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ルラフェン編_その三

 宿屋に戻ったリョカは、例の不思議な剣をフローラに見せる。本来ならみだりに見せるべき代物ではないが、彼女はルドマンの娘であり、目にしたとしてもそれは遅いか早いかの違いでしかない。
 緑を基調とした柄には威嚇をするかのような竜の頭が装飾され、大きな宝石を掴むかのようにはめ込まれている。そしてひんやりとした不思議な空気を醸していた。
「これをお父様に……?」
 フローラは剣を手に取ると、柄を握る。
「あ、危ない」
 鞘や刀身を持つには申し分ないが、柄を握ると途端に重くなるおかしな仕様。リョカは慌てて支えようとするが、フローラは軽々というほどではないが、すんなりと鞘から抜く。
「あれ?」
 リョカは目の前の光景にマヌケな声を上げる。かつてマリアと共に見つけたとき、その剣は不自然なほどの重さを見せ、呪いの仕業かと二人を怯えさせた。けれど、今フローラはその柄を握り、涼しい顔を刀身に写している。
「不思議な剣……。魔力が吸い込まれるというか、とても寒々しい力を帯びていますわ……」
「ねぇ、フローラさん、重くないの?」
「重いですけど、両手なら……」
「そうじゃなくて、持てるの?」
「ええ? ええ、現にこうして……」
「そう、そう……」
 リョカは自分のほうがおかしかったのかと頷き、鞘を渡す。
「おいおいどうしたリョカ? 剣をしまってやらないなんて……」
 剣の扱いにフローラは慣れておらず、横からシドレーが手を伸ばしてそれをしまう。
「二人とも、その剣、重くないんだ……。僕が握ったときは、普通に扱うなんて無理なぐらい、すごく重かったから……」
「これが? そうは思えんけどな」
 シドレーは柄を持ちながらぶんぶんと円を描く。
「そういえば前にお父様が古道具屋からこれと似た雰囲気の鎧を買っておりましたわ。この緑の色がよく似ておりまして、あとこの宝石も……。姉さんならこういうのに詳しいんですけどね……」
「へぇ……」
 シドレーはリョカを見ながら笑いを堪えていたが、鈍い彼は気付かない。
「なんでも竜の神様がお空のお城に居たころ、翼の折れた天女様がお空に帰るために探し当てたとか……」
「なんじゃそりゃ。その剣は通行手形か何かなんかい?」
「ええ。そして、もしその伝承が本当なら、この剣もまた、その可能性が高いかと……。なんてね。そんな子供じみた話、退屈ですわよね?」
 くすっと笑うフローラ。彼女にとっては同じ伝承でも魔法のほうが興味深いらしい。
「で、これをお父様に渡せばよいのですか? 私が預っても大丈夫ですけど……」
「いえ。これは父さんが僕にするようにって言いましたし、それに父さんがどうしてこの剣を見つけたのか、ルドマンさんに聞いてみたいので、これは僕が渡します」
「そうですか……。わかりました……。それではリョカさん。また明日」
「うん。また明日……? あれ?」
 いつの間にか明日もベネットの修行が決定したことに、リョカは自分の主体性の無さを本気で心配し始めていた……。

**――**

 朝早くからベネットの家を訪ねるリョカ。シドレーはガロンの散歩に出ており、今は一人でバケツと向き合っている。
 波紋の形状が不自然な波を成し、それがだんだんと一本の線になる。水の精霊は比較的穏やかで、ベネットが食後のコーヒーを飲むころにはやり終えた。
「ほほう。使役するのは上出来みたいじゃな。フローラちゃんはそれだけするのに一日かかったからな。鷹と鳶の違いはあるが、やはりお主にもそれなりの才能があるの」
 ベネットは満足そうに頷くと、手招きをする。
 続いて向かったのは裏庭で、丸太がいくつかある。
「魔力の方向を学んだら、続いて集中させる方法を学ぶ。水の精霊だと弾けてしまってコツが掴みにくいから、今度は風の精霊で学ぶ。バギは使えるな?」
「ええ」
 リョカは指先に魔力をイメージすると、そっと回し、ふわっと風を起こす。
「ふむ。それでこの丸太を切ってもらう。ただし……」
 ベネットは親指と人差し指を開き、薪にするには大きいそれに翳し、気合を込める。
 空間が切れるかのような錯覚と共に、丸太が割れる。
 小刀程度の風刃で丸太を切る技術に目を見張る。普段リョカが奮う真空魔法は大振りで、相手を殺傷させない為もあるが、面積で威力を稼ぐもの。
 自称魔力の乏しい老人だが、魔法の扱いは確かなモノだと再確認させられる。
「こんな感じでじゃ。無駄に切り裂くことなく、必要最低限の範囲に集中させる技術はかなり難しいぞ。心してかかれ」
「はい……」
 いつの間にか呑まれ始めたリョカは、丸太を前に老人の真似をして指を翳し、風の精霊を使役する。
 しかし、イメージの定まらない彼の風刃は、本来の小刀程度の威力で表面を削ると、むなしく霧散していった……。

