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ラインハット帰還編_その十三

 勝利の凱旋を果たしたアルベルトへの賞賛は惜しまれることが無かった。
 東夷隊、とりわけ彼が率いる双頭の蛇には、老若男女問わず声援が送られ、アルベルトもそれに応えて手を振っていた。

 この三年間にわたる戦争の勝利と終結はラインハット国民を沸かせたが、それは一時のこと。太閤に居座るアルミナはこの度の戦勝に勢いに乗り、西進をほのめかしている。
 現状、ケイン老が東国の平定と融和における執務を理由にそれを留めているが、それが何時まで持つかは解らない。
「で、いつまでその被り物をしているつもりなんじゃ?」
 執務室にてカード片手に顔を歪めるのは時の人、アルベルトだった。
「外しているだろう?」
 カードを切るも、期待値を大幅に超える数字でバースト。
「ふん。そういう意味ではないわい。さっさとあの女狐をなんとかせんかい」
「ふむ。そうしたいのは山々だが、何かおかしくないか?」
「何が?」
「いや、アルミナの雰囲気さ」
「さあ? ワシ、不能になってからは年増の女はどれも同じに見えるんでな」
「まったくこのボケ老人は……。俺の勘違い……にしてはなぁ……」
 ブランカ国併合に至り、アルミナとデールによる調印式にアルベルトは遠巻きながら出席した。久しぶりに見るデールはやつれたように見えたが、自分の意思で歩いていることに文字通りの操り人形となったわけでは無いと安堵した。
 だが、その隣に傅く存在、アルミナにかなりの違和感を覚えたのも事実。
 彼女のその変わらぬ美しさもさることながら、禍々しさがにじみ出るかのような雰囲気に、アルベルトはフルフェイスの下で眉を顰めた。
「そうは言われても、ワシもお前が居ない間、お役御免でオラクルベリーに居たしのぉ。もともとあの女の顔を覚えるほど会っておらんよ?」
「なるほどな。以前を知らぬとなればその違いがわかるはずがないか……」
 アルベルトが腕を組み、長考をはじめるとノックの音がした。
「アルベルト殿、リョカ殿を連れて来ました……」
 リョカと頬のこけた鋭い目の男がやってくる。彼の名はオットー・シュテイン。かつてレイクバニアの指揮官を務めていた男だった。その後、その有能さを買われ、ラインハット国に任官し、現在はケイン老の補佐を行っている。
「リョカ、やはり着てはくれないか……」
 旅人の服を纏ったリョカの姿にアルベルトは嘆息する。
「ごめん。やっぱり気が引けて……」
「うむ。しょうがあるまい、お前にはそう簡単に譲れぬ思いがあるだろうしな……」
「でも安心してよ。君の言った日にはちゃんと着てくるから……。それに僕はあんまりああいう堅苦しい服装は苦手なんだ……」
「ふん。俺もだ……」
 そう言って笑い合う二人。その背後でトランプが散らばる音がした。
「お主……、まさか……、パパス殿の?」
 目を見開いたケイン老に二人は後ずさる。今まさに大往生とでもいうべき驚愕の表情なのだから。
「ああ、そうだ。紹介していなかったな……。うむ。お前の言うとおりだが、何故知っている?」
「えっと、初めてお会いしたような……」
「ふふ、覚えておらぬも仕方あるまい……。さすがにワシも老いたからな……」
「貴様は俺が生まれた頃から妖怪だろう?」
「黙らっしゃい。……そうじゃな。あのキラーパンサーは元気かな?」
「キラーパンサー……。ああ、貴方はあの時の……」
 ようやく思い出したリョカの表情は複雑だった。三年前、パパスをラインハット国に召集した官僚こそ、このケイン老なのだから。
「今更謝ったところでしょうのないことだが……、この老いぼれ、貴殿の父とは先代の王と等しく親しくさせて頂いたものだ……」
 がっくりと肩を落とすケイン老は床にひれ伏し、深く頭を垂れる。
「や、辞めてください。そんなことされても僕は……」
 リョカの心は複雑だった。ヘンリーの話が正しければ彼もまた欺かれた者なのだ。
「ワシはパパス殿がデールを殺めたなどと信じはしない。あの女狐こそが黒幕なのだからな……」
 リョカに促され立ち上がるケイン老。リョカには父の名誉を信じてくれる人がいるだけでも心強かった。
「おいボケ老人。誰が聞いているのか解らんのだ。おいそれと軽口を叩くな」
「ふふ、弟子に尻を叩かれるとはワシもモウロクしたものじゃわい。だが、リョカと申したな。もし、ワシにできることがあったら何でも言ってほしい。お主の父に対する不義理を拭いたい」
「僕は、別に……。父の無念を晴らせればそれで……」
 もし母の行方を知っているのならそれを……。リョカはそれを口ごもり、言葉を濁した。

