FC2ブログ

目次一覧はこちら

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

テルパドール その4

 リョカが通されたのは地下の庭園だった。
 石に囲まれたその部屋には青々とした草木の生えている地面。潤沢に湧き出る水と土による地面のおかげだろう。砂漠のまさにオアシスといえる場所であった。
 部屋の中央、レンガの敷き詰められた場所に白いテーブルと椅子、そして女性が居た。
 後ろ姿しか見えない彼女。漆黒の、吸い込まれそうな黒髪をさらりと靡かせる。白いシルクのローブは大きく肩、胸元、背中を開ける造りで褐色でハリのある素肌を惜しげもなく曝す。
 立ち上がったところで髪をすっとかきあげる動作が色っぽく、リョカは場違いなときめきを覚えてしまう。
「アイシス様、連れてまいりました」
「ご苦労、カシム、さがりなさい」
「は……。ささ、リョカ君、アイシス様に失礼の無いようにな」
「はい……」
 すでにあがりきってしまったリョカは進むべきか立ち尽くすべきかわからない。頼りのカシムもそそくさと階上へと戻ってしまう。
「どうかしまして? さ、こちらへ……」
 カップをそっと持ち上げる彼女は、リョカが来るのを待っている様子。
「は、はい」
 リョカは右足と右腕、左足と左腕を一緒に振るぎこちない動作でアイシスの前へと走る。
「変わった人ね……」
 そんなリョカをくすっと笑うアイシス。紫のべにが白いカップについているのが見えた。
「あ、あの、僕、いえ、私はリョカ・ハイヴァニア。父の遺志を知りたく、その足跡を辿る旅をしておりまして……」
 深い色合いの瞳、そしてすらりと高い鼻。リョカをわずらわしい太陽のように見上げる彼女は、これまで会って来た女性の中の誰とも違う美しさを持っていた。
「……」
 思わず声を失うリョカに、アイシスはふとため息を漏らす。
「リョカ……。懐かしいわ。この前に、パパス殿と来られたときはまだこんなに小さかったのに、それが今はこんなに精悍な男になって……。どうぞ、喉が渇いているでしょう?」
「……そんなこと、ありませんよ……」
 瞬きのたびに震える睫。細く青い海のようなターコイズブルーの瞳に見抜かれると、リョカは言葉が続かない。
 リョカは彼女をまっすぐに見ることができず、用意されたグラスを啜る。
「それで、貴方は伝説の勇者様なのかしら?」
「いえ、僕は例の装備を持つことは出来ません」
「そう……、パパス殿の子でも無理なの……」
 アイシスは落胆した様子もなく、ただリョカを見つめる。彼女がそっと舌なめずりをしたとき、彼はぞくりと寒気を覚えた。
「こんな話はご存知? この世界を暗澹たる稲妻が貫きし時、高貴なる者が天にもっとも近き場所で勇者として目覚めるであろう。わらわの予想ではまだ勇者は生まれていない……。思わない?」
「ええと……」
「きっとそう。なぜなら、いまこそまさに天高き塔を作り上げている時だから」
「作る? もしかして、外で石を切っていたあれは……」
「そう。我がテルパドールにこそ勇者を迎える資格がある。その証明に塔を建てるの……」
「それはそれはまた……」
 外での作業はどうやら途方も無い塔の建築が目的らしい。一体どれだけのお金と人員が必要なのか、そして、たかが言い伝えごときでそれを始めてしまう女王に眩暈を覚えてしまう。
「あ、あれ?」
 その眩暈はどうやら脚にきたらしい。ふとした弾みでリョカは椅子から転げ落ちてしまった。
「ふふ……。勇者は高貴な身分から生まれ落ちるもの……。わらわと貴方なら、なんの問題もない……」
 倒れたリョカにそっと寄り添うアイシス。先ほどからねっとりとした視線を絡ませてきたのは、おそらく品定めという目的があったからだろう。
「あ、あの、これは一体……」
 びりびりと痺れてくる感覚に薬を盛られたことに気付く。こうなってはたかが女一人相手でも抗うことができない。
「貴方はパパス殿と同じく精悍な顔をしている……。出自も悪くない。名声だって世に響くほど……。さあリョカ、わらわと一つになりましょう。そして、この世界を救う勇者を造りましょう……」
「え? え?」
 戸惑うリョカなどお構いなしにアイシスは上着を脱ぐ。下着姿になった彼女の褐色の肌、山なりにカーブを描く乳房が揺れ、そこにちょこんとある乳首にリョカに視線は向かってしまう。
「あ、あの、僕はしがない旅人でして……そんな大層な身分ではなくてですね……」
 リョカも上着を捲られ、鍛え上げられた腹筋、胸板をさすさすとさすられる。
「たくましい……。勇者の父として相応しい肉体。ここにわらわの知恵と美貌が混ざり、完全無欠の勇者が出来上がるのね……。さあ目を閉じて、リョカ、一つになりましょう……」
 リョカの頬にアイシスの手が触れる。
「僕は……そんな……」
 目を閉じたとき、身体にふわりと風の精霊がまとわりつくのを感じた。すると同時に身体の痺れが消える。
「きゃっ!」
 起き上がったリョカに、アイシスはしりもちを着いてしまう。
「あ、あれ? 身体が動く?」
 身体に自由が利くのならアイシス一人など相手にならない。リョカは彼女に上着を渡し、手を伸ばす。
「……クッ!」
 アイシスはその手を払うと、手を強く叩く。
「曲者じゃ、であえ、であえ!」
 アイシスの声に階上が騒がしくなる。そしてやってきたのは武装した兵士達。
「アイシス様、何事でありますか!」
「この者、色に惑ったか、わらわにこのような辱めを!」
「いっ!」
 誤解とばかりに両手を振るリョカだが、状況が状況だけに信じてもらえるはずもない。そもそも女王相手に無作法を取ったのだ。疎いリョカにはわからない罪を犯していることに気付いていない。
「……まったく、世話が焼ける奴だな……」
 今度は時の精霊がまとわりつく。そして気がついたときには……。

