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試練の終わりに その7

 腕組みをするビアンカは、困惑と苛立ちの篭った眼差しをリョカに向けていた。
 戻ってきたリョカの顔つきを見て直ぐに何かあったのかは理解できたが、まさか一方的とはいえ結婚の約束を取り付けてきたとは、考えが及ばない。
「ビアンカ、ゴメン、また変なことになってしまって……」
「というか、なんで断わらないのよ? それともリョカはフローラさんと結婚したかったとか? そうよね、フローラさんは美人だし、スタイルも良いし、教養も地位もなんでもあるもの。私のような山猿娘よりもずっといいかしら?」
「そんなことない。僕はビアンカと!」
「ならどうして断われないわけ? 期限付き? 三年たったらまたここへくるだけで綺麗なお嫁さんがもらえるなんて言われて、断わる理由も無いわよね?」
「そんな言い方、よしてくれ」
「だってそうでしょ? 断わらないってことはそういうことじゃない!」
 感情的になるビアンカを宥めることなどできそうにない。そもそも、ビアンカのような一般市民ではルドマンの脅威がしっくり来ないのだ。それはリョカも同じだが、インディの一言が、不安にさせる。
「ほう、痴話げんかか。席を外そうか?」
 ひょっこり戻ってきたインディは、険悪な雰囲気に口をへの字に結ぶ。
「いやいやいや、インディはん、ちょっくらビアンカさんに説明してやってくれまっか? ほら、リョカも俺もビアンカはんもルドマンのおっさんのこと、ただのお金持ちのハゲとしか見えないわけやろ? そこを行くとあんさんは経済というか世相に明るいっぽいし……」
「ふむ、まあ別にこのままでも構わんがな。グランバニアに行けば問題などないだろうし」
「そんな殺生な……」
 いざというときに頼りにさせてくれないインディに、リョカもシドレーも情けない顔付きになってしまう。
「というか、リョカよ。痴話げんかをしている時間があるのなら、さっさとグランバニアへ行く計画を立てるべきだろう?」
「けれど……」
 ちらりとビアンカを見るリョカ。彼女は未だに怒り収まらずといった様子で、彼を見る視線は鋭く冷たいもの。とはいえこのまま苛立ちをぶつけるだけでは前にも進めないと、ビアンカはふぅと息を吐き、椅子に座って気を落ち着かせる。
「……リョカはどうするつもりなの?」
「僕はグランバニアに行く。そしてまずは父さんの足跡を辿るよ」
「そう。その次は?」
「わからない。父さんが探していたものがなんなのか、そしてルドマンさんとどう関係があるのかがわからないと、僕にはどうにも……」
「わからないわからないって、リョカは自分で考えてるの?」
「考えてるさ。だけど、本当にわからないことだらけで、僕だって困ってるんだ!」
 穏やかに責めるビアンカに、今度はリョカが声を荒立てる。珍しく激昂するリョカに、一同目を丸くしてしまうのは、彼の普段の温厚というか、優柔不断な姿しか知らないため。
「ま、まあそうやな。なんでもかんでもリョカは、リョカはで、坊主かて悩むのもしゃーないわ」
 シドレーが執り成しをするも具体案は無い。そもそも二人の苛立つ原因が違うのだ。
 リョカにとっては父のことが根底にあり、ビアンカにしてみれば、リョカが結婚の約束を断わらなかったことがある。互いにそこに気付くことができておらず、ただ傷つけあうだけの話し合いとなっていた。
「……ごめんなさい。そうよね。リョカだって辛いことあるし……。少し頭を冷やしてくる」
 シドレーの執り成しが功をなしたというよりは、言葉も出口も見つからないこの狭い空間から逃れたいという気持ちが持ち越しを選ばせる。
 ビアンカは唇を震わせながら、部屋を出て行った。部屋を出るまでは泣かないことが、彼女の精一杯の強がりだろう。
「ああ、そうやな。んじゃあ、リョカも船のチケットの手配をだな……」
「ゴメン、シドレーそんな気分じゃないよ……」
 頭を振り、ベッドに仰向けに倒れるリョカ。目覚めてからこれまでの矢継ぎ早の出来事が彼に心理的な眩暈を起こさせていた。
「せやかて、早いほうがええと思うで」
 気分転換にでもと外に出したいシドレーは、下手にでながらリョカを伺う。
「そうだな。この竜の言う通りだ。今出来ることはそうして頭を垂れることではないぞ?」
「それはわかっていますが……、今はこうしていたいから」
 両腕で視界を覆い、だらんと脚を投げ出すリョカ。普段の生真面目な様子も今は見られず、心底落ち込んでいるのが見て取れる。
「ま、リョカも病み上がりやし、俺がちょっくらチケット手配してくるから、まあ、まっとき……」
 仕方なしにとシドレーは手提げ鞄を手に、窓からひょいと飛び出る。
「ふむ。あまり期待を裏切るなよ?」
 インディはそう言うと、女性と共に部屋を後にした。
 宿屋の一室に一人残されたリョカは、暫く唸ると、手元にあった枕を思い切り壁にぶつけた。

++

 真夜中のことだった。
 最近、不眠に悩まされているルドマンは、テラスで一人ワインをくゆらせていた。
 飲酒の習慣の無い彼だが、その日だけは違った。
 つまみのカシューナッツを子供のように上の投げると、頬でキャッチ失敗。
 床に転がったそれを拾いに椅子を立つと、ぼんやり影が見えた。
 月は雲に隠れ、星もまばらに見えない夜、その人影がそんな近くに来るまで気づくことは出来なかった。
「誰かな? まあ座りたまえ。グラスも用意させよう」
 衛兵の警備を潜りここまで来る相手に今更慌てる意味もない。ルドマンはメイドを呼ぶとグラスと水を持って来るように言う。
 メイドはその人影を見て驚愕した様子だが、ルドマンが「お客様に失礼だ」と言われおっかなびっくりながらに準備をする。
「何故、あんな条件を?」
 低い声だった。

続く

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