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水の試練 その4

 月の岩戸、大きな滝の向こうに見える分厚い門。
 シドレーが滝の脇をすり抜け、施錠を解く。リョカとアンディは折りたたみカヌーを抱えながら岩場伝いに行けるところまで目指す。背後で施錠を終えたシドレーが来るのを待って、カヌーでの進行に切り替えた。
 カヌーを交代で漕ぐことしばし、浅瀬が見えたところで折りたたむ。入り口の砂場にはいくつかの足跡があり、先達者を予想させた。
 奥からは水の流れる音が聞こえ、すぐそばでもいくつか湧き水が噴出していた。
 アンディが松明に火をつける。明かりの差し込む洞窟ないをさらに照らす松明は眩しいくらい。
「アンディさん? 明かりはなくても」
 旅暮らしの長いリョカは節約癖もあり、そう告げる。
「いや、よく見えるようにしておいたほうがいい。僕ならそうするから……」
 アンディはそう言うと腰から剣を抜き、何もないと思われる場所に振り下ろす。するとプツっと音がして、続いて壁から火が噴出す。
「え!?」
 炎の勢いはそれほどではなく、しばらく経つとおさまった。
 壁を調べてみると魔道士の杖がいくつか束になっており、先端のルビーが役目を終えたらしく割れていた。
「先に来た人が仕掛けた罠です。おそらく他にもあると思いますから気を抜かないように……」
「なるほど……」
 これまでの魔物討伐、護衛や運搬などでは起こりえなかった妨害工作。オラクルベリーで名うての用心棒とされていながら、まだまだ冒険者として未熟だと思い至る。
「さ、行きましょう」
 とはいえ、今はそれを反省している場合ではないと、アンディに続いた。

