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ルラフェン その7

 夕方頃、リョカは薪割りを終えて風呂を沸かすべく、かまどに薪をくべていた。
 いつもならシドレーが代わりにやってくれるのだが、今日は気分が乗らないといい、屋根の上で丸くなっていた。
 リョカは指先をくるくる回して風の精霊を呼び寄せ、そしてそよ風を炎に向かって吹かせる。それが火の勢いを消さない程度に維持すること十数分、熱さとは別にリョカの額に汗が零れた。
 自分の魔力から考えればこの程度の量、問題もないはず。けれど、まだ互いに反発し合って相殺される威力があり、必要以上のそれを奪われている。
 集光魔法のようにただ放つだけならともかく、いざ実践となるとまだ応用が利かなかった。
 そんなこんなでおでこを拭うと、突然、視界が冷たいモノで覆われる。
「え? え?」
「くすす、だーれだ……」
 リョカの反応を面白がるように笑うのはフローラの声。リョカはそっと彼女の手を取り、向き直る。
「フローラさん、どうしたの?」
「え? リョカさんが根を詰めすぎてないか心配になって……」
「そうですか? 僕は割とのんきですから……」
「そう? うふふ……」
 にこりと笑う彼女からはまるで花が零れるかのようで、リョカもつられて笑ってしまう。ただ、頭を過ぎるのは彼女の昨日の態度。どんなに謝ろうにも見向きもしてくれなかったことを考えると、この態度の変え方に裏がありそうに思えてならない。
「どうかしました?」
 どうやらそれが顔に出たらしく、素直なリョカの笑顔も一転引きつり始める。
「ええ、その……昨日のこと、ちゃんと謝りたくて……」
「ええ、しっかり怒ってますわ。沐浴覗く不埒者、天が見逃せど悪は悪、エッチな犯罪赦しません」
「うう……」
 笑顔のフローラにリョカはばっと頭を下げる。それは謝りたいという感情よりも、彼女の顔が怖くて見られないということ……。
「まったくリョカさんたら……。見ないうちにすっかりスケベな殿方になられて……」
 ふぅとため息をつくフローラに、リョカは内心どぎまぎしている。もし昨日の魔法弾を至近距離から受ければ、風呂の外壁のような緩衝材も無し、物理防御魔法も効果があるかわからず、かなりまずいことになりかねない。
「ごめんなさい……」
「うふふ。本当に悪いとお思いに?」
「ええ、はい。赦してほしいです」
「赦す?」
「なんでもします……」
「なんでも?」
「ええ……」
「そう……なら……」
「なら?」
「今日来た女の子……」
「え? えと、アレはアンさんっていって……、昔、オラクルベリーで助けてもらった人の知り合いなんだ……」
「それは聞きました。私が聞きたいのは、彼女の使った魔法ですわ……」
「魔法?」
「ええ、アガム……にしては大地の精霊のあらぶり方が違いました。あれは貴方の仕業ではありませんわよね?」
「ええと、フローラさんの考え過ぎじゃない?」
「リョカさん……。なんでもすると、さっき仰いましたよね?」
「うん……」
「なら、正直に答えてくださいませんか?」
「えと……、はい……」
「やっぱり……」
 リョカの答えに満足したのか、フローラは真剣な表情で考え込む。
 魔法に対して強い思いのある彼女だけに、アンが禁魔法を使っていたことに興味があるのだろうか、リョカには伺いしれない重い空気が彼女を中心に渦巻いており、彼はいまだに顔を上げられない。
「あの、フローラさん?」
「あ、はい?」
「えと……」
「何ですの?」
「赦してもらえ……」
「ません」
 フローラは笑顔でそう、きっぱりと答えた……。

**

 赤い月の夜は出歩いてはいけない。それがルラフェンの街のルール。
 その一つの理由が、ルラフェンでは満月の日近くになるとルビス正教会の人々がポートセルミで講習を受けるためだ。
 もし、大怪我をしたり、毒や魔物の呪を受けたとして、それを癒す手立てが一時的になくなるため、皆満月の日には出歩かない。
 とはいえもともと自活のできる街でもあり、外へ出る人も少ないためか、最近では子供のしつけのためにお化けが出ると様変わりしていた。

 だが……。

 その日、リョカはなかなか寝付けなかった。一番の理由はガロンの遠吠え。空に浮かぶ赤い満月に興奮したのか、彼はしきりに吼えていた。
「う~ん、おかしいな……。いつもはこんなに遠吠えなんかしないのに……。リョカ、ガロンさんの散歩行ってきて……」
 ベッドの上で丸くなるシドレーが瞼を擦りながら言う。
「うん。しょうがないね。これじゃあ皆に迷惑だし……」
 リョカはしょうがなく起き上がると、旅人の服に着替え、用心のために鎖帷子を上から羽織る。新調した鋼の昆を手にした。
 もっとも、地獄の殺し屋とされるキラーパンサーに牙を向く命知らずも少ないけれど。
「あれ、シドレーは?」
「鳥目だから夜は無理……」
「そう、それじゃあ……」
 リョカはシドレーに手を振り、一人宿を出た。

「行くよ、ガロン……」
「ふがぁご……」
 リョカの姿にガロンがぴょんと飛んでくる。リョカの腰に擦り寄ると背中に乗るようにしゃがみ込む。
「どうしたの? いったい……」
 リョカは不思議に思いながらガロンに跨ると、ガロンは大地を蹴って、早々に風になった……。

続く

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