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水の試練 その3

 その夜、村の外れの一軒屋ではいつもより大きく明かりが灯っていた。
 周りの戦々恐々とした雰囲気にそぐわないのは、来訪者のおかげだろう。
「で、アンディさんがフローラさんと結婚するために鍵を? リョカはそのお手伝いをしてるのね? あーよかった。リョカがフローラさんのお婿さんになろうとしていたのかと思ったわ……」
 料理を運ぶ彼女は安堵の声を上げていた。
「よしてよビアンカ。僕じゃフローラさんと住む世界が違いすぎるよ」
「でも不釣合いとはいわないんですね?」
「え!?」
 スープを行儀良くスプーンで掬いながらアンディは彼を見る。
「そういうつもりじゃ……」
「ええ。もし君が相手では僕も分が悪いですから」
「もう。アンディさん。リョカをからかわないであげてください。この人、素直というか騙されやすい人だから……」
「純真な方ですからね」
 ようやく笑うアンディに、リョカは自分がまたも騙されたことにむっとする。けれど、すぐに微笑みに変わるのは、傍に彼女がいるおかげだ。
「となると、この鍵が役に立つのかしら? この前ルドマンさんの使いの人が指輪の捜索の前に鍵を預けてくれたんですけど……」
 ビアンカは食器棚から鍵を持ち出してくる。それはまだ新しい真鍮製のものだった。
「これが?」
 リョカはそれを手に取る。
「ええ。欲しい人に「条件」をつけて渡してくれればいいって……」
「そうですか。なら、ビアンカさん、僕にそれをお譲りください」
「ええ、構いませんけど……」
「良かった。なら、何か条件を……」
「条件? 別にそんなものは……。元々私のものでもありませんし……」
 丁寧な口調のアンディにビアンカは慌てて両手を振る。けれどアンディは面を上げずに条件を求める。
「ん~、金髪姉ちゃん、ここは一つなんか条件だしたりーな。つか、タダでなんかくれるんやし、適当な金目のもんもらえばいいんじゃない?」
 シドレーは手近な骨付き肉を齧ると、一つを窓から放る。
「金目ねぇ……。じゃあ……」
 ビアンカは少し考えたあと、リョカをそっと見ていたずらっぽく微笑む。そして……、
「鍵の代わりに……リョカをもらおうかしら?」
「ぶわっ!」
「うぇ!」
「へぇ……」
 ビアンカの突然の提案に、リョカとシドレーは噴出し、アンディは楽しそうにリョカと彼女を見る。
「おいおいおい、こいつは取引の道具じゃないんやで? それにリョカの意思ってのもあってだなぁ……。ほら、親父さんの……」
 言いかけて言葉を濁すシドレー。パパスのことはあまり口にすべきでないと、声にしてから飲み込む。けれど当のリョカはそれどころではないらしく、喉に詰まったパンに水を飲んだり胸を叩いたりと忙しい。
「ビアンカさんのような器量よしの女性を一人にさせておくなんて、リョカさんも大概ですね? ここは一つ、責任を取ってみてはいかがですか?」
「か、からかわないでくださいよ」
 じろりとアンディを見るリョカだが、彼はいたって真面目な表情であり、それはビアンカも同じだ。
「ビアンカ、僕は父さんの遺言で母さんを探しているんだ。手がかりみたいなものはない。見つかるあてもない。けれど、暫くはそうしたい。それがせめてもの親孝行だと思う。それはけっして楽なものじゃないし、君を巻き込むことはできない。だから……」
「ふっ、ふふ……あっはは……もう、リョカったら本気にして……。冗談よ、冗談。私だって父さんと母さんのお墓を守る必要があるもの。だからこの村から離れることはできないの」
「もう、ビアンカまで……」
 リョカはまたもからかわれたことに眉を顰めていた。
「じゃあアンディさん、私の出す条件は貴方達二人と一匹、一翼、無事に戻ってくること。それでどうですか?」
「なるほど、それは良い条件ですね。僕とてむざむざリョカさんを危険に曝すつもりはありません。その条件で鍵をお受けいたしましょう」
「ええ、お願いね」
 ビアンカは真鍮製の鍵をアンディに渡すと、グラスを手に取る。
「それじゃあ改めて、皆の冒険が上手くいきますように、乾杯」
「「乾杯」」
 掲げられたグラスがカチャリと音を立てた……。

**

 翌日、リョカ達は月の岩戸を目指していた。
 話によると近海は魔物も多いらしい。そこで近くまでは陸路を行き、近くで折りたたみのカヌーで近づく予定となった。その都合でガロンはビアンカの下でお留守番。
 張り切るアンディは先頭を行き、寝不足なリョカは目を赤くしながら続く。
 シドレーはそんな彼らを見て「空を飛べるって楽やな」とのんきに呟いていた。

