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ルラフェン その6

「この変態……」
「だって、アンさんが窓の上に居たなんてわからないよ……」
 天窓の上に居たのはシドレーではなくアンだった。彼女はリョカを探していたらしく、部屋の天井近くから飛び立つシドレーを見ていたらしい。
「見たでしょ?」
「え? なにを?」
「しらばっくれないでよ、私のパンツよ!」
「パンツ? ああ……ごめんなさい……」
「もう! 信じられない! この変態! そんなにパンツ見たいの? 女とあればなんでもいいのね!」
「いや、だから……」
 真っ赤になって喚き散らすアンに反論は無意味と、リョカは下手に反論はしない。
「まったく、ファーストキスは奪われるし、やっぱり貴方ロリコンなの?」
「ロリコンって……。アンさんはそんなに幼くないでしょ?」
 キスの思い出から算出するに今は十六、十七辺りだろうか? だが、不思議とリョカやフローラより若く見える気もする。
「ん、まぁそうかもね」
「あれは事故みたいなものだし……」
「あのねぇ、貴方、人の大切なファーストキスを事故で奪う気?」
「えと……」
「本当に最低ね……」
 ご立腹な様子のアンは腕を組んで唇を尖らせる。リョカはどうしてよいものかわからず、頭を掻きながら……。
「僕はアンさんのこと、可愛いと思ってる」
 そう応えた。
「はぁ!? あのねぇ、貴方ねぇ……」
 するとアンは真っ赤になってリョカを指さすが、二の句が続かないらしくもごもごとなる。
「アンさん、怒ってばっかりだけど、笑ったほうがきっと可愛いよ。ほら、昔妖精の国で会ったとき、すごく可愛いと思ったけどな……」
 リョカは天窓を閉めると、レミーラを唱えなおす。ぼっと明かりが彼の手のひらから周囲へ広がり、二人を映し出す。その頃にはアンも落ち着きを取り戻し、やや拗ねた様子でリョカを見ていた。
「ねぇ、アンさん、教えてくれないかな。僕は君にどんな酷いことをしたの? 君のお父さん、僕が原因で……」
「ん……、それは私もよくわかってないのよ。ただ、貴方も大きく関わってることだから……」
「僕が大きく関わる? 今までにそんなことあったかな……」
「違うの。これからよ」
「これから? まるで予言だね……」
 リョカは先ほど読んだ話を思い出す。銀髪の男が呪と言い、別の女性がそれを予言という。そこには矛盾というほど乖離もなく、ただ、同一というには言葉の含みが違う。リョカとアンの見解の違いに似ているかもしれない。
「予言……。そうかもしれないわ。私がこうしてこの世界を旅するのも、それを赦されるのも、全ては予言がさせること……」
「で、その予言で君のお父さんは……?」
 おそらくはリョカが関係し、もしくは起因し、アンの父親を害するのだろう。それが目の前の少女を悲しませる結果になるのなら、リョカとしても看過する気にならない。特に父親という点が、この胡散臭い話を見過ごさせなかった。
「それをさせないためにも、貴方にサラボナへ行かせたくないの」
「僕がサラボナに行くと、君のお父さんが死んじゃうの?」
「多分……」
「ん……。僕は暗殺みたいな危険な仕事を請けたわけじゃないし、ただ剣を届けるつもりなんだけど……」
 頬を掻きながら苦笑いするリョかだが、アンは思いつめた形相で唇を噛む。
「そうか……。でも僕も父さんと約束がある。だからこうしよう。僕は剣を届けたらすぐに街を出る。絶対に余計なことに首を突っ込まない。ああ、ちょっとだけルドマンさんに父さんのことを聞くつもりだけど、そこはいいでしょ? 他に手がかりがないんだ」
「ん~、できればルドマンさんに会ってほしくないんだけど……」
「そこは譲れない約束だから……。けど、サラボナに知り合いなんていないし、長く滞在することも無いよ。だから、できるだけそういういざこざには首を突っ込まないって約束する。アンさんのお父さんが危ないんでしょ? よく事情はわからないけど、君が嘘を言っているとは思えないし、大切な人を失う辛さはわかってるつもりさ」
 悲しそうに笑うリョカにアンは驚いた様子で彼を見る。
