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試練の終わりに その3

「話があったんですよね? すみません、邪魔をしてしまって……」
「いえ、お気になさらず。私もアンディの話を聞きたかったし……」
 帰り道、心の咎が薄れたリョカはそう切り出した。
 フローラも笑顔こそ無いものの、凍りついた無表情ではなく、力の抜けた自然な無表情といった程度であった。
「あ、そうだ。僕の滞在費と治療費なんですけど……」
「構いませんわ」
「そうですか……」
「ええ」
「……」
 とはいえ自然な会話を繰り出せるほどの雰囲気もなく、無口な帰り道となってしまう。そもそもアンディの父のように割り切れるほうが不思議なのかもしれない。そう考えれば、安易に話題を振る自分がいかに滑稽で浅はかか、恥ずかしくなれる。
「今日、リョカさんが一緒に来てくれて良かった……」
「え?」
「やっぱり気付いていませんね」
「ええと、何が?」
「貴方のようななんでも自分が悪い、背負い込みたいって人ならきっと怪我を押してついてくるだろうって思っていましたし」
「それは、まぁ……でも、どういう意味?」
「だって、アンディが死んだ原因なんて、私にこそあるわけじゃないですか?」
 はっとするリョカ。もとはといえば試練はフローラと結婚をするためのもの。アンディが死を覚悟して火山へ挑んだのも、全ては……。
「それは違う……違う」
「ご両親からすれば私を餌に死の危険が伴う試練を命じたお父様だってそう……。いえ、私がアンディと恋仲にならなければ? 一体どれが本当の原因なのでしょうね?」
「僕は……僕にはわかりません。けど、アンディさんはフローラさんのためなら命を賭けて試練に挑む気持ちがあったって……、それしか……」
「だめな答えですね……」
「すいません、頭が悪くて……」
「でも、それでいいです」
 そう言うとフローラはリョカの腕を取り、もたれるように頭を寄せる。
「ふ、フローラさん?」
 驚いたリョカが脚を止めると、彼女もそれに応じ、強く押し付けるように寄り添う。
「もうアンディはいない……。私だって誰かにすがりたい……。せめてその柱になったとして、バチはあたりません。償いですよ、リョカさん……」
「……はい」
 暫く、少しの間、リョカは彼女の気の済むようにしていた……。

**

 夜、サラボナの安宿で、リョカはぼんやりと月を見ながら呆けていた。
 巡る思考はアンディの死と今後の自分のこと。
 一つの目的をどのような形であるにせよ終えた後、ふと沸き起こる不安に似た焦り。
 目的はある。
 光の教団が広めているであろう病の治療法を広めること。小さいながらも抵抗する意志を見せること。
 そして母の面影を追うこと。
 時間の経ったコップの中にできる水泡のような気持ち。最初は小さく、だんだん大きくなりだし、やがて浮上してきたような。
 父の遺言の件もあるが、アンディの死に触れたことでその気持ちがそうさせた。
 旅暮らしの長いリョカにとって死の誘惑は常に傍にある。それが薄らいでいるのは、今日まで生きてこられた故か、それとも地獄の日々を脱したことで鈍った感性の仕業か?
 とはいえ、今は新たな道連れにビアンカとシドレー、ガロンを迎えている。これまでの一人旅とは勝手が違う。
 そして、今回の冒険では自分だけならまだしも、ビアンカ、シドレーまで危険に巻き込んだ。
 その現実が、リョカを迷わせた。
「……リョカ?」
「ん? ああ、ビアンカ、起こしちゃったかい?」
 隣のベッドでビアンカが起き上がる。彼女も眠れないようで、目をこすることもなくぱっちりとリョカを見つめる。
「ええ。だって心配だから……」
「大丈夫だよ。僕はもう平気……」
 腕をまくって元気をアピール。昼間の節々の痛みも数日の運動不足からくる凝りだったらしく、柔軟体操をすることで大体は解消された。火傷の痕も治癒魔法で古い皮がはがれるまでにいたり、ひりひりする痛みも消えていた。
「うん。よかった」
 ビアンカはローブを羽織り、リョカの隣に腰掛ける。
 月明かりの青い光がシーツを照らす。
 ベッドに投げ出していた手が不意に重なる。
 冷たい手。細く、ひび割れと荒れの目立つ手。ビアンカの手がリョカの手に重なる。
「ビアンカ」
 その手を握り返すと、彼女は肩にしなだれかかってきた。
 久しぶりに感じるビアンカの香り。何時以来だろう、お化け城の時に閉じ込められて以来のことか。
 あの時はまだお互い子供で、クリームチーズのようなむんとくる気持ちでそわそわした。
 今はすっと鼻腔をくすぐる小ズルイ匂いがほのかにするくらい。もう少し感じたいのなら、もっと抱き寄せて欲しい。そう挑発されているようで、リョカは彼女の肩に回す手に力を込めてしまう。
「リョカ……」
「うん……」
 自然と向き合う二人、そのまま唇を重ねていた。

**

 左腕に違和感を覚えて目が覚めた。
 残る痛みをほぐそうと腕を曲げ伸ばし繰り返す。
「ん~……」
 饐えた匂いに目を細めつつ、リョカは身支度を整えてからシャワーを浴びに行った……。

**

「おはよ、リョカ」
「おはよ……ビアンカ……」
 朝食を取ろうと食堂へ行くと、既に準備を終えていたビアンカが笑顔で迎えてくれる。
 彼女はいつもどおり自然な笑顔だった。少し明るく、はつらつとしているようにも見えた。
 対し、リョカは照れくささがあり、まともに目を合わせることが出来ない。
「おう坊主、どしたん? はやく食べないと片付けられてまうで?」
 シドレーは先の割れたスプーンで鳥の腿肉を突いていた。以前は東国の箸も使えると豪語していた彼だが、手軽さに負けたらしい。
 その向かいではインディがフォークとナイフで優雅に食事をしていて対照的。冒険野郎を自称するにしては、どうも似合わない。
「さ、リョカも早く座って座って……」
 余計なことを考えているとビアンカが椅子を運んできて座るよう促す。
「それじゃあいただきます」
「めしあがれ」
 あくまでも自然な振る舞いのビアンカに、リョカは意識しすぎる自分の薄さを感じていた。

続く

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