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ラインハット帰還編_その十七

 久しぶりのオラクルベリー。東国の平定の噂はここへも伝わっており、橋を建てなおすべきか否か、街で投票が行われていた。
「……オラクルベリーか、できればここも手に入れておきたいのだが、そうもいかないからな……」
「ヘンリー、さすがにそれはどうかと思うよ」
 物騒な話にリョカは苦笑いを返すしかなかった。
 東国の平定が終ったとはいえ、それはあくまでも国境での話。今後しばらくは国内政治の安定に努める必要がある。今しがた執務室ではケイン老とオットーがてんやわんやになっている頃だろう。
「冗談だ。それより、リョカ。お前はどうする?」
「僕は……」
「母……か?」
「うん」
「そうだな。パパス殿との約束だからな。だが、何か手がかりはあるのか?」
「それは……その……」
「今の俺、ラインハット国の王となる俺なら、その力になれると思うぞ?」
 昨日のエマの言葉が蘇る。母の手がかりを餌に自分を釣ろうとしている。きっと半分は本心から、半分は打算からだろう。それに必要とされることは嬉しいが、リョカからすると、自分がそこまでヘンリーに求められる理由がわからない。
「僕にも手がかりがあるし、自分の力でやれるところまでやってみるよ」
「そうか。だが、もし俺の力が必要なら……」
「ほらヘンリー、マリアが待っているよ。急ごう!」
 リョカはヘンリーの言葉を遮り、かつての住居へと走った。ヘンリーはそれに続き、その少し後から、舌打ちと足音が続いた。

**――**

「マリア?」
 アパートの一室に戻ったリョカだが、そこに人の気配は無い。パン屋の仕事かと考えたが、今日は例の投票のせいでどこもお休みだ。露店がいくつかあったが、そのどこにもマリアの姿は見受けられなかった。
「リョカ。マリアは一体……」
 探すというか、隠れるほどの場所の無い部屋で、二人は顔を見合わせる。
「まさか、誘拐された?」
「ありえないわね……。彼女にそんな価値は無いわ……」
 光と共に現れるエマにリョカは視線を逸らす。ヘンリーは彼女を睨むが、誘拐されるぐらいなら、その価値が無くとも無事なほうが良い。
「おい、なんとかならんのか?」
「無理よ。人を探す魔法なんてしらないもの」
 お手上げな様子の彼女も意外らしく、きょろきょろと部屋を伺う。
「ねえ、そういえば剣は?」
「剣? ああ、そうだ! 父さんの残した剣!」
 リョカはサンタローズの洞窟で見つけた父の剣を思い出す。
 タンスには珍しく鍵が掛かっており、リョカはアガムでそれを開く。そこにはしっかりとあの不思議な剣があった。
「良かった、あった……」
 ほっと一息つくリョカ。その剣先の示す場所には封筒があり、月日が経っているか、黄ばみが見えた。
「これ……」
 リョカはそれを手に取り、一瞬迷ったが、二人に促されて開ける。

 ――リョカよ。この手紙を見ているということは、私は既にこの世に居ないということだろう。
 もし、父さんが志半ばにして倒れたのであれば、それは赦してほしい。
 お前には話していなかったが、私が世界を旅していたのは、お前の母、マーサを捜すためだ。
 マーサはエルヘブン地方に住む少数民族の巫女で、ある不思議な力を持っていた。
 その不思議な力を求めてか、マーサは魔物に狙われていた。
 あれはお前が三歳になったころだ。
 月明かりの綺麗な夜、マーサは一人バルコニーから忽然と姿を消した。
 あるいはマーサもまた、その運命を受け入れたのかもしれない。
 だが、私には到底納得できることではない。
 私は身分を捨て、旅に出ることにした。全てはお前とマーサの三人で暮らすために。
 きっと私が倒れる中、お前に妻を捜すよう頼むかもしれない。
 だが、なんの手がかりもなく、それをすることは困難だろう。
 そして、お前の人生を私が壊すことは憚られる。
 お前の人生はお前のものだ。
 どうか、自分のために生きてほしい。
 全ては私がそうしたことが故に起きたことなのだから。
 だが、これだけはお願いしたい。
 私が旅の途中に見つけた、不思議な剣をサラボナのルドマン・ゴルドスミスに届けてほしい。
 以前船で一緒になった富豪だ。
 パパス・グランバニアと名乗れば取り次いでくれるだろう。

 くれぐれも父の二の舞になるな。
 私の愛するリョカへ……。

「これって……、父さんの手紙? 僕に僕の人生を生きろって……」
「エルヘブン地方は謎に包まれているが、グランバニアからは航路があるのか……」
「この剣って、もしかして……」
 三者三様、ばらばらな感想を抱くが、一番の疑問は、何故それがここにあり、マリアがいないのかということ。
「ちょっとあんた達! ここはリョカさんの家だよ! 今旦那は留守にしてるんだから、勝手に入っちゃだめだよ」
 入り口のほうからがなり立てる女性の声がした。彼女はリョカを見ると、目を丸くした様子で手を叩く。
「あ、おばさん、お久しぶりです。戻ってまいりました」
 リョカは階下のおばさんの声にはっとなり、挨拶に出向く。
「あらあら、なにしてるのかと思えばこのトウヘンボク。マリアちゃん、あんたがもたもたしてるから出家しちゃったじゃないのさ!」
「出家? まさか、光の教団に?」
「光? 違う違う、あんな胡散臭いところじゃなくて、海辺の修道院よ! もう……、なんだってあんなイイコ、お嫁にしないのさ……」
「ま、まて、出家しただと? マリアが、どうしてだ?」
 驚きを隠せないヘンリーは階下のおばさんに詰め寄る。
「まあ、いい男じゃないの。マリアちゃん、結構彼氏いるんだね」
 にやにやと笑うおばさんは冗談もそこそこに、エプロンのポケットから一枚の紙を取り出す。
「これリョカさんに渡すように頼まれてたけどね、まあ、封筒に入ってないからあたしもつい読んじゃったけど、あんた本当に罪な男だね……」
「か、貸せ!」
 ヘンリーはそれを奪い取ると、ざっと目を通す。
「……」
 そして紙を落とすと、エマに向き直る。
「おい、今すぐ俺を修道院に連れて行け。頼む! 急ぐんだ!」
「え、ええ、いいけど……」
 エマはその焦燥ぶりに気圧され、彼と共に部屋を出る。
 リョカはヘンリーの落とした紙を拾い上げ、目を通す。

