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ラインハット帰還編_その十六

 森へ逃げたラマダは必死に精霊を集め、魔法による擬態をする。とはいえ大きく切り裂かれた傷口を隠すことはできず、ヘンリー達の目をくらますことはできない。
「ここに居たか……。ラインハットは返してもらうぞ?」
 満身創痍で見つかったラマダに、ヘンリーは剣を構える。
「くくく、一足遅かったな……」
 しかし、ラマダは不敵に笑う。
 一度外へ出てしまい、擬態が終わればラマダもまたアルミナであり、王の母。それを襲うアルベルト達は、賊といってしかるべきもの。
 教会の火の手に気付いた兵士達が集まり始め、さらに血だらけで発見された太閤に息を飲む。
「……アルベルト殿、これはどういうことですか!?」
 たとえ英雄であったとして、年老いた女性に鞭を振るうなどと赦されざる行為。元々出自も怪しいアルベルトに対しての疑惑は高まり、事情を知らない兵士達はアルミナを守るように立ちふさがる。
「退け! その女はアルミナではない! 魔物だ! 正体を見せろ!」
 アルベルトの声に一瞬たじろぐ兵士。
「何を言っている! 騙されるな! こやつはわらわに剣を向けた、謀反者ぞよ! この国を、ラインハットを乗っ取るつもりなのじゃ!」
 必死に喚くアルミナの言葉に聞く耳を持つものは居るのだろうか? 戦争を終結させた英雄と、国を荒廃させた悪女。兵士の何人かはアルベルトに向ける矛を下ろしてしまう。
「この裏切り者!」
 その気配を察してなのか、一人の兵士がヘンリーに切りかかる。鞭しか持たぬヘンリーはそれを受けることができないが、一瞬はやくリョカが鋼の昆で受ける。
「くぅ……」
 どうやらこの兵士もあの侍女と同じく魔物の類らしく、その腕力はリョカでも五分。
「切れ、切れ! この者達を切れ!」
 アルミナは傷を庇いながら立ち上がり、兵士に守られながら修羅場を後にしようとする。
「待て! 貴様らそいつがしたことを忘れたのか!? そいつはこの東国を戦火に晒したのだぞ! 今、そいつを斬ることこそが大儀だと何故わからん!」
 アルミナを追おうとするヘンリーだが、兵士達に振るう鞭もない。彼らがヘンリーに剣を向けないのと同じように。
 だが、そうしている間も人の皮を被った魔物兵が応援に駆けつけているらしく、三人を囲む人員が増えていた。
「くっ、貴様ら、何故わからない……」
「アルベルト殿、申し訳ありません……。我々とて家族がおりますゆえ……」
 その言葉にヘンリーは唇を噛む。魔物は論外としても兵の中には質を取られているものがいるのだろう。
 アルミナ打倒に重きを置きすぎた。三年前の出来事を考えれば教団内に魔物が多数居ることは周知のことであったと、ヘンリーは自らの甘さを噛み締める。
「……そこまでです……」
 ヘンリーが覚悟を決めた時、懐かしい声がした。三人を取り囲む兵士達がその声に包囲を解き、声の方へ振り返り、跪く。
「お前、デール……」
 三年前と比べるとかなりやせ細ったデールが、その青白い、頬のこけた顔で笑顔を浮かべてやってくる。
「兄さん、人が悪いですよ……。帰ってきたくせに僕に黙ってるなんて……」
 その隣にはトムに連れられた女性が一人。遠目にもその美しさがわかるが、肌には赤みがあり、髪もぼさぼさで、目の焦点がぶれている。一方、兵士に囲まれた傷だらけのアルミナもまた蒼白になり始める。
「皆のもの、聞いてください……。そのアルミナはニセモノです……。本当のアルミナは、城の地下に閉じ込められていました。今日、ようやく偽アルミナの監視を逃れて助けることができました……」
「なっ、何をいっているの? デール、私の可愛いデールや、母を、母を助けてはくれないのですか?」
 必死に繕うラマダだが、突如現れた二人のアルミナに兵士は困惑を強める。もっとも、常人なら絶命せずとも息絶え絶えになりかねない傷を背負って歩き回る偽アルミナに対する疑惑の目のほうが強くなる。
「貴方は母じゃない。一体だれなんですか?」
 デールの確信に満ちた問いかけに、兵士達も状況を感じ始め、次第に護衛の輪が薄れ、人外と思しき兵士のみが彼女を守る形となる。
「さて、こんどこそ逆転は無理だな……」
 ヘンリーは傍に居た兵士から剣を奪い、アルミナに詰め寄る。
「貴様らの教義では死んだ後も光の国で生きていけるのだろう? 一足さきにそこへ行くといい。俺が送ってやる」
 ヘンリーは偽アルミナに向かって剣を振り下ろした。
「ぐぎょぇえええ……!!」
 あの巨体の怪物にしては呆気なく事切れ、それを守ろうとしていた兵士達も顔を見合わせ、われ先にとその躯に剣を突き立てる。
 哀れ偽アルミナは味方と思しき者からも見捨てられ、果てることとなった……。

