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ポートセルミ編_その六

 カボチ村はポートセルミの南にある農村だ。かつてはサラボナの台所とされていたが、ポートセルミ港とレヌール西の港が開設されてからはすっかり寂れてしまい、ほそぼそと自給自足の生活をしている。
 家父長の権限が強く、特に長老の言葉は絶対であり、そのためか新しい風が入りにくく、生活レベルはあまり高くない。
 都市部に出稼ぎに出る若者は、毎年何割かがそのまま村を捨ててしまうことも多かった。

「お前さん達が用心棒けぇ? なんちゃら、ひょろひょろしてて頼りねえごたぁ……」
 カボチ村、長老宅に通されたリョカ一行を出迎えたのは、白髪交じりの老人。青年もそうだが、この村の人々は言葉をオブラートに包むということが苦手らしい。
「んでな、早速だっけどよ。最近ちょくちょくみかける翼の生えたキラーパンサーってのをなんとかしてほしいとよ。あんな、最近も傷だらけのぼんろぼろになった旅人がおってさ、まーず困ってんとよ」
「はぁ……」
 長老のぶしつけな態度にアルマも銀髪の青年もそっと後ずさり、必然的にリョカが交渉の矢面に立つ構図。その柔らかな物腰のせいか、長老の舌はよく周り、いつのまにか怪物のことから、村を出る若者への不満へと展開される。
「あ、あの、皆さんお困りのようですし、直ぐに取り掛かりますね。それじゃあ!」
 その愚痴がポートセルミの港へ向いた頃、リョカは強引に話を遮って部屋を出た。

**――**

「……なんとなくだけど、村を出たくなる気持ちもわかるわ」
「あはは……、そうだね」
 これ以上長老の無駄話に付き合っては居られないと、西の洞窟を目指す一行。目的地は一緒なので、銀髪の青年もそれに同行していた。
「でも、なんでアルマまで? お店はいいの?」
「ん~、フレッドにも少しお休みをあげたいし、いつも開店休業中だからね。それに、こんな面白そうなこと、私を連れて行かないつもり?」
「だけど、もし本当にそんな怪物がいたら危ないよ」
 しなやかなワニ革の鞭をきゅっきゅと締め、防御面を向上させた厚めのドレスを纏うアルマは、やる気十分。先ほどから熱心に呪文の本を読み、詠唱と印の組み方を練習している。
「平気よ。これでも前よりは強くなったんだから。それに、ほんとにピンチのときはリョカが守ってくれるでしょ?」
「でも、もし……」
「リョカは私と一緒に居たくないの?」
 なおも不安を醸すリョカを遮り、アルマはじっと彼を見る。その傲慢ともいえる問いかけに、リョカは複雑だった。
 もし、彼女が危険に晒されたら、その時は本当に守れるのだろうか?
 この世の中には未知の魔物、凶悪なモノがひしめいている。特に討伐依頼を出されるようなものなら、それは覚悟を決めて取り組む必要がある。
 そんなところに彼女のような、せいぜい中級魔法の印すら覚えていない見習魔法使いがいたらどうなるか?
 リョカの経験からすれば、足を引っ張るだけの存在といえる。
 けれど、それでも同行に反対しきれなかったのは、彼女の言うとおりだから。
 もう少し、彼女の傍にいたい。傍においておきたい。それがたとえ彼女の危険を伴うものだとしても、その言葉に甘えていたい。
「もし危なくなったら、絶対に僕から離れないでね」
「うん。わかった」
 リョカの出した答えは、そんなワガママからのもの。
「ふっ……」
 そのやり取りを終始眺めていた銀髪の男は、軽く鼻で笑う。
「むっ! ちょっと、お兄さん? もう……、貴方も大概辛気臭いわね……。ねぇ、名前ぐらい教えてくれてもいいんじゃないの?」
「なぜ?」
「何故って、一緒に怪物退治に行くんでしょ? それぐらいいいじゃない」
「一緒ねぇ……。俺の目的はあくまでも翼の生えたキラーパンサーの確保。デートを楽しみたいのなら邪魔をするつもりはない」
「ふんだ! ちょっと格好いいからっていい気になって……」
 アルマはふんと口を尖らせると、再び本に没頭する。
「へぇ、もしかして貴方は魔物使いですか?」
 そのやり取りにリョカは慌てて執り成すように口を開く。
「ああ……」
「僕も昔ある人から魔物使いの素養があるって言われたんですけど、なんだかそういうのがわからなくって……、どうすれば魔物達と仲良くできるんでしょうか? コツがあるんですか?」
「仲良く?」
 その言葉に銀髪の青年は面食らったようにリョカを見返す。
「仲良くか……。いや、信頼を築くという点ではあながち間違ってもいないか……。だが、友達感覚というわけではないぞ」
「信頼関係……ですか……」
「貴様は違うのか?」
「ええ、僕は捕まえたってわけじゃないんですけど、ベビーパンサーが懐いていて……」
「ほぉ、ベビーパンサーを手懐けたのか……」
 今度の驚きは素直な感心というもので、リョカも思わず照れてしまう。
「えと、手なずけるっていっても、子供ですから、多分刷り込みとかのほうが近いかもしれませんね……」
「いや、それにしてもだ。ふむ。これは面倒なことになりそうだな」
「え?」
「こんな辺鄙な田舎で魔物使いと鉢合わせるとはな……。お前と俺、どちらが先に確保するかな?」
「えっと、別に僕は……」
「テリー」
「はい?」
「俺はテリーだ」
「あ、はい。僕はリョカ、リョカ・ハイヴァニアです」
 そっと手を差し出すテリーに、リョカは慌てて両手で握り返し、ぺこぺこと頭を下げる。
「私はアルマ……。アルマールジュエルの女社長。覚えておいて損はないわよ」
 すると馬車の中からそんな声。テリーはふっとニヒルに笑うと、森に向かって右手を振っていた……。

