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ルラフェン その8

 ルラフェンの街を飛び出したガロンとリョカ。
 風を切る速度に追いつける魔物など居らず、リョカは帽子が飛ばされないようにしっかりと掴む。
「一体どこへ行くんだい? ガロン……」
 鬣を撫でながらガロンに尋ねるリョカ。
 途中ガロンは何度か立ち止まり、何かを探るかのように鼻を鳴らして、そしてまた走り出す。
 荒野を走り、小高い丘を駆け、滝を越えて一路、西へ……。
 そして見えてきたのは泥の小鬼達と、その中心で光を放つ何か……。
「あれは!?」
 一層スピードを出すガロンに、リョカは深く掴まる。そして、スモールグールの一人目掛けて不意打ちの脳天割り!
「ぎゃごえ!」
 リョカの一撃に泥の小鬼は見るも無残に砂に帰る。
「バギマ!」
 そして誰かを囲む集団を蹴散らすべく、真空の刃が放たれる。
 ベネットのところでの修行が功を成したのか、鋭さを増した真空刃はスモールグールの身体を真っ二つにしては、その砂を吹き飛ばす。
「バギマ! バギマ!」
 修行のおかげか、連発をするもそれに耐えるだけの余裕が備わっており、包囲の一角を崩す。
「大丈夫ですか!?」
 リョカは中心に居た人物に駆け寄り、守るように立つ。
「ええ、あ、リョカさん」
「フローラさん? なんでこんなところに?」
 なんと魔物に襲われていたのは、あのフローラ。何故ここにいるのかもそうだが、彼女レベルの魔法使い、いや魔道士と呼べる存在がどうしてこんな小鬼達に遅れを取るのかわからない。
「すみません、パペットマンに魔力を四散させられて……」
「パペットマン?」
 よくみるとスモールグールに紛れていくつか木の人形が居り、不思議な踊りで精霊達を追い払っていた。
 これではいくらフローラが精霊を使役しようとも、凝集させる頃には霧散してしまう。さらに威力こそ弱いものの、分裂を繰り返し無限に増えると噂されるスモールグールに囲まれ、ジリ貧になるだろう。
「ガロン、フローラさんを乗せて走れるかい?」
 リョカの問いかけにガロンは唸り、魔物達を睨む。先ほど壊した包囲網もすでに修復が完了しており、フローラの放つ中級火炎魔法も協力して小鬼達がブロックする。
 そして徐々に包囲網を狭めてくる。
 西国の不思議な敵。殴った手ごたえをみれば、それがそれほど脅威なものではない。けれど、集団をなすことで魔法、物理を無力化するその戦い方には舌を巻く。
「リョカさん、私がベギラゴンを貯めますから、その間……」
「いや、四方からの攻撃となると、大技を放つのは無意味だ。せめてシドレーが居てくれたらいいんだけど……」
 迫り来るスモールグールを昆でなぎ払うも、分断されたところから小ぶりな二体に分かれる。それを繰り返せばいつかは無力化できるかもしれないが、こそこそと逃げ去っていったそれは頃合を見計らって合体する。行動不可能になるまで分散させるには真空魔法や爆発魔法を使用するのが効果的に見えるが、不思議な踊りのせいでそれもできない。
「何か……そうですわ……。近くに湖があります。そこならコーラルレインで……」
 スモールグールが砂の魔物ならば、おおよそ弱点は水だろう。比較的近くに湖があり、その規模ならばたとえ不思議な踊りでも精霊達を四散させることはできない。
 だが、そうはさせまいと見事に立ちふさがれ、万事休すに見える。
「コーラルレイン……? そうだ……!」
 リョカは着ていた鎖帷子を脱ぐと、縦に長く引き裂き、パペットマン達に投げる。
 パペットマン達は鎖帷子が絡みつき、不思議な踊りが踊れなくなる。だが、包囲網自体はどんどん狭くなり、突破できるようにも見えない。しかし、リョカはある印を組み始め……、
「大空を翔る奔放なる精霊達よ、その気まぐれな瞳を濡らせ……、ラナリオン!」
 ルラフェンを訪れて成り行きで覚えてしまった例の天候魔法、雨雲を呼び寄せるとされるラナリオン。リョカの呼びかけに白い精霊達が集まりだし、その上空に黒い雲を造り、赤い月を隠す。
 そして、しとしと霧雨が舞い始める。
 その霧のせいでスモールグール達は動きが鈍くなりだし、パペットマン達の間接がきぃきぃと高い音を立てて軋み始める。
「よし! いまだ、フローラさん!」
「うふふふふ……、よくもやってくれましたわね、小鬼さん達……。おかげでヅルトン親方に編んでいただいたケープが砂だらけ……。サラボナの青きサファイア、知識の守人にして稀代の魔道士のわたくしにこのような辱め……、いかにして雪いでくれましょうか……?」
 ふつふつと怒りのオーラを纏うフローラに、魔物だけでなくリョカもガロンも退いてしまう。
 不意に左手を掲げると、青い光を放ち、周囲にぱらつく小雨を徐々に大粒のものへと変えていき……。
「水妖マールよ、うちに秘めた情熱を艶やかに舞え……メイルシュトロム……」
 静かな詠唱の後、ふわっと風が彼女を中心に波状的に吹き、小鬼や木偶人形を怯ませる。そして、次の瞬間、まるで大時化がごとく嵐が巻き起こり、魔物達に水の柱で閉じ込める。
「ぎぎぎぃ~!」
「きしきしきしきし……」
 激しい雨にさらされ、徐々に身体が崩れていくスモールグール達。水が体内にしみこみ、重さで膝を着くパペットマン。
「ほほほほほ……、どう? 挑む相手を間違えたのではなくて? でも後悔しても遅いですわ……。私の怒り、この程度では収まりませんの……!」
 さらに右手を掲げ、交差させるフローラ。締めなのだろうか、雨粒の大きさ、嵐の勢いが大きくなりだす。
「もう十分だよ。フローラさん」
 リョカは彼女の手を取ると、小波魔法とも呼ばれるマホトーンを唱える。リョカの技術程度では彼女の魔法を四散させることはできないが、それが弱くなるのはみえる。

