FC2ブログ

目次一覧はこちら

水の試練 その7

「うわっと、危ねえなこんちくしょう!」
 突然放たれた炎にシドレーは上昇してかわす。
「おい、そこの奴! あたったらどないすん! こっちは人乗っけてるんやで!」
 横穴から見えた女に叫ぶ。しかし、彼女は杖の先から次なる炎の塊を出現させると、再びシドレーに向かって投げつける。
「うお! ったく、こんななりやからしょうがねえけど、もうちょい手加減しろっての。アンディはん、一度着陸するで」
「参ったな。彼女も来ていたのか」
「彼女? 知り合いなん?」
「ええ、サラボナスクールの同期、イレーヌ・バルドー」
「んでも女の子やろ? なして?」
「きっと彼の手助けでしょう」
「彼?」
「ええ」
 滑空しながら螺旋の道へと戻ると、アンディは背中から降りる。その間もイレーヌは攻撃の手を休める様子がなく、別の杖で氷の塊を作り出す。滝の近くということもあり水の精霊の恩恵ゆえ、その塊はかなりのものになる。
「ぐへぇ……、あんなん投げられたらここら辺、崩れるで……つか」
 それが中空で維持できなくなったところで、横穴にずしんと落ちる。
「ほらいわんこっちゃない。実力以上の魔法なんか使うから制御しきれないでやんの」
 魔法の失敗にシドレーは嬉しそうに笑う。けれど、彼女は気にする様子なく続く塊を造り始める。
「まさか入り口を塞ぐつもりか?」
 彼女の目的を理解したときには二つ目の氷の塊が重なっており、さらに三つ目を作り出す。
「うそん! そんなんありかい! ぼやぼやしてんなアンディさん、ほら乗れ!」
「ええ!」
 まだ横穴の天井付近に隙間がある。そこから何とか潜り込めないかと、二人は再び空中へと向かった。

**

 落下するリョカは眼下で積み重なる氷の塊に目を疑う。
 水の精霊が久しぶりに大暴れできることで興奮しているらしく、術者の力量以上の成果を果たしているのが伺えた。
「入り口を塞ぐのか……。なるほど……」
 リョカは昆を壁に突き立てながら減速し、片手で印を組む。
「我が求むるは静寂と安寧の日々、盛りて猛る者達よ、汝らを諌めてやまん……マホトーン」
 リョカの左手から風の精霊が飛び立つと、落ちる砂煙を巻き上げながら氷の塊に纏わりつく。すると、魔力による氷の結合を紐解き始め、ピシリと亀裂が走る。
 マホトーンは本来、対象者に風の精霊を纏わりつかせ精霊を集約させない魔法。その応用として、集約した精霊を追い払うことを可能としていた。かつてベネットがリョカのスカラを解いたのもこの方法である。
「はぁああああ!!」
 その亀裂目掛けて昆の一撃を加えるリョカ。鋼の昆はリョカの腕力と氷の固さで軋むも、亀裂がさらに走り、ごしゃりと砕ける。
「ナイスリョカ!」
 その上空で、シドレーがアンディを乗せて隙間を抜く。準備されていた氷の塊も間に合わず、二人は侵入を果たした。
「うん!」
 リョカも砕いた塊と、さらに転がる氷塊の脇をなんとか通り、二人を追った。