**――**

 岩場が目立ったところで馬車を待たせる。立て札がご丁寧に「この先魔物の棲家」と示していた。
「さて、行くとするか……」
 テリーは背負っていた荷物から布に包まれた剣を取り出す。
 平べったく太い刀身で、まるでのこぎりのような形状。黒く輝き、刃先がぎらりと光る一品、それは遠目にもわかるほどの業物で、びりびりと威圧感がしてくる。
「あれミスリル銀でしょ? 魔法剣かしらね……」
 簡易の魔法を宿したものというのは一般にも多い。例えば高熱への急な対処として氷結魔法を宿した額当てや、閃光魔法を施した護符を懐炉代わりにするなどだ。それらは錆びたり劣化することも多く、基本的に使い捨てであり、安い金属などの媒体が使われる。
 一方で伝説的と呼ばれる武具、道具には、不変とされる金属、純金やミスリル銀、メタル鉄鋼などが使われる。特にミスリル銀やメタル鉄鋼は武具としても有用であり、神話の時代の武器にも使われているとのこと。
 また、純金のように武具に適さないものでも、その不変性で高位の魔法を永続させることが可能であり、高名な杖に重宝される。
「ほぉ、博識だな。並の武器屋ならせいぜい黒鉄鋼とほざくがな……」
「こうみえても金属、鉱石は好物なのよ。鉱物だけに……」
 胸を張るアルマだが、リョカもテリーも複雑な顔になる。
「こほん……。それはそれとして、リョカ、こんな仏頂面イケメンなんかに負けちゃだめよ。なんとしても私達で羽キラーパンサーを捕まえるのよ! さ、行くわよ」
 駄洒落のすべり具合を恥じてなのか、アルマはリョカの腕を掴むと、急いで洞窟へと向かう。
 残されたテリーはやはり鼻で笑う。
 そしておもむろに右手を上げると……、
「もう出てきていいぞ」
 少し離れたところからのそっと緑の竜が……。

続く

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