「あら、リョカ?」
 港の安い宿だった。
 驚いたビアンカは彼を見て目を丸くする。そして周囲を見て再び驚いている様子。
「あ、あれ? ここは? 私達、兵舎の待合室で……」
「ん? あれ? リョカやん、それにビアンカはんも。もう調べ物は終ったん?」
 続いてシドレー、それにガロンも顔を出す。
「え、ええと、皆どうしてここに? というか僕もどうしてここに?」
 わけのわからない状況にリョカも困惑気味。
「説明は後だ。それより船に乗るぞ。さあ、急げ。追っ手が来るぞ」
 そんな彼らを急き立てるインディ。
「追っ手? リョカ、おまん、なんかやらかしたんかい?」
「ぼ、僕は別に……」
 と思いつつ、おそらく先のことなのだろう。なぜかアイシスを怒らせてしまい、追われる身となったのだ。
「まったく、色男さんにも困ったものね」
 インディのお付の女性がフンとバカにした様子で言うので、ビアンカの表情は険しくなる。
「ちょっとリョカ、一体何をしてきたのかしら? 確か女王様と謁見してきたはずよね?」
「ご、誤解だよ、僕からは何もしてないってば!」
「じゃあ何をされたのかしら?」
「おいおい痴話げんかは後にしろ。少なくともこの国に居る限り、リョカといえど曲者だぞ。とにかく海に出るしかない」
「は、はい!」
 これ幸いと荷物をまとめるリョカ。ビアンカはまだ話は終ってないとご立腹だが、皆に急かされ荷物を背負う。シドレーは例の石ころを担ぎ、悠々と窓から飛び去る。
「忘れ物はないな? 行くぞ」
 インディの合図に皆宿を飛び出した。

 急ぎで船に乗るリョカ達は足元を見られ、通常の倍の料金を支払い、東行きの船へと駆け込んだ。
 次の日、リョカの手配書きがテルパドール中に張り出されたことを知らないのは、幸いなのかどうか……?


続く

彷徨いし者達~目次へ戻る
トップへ戻る

Trackback

Trackback URL
http://13koharu.blog73.fc2.com/tb.php/685-aa5d614b

Comment

Comment Form
公開設定

プロフィール

小春十三

Author:小春十三
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ

創作検索ぴあすねっとNAVI
dabundoumei
trt
オンライン小説/ネット小説検索・ランキング-HONなび  
リンク予定


二次元世界の調教師様のサイトです。



無料アクセス解析
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。