ビアンカは肩を露出させたワンピース姿でいたが、それでも暑いらしく、日陰の中に居た。
「おーい、石ころ拾って来たで~」
夕食頃になると探索を終えたシドレーが火山から焼けて赤くなった石ころを拾ってくる。バーベキューの燃料にするのだ。切り刻んだ野菜を長剣に刺しての豪快な調理方法に、ビアンカも最初こそ戸惑っていた。
「リョカ、お昼よ」
絵筆を片手に火山を見るリョカは、ビアンカの呼ぶ声も届かないらしい。
「ちょっとリョカ? 聞いてるの?」
ビアンカはそんな彼の耳を引っ張り、強い口調で言う。
「いたたた……。ああ、もうそんな時間? うん、わかったよ……」
リョカは筆を置くと、炙った干し肉が挟まれたサンドイッチを受け取る。
日持ちの良い硬いパンは、口の中の水分をよく吸う。生水もこの熱さにすぐだめになり、食事ひとつとっても骨が折れるものだった。
おまけに油絵の具もすぐに固まり、写生する環境としては最悪であった。
「ふぅ、なんだかかなわんなぁ……。もうちょい手加減してくれてもええんのに……」
シドレーは白い煙を山頂から吐き出す火山を前に、げんなりした様子で呟く。それはビアンカもガロンも同じらしく、額の汗を拭ったり、舌を出しての体温調節と忙しい。
一方、リョカも同じ環境なのだが、それほど苦にしている様子もない。
額から滴る汗に時折目を瞑るものの、火山に向かって集中していた。酷いときになると六時間近く水分を取らないこともあった。
「ねぇ、リョカは平気なの?」
当然疑問に想うビアンカは、彼を心配する気持ちからそう問いかける。
「え? 何が?」
しかし彼はぴんときていないらしく、とぼけた様子でパンを齧る。そして白湯をちびちび飲み、喉を潤していた。
「なにって、暑くないの?」
「暑いけど……。アンディさん達はその火山の中にいるんだよ? これぐらいは平気さ」
「おま……、オレかて熱さにゃ耐えられるように出来てっけど、それでもげんなりくる暑さやで……? なんで平気なん?」
竜としての矜持なのか熱さ寒さに抵抗を持つシドレーだが、常に体にまとわりつく温度は耐えられることと別らしく、嫌気の差した様子でいた。
「ん~、平気じゃないよ。ほら、この前だって立ちくらみしたし……。ただ、ちょっと我慢できる時間が長いってだけだよ」
リョカは笑いながらそう言うと、二人は顔を見合わせる。
リョカにとってもこの暑さは辛いもの。けれど、かつて太陽に近い場所で酸素も水も薄い中での重労働を思い起こせば、趣味に没頭する程度、我慢の範疇であった。
もっとも、それに付き合わされる二人を考えると、どこか悪い気もする。とはいえ、久しぶりの写生と、アンに渡すものを適当に仕上げるつもりもなく、その葛藤があった。
「そんなに暑いんなら、あんたが吹雪でも出せばいいじゃない?」
ふわっと涼しげな風が吹いた。それは一行の背筋をぞくっとさせつつ、一瞬の清涼感を与えてくれた。
「ん?」
しかし、それも一瞬のこと。すぐにうだるような暑さが身体にまとわりついていた。
「お前……どこいってたん?」
原因は例の青髪の女の子のせい。いつもどおりの容赦ない装備にツインテールの髪を靡かせ、シドレーを見ていた。
「あら、アンさん。こんにちは」
「はい、アンディさんもご無事でなによりです。
食事の手を休めてアンディが会釈すると、アンは嬉しそうな笑顔でお辞儀する。
キャンプ確保をするリョカ達だが、アンは何か用事があるのかいつの間にか消えては、また戻ってきていた。そんな突然現れたり消えたりする彼女にリョカはそれほど動じない。アンはいつも神出鬼没なのだから。
「どこでもいいでしょ。それより絵、完成したのね。良かった」
アンはさっそくリョカのイーゼルの前へ行くと、嬉しそうにそういう。
「まだ完成してないけど……」
「へ? だって、この絵を辿って私は来たんだけど……」
