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ラインハット帰還編_その十五

 英雄の帰依という一大イベントに際し、兵舎から教会までの道なりにはたくさんの観衆が詰め掛けていた。ただ、名ばかりとはいえデール王がいないという異例の式でもあった。
 ラインハット正教会。今ではすっかり光の教団のものへと様変わりしており、精霊神ルビスを祭るものは全て取り外されていた。
 光の教団では光を放つ炎もまた信仰の対象であり、赤い胴衣を纏った僧が大きな杯を担ぎ、そこに火が点されるという象がいくつか見られる。ただ、その僧は人間というにはやや異質であり、黒一色の瞳は魔物を彷彿させる不気味さがあった。
 教会内には司祭を中心にアルミナとその従者が壇上に立ち、洗礼を受けるアルベルトと、腹心の部下という触れ込みのリョカ、オットーを見下ろす。さらに、アルベルトを慕うトムや、親アルベルドの兵隊、双頭の蛇の参列も許可されていた。
「汝、アルベルト・アインスは光の加護に包まれるであろう……、汝には死後の救済と、輪廻からの解脱が赦され、光の国へ導かれんことを……」
 司祭はアルベルトとその腹心の部下達を前に「イブールの本」と呼ばれる経典を持ち、洗礼の項目を読み上げる。
 そのありがたい教義を右から左に流し、アルベルトは状況を確認する。
 目の前に居るアルミナは、あの禍々しいアルミナ。列席する来賓に紛れる、殺気を纏う者。
 おそらく彼女の目的はアルベルトの命だろう。しかし、それならば何故アルベルトに親しい、もしくは彼に従う者の列席を許すのか? その理由がわからなかった。
「今日、ここに、汝アルベルト・アインスの、光の教団の入団を許可する。これからは一層、国の発展に尽力を注ぐことを願わん……」
 司祭は経典を閉じ、アルベルトに向かって本を差し出す。それを受け取ることが入団の証らしいが、彼はそれを掴むと、兜と鎧の隙間の辺りを守るように構える。
 ストンッ! と小気味の良い音の後、白く輝く刃がそこに刺さっていた。
「な、なんだ!?」
 突然のことに兵士達は動揺を隠せない。アルベルトは構わず、アルミナに向かってそれを投げる。しかし、それは侍女が寸前でキャッチする。そのか細い腕からは信じられない所作であり、さらには微動だにしない様子からも、その異常さが伺える。
「ふん、やはり人外か!」
「くっくっく、さすがに小細工で殺せるほど甘くないかい? 油断ならない坊やだね……」
 酷くしゃがれた声は、老婆のそれでも異質なもの。アルミナと思しき女性はつかつかと歩みだし、服をびりびりと破いて正体を現す。
「いったいどうやって神殿を抜け出したのか知らんが、あそこで奉仕してたほうが幸せだったと思わせてやるよ……」
 豊満なバストが徐々に筋肉質に変わり、白い肌が赤紫になる。ぼやけた顔が輪郭を変え、鋭い牙と大きな一つ目の巨人が現れる。
 それを合図に臣下に紛れていた殺意の列席者が、文字通り皮を破るかのように、その正体を現す。兵士達はアルミナの御前のため、武器を携帯しておらず、手近にあった椅子などで応戦を始める。
「知らぬ顔だな……、あのゲマとかいう魔物なら仇討ちも果たせたのだがな……」
「ラインハットなど田舎国ごときにゲマ様が来る必要がないだろ? 俺さまで十分だ」
「その田舎国の統一もできぬマヌケが、何を十分なのか教えてもらおうか!」
 ヘンリーは兜を脱ぎ捨てると、腰に備えた鱗の鞭を振るう。
 状況を理解したオットーは短剣を構え、その大きな一つ目に投げつける。
「雑魚がでしゃばるな!」
 投げられた短剣を乱暴に振り払い、手近にあった長椅子を持ち上げ、大きくなぎ払う偽アルミナ。
「ふん、バカ力が売りか? だが、こんな狭い場所では振るいがいもないだろうに」
 アルベルトは隙だらけの偽アルミナのわき腹に鋭い一撃を放つ。しかし、それは先ほど本を掴んだ侍女に阻まれる。
「くっ、人外はコイツもだったな……」
 唯一状況がわからないのは司祭のみらしく、抜けた腰で壇上近くに這い蹲っており、リョカの手に引かれて比較的安全なほうへと運ばれる。
 侍女は鞭の絡まる腕を力ませ、勢い任せにヘンリーごと引き寄せる。
「ラマダ様、いかほどに?」
「そうだな。この王子は東国を統一してくれたんだ。その褒美に俺様直々にあの世に送ってやりたいのさ」
 それを待っていたとばかりにラマダは長椅子で出迎える。しかし、突然の風がその長椅子を砕く。
「やぁあああああ!!!」
 司祭の誘導を終えたリョカはラマダの背後から飛び掛り、鋼の昆をその脳天に叩きつける。
「ぐおっ!」
 渾身の一撃にたまらず仰け反るラマダ。その隙をヘンリーは見逃さず、鋭い鞭を幾重にも振るう。
「くっ! 人間ごときが!」
「貴様! 調子にのるな!」
