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試練の終わりに その5

「してリベル君、指輪を持ってきたと聞いたが?
「はい、ルドマン殿、指輪はここに……」
 リョカが動けないことを見て、リベルは懐から指輪を二つ取り出す。一つは淡い水色の宝石の乗ったリングで、もう一つは燃えるような赤い宝石を掲げたリングだ。
「うむ、たしかに炎のリングと水のリングだな。受け取ろう……」
 ルドマンはその二つのリングを受けようと手を伸ばすと、リベルは完全勝利を確信し、リョカを横目で見る。しかし、そこには素早く印を組むリョカの姿があった。
「駆け抜けろ、悠然たる風! バギ!」
 瞬間、リベルの視界、景色がずれたような気がした。そしてキィンと金属音。手に痺れを残し、重さが消える。
「唸れ!!」
 リョカは差し伸べた右手とは別に左手をくいっと引き戻す。すると空中でまたもキィンと音がして、しばらくしてリョカの手元にぽとりとリングが落ちる。
「な、貴様!」
 慌てて剣を抜き襲い掛かるリベル。それに続く衛兵達は棒を構えてリョカを一斉に突く。
「はっ!」
 リョカは昆を地面に突き立てるとひらりと舞い上がり、ルドマンと逆側にしならせると、反動をつけてリベルの頭を超える。
「く、器用な猿め!」
 怒り任せに剣を投げるも、一瞥されることなくリョカになぎ払われる。
「ルドマンさん、この度の試練は彼による妨害が酷すぎます。このリングは預けますので、今一度、やり直しを提案いたします」
「ふむ、預れと……よいのかね?」
 リョカはリングをルドマンに差し出し、強い視線で見つめる。
「ええ。このまま彼がフローラさんの婿になるというのは、アンディさんに顔向けできませんから」
「あいわかった、預ろう」
「そんな! ルドマン殿! こんな賊の言うことを聞くのですか!?」
 一転して驚愕するリベルとやはり表情一つ変えないルドマン。
「リベルさん、もう一度、次こそは卑怯な方法を使わず試練に挑んでください!」
「この山猿が!」
 激昂したリベルはリョカに殴りかかるも、ひらりとかわされ、逆に手首を強く昆で打たれる。
 大振りな蹴りを放つもリョカは軸足の膝の裏を蹴り、体勢を崩したところで胸を突き飛ばす。
「ぐぁ!」
 無様に仰向けに倒れたリベルの喉元にはリョカの昆が向けられていた。
「動くな。暫く喋れないようにするくらいわけない」
 声門を穿ちかねないリョカの勢いにさすがのリベルもぎりりと奥歯を噛む。
「ふぇ~、坊主、いつのまにか強くなったな……」
 明らかな戦闘能力の違い、経験の差だろう。衛兵達も遠巻きにするに留まり、成り行きを見守っていた。
「私怨かね? リョカ君」
「かもしれません」
 いきり立つ気持ちを抑えようと静かな呼吸を心がける。けれどフラッシュバックする記憶が昆の先を定まらせない。
「まあいいだろう。ただし、試練のやり直しはしない」
 まだ光明はあるとリベルの顔が明るくなり、逆にシドレー、リョカは険しくなる。
「フローラの婿候補は決まったよ。リョカ君。君だ」
「え?」
「なに?」
「なんやて……?」
 ルドマンのやはり無表情に、周囲の人間の驚愕が色濃く見えた。
「待ってください、ルドマンさん。どうしてそうなるのですか? この男は試練も指輪も……」
 言いかけて険しくなるリベルは、ルドマンが何故そんなことを言い出したのか、理解に至り始めていた。
「まさか……、今渡したのを……」
「うむ」
「馬鹿なことを! この男は私から指輪を強奪したのですよ? 貴方も見て居たでしょう! そんなことを認められるか! 素性も判らぬ山猿を、それも指輪を強奪するような悪漢にどうしてそんな名誉ある地位を与えるというのです!」
 真っ赤になって反論するリベルだが、ルドマンは態度を変える様子もない。
「リベル君、君がどのようにして指輪を手に入れているか、私は知っている」
「おう! このヤロウはとんでもねーことしやがったんだぞ! キラーシェルの養殖場がめちゃくちゃになっちまったんだ!」
 ここぞとばかりにリベルの悪行を糾弾しようとするシドレー。リベルは苦々しそうに唇を噛む。けれど当のルドマンはそれほど気にしている様子もない。
「方法は問わず、試練を潜り抜けて指輪を手に入れて私に手渡すこと。私は君の手段を選ばぬ方法を責めたりはしない。けれど、それと同じようにリョカ君の行動も認めねばなるまい? 彼はアンディ君と共に水の試練、炎の試練を潜り抜けた。そして今、彼は私に二つのリングを手渡し、私もそれを受け取った。ならば、彼が婿となってしかるべきであろう?」
「しかし!」
