるがよい……」
 そう告げたところで光が消える。代わりに松明を掲げた兵士達が砦までの道を作り、焼き出された人々を導く。
 その統率の取れた行動にブランカの人々は従い始め、その動きを制そうとしていたブランカ兵もついには矛を捨て、続いていった……。
 この夜、ブランカの城下町は王族を残し、もぬけの空となる。まるでドーナツがごとく。
 それらが全て、アルベルト・アインス――ヘンリー・ラインハルトによる策であるなどと、知る由もなく……。

続く

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