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ルラフェン編_その二

「ふむ、お前さん、リョカというのか? ほほう。フローラちゃんのお友達かい。やっぱり魔法に興味がおありで? 見たところ、それなりの素養が見受けられるの。まぁ、フローラちゃんのような逸材からすれば見劣りするが、鍛えればそれなりになるの」
 実験を終えて居間で寛ぐ三人。ベネットはリョカをしげしげと見つめ、ひび割れたコップを彼に向ける。
「ためしにこのコップにスカラを唱えてみんしゃい……」
「ええ……」
 リョカは印もそこそこに土の精霊を呼び出し、コップを強化する。ベネットは硬質化したコップで机をトントンと叩き、その精度を見る。
「ふむ……。独力でこれだとすると、中々のもんじゃな。魔力も高いが、方向が一定でなく、それが互いに相殺しているといったところじゃな……」
 ベネットは人差し指をコップに当て、つうと線を引く。すると精霊が互いに向き合い始め、コップを覆う青紫の光が薄れて消えていく。
「え? うそ。僕の魔法……」
 強制的に霧散させられる防壁魔法。いくら簡易の印と無詠唱とはいえ、ただ指を走らせた動作だけで無力化させられたことは驚きだった。
「ベネットさんは魔法の根幹を理解なさっておりますの。そうですわね。たとえ私の全力でも、正面からならああしていなされますわ」
 こそっと呟くフローラの言葉にリョカは驚きを隠せない。大魔道士と呼ぶに相応しい彼女の魔法すら無力化されるほどの実力が、目の前の老人にあるのだろうか?
「その分、魔力はからっきしじゃがな。多分、お主よりも魔力は弱いぞ」
「へぇ……」
 コップを戻すベネットは笑いながらそういう。
「さてと、それじゃ始めるか……。お主、リョカはまず水を汲んだバケツを用意しろ」
「はい?」
「リョカさん、バケツはこちらですわ」
「え?」
 フローラはベネットに頷くと立ち上がり、台所へと向かう。わけもわからずリョカはそれに従い、水を汲んで戻ってくる。
「魔法とは精霊を使役することじゃ。そのためには魔力を使えばよいが、実はそう単純なことではない。そうだな。じょうろに水を汲んでも出口が大きすぎれば水の勢いは弱い。逆に出口を小さくすれば勢いは強くなるが、一度に出る量は少なくなる。それを解決することは……まぁ無理じゃが、目的に合ったじょうろを学ぶことに意味がある。お主程度の魔力なら上位の魔法もかろうじて使えるはずだ。バギクロスにベギラゴン……まぁそこら辺か。イオナズンやメラゾーマとなると、やはり素養というか、資質が足りないと言える。それは別にお前が劣っているというわけではない。向きが違うんじゃよ。そうじゃな。フローラちゃんは特別じゃからな……」
 ベネットは水面を見つめ、先ほどと同じようにひとさし指を立てる。そして水面をすーっとなびかせると、波紋が一方へと流れだす。
「へ?」
「コーラルレイン。本来は海上で豪雨を呼び寄せる魔法の一種だが、バケツの中で嵐を起こされても困るので、かなり弱めにしている。まぁ、ワシ程度じゃバケツをひっくり返すのが精一杯じゃがの」
「はぁ……」
「印と詠唱は後で教える。まずは精霊を使役し、その向きを自在に操ることから学んでもらおう」
「僕が?」
 いつのまにやら始まったレッスンにリョカは自分を指差し、裏返った声で聞き返す。だが、ベネットは当然といったようすで頷き、反論を許さない。
「フローラちゃんのときは大変だったぞい? バケツが激しく渦を成して辺り一面水浸し……」
「もう、ベネットさんったら……」
 照れたように笑うフローラだが、バケツの水程度が集める水の精霊で嵐を巻き起こす彼女はやはり只者ではないのだろう。幼少の頃から氷の魔物を氷に閉じ込めるような荒業を成すのも頷ける。
 リョカはフローラから付箋の挟まれた魔道書を受け取り、水の項目を引く。
「とはいえ、魔力のある限り放出するのは魔法使いとして滑稽なわけじゃ。それに精霊が求めるだけ魔力を放っては、どちらが使役されているのかわからんからな」
 ほっほと笑うベネットにフローラは顎に手を当て、そっぽを見る。
「さて、それじゃあフローラちゃんには次のレッスンと行こうかの……」
 ベネットはこっそりとフローラのお尻に手を回すが、「いけませんわね」とペシンと叩かれる。
「じゃあリョカさん。がんばってくださいね」
「あ、はい……」
 なし崩し的とはいえ、魔法とその奥深さを学ぶには良い機会と、リョカは早速練習を始めた。

