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炎の試練 その6

 ビアンカは街の外れでガロンの散歩をしていた。
 サラボナは世界から経済都市という認識で知られているが、商売のみの一枚岩ではない。元々大怪獣に狙われていたこともあり、魔物からの襲撃を守るためにと防衛に力が入っている。
 街はやや高い外壁に囲まれており、見張りの兵士が高台で今日も周囲の監視を怠らない。そのせいか、近隣にて旅人が魔物に襲われるという被害も少なく、他の街に比べて安全であった。
 そのおかげか、ビアンカ一人で外を歩くのもそれほど危険ではなく、また散歩に連れ立っているのが地獄の殺し屋ということもあり、そんな彼女を襲うものも居ない。
 外壁を一周したところで一息つくビアンカ。ガロンは陽気に誘われてうとうとと眠りにつく。猫科の魔物のせいか、よく眠るようだった。
 そんなガロンの背中をなでながら、ビアンカは今の自分の状況を整理していた。
 旅に出るということ。リョカの目的が彼の母を捜すこと、父の無念を晴らすこと、そして自分の幸せを見つけること。
 旅の経験はあるものの、旅暮らしの短いビアンカがこれから先彼の足を引っ張らないか心配がある。優しい彼のことだから自分の目的の妨げになろうと、それを顔や態度に出したりできないだろう。
 そんな時、自分はどうしようか?
 ――迷惑かな?
 思い立って道連れになった彼女。サラボナまでの道中で何度か魔物と遭遇し、撃退してきた。それらはほとんどリョカとガロンが蹴散らし、自分は自分に向けられた牙や爪にナイフで威嚇して身を守る程度だった。
 旅でも食事の世話こそ出来たものの、火の番などは彼に任せきり。彼のほうが疲れているだろうに、自分ばかり休んでいた。
 結論が迷惑に辿り着くのは、時間の問題だった。けれど、あの村に戻るつもりも無い。そして、行くあてもない。だから彼女は……。
 ――迷惑、かけちゃおっと……。
 そんな悪戯心を胸にしまっておいた。
「ビアンカさんですよね……」
 それが顔に出ていたところを、誰かに見られていた。
「え、あ、はい……」
 見ると青い髪を二つに結んだ女の子が居た。綺麗な宝石を散りばめられた剣、魔力を秘めたプリーツスカート、緑の外套は風に揺らいで見えたが、どうやら精霊の悪戯のよう。
 旅人の装備にしては圧力のある井出達に、ビアンカのような戦闘の素人ですら気圧された。
「あの、貴女は?」
「私はアンと申します」
「アン? あ、そういえば昔……」
 思い起こすのはサンタローズの洞窟のこと。幼い彼とキスをした彼女なら、今頃このくらいに育っていても良い……? いや、自分やリョカに比べてやや幼い印象があった。あの時は同い年であったのだが……。
「はい、覚えていてくれましたか。あの時は失礼いたしました」
 ペコリと頭を下げる彼女にビアンカも慌ててお辞儀を返す。
「ええと、何か御用ですか?」
「はい、ぶしつけなお願いなのですが、リョカさんにアンディさんのお手伝いをさせていただけないかと……」
「アンディさんの? ええと炎のリングだったかしら? ……ごめんなさい。リョカを危険な目に遭わせたくないの。だから……」
 指輪騒ぎに巻き込まれるのはビアンカにとってメリットがない。いくらそのおかげでリョカに引き合わせてもらえたとしても、それが原因でリョカを失ってはもともこもない。
 ビアンカは怪訝そうな顔つきで彼女を見返す。
「そこをなんとかお願いします。そうじゃないと、あの人が……、あの人は……」
 アンもまた何か理由があるらしく、真剣そのものといった様子。
「ねえアンさん。落ち着いてくれるかしら? その、よく意味がわからないけど、あの人って誰のこと? アンディさんのこと?」
「はい……。アンディのことなんです」
「ええと、貴女はアンディさんの関係者なのよね? 恋人? っていうにはちょっと違うみたいだけど……」
 指輪を手に入れる理由がフローラとの結婚なら、恋人という線はない。親戚にしては髪の色が違い、似ているのはおぼろげな記憶を頼りにして瞳の色ぐらい。
「詳しくは申せませんが、彼は私にとって大切な人なんです……。あ、恋人とかそういうのではなくてですね……」
 慌てて手を振る彼女だが、アンディの名を口にするとき、若干の照れのようなニュアンスがあった。
「う~ん……。でも危険が伴うんだし、それは……」
