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水の試練 その8

「リベルさん、漁場を荒らすのを止めるんだ!」
「ん? 誰だ貴様……」
 死の霧の中、特別な防護服もなしにここまでやってこれた人間に、リベルはそれほど驚いた様子もない。それとももともと鉄面皮なだけかはわからないが、リョカを見るもすぐに作業に戻る。
「言って聞かないなら、力づくで参りますよ?」

「……できるか?」
「お見せしましょう」
 リョカは昆を水面に撫でると、水飛沫を立てる。一瞬視界が遮られてもリベルはやはり微動だにしない。隙を突くつもりが当ての外れたリョカは、昆を折りたたみ水底に突きたて、水から抜けるために飛び上がる。
「はっ!」
「まるで軽業師だな」
 リベルはリョカに向き直ると、遠慮なく刃を構えて応じる。
「ふん!」
 紫の霧の内側に青い霧が充満する。そして背中に隠していた刃のブーメランを手に剣と切り結ぶ。
「くっ」
 リョカの上空からの渾身の一撃はブーメランのせいで力が入りきらず、リベルに受け流される。それでも体勢を怯ませる程度の効果はあり、続く二撃、三撃と振りかざす。
 ブーメランには持つ部分とは別に縄をつけており、手放したと見せかけて、紐で弧を描いて手元に即座に戻し、意表をついてリベルをたじろがせる。
「この下郎が! 俺を!」
 サラボナスクールではアンディと共に文武ともに主席候補に挙げられる彼だが、そのおごりに気付いたときには既にリョカのペース。切り返すも、それはあくまでもリョカの打たせるために作った隙に過ぎず、翻す手で突きたてた昆を拾い上げる。
「はい、はい! とぉ!」
 二節の昆は片方で剣を受け、もう片方でリベルを打ちつける。さらにじゃぶじゃぶと立てる水飛沫で彼の纏うローブが水を吸う。比較的軽装備であるものの、時間とともに重くなる装備に、リベルは追い詰められていく。
「ぐ、卑怯な……」
「そちらが先に仕掛けたことでしょう? さ、止めると誓ってください!」
「だれが!」
 突然現れた旅人風情の男の言葉に耳を傾けるほど柔和な性格にないリベルは、まだ諦めずに剣を奮う。しかし、重さ、水温に体力を奪われているらしく、最初の頃より鈍い。
「なら!」
 リョカは折りたたんだ昆で肩口を思い切り突く。
「ぐゎ!」
 鋭い点の痛みに方膝を突くリベル。リョカはまだ自分を睨む彼の顎の先に昆を構える。その表情には疲れが見えるが、戦闘によるものより、魔法を持続させることのための疲労が大きい。
「く……くそぉ……」
 こぶしで水面を叩くリベルは覆りそうに無い現実に剣を捨てる。
「よかった。わかってくれましたね……」
 リョカは彼の肩に回復魔法を施すために近づくが、彼はそれを振り払う。すると次の瞬間、びりりと音がした。
「え?」
 見るとキラーシェルの一匹が彼のローブに噛み付いているのだ。おそらくは同胞をいいように殺されたことでの恨みだろうか? それも一体二体でなく、小さいものがにじりよっているように見えた。
「嘘……、リベルさん、掴まって」
「む、これは……」
 差し出された手にリベルはしっかりと掴まる。しかし、ローブを引っ張るキラーシェルは離そうとしない。
「ラリホーマ!」
 そんな状況に睡眠魔法が飛んでくる。同時にアンディが光を纏いながら駆け出すのが見えた。
「アンディさん、平気なんですか?」
「長くは無理です。ただ、貴方に魔法が届かないならおそらくは平気かと……」
 アンディに纏わりつく紫の霧は逆向きに流れて消える。光の正体はマホカンタによるものだろう。魔法を反射させる鏡を発生させることで、彼もまた死の誘惑を防いでいた。
 ただ、魔法が荒いらしく、反射したそれは術者どころか明後日の方向へと拡散していくのが見えた。彼が慎重になっていたのは、防ぐ方法のない漁場の男やシドレーへ向かうことを恐れてのことだろう。
「リベル、これは大きな貸しですよ?」
 彼のローブに噛み付くシェルを眠らせながら、ゆっくりと引っ張り上げる。それでもぞろぞろとついてくるので、それは強引にリョカが払う。
「よし、岸辺に戻りましょう」
 リベルに肩を貸して走るリョカとアンディ。だが、一際大きいシェルがローブを大きく食い破る。
「ぐ!」
 途端に苦しみだすリベル。ザキの霧が彼へと纏わり着きだしたのだ。
「いけない、急がないと!」
 状況に逼迫した彼らだが、走るにも水に足をとられ、さらに死骸の貝に滑るなど遅々として進めない。
「ふん、俺を……置いていけ」
 憎らしげに言い切る彼だが、息はさらに荒くなる。
「それじゃあ僕が来た意味がないでしょ? イレーヌが待ってますよ」
「俺を待つのは……フローラだ」
「強情な方だ」
 のんきにおどけるも、だんだんと霧が濃くなる。リョカを覆う霧も薄くなり、代わりに彼へとザキの霧が漂いだす。
 リベルだけなら自業自得だが、リョカにいたってはどう解釈したものか? 眠らせるにしても数が大小さまざまであり、マホカンタの持続でそれどころではない。
 ようやく岸辺へと辿り着くと、まずはアンディが先に上がり、リベルを引き上げる。リョカはそれを後ろから押し上げる。
「本当に余計なことを……」
「あんさんも大概やで。ほら、リョカも」
 シドレーは憎まれ口を惜しまない彼を引っ張りながら、続いてリョカを急がせる。
「うん……」
 しかし、魔力の遣い過ぎと死の誘惑に、リョカが膝をつく。
 彼の身体に訪れる倦怠感と疲労、そして暗く狭くなる視界。眠気に似た気持ちが立ち上がろうとする気持ちを挫き、リベルを助けたという達成感がそれを加速させる。
「おい、リョカ!」
 差し出されたアンディの手を掴むことができず、リョカはがっくりと肩を落とす。
「たっく、世話の焼ける男だな。剣を盗まれそうになったら、今度は命を盗まれるのか?」
 するとどこからともなくロープが投げられ、リョカの胴体に結びつく。
「ほら、引っ張れ!」
 背後からの声に振り向く暇も惜しく、シドレー、アンディ、男はリョカを引っ張り上げるためにロープを引っ張る。
「「「うおおお!!!」」」
 三人力を合わせたところで、後ろに二人現われる。
「リョカ、さっさと這い上がれ!」

続く

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「あ、はい……」
 聞き覚えのある声に目を覚ましたリョカは、自分を引き上げようとする力に従って岸へと上がった……。

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