 ――リョカさんへ。
 ごめんなさい。お父様の手紙を隠したのは私です。
 剣と一緒にタンスにしまっておきますので、どうぞお読みになってください。
 本当はあの時、貴方に報告すべきでしたね。
 けれど、怖かったのです。
 貴方が旅に出て、もう二度ともどらないのではないかと思って。
 私は貴方の旅についていくことはできません、そして待つこともできません。
 ただの弱い女なのです。
 そして、その弱さ故、貴方を恨んでおります。
 私は貴方と共に暮らしたかった。
 貧しくても小さな幸せのある、平穏な日々。
 それが望みでした。
 貴方の無事を祈り、一時の安らぎを手にし、再び別れる日々。
 貴方は私のためにお金を稼いでくれました。
 けれど、本当に大切なのは、貴方が傍にいてくれること。
 ただそれだけだったのです。
 私はもう待つことができません。
 私から終止符を打ちます。
 どうか、貴方の未来にルビス様の加護があることを、海辺の修道院から願っております。

 読み終えたリョカは愕然とした。
 短い走り書きの手紙に、ヘンリーの名前が無いこと。そして、彼女が、彼女もまた自分との生活を望んでいたことに。
 ――マリア、君はヘンリーのことを……?
 今頃ヘンリーは海辺の修道院へと向かっているのだろう。だが、文面が彼女の真実の気持ちなら、それは明るい結果をもたらさないだろう。きっとそれはリョカでも同じこと。
 ただ暗く、重い気持ちを抱えながら、リョカはしばらく部屋に佇んでいた……。

**――**

 サラボナへの定期船を待つ間、リョカはオラクルベリーの港に居た。
 ヘンリーからの誘いは、父のもう一つの遺言である届け物を理由に断った。
 それならば見送りに出るという友に、リョカはラインハットの政務があるだろうと諭した。
 偽アルミナの悪政とデールの裁判などのヘンリーにとって頭の痛い問題は目白押し。
 暫くの間は滞在し、微力ながら、それこそ話し相手ぐらいなら努めて良いと考えていた。
 ただ、リョカの中にあるわだかまり。マリアの残した手紙の内容を反芻するほどに後ろめたく、エマと二人でアパートに戻ってきた彼を見たとき、さらにそれが大きくなった。
「本当に行くの?」
 波止場にてふわっと光を纏うエマ。驚いて逃げる猫に手を振りながら、リョカは頷く。
「ええ。というか、エマさんは僕がいないほうがいいんでしょ?」
「それはそうだけど、今の彼には貴方が必要かもと思えるほどだわ……」
 つい数日前のやり取りの意趣返しというわけではないが、エマはむっとした様子でリョカを睨む。クール、ポーカーフェイスを気取ってはいるが、意外と表情豊かな人なのかもしれない。
「失恋したんだもの。しょうがないさ」
「失恋ねえ……」
 冗談交じりに言うリョカに、エマは海を見る。まさかこの優男からそう返されるとは思ってもいなかっただろうし、一方でヘンリーがそれを理由に落ち込むのが意外だった。
「ええ」
「でも、貴方だってそうじゃないの?」
「僕は少し前に済ませたからね」
「そう? ああ、そうだったわね……。で? サラボナに行った後はどうするの? もし、お使いが終って、気が変わってヘンリーの部下になりたいなら……」
「やめてください。僕は彼の友達です。部下にはなれませんし……、それによく考えたらもう子分になってるんですよ」
「子分ねえ……。まったく変なところで子供なのよ。貴方もヘンリーも……」
 わからないとばかりに小石をつまんで海へ投げるエマ。
「でも、不思議よね……。どうしてマリアはヘンリーを選ばなかったのかしら……」
 エマの危惧はまったくの取り越し苦労だったわけだが、何か不満気味。
「きっと……」
「きっと?」
 リョカの言葉にエマは振り返る。なぞなぞの答えを知りたがる子供のような視線に、リョカはやはり愛想笑いで頭を掻く。
「いえ、やっぱりわかりません」
「もう、思わせぶりなんだから……」
 期待しただけ損したと、再び小石を投げるエマ。今度は水面を二度ほど跳ねる。
「子供か……。でも、ヘンリーもアルベルトなんて名前名乗るぐらいだからね……」
「ねえ、あのアルベルトってなんなの? 私だけ知らないのよね。失礼しちゃうわ」
「ああ、アルベルトっていうのは……」
 リョカはかつてサンタローズの借家で読んだ話を思い出す。
 ――巡る世界のアルベルト。
 ビアンカが読めない単語ばかりでつまり、すぐに飽きた本のタイトルだった……。

続く

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