**――**

 リョカがコーラルレインを覚えたのは、それから十分後のこと。最初はバケツの水を波立て、部屋に水を撒いてしまう。どうせ濡れているのだしと外へ出てバケツと格闘するリョカ。その集中力は目を見張るものがあり、不自然な波紋を作る程度までに上達した。
 そのうちに雨も上がり、今度はふわりと影が映る。
「リョカ~、お~い!」
 空を見上げるとシドレーが舞っていた。
「あ、シドレー、ここだよ~」
 リョカが手を振ると、彼も気付いたようでばさっと降りてくる。
「あれ? 荷物届けたん? なんならなんでこんなところで油売ってるん?」
「うん、ちょっと魔法の練習してるんだ……」
「へぇ……魔法ねぇ……。まあ、お前の印とか結構粗いからな。いいとおもうで?」
「あはは、やっぱり下手かな……」
 シドレーの指摘にリョカはふふっと笑う。このあけすけもの言う友人が居てくれたことに、リョカの心にも明かりが差していた。
「ま、下手かしらね?」
「「え?」」
 すると、ベネットのお家、角の陰から顔を出す子が一人。
 青い髪を後ろでアップさせていて、ポニーテールのようにさらっとしたものではなく、ふわっと広がったもの。気の強そうな瞳とへの字に結んだルージュすら引かれていない唇に、勝気な美少女という雰囲気がある。
 青い胸当てと白いマントを翻し、腰には赤い柄の宝石を散りばめられた剣を帯びている。
「お前……確かアンだっけ?」
 かつてラインハットの宿屋で出会った女の子。その時は何が不機嫌なのか、名前すら名乗らずに去っていったが、
「そうね。確かそうだったわ。そう呼べば?」
 今回はそれに頷いた。
「えと、僕の絵? 最近はあんまり描いてないんだけど……」
「別にいいわ。サンタローズであらかたもらってきたし」
 腰に手をあて偉丈に振舞う彼女。幼い雰囲気の『アン』とは違い、とげとげしい嫌悪が感じられる。
「この修行でしょ? 私もお母様に何度かやらされたわ」
 アンはリョカの前につかつかと歩み寄ると、指先に青白い光を集めだす。
「海獣よ、戯れるままに荒波を示せ……、コーラルレイン……」
 指先が水面に触れると、途端に水柱が立ち、渦を成す。
「うわ!」
 細かい水飛沫を上げるも、あくまでもバケツに留まる小規模な嵐。リョカは驚き、声も出ない。
「ふふん、どうかしら?」
「すごい……」
 得意気に胸を張る彼女。魔力、そして使役のどちらもリョカの遥か上を行くであろうアンに、彼は素直に拍手をする。
「そんなん……」
 すると、びゅうと冷気が横から吹き、その水柱を氷柱に変える。二人の視線の先には腰に手をあて胸を張るシドレーがいた。
「まったく負けず嫌いな奴ね……」
 アンは氷柱に指先で触れ、今度は光と熱を集める。すると勢いよく氷柱は溶け始め、バケツへびちゃびちゃと音を立てる。
「で? 今度は何の用? またリョカさんをご指名ですか? リョカさんには大切な人がおるんじゃから、横恋慕は止してくださいね」
 毎度いやみったらしく言うシドレーにアンはフンと鼻でならす。リョカは思い当たる節に真っ赤になるが、シドレーはどこ吹く風。
「なんで私がこんな浮気者なんか……。女と見ればだれでもかれでも泣きついてさ……。あーやだやだ……」
「かれでもってのはさすがに無いと思うけどな……。まぁ、坊主が女ったらしってのは否定せんぞ。うんうん」
「ちょっとシドレーそれって……」
 心底嫌そうに腕を抱くアンと、その件に関しては同意とばかりに頷くシドレー。リョカは自分がそんなに女性にだらしないのかと、過去を振り返る。
 指折り数えて脳裏で微笑む女性達は、彼の前から去っていった。ふがいないと頭ではわかっているが、彼なりの後ろめたさが密かにある。もし、剣を届けたら、あるいは、それを埋める旅に出ることも本気で考えていたから……。
「それより貴方の持っている剣、ほら、ルドマンさんに渡すはずのアレ。今すぐにフローラに渡しなさい」
「え? なんでアンさんが父さんの剣を知ってるの? フローラさんの知り合いなの?」
 エマといいアンといい、例の不思議な剣を知る人がなぜか多い。