**――**

 夕暮れ時になっても上手くいかず、途中書物を読み直して印と詠唱を正しく学びなおすリョカ。丸太を前に数センチ程度ずつだが、徐々に切れ込みを深くしていった。
 魔力の遣い過ぎで心労からその場に倒れ込むリョカ。額の汗を拭い、詠唱のせいで乾いた喉を癒そうと唾を飲む。
「使役の方に力を入れすぎて、威力を殺しているな。簡単に言えばじょうろの口を閉じて、ついでに水もあまり汲んでいないということじゃ」
 様子を見に来たベネットは、切れ込みを見ながらそう呟く。
「まぁ、フローラちゃんみたいに切り株だらけにされても困るがな」
「あ、ベネットさん……」
 リョカは起き上がり、彼に向き直る。
「まぁ、最初はそんなもんじゃ。とりあえず、ほい」
 ベネットは斧をリョカに向け、切り株を指さす。
「今日の風呂を沸かすのに使うんじゃ。ま、授業料と思えば安いもんじゃぞ?」
「はい……」
 斧を受け取ると、手ごろな大きさのそれを取り、薪割りを始めた……。

**――**

 リョカの最近の日課は、日中は魔法の集中を学び、夕暮れごろから薪割り、水汲みと目白押し。
 最初は丸太を切るのも一苦労で、おがくずばかりに咽る日々が続く。それも二週間が過ぎた頃には、手斧要らずで薪を作れる程度になった。
 夕方頃になるとシドレーがやってきて、風呂釜を自前の火で沸かす。その際、やたらと薪を持って行っては小銭を数える彼の後姿が見えた。
 今日もいつものように薪割りを終えたリョカは、台所の分を運び込む。
 すると、居間のソファではフローラが額に氷嚢を当てながら横になっていた。
 ベネットに見込まれている彼女は、リョカとは別に上級魔法の修練を行っている。その手始めとして比較的簡単とされるのが閃熱系上位とされるベギラゴンだ。
 街の外れにある石造りの部屋から荒野に向かって放たれる熱は、日に日に周囲の空間を歪ませる度合いを強めるが、まだ完全に自分の物にしていないせいか、必要以上に魔力を精霊にもぎ取られ、修行の途中に倒れることもあるという。
「すみません、こんな格好で……。あの、お夕飯の支度なら私が……」
 彼女はリョカを見てゆっくり起き上がり、台所へとやってくる。
 魔法教育の一環に調理がある。魔力の強壮に良い食材選び、精霊が忌避するものと好むものを選ぶなど、学ぶことが多い。ルビス教会の僧侶も治癒など御勤めをする場合、数日前から生ものを拒む。特に上位の魔法を使う場合は献立から注意する必要がある。
 富豪の娘、フローラでも、ベネットのもとで魔法を学ぶ以上、調理は必須科目。もっとも、始めた当初はベネットのほうが苦行だったともこぼしていた。
「大丈夫だよ、これぐらい。それよりフローラさんは寝ていて」
「すみません。それでは甘えさせてもらいます……」
 リョカの言葉に安堵するのはなにもフローラだけではなく、ベネットも一緒であった……。

**――**

 いつもならシドレーが風呂を沸かすのだが、その日は「やぼ用」らしくガロンを連れてまだ戻らない。妙に膨らんだ財布はきっとリョカの薪の対価だろう。もっとも、ガロンを連れて行くことでおおよその見当はついている。きっとカボチ村、西の洞窟だろう。
 リョカは口の割りに面倒見の良い同行者のそっけない仕草が照れ隠しなのだろうと思いながら、くすっと笑う。
「おーいリョカ君。もっと熱くできんかの?」
「あ、はい。今すぐ……」
 ベネットの声が聞こえたので、リョカは新たに薪をくべ、竹の筒で息を吹き込む。
 ごぉっと燃え上がる炎に、すぐにベネットの鼻歌が聞こえてきた。
 ようやく魔法を凝集させることになれたリョカは、比較的大きな薪に刃を放つ。それを二、三回繰り返し、不器用な木彫りの動物を作る。犬にも馬にも見えるそれを炎にくべると、パチっと火花が飛んだ。
 明日からは放出を学ぶ予定。魔法を放つ際に、必要以上に魔力を奪われるのは浪費でしかない。魔力も体力同様無限ではなく、心労として疲弊する以上、それを節約するのは重要な技術。
 リョカこの数日で魔法の奥深さをしみじみと体感していた。
 ――さてと、もう大丈夫かな?
 あまり炎を強め過ぎても熱くなりすぎるといけないので、薪をくべる手を止める。
「ベネットさん、温度大丈夫ですか?」
 換気用の窓をガラッと開けて尋ねるリョカ。しかし、そこにいたのは一糸纏わぬ姿のフローラ。
 青い髪をタオルでまとめ、さあ湯船に浸かろうという最中、いきなり開いた窓を凝視するフローラ。その姿勢のせいか、リョカの角度からだと全てが見える。
 手に収まる程度の小ぶりなおっぱいは形がよく、スベスベしていてさわり心地がよさそう。その中央にピンクの突起があり、互いにそっぽを向いている。
 お腹周りは彼の知る裸体と比べるとやや肉がついているが、女性らしい丸みを帯びている。
 しっかり手入れのされている股に余計な陰毛はなく、ピンクの割れ目と恥ずかしそうに皮に隠れるクリトリス……。
「きゃー!」
 ごく自然な反応に、見とれていたリョカはようやく我に返る。しかし、その刹那、彼女の翳した手のひらに光が集まりだし、それが彼へと放たれる。
 それは光、水、炎、風、熱、大地の精霊を幾重にも従えた恐るべし光弾であり、風呂の壁などあってないものとばかりにぶち破り、ついでにリョカを数キロ先の荒野までぶっ飛ばす。
 不幸中の幸といえるかは別として、リョカの脳裏には可愛らしく頬を染めて恥ずかしさで泣き出しそうになるフローラの裸がしっかりと残っていた。

 あくる日、フローラは彼に目もくれない。ベネットからは修行の代わりに大工道具を渡された……。

続く

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