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試練の終わりに その1

 重度の火傷を負ったアンディは痛みすら感じることが出来なかった。
 光を得ることもない瞳は灰色に滲み、聞き取り辛い声でフローラに話しかけていたという。
 幸せになって欲しい。
 それを最後に彼は口を閉じ、二度と動くことはなかった。
 経過を知らされたリョカは、頭を強く殴られたような錯覚に陥った。
 自分が無事なら、ビアンカも無事なら、シドレーもいて、アンも居たのに……、守るべく対象だけが帰らぬまま。
「僕が弱いばっかりに……」
 自責の念がそう呟かせたのだろうか。
「いや、それは違うだろう。生き残れないのならそいつが弱いのがいかん」
 そんなリョカにインディは慰めるというより、当然といった様子でそう返す。
「だけど!」
 シーツを掴み、震えるリョカ。どこにぶつけてよいかわからない苛立ちが暴れ、無意味に力んでいた。
「そうですね。リョカさんが弱いからアンディは帰って来れませんでした……」
 フローラは静かにそう言うと、花瓶の花を捨てる。
「フローラ……さん?」
 酷く冷たい言い方の彼女に、リョカは戸惑いを覚えた。彼女からすれば最愛の人を失ったのだから自然な言葉かもしれない。けれど、一方で自分も他の仲間も傷だらけとなったことが、リョカを困惑させていた。
「そういって欲しいのでしょう? リョカさんは……」
「……」
「事実そうですし、いまさら何を言ったところで過ぎたことです……」
 つまらなそうに言う彼女は無表情であった。瞳に力はなく、表情を繕う様子もなく、ただ無表情なフローラ。
「そんな言い方……」
 堪えきれずビアンカが呟く。彼女は憤りを隠す様子なく、眉間に皺を寄せて彼女を睨む。
「ええ、そうですね。すみません。口が過ぎましたわ……。リョカさんも目覚めたばかりでまだ混乱しているでしょうし、それでは私はこれで……」
 冷たい造り笑顔を浮かべると、フローラは部屋を出た。
「ま、待ってください!」
 リョカは去り行くフローラを追いかけようと、ベッドから身を起こす。火傷の痕の薄皮が破けるひりひりした痛みが各所で起こる。けれど、そんなことに構わず、リョカは彼女を追う。
「リョカ、まだ休んでないと」
「放っておけ」
 ぎこちなく歩くリョカにビアンカは駆け寄り制止しようとする。けれどインディに遮られてしまう。
「けど!」
「怪我自体はもう大したことも無い。むしろ何時までも寝ていたせいで身体も鈍ってきているだろ。そもそも止めたところで奴の気が晴れん。好きなようにさせてやれ」
「でも……」
 まだ不安そうにリョカを見るビアンカだが、リョカも彼女の助けを断わり、一人で立ち上がる。
「僕は大丈夫。直ぐに戻るから安心して欲しい」
「こいつはそういう奴だ」
 再び遮られ、ビアンカもようやくリョカから一歩退く。
「インディさん、すみません。気を遣わせて……」
 よろめきながらも愛用の昆を杖代わりに手に取り、リョカは部屋を出た。