 二日目の夜、洞窟の入り口が見えた頃、焚き火の番をしながらリョカは物思いに耽っていた。
 ビアンカのこと。父のこと。母のこと。これからのこと。
 どうするのが正解なのか? はたして正解とは何か? 自分はどうしたいのか? 後悔しない方法は?
 ぐるぐる巡る思考の渦に、またも寝不足になりかねないと心配になる。明日は肝心の洞窟攻略だというのにも関わらずだ。
「眠れないんですか?」
 そんな折、寝袋に包まれたアンディが声をかける。
「ええ、すみません。明日は洞窟攻略だっていうのにこれじゃあ迷惑ですよね。今から眠るんで……」
「わかりますよ。その気持ち。好きな人がいて、その人が目的と相反する。悩まないほうがおかしいです」
「はは……はは……わかりますか」
「顔を見ればだいたいは……」
「僕ってそんなに顔にでやすいですか?」
「いえ、フローラから少し聞いていましたし、それに商売柄、人の心を読むくらいはできます」
「ああ、そういえば僕は騙されたのに、アンディさんはひっかかりませんからね……」
 鍵の一件で入手こそ出来なかったものの、サクラや村人に騙されることが無かったのは彼を含めて数人だろう。
「リョカさんはもう少し人を疑ったほうがいいかもしれませんが……」
「はい、気をつけます……。あ、でも……」
 ふと思いついたのはフローラのこと。いくら彼でも彼女には欺かれているのではないか? そんな悪戯心がわいてくる。
「フローラさんのほうはどうなんですか?」
「フローラか……。彼女はとても素直な子だよ」
「素直?」
 彼もやはり騙されているのだろうと思うと、何かやり返せた気持ちがわいてくるから不思議だ。
「僕はフローラの嘘がすぐにわかるからね……」
「え!?」
 しかし、続く言葉はリョカの想像を覆すもの。
「うん。例えばリョカさん、彼女と何かあったんですよね」
「え? えと……」
「彼女は僕に旅先であった知り合いの用心棒と言っていた。そういえば昔、船で一緒になったとも言っていた。でも、そうじゃない。なぜなら彼女は意識的に君を見ないから」
「え、え……」
「何もないならそうはしない。僕に言えず、君を意識したくないことがあった。そう考えるのが自然かな?」
「は……はい……」
 笑顔の彼はまっすぐにリョカを見抜く。もし単純な力比べなら負けるはずはない。ここまでの旅路、何度か魔物に遭遇し、それを撃退してきたが、アンディは魔法、剣術、それなりにこなしていた。もっとも、あくまでも「それなりに強い」であり、リョカからすれば「礼儀正しい戦い方」でしかない。
 だが、こうした所作から心を見抜く力、とりわけ知恵を使う戦いとなればすぐさま白旗を揚げるほかにない。そして一番の辛いところは、フローラとの月夜のキスのこと。
 正直に話す必要もないが、自分の所作次第で見抜かれかねないと背筋が寒くなる。もし彼が済ませたとしても、フローラがどう出るかわからないからだ。
「なんか言い方が脅迫じみてしまったね。ただ、僕は彼女が秘密にしたいこともあると知っている。だからそれは詮索しないよ。リョカさんも意識する必要はないさ」
「はい……」
「そう畏まらないで……」
 アンディはいつもの笑顔に戻ると、視線をリョカから丸くなるシドレーに向かわせる。
「そういえば彼、一体何者なんだろうね?」
「シドレーは魔物というか人に近いような……」
 本当のところ、シドレー自体知らないらしく、また気にも留めていない事柄だ。それを商人であるアンディがどう見定めるかは、興味があった。
「人……。僕には彼がもっと別の存在に見える」
「まさか、竜の神様とか?」
「それは言い過ぎ。彼は多分、エルフやホビットに近いかな? 種族が違う。魔物や人間ではない、別の種族……。僕ら人間以上の知恵や力をもった存在」
 それはリョカも感じていることだ。炎や氷、有毒ガスや魔法、さらには人語を語る彼なのだ。
「兄弟が居て、大人ぶりたい末っ子……、または集団の中で一番年少だった」
「末っ子? シドレーは面倒見が意外にいいから、お兄さんとかじゃなくて?」
 末っ子という言葉にリョカは驚いてしまう。彼の審査眼を疑うわけではないが、あまりイメージしていない言葉がでたせいだ。
「多分、「お兄さんからそうされたこと」があるから「他の人にそうしている」ってとこだね。子ども扱い、年下扱いされる子って自分より下に見た相手に横柄になったり面倒を見ようとしたりするもんだから」
 リョカはアンディの考察に思わず頷いてしまう。それは彼が騙されやすいことを差し引いてのこと。おそらくフローラとの付き合いと商売柄身についた特技なのだろう。
「なるほど……。そういえばシドレー、僕のこと坊主って呼ぶし」
 ぱちっと火花が跳ねる。若い枝に火が灯り始めた。火の勢いは小さく、ゆっくりとしたものになったところでリョカは石でそれを囲む。こうすることで簡易の暖炉となるのだ。周囲に燃える物も無しと、リョカも横になる。
「それでは良い夢を……」
「ええ、お休み……」
 住む世界こそ違えど同年代の人と話せたせいか心も休まり、リョカは自然と瞼が重くなる。しばしビアンカと今後のことを忘れることが出来たのも、要因かもしれない。

続く

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