「なんでもいいでしょ? とにかく、貴方の仕事はここで終わり。さっさとその決まった相手でも追いかけていればいいわ。そうすれば皆幸せになれるの」
「皆幸せ……?」
 リョカは「皆幸せ」という言葉を反芻する。
 マリア、ヘンリー、エマ……そして自分。
 皆が願う結末を迎えることもなく、波止場で挨拶もできずに別れた過去、自分だけがそれを追ってよいのか迷う。
 そして、父の願い。父は彼に自分の人生を生きてほしいと願った。だが、今際の際に残した願いはその間逆。どちらも願いであり、どちらも父の言葉。
 せめてできうる全てをしてからでも……。そんな妥協点で終らせようとする自分が、とても卑怯に思えていた。
「そうよ。貴方はこれ以上余計な旅をしないでいいの。貴方も、その大切な人も幸せになれる。貴方さえ来なければね」
「アンさん……。僕には君の言いたいことが見えない。一体なにを言いたいんだい? なにか大切なところを隠しながら言われても、僕だって頷くわけにはいかないよ」
「話せるならとっくに話してるわ。でもね、私は貴方だけは赦さない。私のお父さんを奪った貴方だけはね!」
「僕が、アンさんのお父さんを……?」
 まったく見に覚えが無いことにリョカは言葉が告げない。彼女の見た目からするに、自分とそう年齢も離れていないだろう。もし彼女の父を奪うとして、幼少期のリョカにソレができるだろうか? 幼い旅路、そういった場面に出くわしたこともなく、ただただ困惑するリョカだが、アンはいたって真面目らしく、涙を浮かべながらリョカを睨む。
「お、おい……。おまえ頭大丈夫か? リョカがお前の親父奪うって、こいつみたいな青二才に物騒な依頼する奴なんていないやろ?」
 話の流れのおかしさにシドレーが間に入る。だが、彼もまたアンの真剣な表情に嘘を言っているとは思えず、その矛盾に近い言葉に困惑する。
「どうかなさいましたの~?」
 すると、ベネットのお家の二階の窓が開き、フローラが顔を出す。
「あら? 貴女は確か妖精の国でお会いしましたよね~? ベネットさんのところでお勉強をなさるおつもりで?」
 笑顔で手を振るフローラにアンは「やばっ」と小声で呟き、さっと翻す。
「とにかく、リョカ、あの剣はフローラに渡しなさい。いいわね? 絶対だからね!」
 そう叫ぶとアンは走り出し、角を曲がったところで光が跳ねた。
「まったく忙しい奴じゃな……。んでも、あの剣ってあれじゃろ? お前の親父が見つけたっていうごてごての剣……」
「うん。多分それしかないと思うけど……。一体あの剣はなんなんだろうね……?」
「ああ、別に装飾以外におかしいところもないし、魔法が込められてる程度じゃからな……」
「え?」
「ほい?」
 その言葉にリョカは彼を見る。シドレーも何かおかしなことを言ったかと、彼を見返す。
「シドレー、他にも何かおかしなことなかった?」
「いや? なんか呪われてるとか?」
「そうじゃなくて、すごく重いとか……」
「別にそういうのはないぞ。ただ、持っていると頭がちくちくする。なんつうか、ぼーっとして、前にも似たようなことがあったんだけど、忘れちまったわ……」
「君、あの剣をもてたの?」
「ああ? そりゃこの手だってそれくらいできるで? 東国の箸かて俺様自由自在」
 小さな手をわきわきと動かす。その手に合う箸があるかといえばそれが一番の謎だが、彼でも棒を掴む程度のことはでき、そしておそらくはあの剣を掴むこともできるはず。ならば、あの不自然な重さ、扱いにくさを感じていないのは何故だろう?
「もしかして……」
 魔物専用の武器の存在はそこまで珍しいものでも無い。魔物使いが増えるにしたがって、その武装や装飾に凝る者も多い。ただ、巨大な魔物や四足の装飾ならともかく、まったく人が扱えないように施す必要もなく、疑問は残る。
「リョカさん……、どうしましたの?」
 様子を見に来たフローラが話しかける。
「うん。実はフローラさんのお父さんに渡すように頼まれていたものがあって……」
 アンに言われたからではなく、この腑に落ちない不思議な矛盾を解消するためにも、第三者の意見を求めたのだった……。

続く

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