 罠を仕掛けてきたのはきっと彼女だろう。あきらかな妨害に疑う余地はない。
 リョカは横穴を走り、シドレー達に追いつく。
「アンディさん! シドレー!」
「おう!」
 やってきたリョカに気付いたシドレーは彼に手を振る。その前には先ほどの女性がおり、ふてくされた様子でアンディを睨んでいた。
「えっと、この人は?」
「彼女はイレーヌ。僕やフローラの同級生さ」
「はぁ、初めまして、リョカ・ハイヴァニアと申します」
 紹介されたことでリョカはペコりとお辞儀をしてしまい、イレーヌも面食らった様子で「こちらこそ」と儀礼的に返す。
「イレーヌ、彼を勝たせたいのはわかるが、えげつない罠はいただけない。解除してもらえないかい? 僕はリョカさんの助けがあったから平気だけど、皆が皆そうとは限らない」
「しょうがないでしょ。私は彼のほうが貴方より名誉市民、いえ、サラボナにとって必要だと思うんだから。それにあの程度の罠も破れない人には所詮無理よ」
「それはわかる。けど、ナイフに毒を仕掛けたのは看過できないな」
「毒? ちょっとまってよ。私はそこまでしないわ」
 きつい瞳を丸くさせてアンディを見る。けれどすぐその理由がわかったらしく、親指の爪を噛む。
「リベルはこの先に居るね? 彼に問いただしておきたいことが出来たから先にいくけど、君はどうする?」
「どこかの深窓の令嬢よりは強いつもりです。他の参加者が来れないように見張るの。邪魔しないで」
 フンと鼻息を荒げるイレーヌはリョカ達を尻目に下来た道を戻る。
「ったく、はねっかえりの強い女だな」
「ええ。一途といえばそうなるんですが、どうにも歪んでいて……」
 困ったものとばかりにため息をつくアンディは松明を照らすと、奥へと向かった。
「ねぇシドレー。あの子ってアンディさんを好きとかそうなのかな?」
 こそっと問いかけるリョカに、シドレーは驚いてみせる。
「なんでそう思う?」
「だって、この試練をクリアしたらアンディさんはフローラさんと結婚するんだよ。だから、アンディさんが好きだから邪魔するのかなと思って」
「ん? ああ、そういう感じはしないなぁ。つか、さっきアンディ乗っけてた俺に炎の塊投げてきたんすけど。それに好きだからイジワルって年でもないやろし、フローラと結婚して欲しくないってわけでもないだろ? ん~、でも歪んでるって言ってるしなぁ……正直、わからん」
 恋愛事にはシドレーもそれほど詳しいわけではないらしく、また初めて会う人間の機微を悟るにはまだまだ彼も修行不足。そして一番驚かせたのは、リョカがそんな疑問を口にしたから。おそらくはアンディのクセに触発されてのことかもしれないが、彼の成長に感心していた。

 奥へと進むとまた別の水の音がして、さらに光が見えた。
 崩落した一部の壁から差し込む光と、外から聞こえる波の音。もしかしたらそこから出入りできるかもとシドレーが上空の穴から外を覗いてみるも、尖った岩場の織り成す荒い潮流でそれもできそうにない。
 仕方なく道なりに進むと、小屋が見えた。そこには「ヅルトンの第二作業場」と書かれた立て札があった。
「なんか見たことあるな」
「うん」
 リョカは門を叩き、手ごたえのないドアをそっと押す。
 きいと軋みながら開いた先には、めちゃくちゃに荒らされた作業台があり、見覚えのあるホビットがぶつくさいいながら掃除をしていた。
「あの、ヅルトン親方?」
「ん? ああ、求婚者かの? 悪いが水のリングは品切れだ。さっき来た奴が作用台を潰して回りやがった。しかも作業台もこんなにしやがって。何が修理代は後日払うだよ。ったく……」
 小柄な彼は右のほっぺにほくろがあり、これまでに見たドルトン、デルトンとそっくりであった。
「この兄弟、本当は全員一緒なんじゃねえの? ほくろ付け替えて別人言ってるだけでよ」
「あはは……」
 リョカは近くにあった割れた鋼の台を拾い上げる。
「あの、片付け手伝いますか?」
「ん? ああ、まあそれはありがたいが、それよりあんちくしょうをとっちめてやりてえよ」
 ぶりぶり怒りながら片付けをするヅルトンを前に、リョカは近くに散らばった工具の類を一箇所に集める。足の折れたテーブルを一度外に出したりと片付けを手伝い始めた。
「あれ? あの、先ほどさっきと申しましたよね? その犯人は、今どこへ?」
 工具を手にしていたアンディがふと疑問を口にする。ヅルトンは工具を工具箱に入れるように指示した後、思い出したように奥を指差す。
「もしかして奥にはキラーシェルの養殖場所があるとか?」
「ああ。あったな。あそこで採れたのをここで細工してるのさ」
 自慢げに胸を張るヅルトンだが、三人は別のことにぴんとくる。
「ごめんなさい、掃除は後で手伝います!」
 リョカ達は急いで小屋を出ると、さらに奥にあるキラーシェルの養殖場へと走った。

続く

彷徨いし者達~目次へ戻る
トップへ戻る

Trackback

Trackback URL
http://13koharu.blog73.fc2.com/tb.php/651-0c078ee2

Comment

Comment Form
公開設定

プロフィール

小春十三

Author:小春十三
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ

創作検索ぴあすねっとNAVI
dabundoumei
trt
オンライン小説/ネット小説検索・ランキング-HONなび  
リンク予定


二次元世界の調教師様のサイトです。



無料アクセス解析