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水の試練 その8

 海水とルラフェン地方の山脈から流れる養分を含んだ水の混じる場所。
 天敵も少なく、たまに日の差す程度の場所は、甲殻類にとって楽園であった。
 そこを漁場として整備したのは、数代前の名誉市民。その後、ルドマンがキラーシェルの真珠に目をつけてからはサラボナの特産品として取引されるようになり、テルパドールに多く輸出されている。
 その漁場はキラーシェルの危険性ゆえ、専門的な知識を持ったものが「天使のローブ」をまとってのみ入れる決まりとなっている。
 オールバックに整えたグレーの髪。鋭く細い瞳と、真一文字に結んだ唇。やや面長な顔立ちで、見るものに威圧感を与える風貌であった。
 彼はシルバーチェイルの上からピンク色のローブを羽織るという不思議な井出たちで、剣を構えていた。
 そして大きめのキラーシェルを前に鋭く振り下ろす。
 がしゃんと音を立てて割れるキラーシェル。続いて二つ目、三つ目と壊し始める。
 彼の目的は至極単純。他の者が水のリングを手にすることを防ぐためだ。
 本来であればここへ入れるのは死の呪文を防ぐ効果のある天使のローブがなければいけない。本来の持ち主は彼にローブを奪われ、漁場の外で頭を抱えていた。
「俺一人で十分だ」
 彼はキラーシェルを壊し続けていた。

**

 漁場の前で坊主頭を抱えてうろつく男がいた。
「すいません、そこの方! 今、ここに男が来ませんでしたか?」
 一足先にたどり着いたリョカは慌しい息を整えながら、男に声をかける。
「ああ、それが今まさに居るんだよ。ちくしょう! 俺が精魂込めて育てたキラーシェルを……あー! くそ!」
 リョカは男の視線の方向を見る。そこには剣を水面に突き立てる男が居た。紫の霧が彼の周りに漂うが、男は一向に気にしない。
「止めないと!」
 リョカは勇んで出るが、腰に男がしがみつく。
「だめだめ。皆殺気だってるから……。今なんかあそこ紫っぽい霧があるだろ? アレは運命の精霊だよ。ザキが充満してるんだよ。入ったら死んじゃうよ」
「ザキ……」
 扱いの難しい運命の精霊による高等魔法ザキ。生命活動を著しく低下させる魔法であり、気構え無しに受ければ、体力の無い者は命を落とすと言われている。不治の病、重傷者の解放という観点からルビス正教会では高位の神官にのみ教えている。
「けど、このままじゃ……」
「わかるよ。わかるよ。ってか、俺の大切なキラーシェルだもん。あんたらよりずっとわかるさ。けど、そのために死んじゃもっとだめなんだよ」
 男は歯がゆい気持ちに坊主頭をかきむしり、右往左往といった動作を体現していた。
「おーいいたか!」
「ああ、いたけど、これじゃ手が出せない……」
 遅れてやって来た二人に漁場の様子を見せる。
「リベル、バーナードカンパニーの跡取りです。君は本当にえげつない……」
 アンディは彼のことを知っているらしく、目を伏せる。
「なんや、あいつがさっきの女の仲間ってわけ? ったく、ほんま迷惑なやっちゃな……つか、今破壊して回ってるのってあれやろ? 真珠を生んでくれる……あーあ、売りもんが台無しとか……」
 シドレーは小さな指で何かを計算する素振りをすると、額をぺちりと叩く。
「大損やろ」
「大損です」
 男はがっくりとうなだれ、シドレーもその肩をぽんと叩く。大損という現実に、人語を喋る彼がそれほど気にならないらしい。
「……」
 そんな中、アンディはまっすぐリベルを見つめていた。そしておもむろに剣の柄に手をあてる。
「アンディさん?」
「最後の手段か……。スマートじゃないですね、僕も」
「まさか力づくで?」
「ええ。フェンシングなら負けたことがありませんから」
 アンディは勝負を挑むつもりなのだろう。お互い商家の息子であり、どちらも名家にある。決闘という時代じみた行為を行う権利はあるも、それを受けるかは相手の自由。名誉の回復ならともかく、相手の持っている物を奪うために闘うとなれば、それは山賊の類。当然リベルは口頭でそれを拒否するだろう。
「そうだ……」
 アンディの思いをよそに、リョカはあることを思いつく。
「僕に方法があります。ちょっと待っていてください」
「え? ええ」
 待つもなにもリベルが戻ってこないことには何もできないわけであり、アンディは素直に頷く。
「空に漂う日和見な精霊よ、我とともに気ままな道を歩むことを欲す……」
 リョカの周りに白い粉のようなものが漂い始める。
「え?」
「これは?」
「なんじゃらほい?」
 普段あまり見ない精霊の、しかも大量に上から降ってくるそれに、三人は驚きの声を上げる。
 それはリョカの周りを舞い始め、粉雪のようなローブになり、徐々に紫に色を変える。
「まだ足りない」
 さらに印を組み、目を瞑る。
「天候を司るお天気お姉さんラナ、いましばらく我にその太陽の微笑みを……」
 精霊を司る者の名前を告げることは精霊に強くはたらきかけることになる。その分だけ魔力を奪われることに繋がり、リョカの額にうっすらと油汗が浮かび始める。
「うえ、まさかザキ?」
「いや、違うで……。これ、俺は知らん魔法やわ……」
 リョカを覆う紫の霧が濃くなったとき、彼は漁場へと飛び出す。
「おい、リョカ!」
 無茶な行動に出た彼を止めようとして、アンディに尻尾を引っ張られる。
「大丈夫。任せて……」
「やけど!」
 シドレーの心配どおり、紫の死の香りは彼へと漂い始める。それはすぐにリョカの霧を多い尽くしてしまう。
「くそ。なんかないか? 氷で……いやいやリョカごと凍らせるわ。ジゴフラッシュも意味ないし……」
 死の誘惑に纏わりつかれたリョカ。健康な人間でも徐々に生命を奪われるという魔法に、いつまでもつかはわからない。
 しかし、数秒、十秒、数十秒としても彼は倒れず、代わりにザキの霧が薄くなる。
「うえ? なして……」
 その様子に驚くシドレー。それは他の二人も一緒らしい。

続く

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