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ルラフェン その9

 ルラフェン西にある海岸沿いの平地。ここにはある不思議な草が生育するという。
 そして、それは神話の時代が神話になる頃から封じられた、ある魔法に必要とされるのであった……。

 赤い月が天の真上に来た頃、ようやく優しげな、静かな淡い金色で大地を照らし始めた。
 そして、それに応えるかのように、草むらに一輪、不思議な草が青白い光を放って空を向いていた……。
 二人と一匹は草原の中ほどで光を放つ、不思議な草を見つめていた。
 よく目を凝らすと、あまり例を見ない精霊らしき光がたゆたっており、それが異質なものであるとわかる。
「これが、ルラムーン草……」
「フローラさん、知ってるの?」
「ええ……。私が妖精の村で借りてきた古代の魔道書にあった、魔法の草ですわ……。本当に目にすることができるなんて、光栄の至りですわ……」
 うっとりとした様子でそれを見つめるフローラ。嬉々と目を輝かせる彼女はまだ幼い少女の瞳であり、先ほどまでの高圧的な魔法使いの面影などない。
 むしろリョカには彼女の横顔こそが神秘的に見え、自然と唾を飲み込んでいた。
「この花を……」
 フローラはハンカチを取り出し、そっと手折る。そして薔薇に似た花びらから香るように息を吸うと、そっと口に傾け、雫を飲む。
「ん……」
 上質のワインを味わうかのように目を瞑り、すぅっと鼻で呼吸をすると、軽く息を吐く。
「これで私も……」
 見たところ何も代わっていない様子だが、次第に彼女の足元に精霊が集まり始め、だんだんと身体を上り始める。
「え? あっ……」
 それはどうやら彼女の魔力を吸い上げているらしく、フローラは眠そうに瞼を半分閉じ、眩暈を起こしたようにふらつき始める。
「危ない!」
 リョカは咄嗟に彼女を抱きかかえる。
「へ、平気ですわ……。ただ、ちょっと精霊さんを集めすぎたみたいで……」
 その間もどんどんとフローラの身体から魔力が放出されつつあり、いくら魔力の高い彼女とて、それはかなりの負担となりえるだろう。
「どういうことなんだい? フローラさんの魔力が……」
「時の精霊はルラムーン草の雫が大好きですの。だからそれを横取りした私に怒ってるのですわ。代わりに魔力を奪おうって……」
 弱々しい笑顔の彼女は、こんなときでも魔法と精霊の研究に余念が無いらしく、それがリョカの怒りを誘う。
「フローラさん、こんなことをしてはいけない……。自分を危険に曝すような実験なんて赦せないよ。僕は君を危険な目に遭わせる為にここまでつれてきたわけじゃないんだ」
「ごめんなさい。けれど、どうしても知りたかったのですわ……。あの時、あの光を集めた魔法を……」
 彼女の言う魔法が何を示すのかいまひとつピンとこないリョカだが、その衰弱振りを見るに、何か手立てがないのか焦りが募る。
 魔法のことならベネットを頼るのが一番だが、今からへ戻るのでは、時間がかかりすぎる。魔力が枯渇しそうならばそれを補えばよいのだが、魔法の聖水や祈りの指輪のような魔具の類も無い。
 このままでは昏倒しかねない状況で、フローラの瞼がすっと閉じる。
「フローラ!」
 光の精霊達はその間も彼女の身体を這い上がり、そして口へと移動する。
「この精霊達が居なくなれば……」
 もし自分がパペットマンなら不思議な踊りでも踊ればよいのだろうか? 魔封魔法で四散させようにも、精霊ごとに四散させるための印が異なり、禁魔法を多く司る時の精霊の印などは一般的な魔道書に記載されるはずもない。
 悩むリョカは彼女を見る。すると、彼女の唇から零れ落ちる雫に光は集まっているのがみえた。
「そうだ……」
 時の精霊達がルラムーン草の雫を求めるというのなら、一つだけ方法がある。それは……。
 リョカはフローラの顎にそっと指で持ち上げ、唇を重ねる。
 彼女のあいたままの唇に舌を差し入れ、品が無いと思いつつ、ずじゅっと唾液を吸い上げる。
 これはあくまでも緊急的な措置。そう頭ではわかっているものの、先ほど見た神秘的な横顔と、屈託なく笑う少女の微笑みを思うと、軽い眩暈が訪れる。
 それはきっと時の精霊の仕業と偽りつつ、リョカは彼女の唇を吸った。
「んちゅ……ちゅ……ずじゅつつ……んふぅ……」
 次第に時の精霊が自分にもまとわりつき始める。そして、身体に沸き起こる倦怠感。かなりの魔力を奪うらしく、リョカも気を失わないように気を張る。
「んぅ……」
 負担が減ったせいか、フローラの瞼がかすかに動き、そしてかっと開かれる。
「ん、リョカさん、なにを……んぅ……ちゅ……はむ……」
「だまって、フローラ……」
 リョカは疲労のせいか、それとも彼女を見つめることが辛いのか、重い瞼に抗わずに彼女を見つめる。
「だって、あ……んちゅ……」
 そっと差し出される手はリョカの胸元に添えられ、弱々しくも抗うかのように動く。けれど、舌先が何度か触れ合ったあと、彼を頼るかのように爪を立てた。
「ん……んぅふ……ちゅ……ちゅ……」
「ちゅ……んふ……ちゅっちゅ……」
 乾いた唇同士の探りあいから粘着質な混ざり合いに変わるころ、互いに目を閉じ、ただ唇だけで互いを求めていた……。

「んふ……はぁはぁ……」
 リョカが薄目を開けた頃には時の精霊も四散しており、キスの理由もなくなっていた。けれど、その柔らかさに未練を感じるリョカはもう一度フローラの顎に手を掛け、そして強引に求めた。
「ん……」
 緊急性を失ったキスに頑なに閉じられるフローラの唇。けれど、舌先の逢瀬を望むのは彼だけではない。
「ちゅ……」
 舌先が軽く触れ合ったとき、フローラはそっと顎を引き、リョカの頬を叩いた……。
「フローラ?」
「わたくし、初めてでしたの……」
「ごめん……」
 俯くフローラにリョカは愚かにも繰り返す。
「ゴメンなんて……いわないでください……」
 そしてフローラも……。

 青い月を背にし、帰路につく二人。ガロンに乗るフローラと、その手を取るリョカ。
 彼女の手には急激にしおれていく白い花があり、それが茶色くしなびた頃、そっと草原に放った。
 彼女の一夜の煩いもまた、その花のごとく……。

**

 フローラがサラボナに戻ると決めたのは、あくる日の朝のことだった。
 話によると、海辺の修道院での花嫁修業を終えた女性達を送る陸商隊が近く来ているらしく、フローラもそれに便乗して帰るとのこと。
 リョカはせめて近くまで送ると申し出たが、まだ修行の途中だからと断られた。
 その時の他人行儀なフローラの微笑みが、リョカの心に涼しい風を吹かせた……。

続く

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