 たとえどういう理由があるにせよ、リョカを危険に曝すことはしたくない。ビアンカはアンの頼みに頷く気になれなかった。
「おーい!」
 そんな折、地面に黒い点がぽつんと浮かび、だんだんと大きくなって二人の間に近づいてくる。
「よいしょっと……。おやおや、ガロンさんとビアンカはんが居ると思ったらおまえもいたんかい……」
 やってきたのは金色の竜、シドレーであった。
「あらシドレー、貴方アンディさんのお手伝いに行ってたんじゃないの?」
 ビアンカはちょっと驚いた様子で彼を見る。
「うん? それがなぁ、ルドマンはん、水のリングの締め切りを待つんだとさ。ほら、候補者は多いに越したことないやん? もしかしたら参加者全員……」
 余計なことを言いそうになって慌てて口を閉じるシドレー。けれどアンはその続く言葉を予想しているらしく、悲壮な顔つきになる。
「もし炎のリングを手に入れた奴出たとき、知らないで行ったら損やん? それに結構大変やから水のリング入手した奴らも念入りに準備してんのよ」
 腰を捻りながら体操を始める彼はのんきを装いながらちらちらアンを見る。
 以前であったときの明るい喧嘩腰ならまだ彼としても楽なのだろうけれど、今日の彼女はどこか湿っている。
「……ねえアンさん。シドレーが手伝ってくれるって言うし、それでダメかしら?」
 こう見えても彼は竜。皮膚も人間よりずっと頑丈であり、本人曰く炎や吹雪にもそれなりに対応できるらしい。
「多分、シドレーだけじゃ無理」
 きっぱりと言い切るアンに、シドレーはがくっと頭を落とす。
「おいおい、オレをあんま見くびるなよ? こう見えてもドラゴンやで? 竜やで?」
「じゃあシドレー、聞くけど、バスケットボールは得意?」
「は? バスケットボールってあれやろ? ボールをダンダンつきながら籠に放るって奴。あれがなんで?」
「得意?」
「いや、別にそういうのは……。ほら、オレ竜やし……」
 人間と同じく二足歩行ができ、東国の箸も使えるらしいかれだが、いわゆるスポーツが得意かといえば、さすがに体格というか骨格が故に難しいところがある。
「指輪なんて小さいものをさ、もしバスケットボールのボールみたいにパスで回されたら、貴方一人で対応できる?」
「ん……それはまぁ……無理やな……」
「しかも、そいつらは溶岩の中から無限に出てくる……」
 一体どんな魔物が溶岩から沸いてくるのか見当がつかないが、複数の魔物に指輪をボールに見立てられてパスワークされては、いくら彼が強靭な肉体と機動力を持っていても適わないだろう。
「だから頭数が必要なのよ……」
「ん……。んでもなぁ……」
 シドレーがビアンカのほうをちらりと見る。彼もリョカが無謀な行動に出ることは知っており、彼女の顔色を伺っていた。
「アンさん。貴女がアンディさんを大切に思うことはわかります。けれど、私にとってもリョカは大事なんです。だから、彼を危険な目に遭わせることに頷くつもりはありません」
 ビアンカはまっすぐ彼女を見ると、静かにそういった。シドレーも大方予想していた通りの答えに頷いていた。
「リョカは、リョカは死なないわ……。だから平気。でもアンディは……」
「どうしてそう言いきれるの? リョカだって人間よ? 不死身じゃない。優しい人で、ちょっと度が過ぎることもある。だから、なおさらよ……」
「信じてください! リョカは炎のリングの探索をしても無事に帰って来ます。だから!」
 理屈の無い懇願にビアンカの表情も険しくなる。いくら物腰丁寧に来られたところで、それを頷くことは出来ない。そして理屈も根拠も無い言葉に怒りすらこみ上げてくる。リョカは水のリングの探索で死に掛けたという話を聞いているせいか、なおさらであった。
「アンさん。ごめんなさい。話にならないわ……」
 腹を立てたビアンカは踵を返すと、ガロンとシドレーの先にたって歩き出す。
「ビアンカさん! 待って!」
 行く先の無いビアンカ相手なら追いすがることもできる。けれど、彼女を説き伏せることができないことも知っている。アンはその後姿に歯噛みしていた。
「ん……まぁ、オレは手伝うって決めてるから……。ビアンカはんの気持ちもわかってやれや……」
 気の毒に思ったシドレーは彼女にそう言うと、ビアンカを追っていった。
「どうして……。リョカが死ねばいいのに……」
 アンの呟きは幸いなことにビアンカの耳に届くことは無かった……。


続く

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