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グランバニア その2

 サンチョに付き添われやってきたのは赤い絨毯の敷かれた厳かな場所。いわゆる謁見の間だ。
 いくら只者ではないにせよ、国王と謁見するに至る身分がパパスにあったと思い至らないリョカは、ガチガチに固まっていた。
 しかしずんずんと進むサンチョに促され、絨毯の道を外しながら仕方なく進む。そして告げられた真実……。
「おお、リョカか。大きくなったな……」
「は、はい、あの、恐悦至極……、なんともうしましょうか」
「ふふ、久しぶりとはいえ、叔父と甥、そう畏まらんでもよかろう」
「オジトオイ?」
「さようで。オジロン王は坊ちゃまの叔父でございますよ」
「叔父? ええと、父さんの弟でいいのかな?」
「はい」
「えと、そうなると、父さんは王様のお兄さん?」
「ええ、国を出る前は国王でしたが」
「父さんが」
「おじ様が……」
「坊主の父ちゃんが……」
「「「グランバニアの先代の王様!!!」」」
 馬車のまま王宮内に通されたときから不穏な空気だった三人だが、現王であるオジロン・グランバニアにそう言われ、改めて驚きを受けた。
「リョカよ。よくぞ戻ってきてくれた……。やはり兄は戻らなかったか。いや、ラインハット国、ヘンリー王より親書を受けていたが、にわかに信じがたかったのでな……」
「は、はい……。父は敵に質を取られ、私と友人達を守る為に……」
「うむ、兄らしい、愚かな最後だ……。あの人の帰りを待つものがどれほどいたのかと……」
 がっくり肩を落とすオジロン。若干皮肉めいた言い回しも、兄を惜しんでなのだろう。
「だがこうして君が戻ってきてくれたのであればな。リョカよ、君は先代、パパス・グランバニアの後を継ぎ、グランバニア国の国王となるのだ」
「へ?」
 寝耳に水というべきか、オジロンの言葉の意味がわからない、伝わらないリョカはいつのまにか遠巻きに控えていたビアンカ、シドレーを見る。しかし彼らも理解できていないようでぶんぶんと顔を振る。
「ええと、どういう……」
「うむ、リョカが戻ったということは正統な王家の後継者が戻ってきたということだ。君が王となり、グランバニアを導いてくれ……」
「は? あ、えと、いや、それは……」
「オジロン王!」
 リョカが無理と言いかけたところで謁見の間に怒声が響く。皆が声の方を振り返ると、初老をとうに越えたであろう男性がやってくる。
「オジロン王。この若者に王位を譲るなどと、正気ですか? 流浪者ともわからぬ身なりの者、そもそも本当にパパス殿の子かもわからない」
「無礼ですぞ、ドイル大臣。坊ちゃまは、リョカ様は先代パパス殿の忘れ形見、このサンチョが保障いたします」
「ふん、大方裏でそれらしいグランバニア人を仕立て上げ、リョカを名乗らせているだけではないか? そういえば軍師殿も生粋のグランバニア人ではありませんからな」
 ドイルは彼の栗色の髪を見てふんと鼻で嗤う。
「軍師? サンチョが……」
 一方、当事者のリョカは新たな事実に目を丸くする。
「聞けば軍師殿は先代の旅に同行していましたね? その後、パパス殿は謀殺された……。そして都合よくその忘れ形見を連れてきた……。なんとも狡猾な」
「大臣、何が言いたいのですか!」
 さすがにその言わんとしていることに気付いたサンチョは声を荒げる。
「まあまて、サンチョ。ドイル大臣、お主はこのリョカがニセモノだというのかな?」
「本物という確証がないのですよ」
「お主の言う通りサンチョだけがそういうのであればそうかもしれないが、私もこの若者がリョカだと信じている。この者には亡き兄の面影がある」
「私は身内ではありません。そういう心象というものが理解できませんな。それに、国民もまた同じことを考えるものがいるでしょう。客観的な確証もなしに頷くことは出来ません」
「ふむ。大臣は不服なのだな? ならば申してみよ」
「はい、おそれながら……。今、我が国は窮乏に瀕しております。東国戦争への見返りなき参戦、グランバニア山脈に新たに発生した魔物、ネッドの開拓地の進行具合、田畑の不作、何れも解決が急務でしょう。そんな中、不見識な若者を王にして解決できるのか? 私には信じられませんな……」
「しかし、それはわしとて解決策を提示できぬこと。まさかそれをリョカに解決せよとでも言うのか?」
「いかにも」
「大臣!」
 現王すら愚弄する言葉にサンチョの声はさらにあらぶる。
「よい」
 だが、オジロンはそれを制し、頷く。
「大臣の言わんとしていることもわかる。正統性を主張することで民に不安を与えるだけならば、それもまた愚行か。だが、先代の王の子が戻ってきたことを伝えるのは問題なかろう?」
「いえ、それも控えるべきかと」
「なぜ?」
「はい、確かに先代の王は民の人心を掴んでおりました。ですが、まだ素性も判らぬ、自称先代の王の子であるだけの彼を不用意に王子と発表されても、募る期待の分だけ裏切られたときの気持ちも大きくなるかと」
「ドイル大臣はリョカを兄の子と認めたくないのだな」
「いえ、その者がリョカであると認めるための材料がないのですよ」
「ふぅ、仕方ない。大臣の言うこともわからぬでもない。すまぬがリョカ、今しばらく兄の子ということは内密に願う。よろしいか?」
「あ、はい……はい、むしろそうさせてください」
 リョカはむしろそのほうがありがたいと、もろ手をあげんばかりに頷く。
「それでは政務がありますゆえ」
 その様子に肩透かしをくらったようなドイルは、踵を返して去っていった。
「まったく、ドイル大臣も……」
「サンチョ、あれはあれで有用なのだ。赦せ」
「はい……」
 仕方なしに頷くサンチョだが、それでも怒りは収まらない様子。真っ赤な顔でじだんだを踏んでいた……。

