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サラボナの洞窟 その2

 サラボ山脈を潜る洞窟は、かつてポートセルミに現れた大怪獣が、サラボナへ向かう途中に山脈の岩盤を踏み砕いて出来た谷であった。
 それを東への道筋に利用するうちに、雨風により劣化を防ぐためにサラボナの民が新たに屋根を構えた。
 ようするに人工の洞窟で、現在はポートセルミとサラボナを結ぶ大動脈となっている。
 かつてポートセルミに恐怖を撒き散らした大怪獣も、足跡がそんなふうに使われるとは想ってもいなかったであろう。
 薄暗くなる頃にはドラキーやリントブルムがねぐらに利用することもあるが、魔物と人間が衝突することも少ない安全な道であった。

 道なりに進むリョカ一行。明かりは洞窟脇に枯れ捨てられていた枝を束ねた即席の松明。あまり火の付きがよくないので、シドレーがたまに火を吹きかけていた。
「おもったよりへっちゃらだな」
「そうだね。魔物も静かだし」
 彼らを怖がるように避けるドラキーや、シンとするリントブルム。リョカ達も徒に彼らを刺激せず、ずんずん進む。
 固い岩盤が強い圧力でしっかりと固められているおかげで歩きやすく、中腹と書かれた看板まであっという間であった。
「な、ちょっと早いけど飯にしよか?」
「うん。ここら辺は広いし、邪魔にならないかな?」
「こんな時間に通るやつなんておらんやろ? 居ても山賊か俺らみたいなアホぐらいやて」
「あはは……」
 アホな一行は休憩の準備を始める。脂身の塩漬けを鉄板の枠に三切れ乗せ、シドレーの炎で軽くあぶる。溶け出した脂を固く焼かれたパンにしみこませ、脂身を乗せて二人分にする。シドレーはそれを受け取ると、「贅沢はいえんわな」と食べていた。
 リョカはガロンには骨付き肉の干物を与えてふと思う。魔物、特に分類は魔獣とされるガロンは獰猛な動物と同じく肉食である。対して翼竜であるシドレーは自分と同じものを食べること。不思議といえば不思議であり、一方で雀も雑食であることを思い、そういうものかと頷いてしまう。
「どったの?」
 そんな思いが顔に出たのか、シドレーは不思議そうに聞いてくる。
「あ、いや、別に……。ね、君ってなんでも食べるんだなって思って……」
「ん? ああ、そうやなぁ……。ま、マッドプラントの蔦だけは食べたくないけどな」
「へぇ、どうして?」
「あれを食べると暫く笑いが止まらなくなって困るんや。前にお前と別れたとき、空腹のあまりちょいと拝借してな……」
「はは、それはそれは……」
 マッドプラントは植物の魔物であり、葉音がけらけらと笑い声のように聞こえるのが特徴だ。似た植物の魔物には甘い実をつけるデビルプラントが居り、そちらは果実を狙ってやってきたモノを捕食するというもの。たまに市場にも出回り、高値で取引されている。
「ふう、食後に一杯お茶でも欲しいんやけど、洞窟やししゃーないな」
「うん」
 やはり不思議なのは、お茶も飲むこと。
 動物や魔物にもお酒を好むモノは多い。特に猿や人型で乱暴な魔物はアルコールを好む傾向にある。
 また、魔物の中にもお茶や煙草などの嗜好品を口にするものは居る。けれどそれは精霊の好むものを習慣付けることで魔法効果を高めることが目的であり、「好きだから」というのはごく稀である。
 しかし、目の前のシドレーは、そのような高尚な存在とも荒くれモノとも思えず、リョカと同年代ぐらいの青年の嗜好。時にお酒を飲み、お茶を飲み、食べ物に注文をつける。魔物や動物というのとは、ちょっと違う感じだった。
「どったの?」
「いや、そういえばサラボナのほうのお茶は美味しいって聞いてたからさ……」
「そうだな。あっちのほうはやっぱり貴族が多いからな。ま、なんとかカンタ式ドリップ珈琲に比べたらそうでもないんやない? コクというか、甘味が違うからな。香りの」
「へぇ、シドレーは色々知ってるね」
「まな」
 フンと鼻息を慣らして威張るシドレーだが、リョカとしては彼が珈琲を飲むことに驚いていた。
「さて、行くか」
 貧しい食事を終えたところで鞄を直すシドレー。リョカも頷き立ち上がる。すると、
「ぐるるる……」
 低く唸りを上げるガロン。魔物だろうか? 来た道を睨み、威嚇をしていた。
「魔物かい? ガロン……」
 明かりが見えた。それも一つや二つではなく、集団で。
「人? にしては……ぶっそうな……」
 炎が反射して光が見えた。抜き身の槍の穂先だ。
「おいおい、物騒すぎやで……」
 先頭を行くものが足を速める。続くものもソレに倣う。それはリョカが彼らを視認したのをきっかけとしたものだ。
「な、なんだろう……」
 荷物を取るリョカは、彼らをやり過ごすか、それとも先に行くか迷う。しかし、その逡巡の隙に彼らはリョカ達の居る中腹へとやってくる。
「あ、あの……」
 ローブ姿の一段はリョカ達を囲むようにすると、抜き身の獲物を控える様子もなく、包囲する。
「がぁああ!!」
 そんな時、ガロンがローブ姿の一人に襲い掛かった。
「ガロン、ダメだ。人を襲っては!」
 脳裏に浮かぶ過去の記憶。一度は同じ魔物使いと語り合うことで暗闇に光を見たが、もしここで人を襲うようでは、それは再び……。
「はぁ!!」
 ごおおおっと唸る炎。ローブ姿の一向に燃え盛る火炎を放つシドレー。
「ちょっと君まで! 相手は人間……」
「いや、ちゃうで、こいつら人間やない。つか、ヤバイ類の奴らだ!」
 シドレーはさらに氷の息を吐きかける。
 奇襲を仕掛けるはずがカウンターにあったローブ姿の一行は一旦怯むも、倒れた味方を踏みながら槍を突き出してくる。
「なっ!」
 リョカは持っていた昆を地面に突き立てると、そのままひらりとジャンプしてそれをかわす。
 リョカの驚きは、彼らが自分達に刃を向けたこともさることながら、まだ動く味方を踏みつけながら攻撃に移ったこと。
「あ、貴方達は何を! というか、味方を踏んでまで……」
 リョカの困惑というか怒りの声に、ローブ姿の一団は無表情を貫く。
「くっ!」
 剣を振るってきた一人に、昆を二つ折りにして片方で受け止め、もう片方で頭を掠めるようにして威嚇する。その一人は怯む様子もなく、コメカミの辺りで昆を受け止める。
「え!?」
 普通の人間、魔物でも頭部は急所が多い。そこを打たれて怯まないのは、むしろ怯めない状態である場合が多く、それはいわゆる……。
「リビングデッド?」
 ローブが風に揺れたときに見えたそいつの顔には、生気がなかった。

続く

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