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炎の試練 その2

 アンディと別れたリョカは山奥の村で過ごしていた。
 シドレーを待つという口実もあるが、久しぶりに会えた幼馴染の厚意に甘えていたい気持ちがそうさせたのだ。
 午前中は彼女の畑仕事を手伝い、昼からはルビス教会で魔法による施術をする。たまに趣味の絵を描いてみたりもしたりと、のんびりとした日々であった。
 村には例の求婚者がやってくる。鍵の情報を求める者、洞窟で怪我をして戻ってくる者と様々。リョカはそんな彼らに真相を告げるも、信じてくれる人は居ない。そして、戻ってきた者は魔法による施術を受けながら「アンタが正しかった」とごちる。
 村での施術はついこないだまで光の教団が担っていた。だが、ホセロの死をきっかけにそれらが休止。現状、病や毒などは薬に頼る日々であった。そのためリョカのもとへと村人が毎日やってきては魔法に頼り、代わりに野菜や肉などを置いていく。
「はい、これで終わりです……」
 リョカはその日の最後の患者である男の子の傷口を回復魔法で塞ぐと、額の汗を拭う。簡単な魔法とはいえ数をこなすとなるとかなりに気力を使う。
「お疲れ様、リョカ」
 そんな彼に、ビアンカがお茶を差し入れる。
「ありがとう、ビアンカ」
「どういたしまして……。でもリョカ、すごいわね。いつのまに魔法がそんなに上達したの?」
「うん、ルラフェンでベネットさんに教えてもらったんだ」
「そう。リョカは色々なところを旅してたのね」
「まあね。でも、どうしてこの村にはルビス教会の人がいないんだい?」
「光の教団がね……」
 言いにくそうなビアンカに、リョカも沈黙したまま視線をさげる。
 この村における教団の地位の高さ。ホセロ前村長が特に肩入れしていたらしく、村人の大半は教団信者であり、村の畑の割り当てなどの取り決めでも差を付けた。
 それらが例の大神殿の建設と、奴隷に消えると考えると、どうにもやるせない。
 患者達の噂によればホセロの死で混乱する中、村の内部でもごたごたがあるらしい。また、最近は信者にお布施を強要することで、村人の間でも反発が強まっていた。
「光の教団か……」
 光の教団の正体を知る彼だが、徒にそれを話すつもりはない。ビアンカに敵愾心を煽って危険な目に遭わせるわけにはいかず、この村でも信者が多いことを理由に飲み込む。
「ええ。でも、またルビス教会の神父様が来るっていうし、そうしたら村の皆も目が覚めるわ」
「そう……」
「そうしたらさ、リョカも神父様のお手伝いとしてここで働いてくれないかな? ほら、今だって村の人達から感謝されてるし……、それに……」
「うん……考えておく」
 リョカは立ち上がると、タオルで顔を拭きながら台所へと向かう。ただ、その心中は穏やかではない。
 このままビアンカとこの村で暮らすのは、父の手紙にある自分の幸せに繋がること。一方、この村を出て母を捜すこともまた父の願い。
 どちらに重きを置くかなど、目の前のビアンカを想えば答えはおのずと出る。たとえアンとの約束が反故にされようと、彼の人生であり、その身の安全には変えられない。
 リョカは今しばらく、この悩みと向き合う必要があった……。

**

 あくる日もリョカは患者達の対応に追われていた。
 その中に一人、病状の重いものが居た。苦しそうに呻く患者は土気色の顔一杯に油汗を浮かべており、吐血をしたらしく口元、胸元に血がついていた。
「リョカさん、息子が例の流行り病にかかっちまったんだ、なんとかならないか!?」
「僕の手には……」
 一目で重症とわかる患者の容態に、リョカは言葉を失った。
「頼む。なんとかしてくれないか……。せめて少しでも楽にさせてやりたいんだ……」
「……わかりました。可能な限り尽くします……」
 リョカの言葉に父親は手を合わせて彼を拝む。とはいえ、リョカも明らかに自分の手に収まらない患者を前に、安請け合いを後悔していた。

 教会の奥、ベッドに患者を寝かせ、回復魔法を施すリョカ。
 ホイミ、キアリー、キアリク、ザメハ……。
 治癒に関わる魔法を唱えるも、患者の容態は変わらない。せいぜいホイミでその体力を回復させる程度であり、それも時間の問題に過ぎない。
 リョカは仕方なくラリホーで眠らせて部屋を出た。

 教会では患者の父がうなだれながらルビス像に祈りを捧げており、出てきた彼の表情に悔しそうに顔を振る。
「ねぇリョカ……。役に立つかわからないけどあの病気……、少し前に流行ったのよ」
 濡れタオルを交換しにきたビアンカがリョカにそっと耳打ちをする。
「流行った? じゃあその時の患者さん達は?」
「光の教団の司祭が治療してくれたのよ」
「光の教団が……? でも、それなら」
 意外な解決方法にリョカは驚いてしまう。あの教団がそんな慈善行為をするはずがないという気持ちがあるせいだ。
「その治療法を施すには光の教団に入信し、ルビス教会と縁を切ることが前提なのよ」
「なるほど……」
 呆気に取られるリョカだが、彼らの本質を考えればそのような脅迫的取引も頷ける。問題は、今この村でその教団が撤退し始めていることだ。彼らに庇護を求めるにせよ、この村を出て行かれてはしようがない。
「でも、直す方法はあるんだよね?」
 そして、一抹の希望にリョカはかける。
「ええ。魔法による治療みたいなんだけど……」
「魔法? 魔法……かぁ……もう一度調べてみよう」
 リョカは再び患者の待つ部屋へと戻った。
「うぅ……ぐぅ……」
 眠りながらも呻く患者を前に、リョカは目を凝らす。すると、うっすらと紫の霧が見えた。
「これは……ザキなのか?」
 その紫の霧に見覚えがあった。キラーシェルの大群が吐き出す紫の霧。運命の精霊がもたらす死の誘惑。けれど、対処法は心得ている。
「天候を司るお天気お姉さんラナ、いましばらく我にその太陽の微笑みを……マホステ」
 リョカの組む印にあわせて天候の白い精霊が舞い降りる。そして手のひらに集まると、紫の霧へと姿を変える。リョカはその手で患者に巣食う運命の精霊を払いのけた。
「うぅ……うぅん……」
 すると患者はようやく目を開く。
「あ、まだ横になっていて……」
 起き上がろうとする患者を制し、ビアンカに白湯を持ってくるように指示する。

 まだふらつくものの自分だけで歩けるまでに回復した患者に、父親はもろ手を挙げて喜んでいた。何度もリョカに頭を下げると、肩を貸して家路に着いた。
 その後ろ姿を見送りながら、思惑通りにことが進んだことでリョカは安堵と疑惑を抱き始める。
 ――ザキが自然発生するはずないし、誰かが掛けたとしか考えられない……。
「ねぇビアンカ、例の新しい神父さんは何時くるの?」
「え? えと、明日のお昼には来るって……」
「そう。じゃあ、大切な話があるから明日一番に出迎えるよ」
「え、ええ。わかったわ……」
 リョカの心の天秤は義憤に後押しされ始めていた。
 自分に出来ること。すべきこと。したいこと。それらの重なりの深いところ。それが彼を動かしていた。
 そんな葛藤が表情に出たのか険しい顔のリョカに、ビアンカもまた無力感を覚えていた。
続く

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