**

 部屋を出て屋敷を出たところでフローラの後姿を見かけた。
「フローラさん! 待って! 待ってください!」
 リョカの呼びかけに彼女はちらりと振り返ったが、直ぐに歩き出す。リョカも痛痒い全身に鞭を打ち、駆け出す。
「フローラさん!」
 女の足に追いつくにも一苦労。杖にすがりながら何とか彼女の隣にまでやってくる。けれどやはり彼女は一瞥のみで、歩を止める様子がない。
「フローラさん、すみませんでした」
「謝ってどうなることでもありませんわ。それに、インディさんでしたか? 彼の言う通りですし……」
「けど、やっぱり僕は……」
「謝って赦して欲しいとでも?」
「そんなつもりは……」
 無いのだろうか? リョカはわからず、またフローラに掛ける言葉も見つからない。
「アンディは、私の唯一の理解者だった」
「アンディさんもそう言っていました」
 旅路の合間の何気ない会話で聞いたことを思い出す。アンディはフローラを素直な子だと言っていた。未だにそれは理解できない、二人だけの共感なのだろう。
「私の魔法の才を見抜いたのは彼。お父様もお母様も、姉さんだって気付いていなかった秘密。んーん、私だって知らなかった」
「……」
「リョカさんは覚えています? オラクルベリーの夜、お外へ冒険に行ったこと」
「はい」
「あの夜、本当に怖かった。もしこのまま姉さんもリョカさんも帰ってこなかったらどうしようって。勇気の無い自分、力の無い自分がすごく悔しくて、怖くて……」
「でもフローラさんが父さんを呼んでき……」
「あの後、私も姉さんの真似をして魔法の勉強をしたの」
 話しかけているというにはただ語るだけのフローラは、リョカの返事などどうでも良いように続ける。
「姉さん、子供の頃から私と違って賢いし行動力があるから、父さんの仕事も大人の会話も魔法だってなんでもこなしてた」
 フローラが人差し指を振ると、その先に赤いゆらめきが炎を化す。
「でも高々こんな炎を操ることにも詠唱に印を組まないとできない姉さん……」
 無造作に空中で振り払われたそれは、リョカの頬をすっと掠める。
「私にも才能があった。姉さんにはまねできない魔法の才能があったんだって……。とっても嬉しくて……」
「はい」
 リョカの相槌にフローラは感心を示す素振りもなく、今度は風の精霊が集められ、リョカのぼろぼろの胴衣の裾を掠めた。
「でも、お父様もお母様も認めてはくれなかった。いえ、もちろん褒めてくださったわ。フローラには魔道士の素質があると。けれど、それだけ。当然ですわよね」
「え? ええと……」
 彼女の才能の片鱗を知るリョカからすると意外であった。魔法の重要性はこれまでの冒険で幾度となく彼の危機を救ってくれた。その意味、どうして彼女の才能を認めていないのか、わからなかった。
「リョカさんのような旅人にはわからないかもしれませんね」
 フローラは隣を歩くリョカに醒めた視線を向けて歩を止める。ようやく彼女が言葉面だけでなくリョカに感心を示すも、気持ちはそこに薄い。
「一介の魔法使いに出来ることなどたかが知れている。古の魔物と対峙した勇敢な戦士も名うての魔道士もその巨大な力の前には足止め程度でしかないとのこと。それを退治した名誉市民はただの道具屋」
「それは違うはずです。僕は勇敢な人々が足止めをしていたからだと聞いています」
「そう。大切なのは強い一人がいることなどではなく、力を束ねること。それは私の才能となんら関わりもありません。せいぜい貴族の戯れ」
 両手の平をくるりと回すと、炎のアーチが彼女の頭上に現われる。閃熱系の中位、ベギラマだろうけれど、それにしては勢いが激しい。
「ひと一人焼き尽くすにはこれで足りるでしょうけれど」
 そしてふと消える。
「魔法には脆弱性がある。いくら威力があれど、それを練るまでの時間がある。その間に攻撃されたら魔法使いのような弱い者などいともたやすく倒されてしまう。それらを守る戦士というのは、やはり戦いにおいて重要なポジション……」
「あ……」
 幼き頃の白い世界での冒険を思い出す。
「昔、言いましたよね? あれ、アンディが私に教えてくれたことなんです」
 目覚めてから初めて向けられる自然な笑顔。
「アンディさんが……」
「ええ。私が魔法で怪獣をやっつけると言いましたら、僕が君を守るって……。どうしてって尋ねたらそう言われましたの」
「ああ、なるほど」
 短い付き合いではあったが不思議とアンディらしいと思えた。冷静に周りを観察し、選択を出来る洗練された若者。正直リョカにもなく、これまで出会ってきた中でも異質な存在であったアンディなら頷けるエピソードと感じたからだ。
「さ、着きましたわ」
「え?」
 いつのまにか辿り着いたのは前にも一度訪れたラーズ商会の屋敷。フローラはまるで自分の家にでも入るかのように門を開けさせると、屋敷の入り口へと向かう。
「どうしました? 来ないのですか?」
 リョカが立ち尽くしていると、彼女は振り返り、来るように促す。
「わかりました。ご一緒させていただきます」
 複雑な気分であったものの、仕事を請け負った以上は事後の報告をするのがギルド時代に教えられた暗黙のルール。たとえ失敗していようともただばっくれるというのは不義理とされ、つまはじきにされること。
 今回のことは非公式の依頼であるが、もやもやしたまま抱える問題の数に、一つ一つをこなす道を選ぶことにした。
 それはおそらく、跡取りを失ったことで陰りの見える屋敷の雰囲気が後押ししたのかもしれない。

続く

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