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船旅 その3

 船旅の終わりを告げる汽船が上がった。
 客室で釈明に追われていたリョカと、ようやく機嫌を直しつつあったビアンカは、気分転換に甲板に上がる。
 ネッドの開拓地。
 グランバニア大陸の南西に位置するこの土地は、一言で表すなら未開の地。
 温暖な気候のせいか大型の魔物も多く、また鬱蒼と茂った密林と毒性の強い沼地のせいで、これまではあまり人の手が入っていない。
 最近は武具の改良が進み、魔物に対抗する力をつけ、また、毒の沼の無害化の研究も進んでいる。
 グランバニア国の政策として、開拓者を内外から求めていることもあり、最近は人の出入りも多くなっていた。船の客の層も野心に燃える冒険者が多かった。

 桟橋を降りたところで、リョカは空を見る。
 曇った空をゆらりと舞うリントブルムの姿は旅路の門出にはあまりめでたくない。
「む? 地面が揺れるな」
 そんな気持ちでいると、後ろでインディの慌てた声がした。
「大丈夫ですか? インディさん」
 慌てて荷物を肩代わりする。
「すまんな。船は久しぶりでどうにも勝手がつかめない」
「慣れてないとそういうのありますからね」
 自分もかつて船から降りるたびに地面が揺れているような錯覚に陥り、パパスに笑われたことを思い出す。
「そっか……ここが、父さんの……」
 ふと思い起こした記憶の片鱗が、リョカの頬を涼しくさせた。
「リョカ?」
「うん、大丈夫かい? さ、いこう」
 リョカは頷くと、ずんずんと歩を早めた。
「おーい! 俺らわすれんな~」
 船旅の作業のおかげでかなり軽くなった荷物をガロンの背中に掛け、シドレーも慌てて二人を追っていった。

**

 リョカ達はインディと別れた後、開拓者向けの街で一服していた。
 久しぶりの野菜と果物、魚でないタンパク質に食も進む。たかが一週間とはいえ、魚介類の塩漬けにはうんざりしたものだ。
「う~ん、久しぶりに食べるトマト、美味しい!」
 ビアンカはサラダ、鶏肉のソテーにレモン酢をめいっぱいかけていた。
「ビアンカ、すっぱくないの?」
「ふうん、なんかとんでもなく酸っぱそうなんやけど……」
 テーブルにあったレモン酢の瓶を逆さにしているビアンカに、リョカもシドレーも口をすぼませる。
「え? 別に?」
 しかしビアンカはきょとんとした様子で二人を見る。
「まあいいけど……」
 もしかしたらドレッシングのように味を調えてあるのだろうかとひと舐めしてみるリョカ。けれど、レモンのきりりとした酸味がしただけだった。
「……ねぇビアンカ変じゃないかな?」
「……ん~、田舎の村に居たときは普通やったしな……」
 ぼそぼそと話す二人をよそにビアンカはさらにサラダをオーダーし、元気一杯に食べている。
「……ほら、ビアンカはんも魚料理に飽きててあんま船で食わなかったとか……」
 そう言われて思い起こすも、船でもビアンカはしっかり食べていた。
「んなら、ほら、栄養が足りてない分を補おうっていう身体の働きじゃね? リョカもちゃんとあおいもの食べないといけませんよ。おほほのほ」
「もう、シドレーったら……」
 考えてもわからないとちゃかすシドレーだが、その言葉に一理あるかもと、リョカもサラダをがっちり食べる。船旅の後は緑のものをよく取るようにと父に教わったのを思い出しつつ……。

 その夜はネッドの開拓地で宿を取った。
 船旅の疲れと、昼頃からの登山の危険を考えてのことだった。
 ビアンカも疲れていたらしく、夕方頃からうとうとしだし、早めのシャワーを浴びるとすぐに床についた。
 リョカは父の剣の手入れをしつつ、ベッドに入った……。

**

 朝日が夜空に今日を灯す中、リョカ達は宿を出た。
 山道への地図とチゾット村のコンパスを片手にいざ父の生まれ故郷へ。
 ぼんやりと流されるだけの日々を決別すべく、リョカは歩き始めた。

