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水の試練 その5

 侘しいというべきか、野生的な食事を終えたリョカ達は、洞窟の奥へと進んでいった。
「なぁ、水のリングだっけ? それって本当に奥にあるんかい?」
 天井から滴る水滴が年月を掛けてこしらえた鍾乳石は、最初こそ新鮮に見えたものの空を行くシドレーにとって障害でしかない。仕方なしに地べたを行く彼は、引きずる尾を気にしていた。
「だってよ、ここに隠してあるっていっても、どこにとは言ってないだろ? ほら、あのおっさんのことだからイジワルくして、入り口に隠してあったりとか……」
「それは大丈夫です。水のリングは最奥で作っていますから」
 シドレーの疑問にアンディは平然と答える。
「知ってるん?」
 彼のその「知っている」という様子にぴくりと眉が動く。
 彼がフローラと親しいことは前提であり、それはルドマンも同じだと薄々気付いている。となると、彼は事前にリングのありかを教えてもらっているのかも。そんな考えが過ぎった。
「ええ。水のリング……、試練に使うのはあくまでもレプリカです。最深部に生息するキラーシェルから取れる真珠で作るんですよ」
「あ、なーるほど……。となると、もしかしてそれ、取り放題?」
「まさか。素人が手を出したらザキでイチコロですよ。専門家がいるんです。だから盗もうなんてできませんよ」
 キラーシェルはホタテに似た水棲の魔物。死の呪文であるザキを使用することから沿岸部を旅する人には恐れられている。ただ、キラーシェルの作る真珠はあやこ貝の作るものと比べて大きく、また紫の光沢を持つ。それは彼らの死の香りを漂わせる不吉な色合いを示すが、上流階級では好む者も多い。
「へぇ、魔物を養殖するんだ……。それって魔物使いみたいなものですか?」
「分類的には近いですけど、酪農家のほうがたとえとして正しいですね。世話をして、代わりに見返りを得る。そういう関係ですし」
「ふぅん」
 思っていたこととちょっと違うらしく、リョカは斜め上を見上げる。
 するとヒタリと冷たい、粘つく臭い液が滴ってきた。
「罠!?」
 リョカはさっと翻すと、昆を構える。アンディ、シドレーもそれに応じて上を見る。
 上には紫色のぐにゃぐにゃした謎の塊が蠢いており、気付かれたことでどさりと落ちてくる。
「げ、ガスダンゴ……」
 シドレーはその紫のぐにゃぐにゃを見て嫌そうに呟く。それは明らかに敵意を持っており、紫の霧を噴出しながらだんだんと近づいてくる。
「リョカ、コイツはあんまり刺激を与えちゃいかん。叩くとガスを噴出しやがる。待ってろ、俺が炎で焼いてまうから……」
 シドレーは胸いっぱいに空気を吸う。そして吐き出そうとした。
「きーきー!」
 その機先を制すかのように上から鋭い一撃がお見舞いされる。
「リントブルム?」
 翼手目の魔物、リントブルム。広げれば大人を横にしてもまだ幅のある両翼を羽ばたかせ、長い首をうねうね動かし、三人を威嚇する。
 リョカは右手に風の精霊を集めると、無詠唱で横に凪ぐ。鋭い風の刃はリントブルムの体勢を崩すに十分であり、よろめいたところに鋭い一撃を加える。
「ぎー!」
 肩口に強い一撃を受けたリントブルムはそのまま地面に叩きつけられる。シドレーは邪魔者がいなくなったことで胸につかえている炎をガスダンゴ目掛けて一気に吐き出す。
「ぶもももぉおお!」
 大火に怯えるガスダンゴはその勢いに圧され、滝のほうへと逃げる。
「がはは、俺様無敵!」
 偉ぶるシドレーだが、その頬に風の刃が投げられる。
「うおっと!」
 リントブルムの巻き起こした風刃に、シドレーの黄金色の鱗が傷付く。
「うえ、まだ動けるん?」
 リョカが手加減したのかと眼差しを向けるシドレー。しかし、リョカはそのつもりがないらしく、再び昆を構える。
「リョカさん、待って……あれ」
「え?」
 控えていたアンディがリントブルムの後ろにいる赤い魔物を指差す。
「あれは……ブラウニー……じゃない、ベホマスライム……」
「くそ、あいつが回復させてたんか……まあええ。いっしょに炙って……」
 シドレーが再び炎を準備したとき、周囲がわらわらと蠢きだす。
「え?」
 どこからともなく赤いゲル状の胴体に無数の触手をつけたベホマスライムが現れる。その数はぱっと見ても十を越える。
「げ、これを相手にしろっての?」
 ためしに石ころを投げるリョカ。当たった一体は痛がり、そのまま後ろに逃げる。すると別の一体が回復魔法を唱える。
 噂によれば彼らベホマスライムは無限の魔力を内に秘めているらしい。
「あかん、いくら雑魚でもこの数で延々回復されたら俺らがばてる……」
「うん……。じゃあシドレー、昔つかったあれできる? 目を瞑るから……」
「ん? ああ、あれな……よし、二人とも目をつぶっとれ」
 シドレーの声にリョカは目を瞑り、さらに手で覆う。アンディもそれに倣う。
「ジゴフラッシュ!」
 次の瞬間、シドレーの体が強い白い光を放つ。瞼を閉じて、さらに腕で防いでもその隙間から忍び込む光。数秒程度とはいえ、視界が残光で眩んでしまう魔法。幼いリョカ達を救った思い出の魔法だ。
「よっしゃ、走れ!」
 シドレーの声に目を開ける。ベホマスライム達は強い光に眩暈を起こしたらしく、ふらふら浮遊しながらぶつかり合う。
 リョカも残光に瞬きしながらシドレーを追った。

++

 洞窟の奥が白く光った。
 ヘンリーは落とし穴で転んだエマに手を差し伸べながら、それを見た。
「なんだ? 今の光は……」
「いたた……。んもう、誰よこんなところに穴なんて……」
「ふん。あからさまに色の違う土を踏むお前が悪い。まったく、とろい戦士も居たものだな」
 差し伸べられた手を強く掴みながら、エマは立ち上がる。
「だって今は戦時中じゃないでしょ! 落とし穴なんて掘られてるなんて思わないわよ」
「そうか? ここを行く者達はみんなフローラの心を求めて競いあっているのだ。あながち戦争よりもえげつない気もするぞ」
 若草色のハーフパンツを払いながら、エマはヘンリーを睨む。それは彼にからかわれたことよりも、彼の前でつまらない失態をしたことでの逆恨み。
「それよりあの光、なんだ? レミーラにしては強すぎる」
「ん……。近くにいけば精霊が残ってるだろうしわかるかもしれないけど……」
「そうか。エマ、走れるか?」
 すねの辺りが土で汚れているのを見ていうヘンリーにエマは口を尖らせてそっぽを向く。
「平気よ」
「そうか。よし、いくぞ」
 彼女の同意にヘンリーは颯爽と走り出す。
「あ、待ってよ!」
 エマもそれに続いて走り出す。ただし、今度は土の色をよく見て……。

 二人を待つのは獲物に逃げられてお冠の赤い魔物の大群で……。

続く

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