++

 道中、罠はいくらも仕掛けられていた。
 不自然に重ねられた小岩を蹴れば風刃が舞い、壁に手を着けば凍り着くほどの冷気が襲う。他にも見にくい場所に縄をかけていたり、蛇を放っていたりと様々だ。
「ここまでするんだ……」
「ええ、ライバルは一人でも減らしておいたほうがいいですからね。ひとまず休憩をしましょう。気を張り詰めすぎては疲労を重ねるばかりです。それでは罠にかかっているのと同義ですから」
 アンディはそう言うと岩場に座り、滝から水を汲む。
「そうですね……」
 リョカは鋼の昆で蛇の頭を潰すと、そこいらを流れる滝で洗い、ナイフで引き裂く。荷物から二本の鉄のクシを取り出して突き刺す。簡単な詠唱をすると、閃光魔法でそれをあぶる。
「リョカさん、それは?」
「え? ああ、この蛇は毒ありませんから。あぶると美味しいですよ」
「あ、食べるんですか……」
 ワイルドなリョカの動作に上流階級なアンディは目を丸くする。
「わかるで。最初は皆驚くし」
 シドレーも同意しつつ、真空魔法で一匹を切り裂くと、同じように滝で洗い、串にさす。生木に炎を放つと、ちりちりと炙る。
「ま、食ってみれば旨いで。俺のもっとる秘伝のタレをつければ蒲焼みたいになるし」
 そう言うとたすきがけの鞄から瓶を取り出し、それを掛ける。するとふわっと香ばしい匂いが漂い始める。
「へぇ、確かにイイ匂いがしますね」
 空腹を刺激する香りにアンディはごくりとツバを飲む。それが品の無い行為であるのはわかっているが、彼らを前に気遣う必要もなく、彼らもまた気にする様子もない。
「どうぞ。長丁場になるかもしれませんし、体力をつけておいたほうがいいです」
「ありがとうございます」
 リョカの差し出す蛇の開き焼きを受け取り、齧り付く。ふっくらとした肉とあまじょっぱいタレに二口、三口と続く。
「なかなか美味しいですね、これ……」
「ふふん。タレのおかげやな。ラインハットの焼き鳥屋から作り方を盗んだのよん」
「ああ、なんか懐かしいと思ったらそうだったんだ……はぐはぐ」
「ま、俺の遊んでた町の蒲焼のほうが旨いけどな。ただ、何の肉かわからんところが怖かったけどな」
「へぇ、シドレーさんは色んな町を知っているんですね」
「ん~、なんつうか記憶喪失? 断片的には思い出して来てるんやけど」
「記憶喪失……、それはまた難儀な……。でも、その喋り方は方言か何かでしょう? 聞いたことがないので力にはなれませんが……」
「ああ、この喋り方は俺が遊んでた町の喋り方やな。本当はお前らと同じ標準語で喋れるで?」
「へぇ……。でもその町っていうのは? オラクルベリーじゃないよね?」
「あんな立派な町やないで。もっと小汚い町やったな。汚いカジノでスロットやってたっけ。他にもなんかヤバイ店で物々交換したりな」
「それはそれは……聞かなかったことにしましょう」
 アンディは商売柄「ヤバイ物」が取引の目録に並ぶこともある。堅気な父はそういった取引には慎重であり、よっぽどのことが無い限り手をつけない。もっともシドレーのいう「ヤバイ」程度はたかが知れている。話をあわせてあげるのが彼のプライドをくすぐるのに丁度よいだろうし。
「しかし、その名誉市民ってのはそんなにすごいんかい? なんかよくわからんわ」
 お湯と茶葉を混ぜた即席のお茶を飲みながらシドレーが呟く。それほどの義理の無い彼からすれば、詳しい理由くらいは聞きたいのだろう。
「サラボナを巨悪から守るための存在。平たく言えばそうなります。今、ルドマンさんは経済力を誇ることで他国を圧倒しています。まさに商人の鑑です」
「あのおっさんがねぇ……。んでも、リョカじゃいくら指輪手に入れても無理やね?」
 にやにやと笑うシドレーにリョカはむっとしつつもそれに頷いていた。
「そうだね。僕は経済のことなんてからっきしだし……」
「でも、伝承によれば巨大な怪物を倒すことを目的とした存在ですし、リョカさんほど腕の立つ人ならあるいは? そうなれば十分なライバルですよ」
「よしてくださいよ……。あ、もしかしてそのためにルドマンさんは不思議な武器を?」
「武器?」
「ええ、ルドマンさんのお宅に不思議な兜がありましたよね? 重くて人が被ることができない不思議な兜」
「ああ、あの白と緑の……。僕も被ることはできませんでしたが、アレを知っているんですか?」
「知っているも何も、父さんがアレと同じ剣を持っていました。今はルドマンさんに預けましたけど……」
「あれは伝説によれば勇者のみが装備できる不思議な武具らしくって、ルドマンさんが広く探しているそうです。おそらくは伝承の魔物に対抗するためにと……」
「ああ、なるほど。そういうわけだったんですか……」
 彼の中でも合点がいったらしく、深く頷いていた。すると今度はアンディの中で疑問がわいてくる。
 この旅人風情の青年の素性について。
 ハイヴァニアという名前から東国のさらに東のグランバニアの出自とわかる。先代の王が国政そっちのけで妻を捜しに出た、ラインハット国王、チップを暗殺したなどと噂ばかり先行する発展途上国。食料、高級食材を何度か取引したこともあるが、内情は不明瞭。
 そこの出身であろう彼が持っていた不思議な剣。それはルドマンが探していたものでもあるらしい。
 膂力も魔法も旅の経験も全て上。やや世間知らずなところもあるが、鍵の入手は彼の手柄。おまけに地獄の殺し屋を従え、不思議な道連れ人もいる。もし彼が正面からこの求婚劇に参加していたら、水のリングなど直ぐに探し当てていただろう。どうせ篩いに過ぎないのだから。
「君が敵でなくてよかった……」
 ふと漏らす本音にリョカは「そんなことは」と笑っていた……。

続く

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