**――**

 ヘンリー凱旋の報は兵士達に瞬く間に広がった。
 一応の緘口令こそ強いてはいるものの、人の口に戸は立てられず、もともとヘンリーの指示でその噂も広まっており、時間の問題だろう。
 そんな中、ヘンリー達はラインハット王謁見の間へと通された。
「兄さんが戻っていたのは、リック王から聞きました。エンドールを落とした時の話を聞いて、もしやと思いまして……」
 かつてヘンリーがエンドール城の抜け道を発見した時のことは、しっかりと子分であるデールにも聞かせていた。それはもしもの時のためではなく、自分が見つけた秘密というものを誰かに自慢げに話したいという子供らしい欲求からだった。
 結果、デールは兄の帰還を一足先に察知することができた。彼が名乗りでないのであれば何か理由があるのだろうと気付かぬフリをしていたわけだ。
 一方で、アルミナの違和感を知り、独自に調査をするつもりだった。
 今回、アルベルトの洗礼を受け、アルミナの監視が外れたことで、彼はトムと共にアルミナを探していた。
 本物のアルミナは城の地下の牢屋に居り、なんとか助けることが出来た。その後は教会から火の手が上がっていることから大体のことを察し、母とともに訪れたというわけだ。
「待たせたな、デールよ。だが、俺としてはもう少し格好良く凱旋するつもりだったのだが……」
「そう仰りますが、東国の平定だけでも十分な功績でしょう。これからは兄さんこそが王になるべきです。私はあの日、保身の為に国を売ったのですから」
 そう言って玉座を退くデール。ヘンリーもどう切り出そうかと考えていたところであった。元々気の優しいデールに王位は似つかわしくなく、本人もそれを承知なのだろう。
「ふん、戴冠式まではお前が座っていろ。それに、俺にはもう一つやることが残っているからな……」
「兄さん。ですが今日だけは、再会の喜びを分かち合わせてください」
「ああ、そうさせてもらおうか……」
 ヘンリーはそういうと、いつになく優しく笑う。デールもまたそれに応えるが、どこかに陰りが見えるのは、今後のデールの処遇を思えばこそ。彼もまた、アルミナと共にこの国を退廃させた一人なのだから……。

**――**

 兄弟の再会にリョカは席を辞した。デールは彼の不幸を労いたいと申し出たが、前後の事柄を見ればそれも難しいと理解を示し、かつて教えてもらった禁魔法のお礼だけ述べるに留まった。デールはおぼろげな記憶を頼りに母を戒める鍵を例の魔法で開錠したらしい。
 救出されたアルミナはかつての教団との癒着と、ヘンリー誘拐、チップ王の暗殺と、その罪をパパスに被せたことを認めた。
 大体のことは今後の裁判により詳細を明らかにされるであろうが、父の汚名は濯がれることとなり、サンタローズ復興への尽力を約束させるに至った。
 それらの話し合いのあと、リョカは一人、来賓室に通された。
 広くて大きなベッドのある部屋。香の臭いが立ち込め、リラックスした雰囲気にさせてくれた。
「で、どうするつもりかしら?」
 しかし、それは例の訪問者のせいで中断させられる。
「彼、貴方のことを部下にするつもりでいるみたいよ? お父さんのことを探すことを餌にしてね」
「そういう言い方は辞めてください」
 リョカは彼女を睨み、強い口調でそう言う。
「まあ怖い」
 エマはあまり怖がっている様子もなく、部屋にあったティーポットで自分の分だけお茶を注ぐ。
「ねえ、リョカ。答えは決まった? 明日になればヘンリーはマリアを迎えに行くわ。そうしたらもう彼女と結ばれることはないわね」
「マリアはヘンリーの恋人だ。それが自然だ」
「へえ……。友人の恋人と一年間寝所を共にしたのに? かなり不自然だと思うけどね……」
「僕は確かに……、確かにマリアを愛している。もしヘンリーと再会しなければ、きっと僕は……」
 父の遺言を破棄し、マリアと添い遂げること。なんの手がかりもなく、ただ漠然と母を捜せなどと、この広い世界で絶望に等しい。リョカが揺らぐのも無理の無いことだった。
「だけど、ヘンリーは生きていた。そしてマリアを向かえにきた。マリアだって僕と一緒の貧乏暮らしよりも、お城お后としての暮らしのほうが良いに決まっている」
「だから身を引くの? やっぱり貴方を選ばなくて正解だわ。王者には似つかわしくない」
 腕を組み、落胆した様子で言い切るエマ。
「後悔してもしらないわよ? 本当にいいのね?」
「ええ……。僕にはヘンリーを裏切ることはできませんから……」
 その言葉にだけ、エマの半眼が柔らかくなったのだが、それに気付くほどリョカは注意深く彼女を見たくなかった……。

続く

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