**――**

 日に日に薄まる勝利の余韻。代わりに高まるアルミナへの不満。そして沸き起こるヘンリー王子凱旋の噂。最近ではアルベルトこそがヘンリーなのではないかと噂されていた。
 その理由の一つが特異な緑の髪。ラインハット地方でこそ珍しくない髪質で、彼の出自がアルパカ方面であることだ。
 パパスに誘拐された王子はサンタローズからアルパカに連れ去られ、そこで折を見て脱出した。その後は苦難の日々を経て、祖国の危機に参上した。
 まさに英雄譚に相応しい展開に、街ではいたるところでそんな噂が飛び交った。
 それらを操るのは当然アルベルト・アインスであり、彼は機会を待っていた。

「街では貴方の噂で持ちきりよ? アルベルト……」
 ラインハット国兵舎に用意させた一室で、アルベルトは安楽椅子を軋ませながらエマの報告を聞いていた。
「複雑な気分です。貴方が仕掛けた情報戦に敗北を喫したブランカ国の私が、まさに同じことをして貴方を助けるのですから……」
 二種類のポットを用意して紅茶を淹れるオットー。爽やかなハーブの香りのするものをアルベルトとエマに、リョカと自分には独特の臭いのする紅茶を注ぐ。
「ありがとうございます。バニアティなんて久しぶりです……」
 そうは言うものの、リョカはあまり嬉しそうではない。懐かしさと嗜好は別にあるというわけだ。
「失礼、リョカさんはグランバニアの出自と思いまして……」
 オットーは急いで別のカップを温め、やや濃くなったハーブティを注ぐ。
「え? なんでわかるんです?」
 香りが良く、すっきりする喉越しを堪能しつつ、リョカはふと驚く。
「お名前を聞けば、ある程度は……」
 さも当然のように言うオットー。
「僕はそういうのあまり詳しくなくて、名前で出身とかわかるんですね」
 幼い頃父と共に旅暮らしであったリョカが、大陸によって変わる名前の韻に疎くなるのは当然だろう。会う人、会う人で皆個性的な名前を持っている程度にしか思わなかった。
「へぇ……グランバニアか……。僕の父さんもそこの人だったのかな……」
 そう言いながらお茶請けのスコーンを一口。それが懐かしい味であったことにさらに驚きを隠せない。
「これ、サンチョが作るスコーンに味がすっごい似てる……」
「……リョカ殿は……」
 その言葉に逆にオットーが驚く番だった。だが、アルベルトはそれに気付き、ひとさし指を立てる。目ざといオットーはそれを横目に、いつもの鉄面皮を被る。
「で、貴方は何時決起するのかしら? 十分に時間は経ったと思うけど?」
 そういってスコーンを一口。最近のエマはアルベルトの作戦を物語の続きを尋ねるかのように促す。
「うむ。俺が立つというよりは、むしろあちらが仕掛けてくるだろう。十分に餌は蒔いてあるからな……」
「餌?」
「ああ、奴らの目的がラインハットを乗っ取るつもりなら、英雄は邪魔でしかないからな……」

??――??

 ラインハット城の一段と豪奢な部屋にて、男が傅いていた。
 天蓋つきのベッドに横になり、美しい裸の美女に背中をマッサージさせる者こそ、ラインハット国の影の支配者、アルミナであった。
「して、その噂は本当なのかしら?」
「ええ、アルベルト・アインスとは仮の姿、奴は三年前に出奔したヘンリー・ラインハルト王子に他ありません」
「ふむ……。そうなると、やっかいだわねぇ……。私の導くラインハットを掠め取られやしないか心配だわ……」
 アルミナは立ち上がり、侍女に肌着を用意させる。
「しかるべきご判断を……。ぜひ私めに彼奴の成敗を……」
 かつてレイクバニア砦にてその任を下ろされた士官は、アルミナを伺いながらほくそえむ。彼女ならきっと正統なる王者、ヘンリーの存在を疎むだろう。何か理由を付け、廃するに決まっている。その時こそ逆恨みを晴らすときと、男は皮算用をしていた。
「そうね……、でもその前に……」
 アルミナは男の前に歩み寄り、その顔を上げさせる。そして……、
「真実を知っている奴を生かしとくわけにはいかねんだよ……」
 その容姿からは似つかわしくない鈍い声がした後、鋭い爪が男を穿ち、悲鳴を上げさせる隙も与えず、絶命させた。
「この生ゴミを……、そっちのも飽きたからついでに片付けておけ……」
 アルミナは侍女にそう命令すると、眠たそうに欠伸をしながら部屋を出る。その背後では侍女が怯えきった様子で失禁した裸の美女の首を半回転させ、馴れた手つきで麻袋にしまっていた……。

続く

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