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水の試練 閑話

 長蛇の列に並ぶこと三時間、苛立つエマを宥めながらヘンリーは周囲を見ていた。
 丘の上に立つ豪邸。ルドマン・ゴルドスミスがハルマと結婚するのを機に建てたそうだ。
 四方を壁と鋭い槍のような格子で囲われ、高い観葉植物が等間隔で植えられている。
 庭は噴水があり、近くに水路が走らされていた。サラボナは下水道が完備されているおかげで可能なのだろう。
 その造りは一見豪華な成金趣味にも見えたが、周囲を見渡すことができ、逆に内側を見せない守りに徹した造りでもある。
 特に不自然なのは邸内へ続くレンガ造りの道。正面の道は自然だが、裏口の使用人が通るであろう道までレンガを敷いていたのが不自然だった。
「……金持ちというのは誰も似たような発想をするのだろうか?」
「どうかしたの?」
「いや? なんでもない。さて、俺の番か……」
 邸内から出てきたメイドに促され、ヘンリーとエマは向かった……。

++

「旦那様、続いてのお客様です」
 ノックの後に扉が開く。応接間に通された新たな求婚者をちらりと見る。
「ふむ、インディさんは冒険家というわけですか……」
 先に提出した書類を元に、ルドマンは眉を顰めた。
 今回の求婚劇ではいくらも風来坊の類がいたが、今目の前にしているインディというのは、とりわけ胡散臭かった。
 振る舞い、喋り方は問題ないが、いささか体格に難がある。
 今回の求婚劇は何も自分の後継者を決めるわけではない。もしそれならラーズ商会のアンディで決まりだろう。商才、人柄において十分の素質を持ち、ルドマンもそれを認めている。もし、名誉市民の枷が無ければ、彼にするつもりだったのだ。
「七つの海を駆け抜ける冒険家、それが俺だ」
「バカ……」
 この独特というか、変に自分を作ろうとする言い方も様になっておらず、詐欺師というようにも見えない。
「ふむ、冒険家となると、このサラボナを長くはなれるというわけかな?」
「そうだな。一つのところに留まっていられる器ではないからな」
「となると、名誉市民の資格に違反するのだが、そこら辺は理解しておられるか?」
「ん? 何故俺が名誉市民になるのだ?」
「ん? いや、フローラの夫になるということはそういうことだが……」
「夫! ちょっとヘン……、いえ、インディ、それってどういうこと!?」
 すると今度は隣の女性が声を裏返す。
「いや、知らないな。そもそもフローラというのは……、ルドマン殿の娘さんでよいのかな? 私は別に……」
 隣の女性の気勢に圧され、インディはたじろぎ地を出してしまう。その様子からどこかの坊ちゃん貴族だろうとあたりをつける。問題は、何故そんな彼がこの求婚劇の場にいるのかということ。それも女性連れで。
「ふむ、インディさん。どうやら貴方は今回のことに特に興味がないご様子ですね。おい、お客様がお帰りだ……」
 ルドマンが手を叩くと、控えていたメイドが顔を出す。その口元にはクリームがついており、もごもごと口をさせていた。
「まったく……」
 ルドマンは額を叩きながら、さっさと連れ出すように手振りで示す。
「お……? すまない、ルドマン殿……、アレは……どうしてここにあるのだ?」
 出口へ促される際、インディは部屋の奥に飾られた剣を指差す。
「我が友人であるリョカ・ハイヴァニアの持ち物のはずだが?」
「ん? リョカ? ああ、あの剣を知っているのか?」
 リョカの名前を聞き、ルドマンは顔を上げる。インディはメイドをつまみ食いに戻すと、扉を閉める。
「ここへ来る途中、リョカが剣を奪われそうになった。それを助けたわけだが、前の持ち主であるパパス・グランバニアについても少々……」
 ことさら強調するグランバニアという言葉に、ルドマンは真剣な表情で彼を見る。
「聞けばルドマン殿は伝説の勇者の武具を集めているというではないか? わた……俺も冒険の途中、そういった宝物の話は聞く。もし良かったら力になるが?」
 インディはソファに戻ると深く腰を下ろす。
「ほう、そこまで知っているとはな……。冒険家というのは嘘でもないようじゃな」
「七つの海を駆け抜けているんでね」
「ふ……。そうだな。今は少しでも情報が欲しい。もし君が旅先で勇者の装備を見つけたら一報くれ。報奨金を出そう」
「ふむ……」
「うむ……」
「ほう」
「うむ」
 しばらく続く沈黙に、女性は二人を交互に見る。
 ルドマンはまっすぐインディを見ていた。彼が情報を引き出そうとしているのは明らか。力になると提案しているも、何か裏がある。それが見えない限り、たとえ好条件であろうと首を縦にするわけにはいかないのだ。
「なるほど、情報は欲しいがくれるつもりは無いというわけか。ま、それもいい。ただ、一つだけ忠告しておく。その剣を狙っている奴らがいる。それは光の教団だ」
 わかったとばかりに両手をあげて降参するインディが新たな情報を出してきた。
「光……? あの新興宗教が?」
 光の教団の名前は各国から情報を吸い上げる上で聞くことがある。まだサラボナの街にまでその手を伸ばしてはいないが、ルビス教会と暗に対立しているらしく、敬虔なルビス信徒といえないルドマンも良い気はしない。
「ああ。証拠は示せないが確信している。ルドマン殿が警戒を怠るとは思えないが、奴らに利する行為だけは防ぎたい」
「無料と見せかけて敵を想定させる……か。一介の冒険野郎にしてはえげつない。くくく……」
 一方的な取引を完成させられてしまったことにルドマンは久しぶりに気味の悪い笑い方をしてしまう。大きな商売をまとめた時など決まって地が出てしまい、周囲に気味悪がられるので、普段は一人個室で使用人、娘、妻にすら見せない。だが目の前の若い男を前に堪える気になれなかった。
「お互い様だ……。あ、そうだな、そのリョカだが、今は?」
 とはいえインディもまだまだ若い。友人を語るときだけは、警戒に足らない存在になってしまう。そのおかげか、腹の中で暴れる悪い虫も治まってくれた。
「ああ、リョカ君なら剣を届けた後、リング探しへ向かったよ」
「リング? アイツ、名誉市民になるつもりか?」
「いや、別の求婚者の手助けらしい。惜しいが、彼にも目的があり、この街に留まることができないそうだからな」
「そうか……なるほど……、情報の対価としていただいておこう……。それでは失礼した……」
 インディはそういうと扉をばっと開く。驚いたメイドはつまみ食いしていたシュークリームに咽ながら、彼らを出口へと導く。
「ふむ、君も中々見所があるのだが、残念だな……」
 その後姿を見つめつつ、メイドの減給について真剣に考え始めるルドマンがいた。

続く

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