 その隙に動けるスモールグールはパペットマンを担いで逃げ出す。
「邪魔をしないでリョカさん、今いいところなの……」
 自らの操る高位魔法の威力に酔いしれるフローラは、きりきり舞いになるパペットマンや、身体が崩れていくスモールグールを前にして興奮気味にリョカを睨む。
 だが、リョカはそれに動じず、天候の精霊達を解く。次第に雨足は薄まり、それにつられて水の精霊も勢いを殺がれ、次第に散り散りに消えていく。
「なっ! せっかく魔法を試すいい機会でしたのに……」
「フローラ!」
 興奮冷めやらぬ彼女をぴしゃりとしかりつけるリョカの怒声。フローラはきょとんとした様子で彼を見上げる。
「フローラさん……。貴女の魔法がすばらしいのはよくわかっている。けど、それで徒に傷付けるのは、良くないことだと思うんだ」
 リョカは地面に散らばった木片を拾い上げ、癒しの精霊を呼び寄せる。彼らは木片を持ち主であろう木偶のもとへと運び去っていく。
「たとえ物質生命の魔物でも、感情はある。きっとフローラさんに怯えていたと思うよ」
「当然ですわ。私のことをここまで……」
「身を守るために力を使うのは悪いことじゃない。僕だってこれまでにいくつもの魔物の命を奪ってきたし、それは否定できない。けど、脅威が去ったのなら、もうそこで終わりにしないといけない」
「ですけど……」
「それに、ベネットさんは言ってました。請われるままに魔法を詠唱するのでは、どちらが使役されているかわからないって……」
「私はちゃんと……使役していましたわ……」
「精霊はね……。でも、冷静で居られた? 違うよね。昔、僕がデボラさんを危険な目に遭わせたとき、それと一緒さ。自分ではできると思って過信して、そして無用な結果を招く……。フローラさんのケープ、汚れちゃったけど、だからといってここに住む小鬼達を八つ裂きにしたかったの?」
「それは……」
 スモールグールは砂を纏った悪戯な精霊が正体。もちろん集団となれば人を害することもあり、油断はできない。ただ、本来は自分達の縄張りで泥遊びを作っては仲間を増やす程度であり、それはパペットマン達も似たようなもの。キラーパンサーや山賊ウルフなどに比べれば有害さも劣る。
 リョカはケープの砂を軽く払い、「ね?」と微笑みかける。
 彼女も自身の行動を省み、その穏やかな微笑みに頬を赤く染めて恥じ入る。
「すみません……」
「んーん。フローラさんだって怖かったと思うし、仕方ないよ。でも、もし今度魔物達が戦意を失って逃げたとしたら、それを追ってはいけないよ」
「はい。かわいそうですからね……」
「ええと、それだけじゃないんですけど……」
 リョカの真意としては、手負いの魔物が凶暴化してキャラバンを襲うということを心配してのこと。
 また、人間に手ひどくやられた魔物は、酷く憎むことがあり、特殊な魔物の場合、呪となってやってくることもある。それは特に物質系や悪魔系に多い。
 ただ、この大魔道士の卵からすれば、確かに「可哀想」なのかもしれないと、リョカは変に納得してしまう。
「で、一体どうしてこんなところに? 今みたいのは特別としても、フローラさんの格好だと、ここら辺は歩き難いでしょ?」
 街で再会したときとは別の青のワンピース。肌寒さをカバーするためのケープに意味深な宝石の散りばめられたサンダルのみ。足元は露で湿っており、ところどころ緑の線が入ってしまっている。
「それは……」
「ガロンに乗ってください。街まで送ります」
「いや……」
「フローラさん、わがままを言わないで……」
「お願いですの。あと少しでいいの。西に、行って欲しいのです……」
「西に? 何かあるんですか?」
「はい……」
「それは一体?」
「それは……。聞かないでください……」
 こんな夜遅くにわざわざ街のはずれの遠いところまで来るのなら、何か理由があるのだろう。それに加えて短い付き合いながら彼女が意外と頑固なのは知っている。それが才能故なのか、お金持ちの子女なのかは別として、リョカは頷くことにした。
「わかりました。けど、もし危なくなったら、たとえどんなことがあっても引き返しますからね? それと……」
 先頭を切って西に向かうリョカにフローラは手を叩いて喜ぶ。
「いい加減、おとといのことを赦してくれませんか?」
「さぁ……。どうしましょうかね~」
 フローラはようやくくすりと笑うと、ガロンの背中に腰掛けた……。

続く

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