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ポートセルミ編_その八

「くっ! 逃がしたか!」
 いつの間にか翼の魔物は姿を消し、テリーもその戦闘で息を切らしていた。
「逃がしたかじゃないでしょ! リョカが落っこちちゃったじゃない!」
 アルマは銀髪の青年に抗議するが、一瞥を返すだけで居に返さない。

「ちょっと! ふざけないでよ! ほら、リョカを探しに行くわよ!」
「ふん。奴がマヌケというだけだ……」
 ラルゴの手渡すタオルで顔を拭くテリー。無造作に返すと、剣をしまう。
「面倒だな……。おい、ラルゴ、行くぞ」
「あう……」
 テリーは自然な様子で崖から先へ歩を進めると、そのままヒューっと落っこちる。
 ラルゴはというとアルマにぺこりとお辞儀をするので、思わず彼女も「あ、どうも」と返す。そしてやはりがけ下へと落下した。
 アルマはその様子を見ながらごくりと息を飲む。かつて彼女が草原でちゃんばらをしていた頃など、本当に子供の頃のお遊びでしかないと思い至った……。
「よいせっと……、ふぅ、しんど……」
 すると、代わりにひょっこり顔を出す者が一人。
 その声は先ほどの不思議な声であり、おそらくは銀髪の青年とやりあっていた翼の……。

**――**

 キラーパンサーについていくと、そこには一振りの剣があった。
 鞘に収まったそれは砂や埃で汚れているが、かなりの名品だとわかる。
「これは……?」
 キラーパンサーはリョカを導くと行儀良く座り込み、動作を見守っている。
 リョカはそれを手にとり、鞘から抜く。型が合っていないせいで抜きにくいが、それはずっしりと重く、鋭い刃。吸い込まれるような雰囲気があり、思わず触れた指先から赤い雫が落ちる。
 そして思い出される憧憬。
 火にゆらめく向こう側、彼を優しく見守る穏やかな瞳……。
「もしかして父さんの……」
 鞘は剣とは別物らしく、そこにはP.Gと印されている。
 父の手紙にはパパス・グランバニアとあり、そのイニシャルだろう。リョカは鞘を握り締めると、暫く声を上げずに泣いた……。

**――**

「よいせっと……。まったくかなわんなぁ……。最近変なの多いし、もうここも潮時かいな……」
 金色の翼を持つそれは崖に腰を掛けると、持っていた薬草をばりばり齧る。
「あの、貴方……?」
 敵意こそ示さぬものの、脅威であるには変わりないと、アルマは警戒しながら話しかける。
「ん? お前……どっかで見たことあるけど、俺のファン?」
「は?」
「冗談やて……。つか、ここはあいつらの家なんやから荒さんといてな。まったく……」
「え? え?」
 害意を示さぬ竜に別の意味の混乱を来たすアルマ。ひとまず地面に丸を三つ書いた後、もう一度話しかける。
「あの、貴方、魔物でしょ? カボチ村を荒らすっていう……」
「かぼちゃ? 知らんがな。そんな田舎の村荒らすよか、ポートセルミのねーちゃんたち見てたほうがずっと楽しいわ。つか、俺は魔物じゃないで? 俺にはちゃんとシドレーっつう立派な名前があるんじゃからな」
 なははと笑うシドレーに、アルマは目を丸くさせる。
「シドレーって、貴方まさか!?」
「ん? 俺のこと知ってるって、やっぱり俺のファン?」
「アホかい!」
 アルマは握りこぶしをシドレーの頭にお見舞いした……。

**――**

「ガロンだね? よかった……。生きていたんだね……」
「ごろろ~ん……」
 リョカはキラーパンサーに歩み寄り、その懐かしい名前を告げる。ガロンはようやく会えた主人に従属の意志を見せようとしたのか、それともたんに甘えたいのか、お腹を見せてごろごろ転がる。
「ふふ……。ガロン……よかった……。ね、君が無事なら彼も無事かな?」
 くちさがない同行人を思い出すリョカ。彼らと過ごした幼少の日々、冒険の日々。胸に渡来するのは、熱い気持ちと嗚咽。リョカはガロンのふさふさの毛皮にうずまり、涙していた。
「ふむ……。そのキラーパンサーはお前のか……」
「え? あ、テリーさん……」
 いつの間にか追ってきたテリーにリョカは慌てて涙を拭う。テリーは彼には目もくれず、ガロンに近づくと、その頭を撫でる。
 ガロンは唸ることはせず、かといって靡くようすもなく、彼を不思議そうに見ていた。
「ふむ、まだ子供だが、強そうだな」
「わかるんですか?」
「目を見ればな……」
「はぁ……」
「ふん。興が冷めたな……」
 テリーはもう一度ポンと頭を叩くと、小屋を出る。
「大方あの田舎者どもはこのキラーパンサーを見てあることないことふっかけたんだろう。とんだ時間の無駄だった。行くぞ、ラルゴ……」
 テリーはお供の竜を従えると、光を集め、そして、すっと空へと引っ張られるようにして消えていった。
「なんだろう。脱出魔法かな……。あ! そうだ! 僕も出ないと! ねぇ、ガロン、ここから出る方法知らない!?」
「がう?」
 言葉は通じるはずもなく、ガロンは首を傾げて泣く。きっと何かの遊びと勘違いしているのだろう、ぐるぐると喉を鳴らしていた。
「おーい、リョカ~」
 すると、テリーと入れ違いで声がして……。
「その声……やっぱり!」
 リョカは声の方へと走り……。