「そっか、貴方も……。うん、ありがとう……」
 唇の端をにっと上げて微笑むアンは、かつて妖精の国で見たときの素直な笑顔を浮かべていた。
「んーん。誰にでも言いたくないことはあると思うし、アンさんの頼みなら断れないよ」
「あら、なんで? 私が可愛い女の子だから?」
「それもあるけど、僕の絵を欲しいって言ってくれる人だもん。そういうのって嬉しいよ」
「あ……、そうね。私、貴方の絵だけは嫌いじゃないから……」
 ふぅと軽く息を着き、膝を深く抱えるアン。
「ね、また描かないの?」
「最近はあんまり暇がなくて……」
「そう? でも……また貴方は描くと思うけど……」
「うん。そのうちね。それじゃあ僕はまだ修行があるから、アンさんは……」
 天井を見上げ、本棚を梯子代わりにさせるのも淑女に失礼と扉に向かう。そしてドアに手を掛け、鍵が掛けられていたことに気付く。
「ああ、そうだ。鍵、掛かってたんだっけ……」
 リョカは開錠魔法の印を組み、ドアを開けようとする……が、
「大地に眠る悪戯な精霊よ、我が囁きに応えて開け、アバカム……」
 アンは彼に構わず印を組むと、大地の精霊を呼び起こし、かちゃりと鍵を解く。
「え? アガムじゃなくて、アバカム?」
「あ……」
 驚くリョカと、しまったとばかりに眉を顰めるアン。
「一体どこで? 妖精の国? でも、デルトン親方は僕にしか教えてないし、それにアガムを見つけるだけでも大変だったみたいだし……」
「ええと、あの……、これは……だから……」
 純粋な疑問を掲げるリョカの視線に対し、アンはどもってしまう。
 アガムは元々アバカムの効果を落としたもの。複雑なものや魔法鍵の掛けられた物には通用しないというこそ泥レベル。
 対しアバカムはこの世の全ての扉を開くとされる物。そして、現在は禁魔法として詠唱法や印の組み方などは封印されている。
「おや? お主だれじゃ?」
 するとリョカの様子を見に来たベネットと、額にタオルを当てたフローラがやってくる。
「あ、あの……えと……」
 アンはベネットよりもフローラが居たことに驚いているらしく、リョカの背後に隠れようとする。
「こちらはアンさんです。僕の知り合いで、絵を取りに来ていたんですよ」
「絵を? お主、画家かなんかか?」
「いえ、そういうわけじゃないんですけど、恩人と約束をして、彼女に絵を渡してって言われていまして、今日がその日だったんです。すっかり忘れていて、しょうがないから鍵を開けてもらって……。すみません、修行の途中だったのに……」
 リョカはすらすらと嘘を並べ立て、肩掛け鞄から真っ白な画用紙を取り出し、二人に見えないように丸めてアンに渡す。
「はい、これが今回の分。アニスさんによろしくね」
「あ、どうも……」
 リョカのウインクにアンはきょろきょろしながら頷くと、ベネットに軽く会釈して出て行く。
「ふむ、あの子の相当な素質をもっておるの。もし良かったらウチで修行をしてみてはどうかな?」
 ベネットは顎髭を撫でながらアンの去っていったほうを見る。
「あら、私はてっきりベネットさんのよろしくないクセかと思いましたけど?」
 そういってフローラは腰に回されたベネットの手を軽く抓った。
「あいちち……。フローラちゃんはほんと鉄壁じゃの……」
 ベネットは手のひらを軽く吹きながら、リョカに向き直る。
「で? 本はどれぐらい読めた?」
「えと、この本とこの本……ですね。そういえばベネットさん、この竜の紋章って何かご存知ですか?」
 リョカは気になっていた天女と少年の本を取り出し、ベネットに見せる。
「うむ? ああ、これは確か、竜の神様の話じゃな。そうじゃな。いわゆる神話の時代か……。ま、御伽噺みたいなもんじゃ。今のお主が読むには丁度良いかもしれんな……ほっほっほ」
 まるでリョカの魔法の腕前を子供扱いするベネットに、リョカはまだまだ未熟なのかと一息ついた。
 一方、フローラは二人のことよりも鍵の周りを丹念に調べていた。

続く

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