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試練の終わりに その2

 応接間に通されたフローラとリョカ。紅茶を出された後、数分と待たずに主と思しき男性と、それに寄り添う老女がやってきた。
「やぁフローラちゃん、よく来たね……」
 フローラは立ち上がり、スカートの裾を持って一礼する。リョカも慌てて立ち上がると、軽く礼をする。
「おじ様、もうちゃんはおよしになっていただけないでしょうか? もうそんな年でもありませんわ」
 優雅に笑うフローラに、主は剥げた頭を叩いて笑っていた。
「すまない。フローラさんを見ているとついね。もうこんなに綺麗な女性になったというのに……」
「いやですわ、おじ様」
 主は二人に座るよう促し、老女にも座るように促す。
「ええと、そちらの方は?」
 紅茶を一口啜ってからリョカを見る。主からしてみれば彼のみなりからして貴族や商人とも思えず、かといって物腰の弱さから大した警戒もしていない。
「はい、こちらはリョカさん、リョカ・ハイヴァニアですわ。この度、アンディの試練に同行した……」
「なんと、君が……」
 カップをかちゃりと音を立てておくと、改まってリョカを見る主。
 まだ頬に煤や腕に火傷による水ぶくれ、滲む包帯を巻くリョカに頷いていた。
「はい、この度は本当に申し訳ありませんでした。僕がふがいないばかりにアンディさんを……その……。彼の死の責任は全て僕にあります」
 リョカはそこまで言うと、席を立ち、床にひれ伏す。
「あ、貴方がアンディを……」
 それまで黙っていた老女は震えた声を絞りだすと、手付かずのカップをリョカ目掛けて投げる。
「ぐ……」
 ばしゃりと頭、背中に掛かる紅茶が火傷に響き、うめき声を漏らしてしまう。
「どうしてアンディを見殺しにしてのうのうと戻ってきたの! 貴方はアンディのボディガードなんでしょ? 代わりに死ぬべきでしょう!」
「返す言葉もありません……」
「なら今ここで死になさい! アンディが苦しんだように全身を炎で包んで!」
 老女はたどたどしいながら印を組むと、煙草に火を着けるにも苦労しそうな火の玉をリョカに投げつける。それは空中で途切れて霧散するも、怒りを抑えられない彼女は何度も繰り返す。
「よさないか……」
 主はその火花のようなメラを片手で払い、老婦人を抱き寄せて頭をなでる。
「だって、アンディは……アンディは……」
 主は手を鳴らし控えていたメイドを呼ぶ。
「これ、妻を寝室に……」
「はい、かしこまりました」
 メイドは恭しくお辞儀をすると、老婦人連れて部屋を出た。
「リョカ君と申したね。君も顔を上げてくれ」
「はい」
「さて、君は君のせいでアンディが死んだと言ったね?」
「はい」
「息子は酷い火傷であった。それは君が火をつけたのかね?」
「え? いや、それをしたのは炎の魔物で……」
「君はその炎の魔物と仲間なのかい?」
「いえ、敵対していました」
「戦った? そうだね?」
「はい。けれど力及ばず……」
 及ばず膝を着き、目を閉じたはずだった。その後、どうなったのだろうかは、今もわからない。
「ならば君のせいではないだろう」
「いや、けれど僕はアンディさんのボディガードで……」
「リョカ君、君が責任をしょいたいのはわかったが、我が息子アンディもまた、死の危険を覚悟して試練へ挑んだ。その結果である以上、それは息子の選んだ道だ。それに、君の任務は息子を死の火山へ送り届けることだろう? 違うかね?」
「あ、それは……」
 一連のことを思い返すと、確かにボディガードの契約は水のリング入手時に切れている。死の火山の件では、あくまでも到着までの護衛と絵を描くことのみ。洞窟へ向かったのはアンの頼みを聞いてのこと。
「君の責任でもないことを謝られても困る。それは不誠実な態度だ」
「すみません」
「今の謝罪は何に対するものだね?」
「僕の浅はかな考えについてです……」
「うむ……」
 リョカもここにきてようやく理解できてきた。責任を背負い込み、安易に謝罪をしている理由。
 自分の中で楽な錘を担ぎ、許しを請うことのほうが楽だろうと。
「改めて問う。息子はどうだったかね?」
「はい、アンディさんは……そうですね、最初の冒険の時から話しましょう……」
 リョカは月の岩戸での冒険の折から話し始めた……。

**

 二杯目の紅茶をお代わりしたところで、リョカは話し終えた。
 一応、面倒になりそうなリベルのことは伏せておいたが、彼の名前が出たときだけ、主の視線は鋭くなっていた。
「そうか、アンディは良くやったのだな……」
 主は息子の最後の冒険の、その勇姿を想像し、何度も感慨深く頷いていた。
「はい、戦士として、冒険者として一目置ける存在です」
「うむ。時に君はラインハットの英雄、アルベルトと共にラインハット国の圧政を覆したそうだな。そんな君から評価されるのなら、私も鼻が高いよ」
「ええと、そうなってるみたいですね……」
 ラインハットの出来事が一体どう世の中に伝えられているのかわからず、リョカとしては愛想笑いを浮かべるくらいしかない。
「妻も……、アンディを失ったことで混乱している。わかって欲しい。誰かに原因を押し付け、それを責めたいのだろう」
「はい、わかります」
 自分も同じだから。
「そしてそれは私も同じだ」
「なら……」
 どうして?
「心のどこかではやはり誰かを恨みたい気持ちがある。ただ、私は妻より少し、理性が勝っただけだ。君の話を聞いてからでも遅くないとね。そして、遅くはなかったわけだ」
 言いかけたところで先に答えを言われたのは、主がリョカの言いそうな疑問を先読みしていたからだろう。
 ――親子なんだな。やっぱり。
 場違いな感想を抱きつつ、リョカはカップを置いた。
「ああ、フローラさん。すまないね、興味が沸くとすぐこれなんだ。君の話というのは……」
 主はリョカを見つめるフローラに気付き、ようやく本来のゲストに水を向ける。
「いえ、お気になさらずに……。今日はもうよい時間ですし、また今度遊びに来ますわ。その時にでも……」
「そうかい? 悪いね……」
「いえ、私にも興味深い話でしたし」
「そうか、そうだな」
 アンディの冒険譚を反芻するためにも、新たな情報を遮りたい。大切な思い出を薄めるにはかけがえがない存在が対象であると、主は頷いた。
「それでは日を置いて……」
 主は立ち上がると手を叩き、隣室からメイドを呼ぶ。どうやら隣の部屋でリョカの話を聞いていたのか、老婦人は涙でハンカチを濡らしていた。
「それでは失礼いたします……」
 フローラに続いてリョカも応接間を出ようとした時、
「先ほどは取り乱してごめんなさい……」
 老婦人の声にリョカは深く頭を下げ、そして出て行った……。

続く

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