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炎の試練 その4

 家の裏にある小さな十字の墓標。朝、出かける前に訪れては祈りを捧げて畑へ向かうのが彼女の日課。リョカもそれに倣って祈りを捧げていた。
「父さんと母さんのお墓」
「うん」
 これがあるから彼女はこの村を出ることが出来ない。
 そう、彼なら考えているだろう。
「大地に犇く精霊よ、今、その力を見せよ……イオ!」
 ビアンカは簡単な詠唱とともに土の精霊を右人差し指に集める。そして墓標目掛けてそれを放つ。
「イオ! イオ! イオ!」
 リョカが止める暇もなくさらに続く爆発魔法。墓標は最初の一撃で吹き飛び、二度目三度目と土を抉る。
「ビアンカ、一体なにをするんだ! これは君の両親の……」
 リョカは彼女の手を掴むと、それ以上魔法を集められないようにとマホトーンで彼女の手のひらに集まる精霊を散らす。
「ふふ……。違うの。嘘なの……」
「嘘?」
「ほら、見て……」
 空ろに嗤うビアンカに言われ、リョカは振り返る。そこには朽ちかけた箱があり、蓋が割れていた。その隙間から中が覗けるが、想像したものは何もない。ロザリオの錆びた赤に混じる輝きが西日を捉えて反射しているだけだった。
「え? どうして……」
 リョカは驚きながら隣の墓へ駆け寄り、蓋を開ける。やはりそこにはロザリオがあるだけで、木の腐った匂いと土の湿った匂いだけが残っていた。
 ルビス教徒である彼女の両親なら火葬後に海流し、空葬か土葬のいずれになる。この村の立地条件から土葬が主流であることは想像に難くない。けれど、その遺灰も骨の欠片も棺桶に無い。
「どういう……」
 リョカは蓋を閉め、ビアンカに向き直る。
「私ね、光の教徒なんだ」
「え……」
「父さんがね、あの病気に掛かったとき、光の教徒にならないと助けてもらえないって言われたの。だから、入信したの。ええ、確かに父さんは助かったわ。けど、歳だし、病気がちだったし……」
「うん……」
「父さんの葬儀の後ね、光の教団の……ホセロ村長が来て墓を暴いたのがつい最近」
「墓荒らしって……そんなこと……」
 身分の高い人なら一緒に埋葬される装飾品を狙われることもあるだろう。けれど、彼女の両親は普通の人。狙う価値も労力もない。それこそネクロフィリアでもない限り。
「光の教団の教義によると死者もまた教団の財産であり、死してなお教団に尽くすべきですって……」
「そんなの……」
 言いかけてはっとするリョカは、口元を抑えて黙る。
「私が気付いた頃にはお墓は空っぽ。ふふ……、なにこれ? なんでこんなことになったんだろ……」
 ビアンカの嗤いはそのまま涙に代わり、その場に蹲る。
「私、ホセロ村長に言ったの。どうしてこんな酷いことをするんだって……。父さんと母さんの……。せめて一緒に弔ってあげたいだけなのにって……」
「うん……うん」
 リョカは彼女の震える肩に手をかける。
「でも誰も聞いてくれない。誰も助けてくれない。私だけ不幸な目に遭って……いえ、違う。みんなを不幸にしておいて……あの人たちは……」
「ビアンカ、ゴメンよ。君を一人にしておいて……」
 リョカが彼女を胸に抱くと、彼女はその胸板をこぶしを立てる。
「リョカのせいじゃない。リョカのせいじゃないのよ……」
 胸を叩くこぶしなど大したことがない。けれど心の臓に響くものがある。
「リョカ、寂しいよ。お願い一人にしないでよ……。一人にしないで……」
 涙と鼻水でぐちゃぐちゃになったビアンカは、彼を見上げる。
「うん。君を一人にしたくない……」
 それ以上かける言葉も見つからず、その悲しみに触れる代わりに唇を合わせ……。

**

 ――赦せない。
 父を死においやったこと。自分を奴隷に落としたこと。世界に死の魔法を広めること。そして彼女を悲しませたこと。
 夕食を終えて横になった彼だが、怒りに目がさえて眠れそうに無い。隣でビアンカが涙で枕を濡らしているのも理由の一つ。
 ただし、彼女の悲しみは彼のもたらすものでもある。
 せっかく出会えた心のよりどころである自分。それが再び去っていくというのだ。
 ビアンカの不幸を緩和することと、世界に奇病の正体を伝えることなら、後者を選ぶべき。けれど、それはビアンカとリョカの間の正解ではない。
 今はそれを怒りまかせに無視しているが、村を出るならば気持ちの覚悟を決める必要がある。それは彼女にとって絶望を与えることになったとしてもだ。
「……ねぇリョカ……」
「なに?」
 寝返りを打ったビアンカが鼻を啜りながら話しかけてきた。
 泣いたおかげで幾分落ち着いたのか、表情も和らいでいた。
「さっき一つ言い忘れがあったの」
「言い忘れ?」
「あのね、私一人って言ったよね。うん、そうなんだけど、実は、お父さんたちのことでホセロ村長のところに行った時なんだけど、旅人さんが来たの。なんか黒い剣を持っていてね、緑のおっきな竜と一緒だった」
「黒い剣に緑の竜? もしかして銀髪に青い帽子の?」
「うん。そうだった」
「テリーさんだ……。なんでだろ……」
 カボチ村でであった不敵な魔物使いのテリー。考え方に違いのあるリョカは、彼の名前がビアンカの口から出たことが面白くなかった。いわゆる嫉妬でしかないが、リョカはそれを考え方の相違による苛立ちと誤魔化していた。
「多分、あの人だと思う。この村から教団の人を追い出したの……」
 おそらくはこの村どころか世界から追い出してしまったのだろう。そのおかげで教団の活動が鈍り、例の奇病の正体を掴むきっかけを手にした。
 彼ならその程度わけも無いだろう。ただ、自分の目的以外にそれほど興味を持たない彼が、力なき彼女を助け、無法者を裁く面倒をするかといえば疑問がある。そもそも、ここいらに珍しい魔物も居らず、来る理由がわからない。
 ――ホセロさんを殺害したのが魔物だとすれば、彼はそれを追っていたのかな?
「銀髪に輝く髪、剣先から雷を放って切りかかる姿。何度倒されても立ちあがって向かっていったっけ。ああそうそう、すっごく魔法も得意みたいで、片手で印を組んでた。真空魔法の竜巻に氷刃魔法を隠してたり、器用な人だわ。リョカもできる? まるで勇者? それとも魔法戦士? 今思い出してもかっこよかったわ」
 手振りを交えながら語るビアンカに、リョカは面白くない気持ちが強くなる。
「なんだよ、ビアンカ……、もしかして君、その人のこと……」
「え? あはは……。もうリョカったら、妬いてる?」
「そうじゃないよ……ただ、僕は……」
「うふふ、嬉しいな。リョカがやきもち妬いてるんだ」
「だから! んもう……」
 くすくす笑うビアンカを言い負かすことは出来そうにない。リョカはむっとしているだろう自分を省みて寝返りをうつ。
 こういうところはまだまだかつての二人なのかもしれない。
 そんな気持ちが、リョカの勘を鈍らせたのかもしれない……。

続く

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