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ポートセルミ編_その二

 連れてこられたのはカジノの地下のビップルーム。
 大理石の重厚な壁と、調和のとれた照明、おくから聞こえてくるクラッシクといい、全てが階上のそれとは比べ物にならない。
 靴越しに感じる絨毯の感触、そのしっとりとした光沢と品の良いワインレッド。せいぜい一角を切り取った程度でも、リョカの全財産が吹っ飛ぶだろう。
 リョカはテーブルの席に案内され、対面に女性が座る。
 彼女はなれた様子で「いつもの」といい、値段の書かれていないメニューを渡す。
「えっと、お酒は苦手で……」
「そう? じゃあ私と同じので……」
「畏まりました」
 燕尾服の店員は軽くお辞儀をすると音も無く消える。
「あの、ここは?」
「ビップルームよ? ま、貴方みたいな人には縁がないと思うけどね。今日は特別よ」
「はぁ……」
「でさ、なんで貴方、イカサマに気付いたの?」
「え? ああ、それはこれ……」
 リョカは印を組み、手で筒を作ってそこに光の精霊を集める。
「レミリアっていうんだ。光の屈折を変えて遠くを見る魔法。ほら、覗いてごらん」
 手の筒を女性に差し出すと、彼女は興味深そうにそれを見る。
「へえ……。すごいわね。光の精霊なんてかなり古代の魔法じゃない? よく知ってるわね? いったいいくらしたの?」
 魔法の習得には印を組む、詠唱や精霊文字などいくつかある。そのほとんどは口伝であったり、文書で知る必要があり、高位の魔法や希少なものは秘匿され、高額で取引されることが多い。また、攻撃魔法などを年端もいかないものがみだりに唱えることの危険性から、初等火球魔法の使役ですら制限をつける国もある。
「え? ああ、これは友達に教えてもらったんだ」
「友達? その人って大魔道士とか?」
 大魔道士とはかけ離れたイメージのヘンリーに、リョカはぷっと笑ってしまう。
「何よ、人が真剣に言ってるのに……」
「いや、魔法を教えてくれたのは友達だから」
「へえ、珍しいわね。光を操る魔法の文献って結構手に入りにくいのよ。私の妹がかなり魔法オタクで、そういうの集めるんだけど、光の魔法って東国からあんまり出てないみたいなのよね」
「へぇ……」
 世界を旅してきたリョカにすれば、魔法にも地域が関わっていることは意外だった。もともと魔法使いの絶対数が少ないこともあったが、確かに寒い地方と熱い地方では、魔物の使うそれも変わってきたことを思い出す。
「ねえ、私も出来るかな? さっきの」
「ええ、簡単ですよ……、印はこうして……」
 リョカは彼女の手を取り、印を組ませようとしてはっとする。
「すみません……。あの、詠唱のほうは……」
 女性に対していきなり手を取るのは失礼だと気付き、真っ赤になって手を離す。けれど彼女は余裕を持った笑いを浮かべる。
「印のほうがいいわね。便利そうだし、気付かれないように使えたほうがよさそうだし。ね、ほら教えてよ?」
 女性は距離を詰め、リョカにしなだれかかるようにして、彼の腕の中に入る。
「さ、どうするの?」
「え、えと……」
 間近に感じる大人の色香を漂わせる彼女の雰囲気にリョカは呑まれていた。アップさせた髪と、小麦色のうなじ。日焼けがしづらいせいとお酒のせいでほんのり桜色に染まっており、汗でじっとりと湿っている。
 先ほどは気にならなかったが、間近で見るとかなり大きなおっぱいにリョカは生唾を飲む。しかも、彼女が印を組もうとするたびにふる、ふるっと揺れて、あわよくば見えてしまいそうになる。
「あ、あの、僕はそっちで教えますから、だから……」
 おっぱいが気になってなどといえない純情なリョカは彼女の手を払い、身体を離そうとする。
「あん……」
 甘えた様子の彼女に手を引かれ、そのままソファに寝転がってしまう。
「あ、あの……ごめんなさい……」
「なんで謝るの?」
「だって、こういうことしちゃ……」
 男女の関係に疎いリョカでもこの状況が清くないことはわかっている。そして、下半身に集まる血液と、それが彼女の膝を突くことも……。
「リョカ……、すごいたくましい……」
 見た目こそ中肉中背の彼だが、その下地は屈強そのもの。女性はその胸板を服越しに指先で円をかくようになぞる。
「あ、あの……」
「何?」
 半眼で見つめる彼女に、リョカは何も言えなくなる。
 流し目で彼の挙動を制し、リップで大きくみせようとしている唇が何かモノ欲しげに開き、赤い舌で上唇を舐める。服のほつれから小指の爪を差し入れ、彼を引っ掻く。
「ん……」
 それは痛みと一緒にじんわりとした刺激があった。脳裏を掠める足掻きに、リョカの視界がぼやける。
「ありがと……」
 音もなくやってきた店員に女性は礼を述べてグラスを受け取る。
 そして口に含み、その喉を鳴らす。
「ねぇリョカ……、貴方は……」
「あ、あの……」
 にじり寄られるリョカ。さっき見つめられたときよりずっと近くで見る彼女。赤く、濡れた瞳を見つめているとかなしばりにでもあったかのように動けなくなる。
 以前にも似たようなことがあった気がするが、鼻の呼吸が辛くて頭が回らない。
 ふーふー言いながら彼女から目を離せず、かといって行動にも出られない。
 女性はもう一度グラスを口に含むと、リョカの両頬に手を当て、そのままキスをする。
「ん……んぅ……」
 リョカは彼女の目配せに目を閉じる。代わりに口を開き、喉を鳴らして乾きを癒す。
「ごく……」
「んふ!」
 強気な彼女の柔らかな微笑みに、リョカはぽかんと呆気に取られる。
「どうしたの?」
「いえ……。貴女みたいな綺麗な人、初めて見ました……」
 女性を口説くスキルの乏しいリョカの素直な言葉に、女は一瞬目を丸くして、にっこりと笑う。
「よいしょっと……、はい、立って」
 おもむろに起き上がると、リョカにも立つように促す。
「はい……」
 まだ恍惚が抜けないリョカは彼女の真意がわからず半身を起こす。
「ふふ」
「あ、あの……」
 胸が高鳴り、気持ちが逸る。彼女とは明らかに住む世界が違う。今こうして唇を重ねたのもきっと気まぐれにすぎないのだろう。それは理解している。けれど、理性でどうにもできないものがある。リョカは彼女の手を握り締める。力強く握れば痛いはずなのに、彼女はそれを拒む素振りも見せず、代わりにもう一つのグラスを取り……、
「わっ!」
 リョカの顔にかけた。
「私はアルマ。アルマールジュエルの女社長。覚えておきなさい」
「え? あ、はい……」
 アルマは先ほどとはうって変わって苛立った様子で立ち上がると、すたすたとその場を後にする。
 いまひとつ状況がつかめないリョカは、アルコール塗れの身体で、何が彼女の怒らせたのか、真剣に悩む。
「ほら、さっさとくる!」
「は、はい!」
 またも逆らえない命令に、リョカは自然と身体が動いていた……。

続く

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