そこまで呟いて、彼女は口を抑える。
「絵を辿る? おいおいじょーちゃん、絵は地図やないで? チーズでもないけどな。なんちって」
その一言に皆の視線がシドレーに集まる。ここに例の笑い上戸の彼女が居れば、また違っていたのだろう。
「え~……。まぁなんだ……。それ、まだ完成じゃないみたいやし、もう少し待ってっやたら?」
仕切りなおしをするシドレーに、アンは絵から手を離す。
「そう。別に構わないけど、でも、なんでだろう……。おかしいわ」
「アンさん、どうぞ」
腑に落ちないという様子で考え込む彼女に、ビアンカは紅茶を勧める。
「あ、すみません、ビアンカおば……。ええと、ビアンカさん」
「ムッ!」
言いかけた言葉にビアンカはむっとした様子。
「おいおいおい。お前らおない年くらいじゃないん? おばさんとかガキじゃないんやし……」
「あ、そのクセというか、おもわず……」
「もう……。昔もそうだったわよね? ふふ……」
思い起こせば過去、サンタローズの洞窟でもアンはビアンカを「おばさん」呼ばわりしていた。一歳年下の彼女ならではの反撃だが、もうお互いそんな悪口を言い合う年でもないだろうけれど。
「ごめんなさい」
アンはすまなそうに呟き、紅茶をそっと口に含む。ビアンカもそんな彼女の態度に本気で怒っているわけではなく、微笑交じりに流していた。
「ねぇアンさん。絵のことなんだけど、もう二、三日で終るよ。それまでどうする?」
「え? ええと……」
「ちょっとリョカ! アンさんもこうして来てくれてるんだし、急ぎなさい!」
「そうやで! こんなところに居ったら俺ら干物になるっての」
リョカののんきな予定に反論したのは同行者の二人。ガロンも日陰でお腹を上にしてねていたりと、皆の気持ちはまとまっている様子。
「あ、別に私は急がないけど……」
アンは二人を宥めるように言うが、この暑さでいい加減根を上げ始めているらしく、リョカに詰め寄ったまま。
「ん!?」
そんな折、ガロンがさっと身体を翻し、山のほうを見た。彼は鋭い視線を向けながら、鼻をひくつかせる。
それはリョカも同じで、人差し指で二人を静かにするようにすると、火山のほうに目を凝らす。
「今、誰か火山のほうへ行かなかった?」
「え? 見えんで……」
目をぱちくりさせながら火山を見るシドレー。ここ最近は特にトレジャーハンターを見かけることもなかったが、もう炎の試練が始っているのだ。
遅かれ早かれリベル達も来るだろうし、抜け目のない彼らなら事前に偵察や罠を張り巡らしたりするだろう。この前の冒険でリョカも学んだことだ。
「レミリアで光の屈折を変えて……と」
リョカとシドレーは手を筒にして火山の入り口を見ていた。
「おーおー……ああ、確かに誰か居るな……って、あれ、あんときの女じゃない?」
「えっと、イレーヌさんだっけ?」
そこには少し前に月の岩戸で彼らを阻んだ例の赤毛の女の子が居た。
「こんな時間に洞窟探索か……。何か算段でもあるのかな?」
「ん~んと……ありゃ?」
紫のローブに身を包んだ男から何かを受け取るリベルに、シドレーは目をしばたかせる。
「なんや? あれ? おい、リョカ、あれは」
「まさか光の教団?」
独特なローブには見覚えがある。ついこないだも剣を奪われかけたせいで、夕焼けに染まる中でもはっきりとわかる。
「そういえば洞窟でも光の教団の人がうろついていましたね。おそらくマッピングしていたんだと思います」
「となるとあれは地図か? ったく、人が汗水たらしてマッピングしてるってのに、リベルのやろうの考えそうなこった……」
キラーシェルの養殖場を荒らした彼に対して苛立ちを募らせるシドレーは、こぶしを合わせて舌打ちする。そうでなくとも襲撃されたこと、それに彼らの操る者なんであるかを知っているせいで穏やかではいられそうにない。
