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ルラフェン編_その一

 ポートセルミ西の街、ルラフェン。月が一番近づくとされ、満月を模して作られた黄身餡の団子、ルラムーンはここの銘菓だ。
 かつてはルラムーン草と呼ばれる不思議な魔力を秘めた草の生産をしていたが、神話の時代が神話となってからは、取引が禁止されるようになった。もともと生育の難しい草であり、またポートセルミ港の発達に合わせて栽培の容易なよりお金に結びつきやすい野菜の生産へとシフトしていったのだ。
 もっとも、それらはルラムーン草を必要とする、ある魔法を封印する必要があったから。それを知るのは、ごく一部の富豪や王族、領主とされる者だけだった……。

 激しい雨に曝されながら宿へと駆け込む一人と一匹と一翼。一匹はその容貌から雨を凌げる馬屋に向かい、一人と一翼は軒先に向かう。
「ふぃ~、まったく酷い雨やな……」
「だから僕は一休みしようって言ったんだ。こっちの気候はアルパカとは違うんだから」
「せやけど、荷物の期限が迫ってたやろ? しゃーないやん」
「それだってシドレーが無理に引き受けたからだろ? 旅馴れてない地方なのにほいほい引き受けるもんじゃないよ」
「困ってる人を助けるのは義人の常やろうが。いつからそんな冷たい子になったの?」
「報酬に釣られたくせに……」
「まぁええやろ。こうして荷物も無事に届いたんやし……」
「おかげで遠回りになったじゃないか……」
 ため息交じりに宿の受付に行くリョカ。外では馬屋で丸くなるガロンに、受付のおじさんは、馬が食われないかと冷や冷やしている。
「あの子は大人しい子だから平気ですよ。それと、僕と……。このドラゴンキッズの大きいのが泊まっても平気な部屋ってありますか?」
 大きいキッズという言葉に首を傾げながら、リョカの人当たりの良さそうな笑顔に頷く受付のおじさん。
「あんた魔物使い? へぇ……初めて見たよ。あんなに行儀の良いキラーパンサーは……」
「ウチのガロンさんはそこいらの下品なのとは違うんざます」
 器用にタオルで背中を拭くシドレーに、受付はさらに目を丸くする。
「驚いた。このドラゴンキッズ、喋れるんだ。ベネットさんに教えたら喜ぶかもな」
「ベネットさん? 良かった。僕らその人に届け物を預ってるんです。どこに住んでいるんでしょうか……?」
「ん? ああ……、ベネットさんならこの街の入り口を左の壁伝いに進み、突き当たりを右に曲がって三番目の十字路を左に曲がり、さらにトンネル潜って井戸の隣かな?」
「え? え?」
「まぁ、そんなずぶぬれで慣れない街うろつくよりも、熱いシャワーでも浴びてきな。そんじゃあ今日は二人と一匹、ご案内っと……」
 どうにも狐に抓まれた気分になりながら、リョカは案内された部屋へと荷物を置きに行った……。

**――**

 ガロンは馬屋に預けており、シドレーは部屋で寝ている。リョカは一人、降りしきる雨の中、傘と簡易の地図を頼りに街を歩いていた。
 慣れないだけならともかく、おかしな具合に入り組んだ街の作りにリョカは頭を抱えていた。先ほどから何度か庸兵らしき人とすれ違ったが、彼もまた道に迷っているらしく、お互い役に立たない。おまけに雨で視界も遮られ、途方にくれていた。
「あら……?」
 リョカが振り向くと、そこにはピンクの傘をさした一人の女性がいた。
 青いストレートの髪は腰にかかり、雨に濡れないようにまとめられ、ぱっちり丸い目はリョカを見つめると「やっぱり」と言いたそうに笑顔に閉じる。
 その笑いをはにかむように手で隠し、軽く会釈する彼女。
 一瞬リョカは見とれてしまい、我に返ると慌てて頭を下げる。
 薄桃色のチュニックは七部袖の涼しげなもの。膝の近くでリボン結びされた活動的なパンツルック。見た目こそ地味だが、本人のもつ華やかな雰囲気は隠せそうにない。
「えと、どこかでお会いしましたっけ……?」
 その問いかけに女性は驚いたように目を丸くしたが、直ぐに笑顔で答える。
「ええ。一回目はお船の上で、二回目は妖精の国で……」
「妖精? もしかして……」
「はい。お久しぶりですわね。リョカさん……」
 その笑顔の裏には氷の女王を氷漬けにする稀代の魔法使い、フローラ・レイク・ゴルドスミスがいることを忘れてはいない……。