 グランバニア王国へ行くにはチゾット山を越える必要がある。
 チゾット山脈はグランバニア大陸を南北に縦断する山脈であり、古い次代では何かに使われていたのだろうか、迷路のようなつくりになっている。
 その中腹には平坦な土地があり、山頂からの湧き水と山羊などの放牧で人が住める環境となっており、チゾット村とされている。
 現在はグランバニア領となっており、チゾット村の高級食材は大事な貿易品目である。
 グランバニア山脈を越えるのなら三日程度を目安にするべきとのこと。
 一日目は山頂の小屋で夜を明かし、二日目に中腹のチゾット村へ行く。そうすれば三日目にはグランバニアへ着くだろうと。
 直線の距離ならば一日で往復できるであろうシドレーだが、山頂に吹く突風とバルーンカイトに惑わされては方向を失い、渋い顔つきで戻ってきた。

「さて、んじゃ張り切っていこう!」
 先頭を行くシドレーはいつものごとくガロンの背中に乗っまま。
「貴方も自分の足で歩きなさい!」
 そんな彼のたすきがけ鞄を引っ張るビアンカ。
「ぐぇ!」
 引き摺り下ろされたシドレーは仕方なしにとぼとぼ歩く。
「……なんか歩きづらいんよね~」
 もともと二足歩行向きの体躯ではない彼に山道はきついのだろう。尻尾を引きずりながら歩いていた。

「ねぇ、リョカはなんか見覚えとかある?」
 山道を行きながら、ビアンカはリョカを伺う。かつては父と共に歩いたであろう道に、何か手がかりが無いかと思ってのこと。
「ん~、わからないな。ただ、匂いが少し……」
「懐かしいとか?」
「湿っているかな」
 休憩するとき、リョカは地面の湿り気を確かめるように抓んでおり、ふんふんと匂いを嗅ぐなど妙な仕草をしていた。
「水源が山頂から当然じゃね?」
「でも、そういえばネッドの開拓地で、水不足が心配とか言ってたわね」
 開拓の真っ最中であった港町では井戸堀りの人員を急募する張り紙があった。人手が増えたことで水が必要なのだろうが、それとは別に日照りの影響もあるらしい。
「あまり人の手が入ってない土地みたいだし、用水が出来てないのかな」
「リョカ、そういうの詳しいん?」
「前にオラクルベリーで仕事をもらっていたときに土木作業もこなしたからね。専門的なことは知らないけど、死活問題だし」
 フンフンと頷くシドレーは本当にわかっているのだろうか? それはさておき、暫くして洞穴が見えた。
「ここを通るのかしら?」
 洞穴を前にして立ち止まる一行。道を行けば山小屋があるだけで、ここを通る以外に考えられない。
「んでも、もう日暮れやしな……」
 空を見ると赤や青のダックカイトが飛んでいた。
「うひひ……こんなところにどうしたんだい? お困りかえ?」
 一同、その声に振り返ると老婆が一人。何時の間に背後を取られたのか、どこから現れたのかわからず、たかがしわくちゃな老婆一人に皆怪訝な顔になる。
「え、ええ、僕らグランバニア山脈を越えてグランバニアへ行く予定でして……」
「うひ、そうかい。けどもう日暮れ時じゃの。夜に山脈を越えようとすると死山の王に魅入られるぞえ? 若くして死にたくなければ悪いことはいわね、泊まって行け」
「ええと、泊まるってどこに?」
「ほれ、アソコじゃ」
 老婆はくいっと顎で小屋を示す。
「おばあさん、あそこに住んでいるんですか?」
「ひひ、そうじゃて。まあ、悪いことは言わん。お主らそんなに金もってらんじゃろうし、少し労働してくれたら安くしてやるぞえ」
「はあ……」
 老婆は先に立って歩き出すので、リョカもビアンカも顔を見合わせる。山頂付近の吹きさらしの中で休むのも辛いと、後を追った。
「なんや、金取るんかよ……」
 銭勘定に煩い竜はぶつくさ文句を言いながらそれに続いた。

続く

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