「これは私もうかうかしていられないか……」
まだ食事もそこそこのアンディは立ち上がると、再び探索へ向かう準備を始める。
「ん、オレもちょいとアイツらにヤキいれてくる」
シドレーもすっかりその気らしく、こぶしを鳴らしながらアンディを背中に促す。
「よっしゃいくで~!」
二人は早速空へと舞い上がると、洞窟を目指した。
「あ、まって!」
飛び立ったシドレーにアンが叫ぶ。
「これじゃあおと……指輪が先を越されてしまうわ。シドレーだけじゃ無理なの。ね、お願い。リョカ、一緒に来て、お願いよ!」
彼女のその真剣な様子にリョカは戸惑う。彼女の呪文の強さは彼らも十分に知っている。そして装備もリョカの一般的な道具などとは比べ物にならない洗練されたものであり、戦士としての強さは推して測れた。
「アンさん。わざわざ危険を冒してまで……」
そんな彼女にビアンカが優しく言う。
「……ならいい。私は一人で行くから!」
もともと一人で行くことは誰にも止められないわけだが、それをほいほい見過ごせるかといえば、それは難しい。
ビアンカはリョカを見る。心中、穏やかでないだろう。優しい彼が彼女の力になりたいと思っていることは、その表情から伺える。そして、彼女自身、危険とわかっている場所に年下の女の子を一人向かわせることに戸惑いがある。
「ねぇ、ビアンカ……」
続く言葉は想像に難くない。
「わかったわ。リョカ、彼女のことを守ってあげて……」
ビアンカは目を伏せてそう告げると、道具袋を拾い上げる。
「ただし、私のこともしっかり守ってね」
山奥の村ではアレだけ反対した彼女が素直に頷いてくれたことに、リョカは意外な気持ちでいた。けれど、彼女の赦しが出たのであれば、今度こそアンの力になってあげたいという気持ちが強くなる。
「ビアンカ。ありがとう。命に代えても君を守る」
リョカは胸を張ってそう言うと、準備を始める。火山帯ということからガロンはお留守番。彼らは急いでシドレー達を追い、死の火山へと向かった……。
続く
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絵筆を片手に火山を見るリョカは、ビアンカの呼ぶ声も届かないらしい。
「ちょっとリョカ? 聞いてるの?」
ビアンカはそんな彼の耳を引っ張り、強い口調で言う。
「いたたた……。ああ、もうそんな時間? うん、わかったよ……」
リョカは筆を置くと、炙った干し肉が挟まれたサンドイッチを受け取る。
日持ちの良い硬いパンは、口の中の水分をよく吸う。生水もこの熱さにすぐだめになり、食事ひとつとっても骨が折れるものだった。
おまけに油絵の具もすぐに固まり、写生する環境としては最悪であった。
「ふぅ、なんだかかなわんなぁ……。もうちょい手加減してくれてもええんのに……」
シドレーは白い煙を山頂から吐き出す火山を前に、げんなりした様子で呟く。それはビアンカもガロンも同じらしく、額の汗を拭ったり、舌を出しての体温調節と忙しい。
一方、リョカも同じ環境なのだが、それほど苦にしている様子もない。
額から滴る汗に時折目を瞑るものの、火山に向かって集中していた。酷いときになると六時間近く水分を取らないこともあった。
「ねぇ、リョカは平気なの?」
当然疑問に想うビアンカは、彼を心配する気持ちからそう問いかける。
「え? 何が?」
しかし彼はぴんときていないらしく、とぼけた様子でパンを齧る。そして白湯をちびちび飲み、喉を潤していた。
「なにって、暑くないの?」
「暑いけど……。アンディさん達はその火山の中にいるんだよ? これぐらいは平気さ」
「おま……、オレかて熱さにゃ耐えられるように出来てっけど、それでもげんなりくる暑さやで……? なんで平気なん?」
竜としての矜持なのか熱さ寒さに抵抗を持つシドレーだが、常に体にまとわりつく温度は耐えられることと別らしく、嫌気の差した様子でいた。
