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ポートセルミ編_最終話

 朝も早い時間、アルマは彼女を抱きしめて離そうとしないリョカの腕からそっと抜け出す。
 バスルームで汲み置きの水を浴び、昨日の愛の残り香を流す。
 鏡に映るリョカのキスマークを寂しく見つめ、そっと部屋を抜け出した。

 井戸の近くでもう一度顔を洗う。朝のひんやりした空気を胸いっぱい吸いながら、まだ身体の内側に残る彼を思う。
 下腹部に手を当てるとまざまざと思い浮かぶ、昨日の記憶。リョカを求め、求められ、深みに溺れていく二人。もう二度と離れたくないと願い、今もそう思っている。けれど、彼には目的があり、その足枷になりたくない。そして……、
「お? じょうちゃん、早いな……」
 霧の向こうからのっしのっしとやってくる不思議な影。大きめの四足と翼。ガロンの背中でシドレーが手綱を引いていた。
「あなた……、なにしてんの?」
「ウチのガロンちゃんは朝早いざますからね。散歩は毎日の日課ざますのよ。おほほのほ」
 欠伸をしながら手で口を隠すシドレー。一体なんのまねなのかはさておき、アルマの中で残っていたピースが嵌る。
 カボチ村近辺に現れた翼の生えたキラーパンサーというのは、シドレーによるガロンの朝の散歩が原因。朝もやの中ではそれを見間違えるのも無理はないだろう。
「あれ? リョカは?」
「まだ寝てる」
 タオルで顔を拭きながら、それが失言であったと真っ赤になるアルマ。
 もっともシドレーは気に留める様子もなくガロンの背中から居りると、鞄から干し肉を取り出して与える。
 彼が一体どうやってお金を稼ぎ、どこでそれを買っているのか、アルマは首を傾げる。
「んで、どうすん? お前は……」
「私はお前なんて名前じゃありませんよ~だ」
「はいはい……。デボラはんも来るんじゃろ? リョカはもすっかりその気じゃろうしな」
「あら、覚えてたの? 取り頭ってわけじゃないのね?」
「まな……。つか、俺の知り合いって言ったら数える程度しか居ないしな。きつめでわがまま、赤毛の姉ちゃん……。そしたらデボラはん以外に居ないってわけよん」
「まったく、リョカもそれぐらい覚えておけっていうのよね。私もリョカとせっかく再会できたんだし、本当は別れたくないけど、そこだけちょっと不満なのよね……」
「まぁ……。あのちんちくりんがこんなボインキュッボインな姉ちゃんになるなんて思わないわな、リョカもそういうの疎い奴だから勘弁してやれや」
「いや! 私は三年も待ったのよ? そりゃ、あそこまでたくましくて格好良くて、強くて優しくなるなんて思わなかったけどさ……、あの魚顔、肝心なところで鈍感だし……」
「前も思ったけど、その魚顔って褒めてるん?」
「だから、今度は私を探しにきてもらおうかな……。そしたら一緒になってあげてもいいかな?」
 目をきらきらさせて祈るように手を合わせるデボラ。彼女の中ではリョカが必死の思いで探し当て、跪き、手にキスをしているのだろう。
「はいはい。ま、リョカには黙っておいてやるけど、あんまり夢見てるとがっかりするで? あいつ結構もてるしな……」
 シドレーは井戸の縁に座ってつまらなそうに空を見る。
 かつてリョカの周りに居た女の子を指折り数え、自分の周りにはガロン一匹ということを踏まえ、シドレーは嫉妬交じりのため息をついた。

**――**

 昼頃、ようやく目を覚ましたリョカの枕元には手書きのメモがあった。

 ――おねぼうさんへ。私はこれからお仕事に出ます。なので私を探しに来なさい。その時は貴方だけの私になってあげるから……。
 P.S.ドルトンさんのところで待ち伏せは無しね? もしそんなズルしたら絶対無視するんだから!

 またしても手の隙間から漏れた気持ちに寂しさを覚えたが、もともと彼女とは身分が違うと醒めた笑いを浮かべる。
 彼女には自分のような風来坊ではなく、もっと相応しい人が居る。
 負け癖の付き始めたリョカの寂しい決断が彼に表面的な明るさを与え、出口で向かえるシドレーに文面どおりの希望を持っていたと誤解させてしまう。
 食い違いを見せる解釈もそこそこに、彼らは次の目的地としてサラボナ―ポートセルミ間を繋ぐ洞窟を目指した……。

続く

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