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ポートセルミ編_その九

 ポートセルミ、海が見えるレストランに二人は訪れた。
 契約もこれで満了。明日にはこの街を出るつもりのリョカを労いたいと強引に誘ったのだ。
 彼女は食前酒に白ワインを頼み、リョカに勧める。
「僕はいいです。アルマさんにまた失礼なことしたら大変だしね……」
 オラクルベリーでグラスを掛けられたことはまだ記憶に新しい。当のアルマはそんなこともあったかしらと涼しい顔。
「で? リョカはこれからサラボナのルドマンさんのところへ行くのよね?」
「ええ。まさかそこまでついて行くなんていいませんよね?」
「来て欲しい?」
「そうですね……」
 冗談めいた口調で言うアルマに、リョカは素直にそう応える。途端彼女は目を丸くして頬を染めるが、夕焼けのせいでそれも目立たない。二人は視線を海へと向け、ぽちゃんと跳ねる魚を見る。
「もう、リョカったらからかって……」
「本気ですよ……。でも……」
「でも?」
「フレッドさんが赦さないと思いますけど」
「そうなのよね。今頃お孫さんと一緒にのんびりしてるんでしょうけど……。うふふ。フレッドって息子さんと私には厳しいくせに、なぜか孫には優しいのよ。これって不公平だと思わない?」
「はは……。そういうのってあるかもしれませんね」
 雑談もその辺に前菜が運ばれてくる。リョカはどのスプーンから使えば良いかわからず、アルマに笑われながら外側のフォークを取る。
 初めて食べる上品な料理の数々に、リョカはどれを食べても「美味しい」と声に出し、周りの客からも笑われていた……。

**――**

「もうリョカったら……。恥かいちゃったじゃないの」
 帰り道、アルマはポーチをくるくる回しながら上機嫌で彼を叱る。
「ゴメン。ああいう席って本当に初めてだから、そういうマナーとか知らなくて……」
 リョカは彼女の後姿に頭を垂れる。一時は覆った二人の関係だが、やはりこの形に帰着してしまうらしい。
「うふふ。まったく、これじゃあ先が思いやられるわね」
「え?」
「ん? なんでもないわ。それよりここでいいわ」
 リョカの宿泊している宿の前で彼女は振り返る。アルマールジュエルの事務所はまだ先で、街灯こそ点されているものの、日はもう沈んでいる。
「送っていくよ」
「いいわ。すぐ近くだし」
 彼女はくすっと笑いながら舌を出す。くるっとそのままターンをしようとするが、レンガの溝にヒールが嵌り、カツンと高い音を立てる。
「ほら、危ないよ……」
 リョカは倒れる前に彼女を抱き寄せる。過剰なまでに身体を密着させるリョカに、アルマは彼の顔を見て、すぐに顔を逸らす。
「もう、最悪……。このパンプス気に入ってたのに……」
「アルマ……。送っていくけど、いいよね?」
 その力強い声に、アルマは彼を見ずに首を振る。
「わがまま言わないで。靴も穿かずにこんな石造りの道を歩かせるほど、僕だって野暮じゃないよ……」
「十分野暮よ……」
「どうして?」
「帰りたくないって言わないとダメ?」
「え?」
「私、ちょっとお酒に酔ったみたい……」
 アルマは彼の胸にもたれかかり、ふうと長く息を吐く。
 彼女の甘い体臭、皮膚をくすぐる髪、布越しに伝わる柔らかな感覚に、自然と腕に力が入り……。
「部屋で少し休む?」
「ええ。邪魔者も居ないし……」
 顔を見せないアルマを抱きかかえ、リョカは自分のチェックインしている部屋へと向かった……。

続く

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