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サラボナの洞窟 その3

「お前は鼻が悪いからわからないやろうけど、ガロンさんには臭くてたまらんと思うで? こいつらの死臭」
 ごおっと炎を吐くシドレー。燃えあがることで怯むわけではないが、筋肉が硬くなることで動けなくなる。
「シドレーはわかるの?」
 リョカは遅いくるリビングデッドの間接を強く打ち抜くことで歩けなくする。
「俺は無理」
 この手の死霊的な存在を相手にするのは、普通の魔物と同じにしてはいけない。
 死体に潜む悪質な存在をニフラムなどの魔法で退けないかぎり、何度倒してもきりがない。
「そう。でもどうしてわかったの?」
「俺の中に眠る正義の血潮が教えてくれたのよん」
 どちらかというとせこい小悪党な彼に首を傾げつつ、振るわれる槍や剣を交わす。ここでされるがままに殺されるいわれもない。そして敵は元人に巣くう魔物。
「やぁ!」
 力任せになぎ払い、集団の足を止める。
 一体ずつの力はしれたもの。けれど、休みなく向かってくる彼らには、さすがに体力を削られてしまうのは目に見えている。せめて彼らの目的がわかれば、対処のしようもあるのだが?
 リョカが後ずさりをし、荷物を置いたときのことだった。数人を除いてリビングデッドが荷物へと向かいだす。
「え?」
 突然のことに対応が遅れるリョカ。剣を受身で防御しつつ、その成り行きを見る。
 まさかリビングデッドの目的はシドレーが買った鉱物なのだろうか? そんなことを考えていたとき、荷物から例の剣が奪われる。
「テ、ンクウ……ケン……」
 例の寒々しい力を放つ剣を掲げるローブ姿のリビングデッドたち。
「それは!」
 パパスの残した剣こそが彼らの目的らしく、剣を抱えた一体がのそのそと来た道を戻る。
「だめだ! それは渡せない!」
 リョカは目の前の一体を蹴り飛ばし、立ちふさがる一体を蹴散らす。
「く、どけ!」
 しかし、圧倒的物量と、倒れたリビングデッドも抵抗を続けるせいで思うように進めない。
「それは父さんの!」
 シドレーが追うも槍に突かれ上手くとべず、ガロンも痛みや怪我を恐れずスクラムを組む死体の壁に阻まれる。
「くそ……、それは……」
 リョカはそれでも抵抗を続ける。剣を持つ一体の歩はそれほど早くないが、リョカが進むのはもっと遅い。ナメクジが牛の歩を眺めるかのような遅々として進めない状況に悔しさが募る。
「ふん、なにごとかと思えば、なんだこの群れは……」
 来た道のほうから何かが走る。それは剣に撒きつき、力任せに奪い取る。
 リビングデッドは呻くような音を発しながら剣を追うが、白刃に八つ裂きにされる。
「これは貴様らのものではないだろうに。力ずくで奪うとは感心せんな……」
 明かりに照らされるのは、青い髪の男性で、さきほどリョカが肩をぶつけた人だった。
「おいそこの。この死体共を振り払うぞ。この剣が目的とあれば、追ってくるだろう。ここは人の行く場所だ。死者はおとなしくガイアに抱かれて眠ってもらう」
「あ、はい!」
 リョカは頷くと、彼の為に道を作ろうとリビングデッドの群れを蹴散らす。
「よし、走るぞ!」
 青い髪の男性は剣をリョカに返すと、そのまま走る。
 リョカもガロンとシドレーを促し、その場を後にする。
 なだらかな道のおかげと、あらかたなぎ倒したおかげか、追いすがる者はすぐに見えなくなった……。

**

 洞窟を抜け出たところで、彼らを出迎えるのは欠け始めた月明かり。
 肩で息をするリョカと、ぺたりとへたり込む男性。リョカほどは体力がないらしい。
「はぁはぁ……ぜいぜい……ふ、ふむ、なんとか……はぁはぁ……なったようだな……」
「ええ、おかげで助かりました。あの、僕はリョカ、リョカ・ハイヴァニアと申します。大したお礼も出来ませんけど……」
 薬草と気付けクスリを取り出すリョカだが、男性はそれを制す。
「いや、いい。俺はアイツらが嫌いなんでね……」
 ニヒルに笑い格好つけようとする男性だが、まだ疲れているらしく、ぜいぜいと息が荒い。
「そういえば、あれは一体……」
「ああ、あのローブは光の教団のものだ。あの趣味の悪い紫は二度と忘れられない」
「光? 光の教団……」
 光の教団という言葉にリョカの顔が険しくなる。
 かつて父を奪い、自分と親友を奴隷に落とし、さらには東の国に圧政を強いた黒幕。
 気持ちの上では正面きって叩きたいのだが、街に溶け込む彼らは一つの宗教として確立されている。どちらがお尋ね者になりかねないことを出来るほど、リョカもバカではない。
「あ、あの、せめてお名前は……」
「名前? 名前か……ヅムじゃ格好悪いな……」
「バカ」
 呆れた様子で呟く赤い髪の女性は、息もほとんど上がっていない。
「うむ、俺はインディだ。親しいヤツは俺をインディと呼ぶ」
「インディさんですか。ありがとうございました……」
「初耳なんですけどね……」
 親しいであろう赤い髪の女性は呟きながらそっぽを向く。こちらはあまりリョカに興味が無いらしく、視線を合わせることもない。
「それじゃあ俺は旅を急ぐ。また機会があったらどこかで会おう。さらばだ、リョカよ!」
 たからかに別れの言葉を語るインディだが、まだ膝が笑っているらしく、立てそうにない。
「……な、リョカ……」
 それを悟ったシドレーはそっとリョカの袖を引っ張る。
「何? シドレー」
「行ってあげなさい。それが礼儀や……」
「う、うん。それじゃあよい旅を……」
 何度かお辞儀に振り返るリョカ。しかしインディは暫く立ち上がらず、ぜいぜいと息を切らしていた……。

++

 リョカの姿が見えなくなったところで、ようやく立ち上がれたインディ。ふらふらするのを赤い髪の女性は支えてあげ、ついでに額の汗を拭う。
 悪戯な水の精霊が役割を終えると、青い髪は緑に代わり、赤い髪はピンクへと変わる。そして特徴的な耳がショートヘアからはみ出る。
「アルベルトの次はインディ? 今度はどこのお話から持ってきたの? というかヅム・ヘンソーはどうしたの?」
 先の宿屋で記帳したときはそんな偽名を書いていた。けれど、新たに思いついた偽名に満足しているらしいインディはにやりと笑う。
「ふふ、冒険野郎で鞭を使うといったらインディしかないだろう? エマ、お前も俺を呼ぶときはインディと呼ぶがいい。親しいヤツは皆そう呼ぶ」
「はいはい、インディインディ……これで満足かしら?」
 呆れた様子で呟く彼女だが、親しいヤツという言葉と、そう呼べという言葉に頬がゆるくなる。それは放浪にある王子の知らないところ。


続く

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