「ん~、平気じゃないよ。ほら、この前だって立ちくらみしたし……。ただ、ちょっと我慢できる時間が長いってだけだよ」
リョカは笑いながらそう言うと、二人は顔を見合わせる。
リョカにとってもこの暑さは辛いもの。けれど、かつて太陽に近い場所で酸素も水も薄い中での重労働を思い起こせば、趣味に没頭する程度、我慢の範疇であった。
もっとも、それに付き合わされる二人を考えると、どこか悪い気もする。とはいえ、久しぶりの写生と、アンに渡すものを適当に仕上げるつもりもなく、その葛藤があった。
「そんなに暑いんなら、あんたが吹雪でも出せばいいじゃない?」
ふわっと涼しげな風が吹いた。それは一行の背筋をぞくっとさせつつ、一瞬の清涼感を与えてくれた。
「ん?」
しかし、それも一瞬のこと。すぐにうだるような暑さが身体にまとわりついていた。
「お前……どこいってたん?」
原因は例の青髪の女の子のせい。いつもどおりの容赦ない装備にツインテールの髪を靡かせ、シドレーを見ていた。
「あら、アンさん。こんにちは」
「はい、アンディさんもご無事でなによりです。
食事の手を休めてアンディが会釈すると、アンは嬉しそうな笑顔でお辞儀する。
キャンプ確保をするリョカ達だが、アンは何か用事があるのかいつの間にか消えては、また戻ってきていた。そんな突然現れたり消えたりする彼女にリョカはそれほど動じない。アンはいつも神出鬼没なのだから。
「どこでもいいでしょ。それより絵、完成したのね。良かった」
アンはさっそくリョカのイーゼルの前へ行くと、嬉しそうにそういう。
「まだ完成してないけど……」
「へ? だって、この絵を辿って私は来たんだけど……」
そこまで呟いて、彼女は口を抑える。
「絵を辿る? おいおいじょーちゃん、絵は地図やないで? チーズでもないけどな。なんちって」
その一言に皆の視線がシドレーに集まる。ここに例の笑い上戸の彼女が居れば、また違っていたのだろう。
「え~……。まぁなんだ……。それ、まだ完成じゃないみたいやし、もう少し待ってっやたら?」
仕切りなおしをするシドレーに、アンは絵から手を離す。
「そう。別に構わないけど、でも、なんでだろう……。おかしいわ」
「アンさん、どうぞ」
腑に落ちないという様子で考え込む彼女に、ビアンカは紅茶を勧める。
「あ、すみません、ビアンカおば……。ええと、ビアンカさん」
「ムッ!」
言いかけた言葉にビアンカはむっとした様子。
「おいおいおい。お前らおない年くらいじゃないん? おばさんとかガキじゃないんやし……」
「あ、そのクセというか、おもわず……」
「もう……。昔もそうだったわよね? ふふ……」
思い起こせば過去、サンタローズの洞窟でもアンはビアンカを「おばさん」呼ばわりしていた。一歳年下の彼女ならではの反撃だが、もうお互いそんな悪口を言い合う年でもないだろうけれど。
「ごめんなさい」
アンはすまなそうに呟き、紅茶をそっと口に含む。ビアンカもそんな彼女の態度に本気で怒っているわけではなく、微笑交じりに流していた。
「ねぇアンさん。絵のことなんだけど、もう二、三日で終るよ。それまでどうする?」
「え? ええと……」
「ちょっとリョカ! アンさんもこうして来てくれてるんだし、急ぎなさい!」
「そうやで! こんなところに居ったら俺ら干物になるっての」
リョカののんきな予定に反論したのは同行者の二人。ガロンも日陰でお腹を上にしてねていたりと、皆の気持ちはまとまっている様子。
「あ、別に私は急がないけど……」
アンは二人を宥めるように言うが、この暑さでいい加減根を上げ始めているらしく、リョカに詰め寄ったまま。
「ん!?」
そんな折、ガロンがさっと身体を翻し、山のほうを見た。彼は鋭い視線を向けながら、鼻をひくつかせる。
