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炎の試練 その1

 水のリング(正式にはレプリカ)を手に入れたリョカ達は、ガロンを迎えに山奥の村へと戻った。
「ただいま、ビアンカ。ガロンもいい子にしてたかい?」
 ドアを開くと彼らに気付いたガロンがやってくる。リョカが赤い鬣を撫でると、喉を鳴らしていた。
 昼食の後片付けをしていたビアンカは、丁度よくお茶の準備をしており、彼らの無事を知るとエプロンの前で手を拭きながら出迎える。
「お帰りなさい、リョカ。アンディさんもご無事で」
「はい。おかげさまで手に入れることが出来ました」
 アンディは懐から小さな箱を取り出し、開けてみせる。そこには小さな真珠を乗せた指輪があった。
「これが水のリング……」
 それは形もいびつで小さく、色も光沢も悪い。ビアンカはかける言葉に迷っている様子。
「ん。本当はもっとでかいのあったんやけどな。アホな兄ちゃんが暴れたおかげでご破算やて……。とほほのほ……」
 なぜか一番消沈しているシドレーは、いじけたようすでガロンの尻尾をひっぱっていた。そんな悪戯にガロンは彼の背中で爪とぎを始めだす。
「アホな兄ちゃん?」
「うん。リベルさんっていうんだけど、真珠の養殖場をちょっとね……」
「ふうん、困った人も居たのね」
 この村での求婚者の騙しあいを見ていたビアンカは、大体のことを察した様子で頷く。
「ほんまやで。危うくリョカ、死に掛けたし……」
 しかし、シドレーの不用意な発言で一瞬にして表情が曇った。
「死に掛けた? ちょっとリョカ、それどういうこと?」
「あ、それはその……別にそういうんじゃないんだ。ただ、その成り行きというか……」
 慌てて弁明するリョカだが、ビアンカは彼の弁明を待たずに歩み寄り、その目を見る。
「リョカ、話しなさい」
「ん……と……」
 アンディは視線をそらし、原因を作ったシドレーは窓から飛び立った後。リョカは仕方なしに覚悟を決めた。



 リベルの無法な振る舞いと、飛び出したリョカの蛮勇。
 どちらも一歩間違えればそのまま命を落としかねない事実に、ビアンカの表情は険しくなる一方。
「本当にすみません。まさかリベルがあんな手に出るなんて思わず……。リョカさんを危険な目に遭わせてしまいまして……」
 神妙な顔つきのアンディにも、ビアンカは不快感を隠そうとしない。彼女にとって、いや村人達にとっても彼らの指輪探しなどよい迷惑でしかないのだ。
「……リョカ、私は約束したわよね? 無事に戻ってくるって……。なのにどうしてそんな危険なことをするの?」
「魔法遮断魔法を使えたから平気だと思って……。それにこうして無事に戻ってきたし……」
「そういう問題じゃありません! もう……。リョカまで居なくなったら、私はどうなるのよ……。魔法だって絶対じゃないんだから……、もっと自分を大切にしてよ」
 怒り心頭のビアンカだが、だんだんと涙声に変わりだし、顔を下に向けるころにはティーカップに波紋が見えた。
 怒っているというよりは悲しんでいる表情のビアンカに、リョカも自分の軽はずみな思いつきを反省する。
 何かを思いついたら即行動に出ることで窮地を脱出したこともあるが、それはそれ、これはこれ。彼女が悲しむ理由は、リョカが危険に飛び込むその姿勢にあるのだから。
「アンディさん、私、申しましたよね? 無事に戻ってくるようにって。でも貴方は、いえ、リョカは約束を破りました。だから、鍵の対価をいただけておりません」
「はい」
「だから、やっぱりリョカをもらいます」
「ビアンカ!」
「リョカは黙っていて……。アンディさん、水のリングの試練をクリアしたということは、次の試練があるんですよね? 炎のリングの試練も水のリングの試練同様に危険と想像します。だから、これ以上リョカを危険な目に遭わせたくないんです。わかってください」
 思いつめた様子のビアンカにアンディは紅茶をすすり、目を瞑る。
「わかりました。リョカさんの戦力を失うのは辛いですが、約束を果たせなかったこちらに非があります」
 アンディはビアンカに深く頭を下げると、今度はリョカに向き直る。
「と、いうわけだからリョカさん。炎のリングの試練は僕一人で参ります。フローラには僕から話しておきますからご安心を……」
「ですけど……」
「ビアンカさん。僕がここにいてはリョカさんの気持ちが揺らいでしまいます。これにて失礼いたします」
 短い付き合いながらリョカの性格を理解してきたアンディは、二人に一礼すると出口に向かう。
「アンディさん!」
 リョカは慌ててそれを止めようとしたが、その手をビアンカにつかまれる。
「待ってリョカ、行かないで……」
「けれど……」
 話に聞けば炎のリングは死の火山にあるという。マグマの煮えたぎる洞窟を行くとなれば、その危険性は月の岩戸の比ではない。
 もともと部外者でしかないリョカが危険を冒してまで同行する義理も、せいぜいフローラ、アンとの見返りの無い口約束のみ。対して、幼馴染は一人ぼっちの寂しい日々。リョカはその力なき手に留まることを選ぶのも自然なこと。
「アンディさんに解雇されちゃったらしょうがないよね……。はは、用心棒失格だ」
「リョカ……嬉しい……」
 振り返るリョカにビアンカは抱きつく。いつのまにか随分抜かれた背丈。背伸びをしてようやく届く彼は、それを抱きかかえてくれる。彼女にやってきた、久しぶりの幸福な時であった……。

**

「うん。まぁ、しゃーないわな。オレが口滑らしたわけやし……。それに、死の火山やったっけ? 前も言ってたけど、俺一人のほうが返って安心やと思うん。リョカかてフローラはんとの約束破るんは気がひけるやろうし、オレがちょっくらアンディはんの手助けしてくるわ。その間、お前はこの村に居るんやで?」
 夕暮れ時になって様子を見に戻って来たシドレーはそんなことを言っていた。
 二人がのんきに思い出話に浸っていたところをみて、話題がサンタローズの洞窟の話になったところで割り込んできたのだ。なんとも彼らしい、調子のよいやり方であった。
「まったく、君のせいで大変だったんだから」
「なはは。んでも、お前かてここにいたほうがええんと違うん? ビアンカはん一人置いて行くのもあれやろうしな。ま、お前ものんびり今後のことでも考えててな」
 シドレーはそう言うとガロンを名残惜しそうに撫で、空へと飛び去っていった。
「シドレーったら調子良いんだから……」
 彼の飛び立った空を見上げると、数秒で点となり見えなくなる。
「ふふ。でも、良かった……リョカがこうして無事で、ここにいてくれて」
「ビアンカ……」
 寄り添う彼女は手を離してくれそうにない。リョカも汗ばむ手のひらをそのままに、並んで空を見ていた。
 赤く染まる空は徐々に群青へと変わり、次第に星が輝き始める。
 しばしの平穏と幸せに、リョカはこれからのことを考えるのを延期していた……。

続く

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