**――**

「ふぅ、まさか生きとったとはな……」
「お互い様だよ。シドレー……」
 小屋を出たところで上空から降りてきたシドレー。かつての羽の生えた緑のトカゲとは違い、今は金色の小柄な竜といえる大きさ。とはいえ、アルマを一人背中に乗せるのが関の山らしく、彼女をおろすと肩をごりごりと鳴らす。
「目が覚めたとき、お前いなくのうなってたし、その……親父さんのな……」
「うん」
「で、せめて剣だけでもと思ってな。ガロンも幼いし、しゃーないから俺が面倒見ようってさ……」
「ありがとうシドレー……」
「よせやい、もっと恩に着ろ。つか、坊主もすっかり立派になったな。もう十年ぐらいか?」
「せいぜい三年だよ」
「そうだっけ? まぁ、あれだ、つもる話もあるだろうし、いっちょこの辛気臭いとこ出るか?」
「うん……」
「よし、そんなら捕まらんでそこで待ってろ。このワガママ姉ちゃん連れてくから……」
「誰がわがままよ! って、きゃぁ!」
 アルマの悲鳴は、はるか上空へと消えていった……。

**――**

 カボチ村、西の洞窟とは、親を失った魔物達の住処だった。かつては人が使っていたらしいが、地殻変動と崩落で埋まり、そのまま廃墟と化していた。
 シドレーはガロンをつれ、いっときはサンタローズに身を寄せていたが、ラインハットの侵略に遭い、さらに西へと逃れ、積荷に紛れてポートセルミに来たそうだ。その後は人里離れて歩き回り、ここへたどり着いたという。
 そして弱い魔物達に自衛できる程度の訓練をし、迷い込んだ旅人をカボチ村近辺に運んでいた。カボチ村の住民が西の洞窟を恐れたのは、おそらく旅人から聞いたガロンの姿ゆえだろう。
 カボチ村にはアルマが詳しく説明をすることでなんとか誤解を解くことが出来た。また、西の洞窟はただの廃墟であり、魔物こそ弱いが、道が崩落していたりと危険だからと注意を促した。
 話を終えてみれば、全ては言葉の行き違いと独り歩きだろう。

**――**

「ふぅ、なんだかせわしい冒険だったわね……」
「うん……」
 ふたたびポートセルミに戻ってきたリョカ達。アルマは台所へ行き、買い置きの干し肉を外でちょこんと座っているガロンにロンに投げる。
 ガロンはそれを咥えると、一声お礼のように鳴き、がじがじと齧る。
「ウチのガロンさんはお上品ざますのよ」
 一方シドレーはというと、土足で闊歩し残りの干し肉を勝手に齧る。
「まったく、爪の垢でも煎じて飲めば?」
「まぁ、なんだ。それよかリョカ、お前、どうするん?」
「僕は、僕は父さんのお使いを頼まれて……」
「へぇ、そんならそっちの姉ちゃんに……。まぁいろいろめんどくさい事情があるの? そんならいいけど……」
 シドレーはリョカとアルマを交互に見ながら、ふいとそっぽを向く。
「俺も暇やし、暫くついて行っていいか?」
「うん。僕も一人旅は寂しいし、シドレーが居るくらいが丁度よいよ……」
「そうかしら? こいつだと煩すぎると思うけど……」
「うっさいなぁ……」
 シドレーはワインのボトルを掴み、たすき掛けの鞄に入れる。
「ちょっと……」
 その傍若ぶりにアルマは咎めるよりも苦笑い。
「まあええやろ。邪魔者は暫く退散してやるんやし、これぐらいの駄賃……」
「もう、どういう意味よ……」
 今度は顔を真っ赤にさせて怒るが、その頃には外へ出てガロンを掴んで空へ飛び去ってしまう。
「まったく、このセクハラ親父!」
 アルマは遠い空に消えるシドレーに悪態をついていた……。

続く

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