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炎の試練 その16

 印を組み、詠唱を丁寧にゆっくりと行い、自分の持てる精度の回復魔法を施すリョカ。けれど、アンディの表情は歪むだけだ。
「く、癒しの風よ、かのものから苦痛を解き放ち、願わくば健やかなる日々を取り戻せ、ベホイミ!」
 炎ほどではないが上昇気流などで量のある風の精霊による回復をはかるリョカ。けれど半身を焦がしたアンディに治癒魔法など苦痛をもたらすだけなのかもしれない。
「く! くそう! なんでだ! 僕はまた助けられないのか!」
 思い起こすのはかつてのヘンリーの無残な姿。あの時はエマの力を借りられたが、そうそう奇跡が起こるはずもない。
「ベホイミ……ベホイミ!」
 風の精霊がアンディの身体を癒そうと駆け巡るが、炭化しかけた表面を元に戻すなど、時間を撒き戻す以外にありえない。
「……あぁ、あ……リョカ……さん……」
 途方にくれるリョカの手にアンディの手が触れた。
「アンディさん……ごめんなさい、僕が、僕が……」
「いえ……それより、ここを出て……君だけでも、アンさんやビアンカさんまで巻き添えにするわけにはいかない……」
「はい……でも……」
 結果は目に見えている。いくらかもったところで、アンディに待つのは苦しみの先の死。
「フローラ……最後にフローラに会いたい……な……」
「必ず……! さ、ビアンカ、行こう」
 リョカはアンディを抱えビアンカを先導する。
「ちきしょー、待て! 待ちやがれ! 逃げるのか、卑怯者!」
 壁にめり込んだ炎の女王は喚き、地を曝していた。
 今はシドレーの捨て身のおかげで時間が稼げる。その間に外へ出て、ガロンにアンディを乗せて連れて行ってもらう。むちゃくちゃな算段だが、他に方法も無く、リョカは立ち上がる。ビアンカは意識をなくしたアンを背負うと、リョカに続く。

 ごと……。

 背後で不穏な音がした。

 どすん。

 何かが落ちる音。
 見ると壁をよじ登っていた炎の戦士達が動けぬシドレーを引き剥がし、炎の女王を解き放っていた。
「はっはー! 最高の気分だちくしょうめ! さあて、お前ら全員逃がさない! 絶対に焼き尽くしてやる!」
「く!」
 リョカはアンディを抱えたまま、身動きがとれそうになく、ただ昆を構えて相手を睨む。
 炎の女王はしばらく優越感に浸ると、リョカ目掛けて飛び掛かってきた。
「死ね!」
 熱と衝撃。死を覚悟したリョカは、三人を背後に最後まで敵を睨んでいた。

 ………………。
 鋭い痛み。地面に投げ出され、強く頭を打った。
 …………。
 あとは覚えていない。
 ……。

 ――炎の娘。盛るな……。

**

「ここ、は……?」
 最初に飛び込んだのは豪華なシャンデリア。そして鼻を突く消毒薬の匂い。
「お、気がついたか……。ずっと寝ていたから心配したぞ……」
 ベッドの横にはインディが居た。その隣では例の女性がりんごを剥いており、リョカにくれるのかと思ったらインディに食べさせた。
「ここはルドマン氏の家だ。ちょっと掛け合ったら通してくれたんでな」
 起き上がろうとするリョカをインディは制す。
「また、インディさんに助けられたんですか?」
 ぼんやりする記憶を辿り、自分が窮地から安置にいることの理由を探す。
「いや、俺は街の近くでキラーパンサーに背負われていたお前と娘二人抱えた竜を見ただけだ。ああ、ルドマン氏の家に運んだという意味では俺も助けたうちに入る。感謝していいぞ」
「そうですか……ありがとうございます」
「まる二日寝ていた。全身軽度の火傷に意識朦朧……。命に別状はないが、暫く安静にしているんだな。あと、コイツに礼を言っておけ。治癒魔法を施したのはこいつだからな」
「んもう、こいつこいつって……私にはれっきとした……」
「ありがとうございます」
「別に私は貴方を助けるつもりなんてないわ。ただインディに頼まれたからであって……」
 青い髪の女性はリョカのお礼に照れた様子でそっぽを向く。
「まあなんだ。今は横になっていろ。お前の連れを呼んでくる。リョカが目を覚ましたと教えてやらんとな……」
 インディは女性を遮ると、部屋を出る。女性はその扱いが不満というわけではなく、相手をしてくれないインディに不満そうに見えた。
「僕は……、どうして? たしか頭を打って……」
 思い出そうとすると頭が痛い。目を瞑り、一呼吸置き、しばらくぼんやりとしていた。
 最後に誰かの声が聞こえたのまでは覚えている。
 女性で、それは炎の女王ではなく、イレーヌやアニスでもない。
「リョカ!」
 するとドアが開かれ、ビアンカが顔を出す。
「良かった! このまま目が覚めなかったらどうしようかと思ったわ!」
 ベッドに飛び込むようにかけてくるビアンカは、リョカを思い切り胸に抱く。
「ちょっとビアンカ……苦しいよ……」
 ふくよかな乳房を押し当てられて苦しいやら嬉しいやら複雑な気持ちになる。
「だってだって!」
「ん……まぁよかったな……」
 そしてのそのそとシドレーも顔を出す。
「ああシドレー、君も無事だったんだね……」
 ビアンカを制しながらシドレーを見る。きっと彼が助けてくれたのだろう。あの地下から皆を運びだせるのは彼ぐらいしかいないのだ。
「ああ、なんでか……な?」
 しかし、彼もどこか自分が助かったこが府に落ちないらしく、悩んでいる様子。
「君が助けてくれたんじゃないの?」
「いや、俺も助けられたっぽい……つか、誰に?」
 インディも違うと言っており、やはり謎のままだった。一体誰がリョカ達を連れてきたのか?
「あ、そうだ! アンディさんは!? ね、アンディさんは!」
 ふと思い出す。ガロンが自分ともう一人を背負っていたということを。
 アンとビアンカはシドレーが背負ってきたのなら、もう一人はアンディ。彼は一体どうなったのか?
「ん……あぁ……一緒やったな」
 返ってきたのはいい難そうなシドレーの返事のみ。ビアンカも視線を外していた。
「ねぇ、アンディさんは? ねぇ……」
 答えが無いのが答えになる現実に、リョカは暫くマヌケのふりをしてしまう。
「あら、リョカさん、目が覚めたんですね……」
 そしてまたも扉が開くと、そこにはいつもの笑顔のフローラが居た。
「フローラさん、アンディさんは!」
 その様子に一縷の望みをかけたリョカは声を上げる。
 フローラは微笑を崩さず、花瓶をリョカの隣に置く。
「安静にしていてくださいね。リョカさんもけして無事ではなかったんですから……」
「ねぇフローラさん……アンディさんは……」
 表情だけで心が読めたらどんなにいいか? いや、たとえそうであっても、彼女の心は読める気がしない。
「ねぇ……」
 自分の中の希望が薄れていくのがわかった。
 彼女の笑顔が痛いほど教えてくれる。
「うそつき……」
 彼女はその時も表情を変えなかった。

続く

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