それはリョカも同じで、人差し指で二人を静かにするようにすると、火山のほうに目を凝らす。
「今、誰か火山のほうへ行かなかった?」
「え? 見えんで……」
目をぱちくりさせながら火山を見るシドレー。ここ最近は特にトレジャーハンターを見かけることもなかったが、もう炎の試練が始っているのだ。
遅かれ早かれリベル達も来るだろうし、抜け目のない彼らなら事前に偵察や罠を張り巡らしたりするだろう。この前の冒険でリョカも学んだことだ。
「レミリアで光の屈折を変えて……と」
リョカとシドレーは手を筒にして火山の入り口を見ていた。
「おーおー……ああ、確かに誰か居るな……って、あれ、あんときの女じゃない?」
「えっと、イレーヌさんだっけ?」
そこには少し前に月の岩戸で彼らを阻んだ例の赤毛の女の子が居た。
「こんな時間に洞窟探索か……。何か算段でもあるのかな?」
「ん~んと……ありゃ?」
紫のローブに身を包んだ男から何かを受け取るリベルに、シドレーは目をしばたかせる。
「なんや? あれ? おい、リョカ、あれは」
「まさか光の教団?」
独特なローブには見覚えがある。ついこないだも剣を奪われかけたせいで、夕焼けに染まる中でもはっきりとわかる。
「そういえば洞窟でも光の教団の人がうろついていましたね。おそらくマッピングしていたんだと思います」
「となるとあれは地図か? ったく、人が汗水たらしてマッピングしてるってのに、リベルのやろうの考えそうなこった……」
キラーシェルの養殖場を荒らした彼に対して苛立ちを募らせるシドレーは、こぶしを合わせて舌打ちする。そうでなくとも襲撃されたこと、それに彼らの操る者なんであるかを知っているせいで穏やかではいられそうにない。
「これは私もうかうかしていられないか……」
まだ食事もそこそこのアンディは立ち上がると、再び探索へ向かう準備を始める。
「ん、オレもちょいとアイツらにヤキいれてくる」
シドレーもすっかりその気らしく、こぶしを鳴らしながらアンディを背中に促す。
「よっしゃいくで~!」
二人は早速空へと舞い上がると、洞窟を目指した。
「あ、まって!」
飛び立ったシドレーにアンが叫ぶ。
「これじゃあおと……指輪が先を越されてしまうわ。シドレーだけじゃ無理なの。ね、お願い。リョカ、一緒に来て、お願いよ!」
彼女のその真剣な様子にリョカは戸惑う。彼女の呪文の強さは彼らも十分に知っている。そして装備もリョカの一般的な道具などとは比べ物にならない洗練されたものであり、戦士としての強さは推して測れた。
「アンさん。わざわざ危険を冒してまで……」
そんな彼女にビアンカが優しく言う。
「……ならいい。私は一人で行くから!」
もともと一人で行くことは誰にも止められないわけだが、それをほいほい見過ごせるかといえば、それは難しい。
ビアンカはリョカを見る。心中、穏やかでないだろう。優しい彼が彼女の力になりたいと思っていることは、その表情から伺える。そして、彼女自身、危険とわかっている場所に年下の女の子を一人向かわせることに戸惑いがある。
「ねぇ、ビアンカ……」
続く言葉は想像に難くない。
「わかったわ。リョカ、彼女のことを守ってあげて……」
ビアンカは目を伏せてそう告げると、道具袋を拾い上げる。
「ただし、私のこともしっかり守ってね」
山奥の村ではアレだけ反対した彼女が素直に頷いてくれたことに、リョカは意外な気持ちでいた。けれど、彼女の赦しが出たのであれば、今度こそアンの力になってあげたいという気持ちが強くなる。
「ビアンカ。ありがとう。命に代えても君を守る」
リョカは胸を張ってそう言うと、準備を始める。火山帯ということからガロンはお留守番。彼らは急いでシドレー達を追い、死の火山へと向かった……。
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