 侍女はヘンリーに飛び掛るが、再び巻き起こる風刃により邪魔される。
「誰かいるのか? くそ! 姿を見せろ、卑怯者!」
「姿を謀った側がよく言う!」
 その巨体と鈍重さ故、容易に背後を取られてしまうラマダ。ヘンリーの鞭は場所を選ばず、露出した皮膚を幾度も打つ。それに意識を取られれば、今度はリョカの昆が降りかかる。
 侍女はというと正体不明の風の刃に翻弄され、ラマダの援護ができない。
「くそ、まさか人間ごときに遅れをとるというのか!?」
 防戦一方になるラマダの皮膚は怒りからか赤みが増し始め、そして大きく息を吸い込んだと思うと、燃え盛る火炎を吐き出した。
「バカめ、こんな場所でそんなことをすれば自ら首を絞めるだけだ!」
「はっ! もともとてめえら雑魚どもを皆殺しにするつもりだったんだ! 都合がいいねぇ!」
 みるみるうちに周囲に燃え移る炎。壁などは石材が使われているが、所々木材もあり、もうもうと黒煙があがりだす。
 兵士達は退路を確保しようと走るが、外側から鍵でもかけられたのか、びくともしない。
「逃がさねーよ! 丸焼きと燻製、どっちがいいか、選ばせてやる!」
 武器を持たぬ兵士達も仕込みの賊も一人、また一人と煙に巻かれ倒れていく。
「くっ、多勢に無勢と甘くみていたか……、だが!」
 それでもヘンリーは諦めることなく、儀礼用の剣を構えて切りかかる。
「はっ! 玉砕か? 手間が省けるぜ!」
「やあぁぁぁぁっ!!」
 無謀とも思えるヘンリーの突撃。ラマダは長椅子を振りかぶり、それを迎え撃つ。
「あばよ!」
 ラマダの長椅子が彼を捉えた、その刹那、例の風刃が現れ、それを途中から砕く。
「でやぁ!」
 斜めに切り裂く一撃。儀礼用の剣のせいか切れ味は鈍いが、怯ませる程度の一撃ではあった。
「はっ!」
 それを見逃さず、リョカは昆を振りかぶる。めちゃくちゃになった足場のなか、ラマダに振り下ろされる昆。左右の石突から繰り出されるそれは、まさに無数というに相応しく、その肉体を打ちのめす。
「ぐっ、雑魚が、人間ごときが!」
「人間ごとき、舐めないでください……」
 がら空きの背中を切り裂くオットーの短刀。
 力任せに長椅子を振り切り、リョカを追い払う。新たに長椅子を拾い上げるが、黒煙はさらに勢いを増し、ラマダの視界を曇らせる。
「ぐおおおおおお!!」
 力任せに椅子を振り回すラマダ。一瞬、彼の死角から鞭が放たれる。
「そこかぁ!!」
 首に巻きつく鞭を力任せに引き寄せ、そのまま椅子に突き刺す。
「ぐふぅ!!」
 確かな手ごたえと、降り注ぐ鮮血。ラマダはようやくの手ごたえににやりと笑う。
「らま、だ……様……」
 黒煙の揺らめきな合間から見えたもの。それは女中姿の手下であり、腕には鞭の片方が結び付けられている。
「この役立たずめ!」
 ラマダは滴る血で滑る椅子を無造作に投げ捨てる。
「どこだ、出て来い! ガキ共が!」
「ふん、そう言われてほいほい出てくる馬鹿がいると思うか? 俺達は一足先に撤退させてもらおう。お前はせいぜいそこでローストにでもなるといい。ふはははは……」
 遠ざかるヘンリーの声。周囲からは気配が消えており、呻く兵の声すら聞こえない。
「な、なんだと? いつのまに……」
 閉じ込めるつもりが逆に閉じ込められたと感じたラマダは一つ目をきょろきょろさせ、狭まる視界の中で必死に人影を探す。しかし、あるものといえば、惨めに蠢く女中の半身のみ。
「ぐ、くそー!!!」
 ラマダは怒りに任せて壁に体当たりをすると、そのまま教会の外へと抜け出す。
「どこだ! まだ遠くへは行っていないだろ! 出て来い!」
 叫ぶラマダだが、周囲にはアルミナの命令で入り口を見張っていた兵士しかいない。その兵士すら、突然現れた魔物の姿に驚き、そのままちりぢりになって逃げていく。
「ふん、俺ならここに居る」
 背後からの声に振り返る。すると、今しがたラマダが開けた大穴から咳き込みながら出てくるヘンリーの姿があった。煤に塗れた黒い顔。咳き込み、涙目になりながらも、その表情は勝利に満ちていた。
「な、どうやって……」
「それを知ってどうする? まあ、教えてやらんことも無いがな……」
「ぐぐぅ、舐めやがって……!!」
 外に出たことで、さらに正体を見せてしまったことで形勢はすでにヘンリーに傾いている。それは近づいてくる兵士の足音が確信させ、ラマダを窮地に立たせる。
「くそお! イオ! イオラ!」
 無詠唱の爆発呪文を唱えるラマダ。巻き起こる砂煙に怯むヘンリー達。続く二撃目に供え、皆距離を置く。しかし、砂煙が不自然な風に晴れる頃にはラマダの姿はなく、流れた血が点々と森へ続いていた。

続く

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