**――**

「まぁ、リョカさんがお届け物を……。ベネットさんのお家は初めての人にわかりづらいところにありますし、困っていたでしょう? 私ですか? ええ、花嫁修業のついでにベネットさんの研究のお手伝いをしておりまして。なんでも古代の魔法を復活させたいと仰っておりまして……。うふふ、そういうのって興味を惹かれません? 古代、歴史、伝説の……。考えるだけでも感動で震えます。ねえ、リョカさんもそう思うでしょ? ああ、わたくし、そんな時、そんな場所に立ち会えるなんて、本当に幸せですわ……」
 うっとりと空を見るフローラに、リョカは愛想笑いを返す。正直、それほど興味もなく、過ぎた力を呼び起こしかねない行為については批判的だった。
「さ、着きましたわ」
「はぁ……」
 入り組んだ街並を越えてたどり着いたのは、二階建ての大きなお家。煙突からは黒い煙がわっかをつくっていた。
「ベネットさ~ん、フローラです。お荷物が届きましたよ」
「ほいほい、届きおったかい! いやぁ良かった。ささ、雨に濡れるといかん。入ってくれ」
 ドアがどんと開くと笑顔満面のおじいさんが顔を出す。ケイン老人と同じかそれ以上の老齢であり、禿げ上がった頭はきらりと光る。ベネットは荷物を持ったリョカを家へと押し上げる。
「あ、あの、僕は……」
「今は人手がほしいんじゃい。ほらほら、フローラちゃんも早く」
「はい! さ、リョカさんも!」
 今回も流されるままに流され、リョカはベネットの研究所へと導かれていった……。

**――**

 部屋へ入ると、むっとした空気がリョカを出迎える。
 干した雑草の青々しい臭い。思わず鼻をつまみたくなるほどで、ベネットとフローラはしっかりとマスクを着用している。
 部屋の真ん中にある大きな釜は、まるで魔女の怪しげな儀式を連想させるもの。初見のリョカは一歩退いてしまう。
「さて、とりいだしたるはこの日和見草。これを使えば天候を司る精霊を起こすことができる。さすれば古代の魔法、ラナファインも自由に使える。急な雨雲も一時的じゃが晴れ渡る。ラナリオンと併用すれば、気候も操れるじゃろう」
「ええ!」
 意気揚々と語る老人と、同じく感動に手を合わせるフローラ。
「ええ? 気候? ラナファイン?」
 リョカだけがついていけず、おろおろと二人を見る。
 天候魔法は文字通り天候を操るもの。かなりの魔力を必要とし、使用に際しては多数の魔法使い、魔道士を集める必要がある。
 ただし、ラナリオンの扱いは非常に難しく、貯水池を満たすどころか村一つ水没させたことすらある。対を成すラナファインも雨雲を蹴散らすどころか日照りを呼び寄せ、一時的に土地を干からびさせたとも……。
 これらの魔法は気象・天候を司る精霊達を使役するもので、みだりに使われては適わないとルビス正教会の日曜礼拝の賛美歌で眠りに誘われている。
 現状、もしそれを使おうとするなら、彼らを起こす必要があり、それはザメハのような覚醒魔法ではなく、日和見草のような魔力を伴う草が必要なのだ。
 今、ベネットの実験が成功すれば、目覚めた精霊達は自分達に覚醒をもたらした者を主とし、その問いかけに応えるようになるという。精霊との契約の一種だ。
 リョカはその説明を聞き、おかしな魔法を覚えても困ると部屋を出ようとする。しかし、時すでに遅く、ボンっと白い煙が周囲を包み、シナモンの香りが漂ったころ、身体中、真っ白になっていた。
「ぶはっ、なにこれ……」
 せき込みながら身体にまとわりつく白い粉を振り払うリョカ。モノトーンな世界で異質なほどに色彩豊かな輪郭を見せるベネットとフローラにリョカは首を傾げる。
「あれ? なんで二人とも平気なの?」
 白い煙を払いながらリョカは咳き込む。どうやら白い粉はリョカにだけまとわりついているようで、二人にはなんら被害が見えない。
「ベネットさん、この白いのは……」
「うむ。これが天候を司る精霊じゃろうな……。いや、ここまで大量なのは初めて見たぞい。分量を間違えたかの? そして……、なんでお前にだけ向かうんじゃい? というか、お前誰じゃ? さてはワシの研究を盗みに来たのか? この不届き者め!」
「え? え?」
 招き入れられただけのはずが、いつの間にかスパイ容疑を掛けられるリョカ。次第に薄れていく白いモヤを見送りながら、どういい訳したものかと困り始めていた……。

続く

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