「そうですよ。僕はそもそも試練に参加していない」
「君は試練の参加者として訪れたとメイドから聞いている」
「だから、あれは間違いで……」
「取り消しでも構わぬが、そうなればリベル君が最有力候補になるな?」
「……!? ルドマンさん、貴方は何を考えているんですか? そもそもこんな馬鹿げた試練でフローラさんの結婚相手を決めるなどと! フローラさんの気持ちを考えたことはあるのですか!」
 これまで溜めていた気持ちが堰を切る。試練だの名誉市民だのが当人の心よりも優先される理不尽さ。特にフローラはアンディという相思相愛の相手を失って間もない。リョカは我慢が出来なかった。
「今回は十七人」
「はい?」
「わしのときは六十八人、行方不明者を考えればそれ以上だったな」
「何がです?」
「試練に挑んで命を落としたものの数じゃよ。今回少ないのは水の試練をクリアできなかった者が多かったからだろう。ある意味リベル君のおかげだな」
「な……」
「名誉市民はサラボナの街を守る必要がある。未曾有の大災害、大災厄から守る義務がある。その代わりに名誉市民としての特権が与えられる。一族がその恩恵に与る以上、個々の気持ちや同情でおいそれと覆すわけにはいかない。フローラもそれを重々承知している」
「ですが……気持ちは……」
「これまで娘が享受してきた富も幸せはその対価。我々ゴルドスミス家はサラボナから富と名誉を、サラボナに平和と繁栄を与えあう立場にある」
「……」
「君がここへ来る途中にすれ違った人達はどんな顔をしていたかい? 怒っていたかい? 悲しんでいたかい? 違うだろう。この街を守ることは、その笑顔を守ることなのだ。君は、むしろ君こそが理解すべきことだ」
「わかりました。けれど、僕は旅の途中にあります。フローラさんと結婚することはできません」
「ふむ、その旅はパパス殿のことが関係している、そうだね?」
「はい」
「君はパパス殿が何を探していたか知らない。けれど私は知っている」
「えぇ!?」
「もし、君がフローラの婿となるのなら、それを教えよう。しかし、あくまでも断わるといのなら、君はパパス殿の足跡を辿ることもできないだろう」
「どういう意味ですか?」
「おいおい、おっさん、いくらなんでもそれは言いすぎやろ? いくら金持ちやからってそんなことできっこないで? ほら、リョカ、行こうで」
 さすがに大げさな物言いのルドマンに胡乱じはじめたシドレーは、これ以上の面倒ごとはゴメンとリョカを促す。
「ところがそうはいかん。このルドマンという男はそれを実行できる立場にあるのだからな……」
 するとシドレーの前にいつの間にかインディと女性が立っていた。
「おぉ、何時の間に」
「リョカよ。貴様がパパス殿の足跡を辿るつもりならグランバニアに行く必要があるだろう。だが、あの国に行くには海を渡らねばならない。この男なら、貴様一人船に乗せない程度わけもない。というより、貴様を船に乗せることでの利益など、ルドマンに睨まれることと比べればスライムに殴られた程度も痛くない」
「インディさん……」
 冗談を言っている様子もなく生真面目な表情のインディ。それはルドマンも同じこと。
「パパス殿に関わることも同じ。真相を知る者の口を閉ざすなど、間者を使えばどうともなるだろうな」
「おいおいあんさん、どっちの味方だよ?」
「俺は事実を言っているだけだ。安易に断われば、世界からつまはじきにされるだろう。リョカはそれを知らないだろうから、こうして教えに来てやったまでだ」
「ぐぅ……」
 にわかに信じられないシドレーだが、もし本当だったら? その気持ちが不安を醸す。
「僕は……」
 もしここで判断を誤ればどうなるのか? それを安易に試すつもりもなく、かといって頷くこともできない。その一方でルドマンが言うパパスの目的。
 母を捜している一方で、別の目的もあったらしい。それはかつての船旅の際、ルドマンと何か難しい話をしていたことを思い出すことで結びつく。
 自分の知らない父の目的。それを知ればどうなるのかなどわからないが、気持ちがざわめく。パパスのことを、彼の生きた証を知りたいと。
 はいともいいえともいえない。喉が渇き、汗が滲む。先ほどのまでの憤りもおさまり、代わりに困惑が頭を揺らす。
 何か助け舟はないかと視線を彷徨わせるも、皆リョカの決断を待つ瞳だけ。
「まだわからない……」
 先送りが出来る状況でもないだろう。もし違えば全ての道が閉ざされるだけ。けれど、覚悟もなくこの窮地に落とされたリョカにそれを探すのは酷というもの。時間だけが過ぎていく。

続く

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