**

 その夜、リョカ達は城内の宿に泊まることとなった。
 サンチョとしては王宮内で寝所を設けたかったが、旅人風情を厚遇することで兵士に噂がたたぬようにとドイルに断わられたせいだ。
「まったくドイル殿め! 旦那様の子である坊ちゃまになんたる態度!」
「まぁまぁサンチョ……」
 城内の酒場の一席でくだをまくサンチョは、なれぬアルコールも入ってさらにヒートアップしていた。
「ふふふ、でもサンチョさんも元気そうで安心したわ」
「ええ、ええ、あのちいさなビアンカちゃんがこんなに美人になってくるなんて、私も本当に驚きです。で、坊ちゃまとはいつご結婚を?」
「ええと……それがまあ……その」
 お互いみあうビアンカとリョカ。この話題になるとビアンカは不機嫌になり、リョカはもうしわけなさそうに小さくなる。
「まあ、なんやろうな?」
 器用にコップを掴むシドレー。中身は珈琲だった。
「そのためにこうしてグランバニアくんだりまでやってきたわけだな?」
 すっと椅子が引かれると、どかっと座る青髪の男性。
「あれ、インディさん。貴方もここに?」
「ああ、奇遇だな?」
 インディは指を鳴らすとボーイを呼び、ウイスキーをロックで頼む。
「もう、インディったら……」
 例の女性は離れたところに椅子を構えて彼を見る。
「ん? こちらは?」
「ええ、僕を旅の途中、何度も助けてくれた人です。インディさん。冒険家だそうです」
「ほうほう、これはこれは、坊ちゃまを助けていただいて、本当にありがとうございます」
 上機嫌なサンチョはインディの手を取り、笑顔ではなしかける。
「ああ、そうだな。まあ、そのなんだろうな」
 しかし、インディはばつのわるそうに視線を逸らす。
「で、リョカよ、今度はまた大変だな。貴様が……父君の子と認められるのはな」
 気付いて言い直すインディに、酔っ払いの三人はたいして気に留めていない。
「ええ、どうにもグランバニアの現状はあまりよくないみたいで……。それに、僕にも気になるところがいくつかあって……」
「ほう? たとえば?」
「どうも話を聞いていると、問題の全てはどれもつい最近、それも立て続けに起きたようなんです。田畑を食い荒らすキリキリバッタ、メダパニバッタの群れ。グランバニア山脈の新たな魔物。開拓地の進行具合……」
「それが何か関係あることだと?」
「ええ、詳しくはまだわからないんですが、調べてみる価値はあるかなと」
「なるほどな。ああ、それからサンチョ殿。つかぬことを聞くが、先の戦争での被害とはいかほどなのだ?」
「先の戦争、憎きラインハット国のことですな。ええ、覚えていますとも。我ら魔法部隊、精鋭をもってして臨み、今一歩というところで卑劣にもすっぱを使われ……」
 つんつんと肘を突く女性にインディは渋い表情。
「だが、甚大な被害はなかったと聞くが? 遠征費がグランバニアの財政を圧迫するまでになるとは思えぬな」
「ええ、我が魔法部隊の試験を兼ねておりまして、ミラーコーティングされた盾を……っと申し訳ないが、本国の防衛に関わること、いくら坊ちゃまの恩人でも話せませぬな」
「ふふ、軍師殿の口を滑らせるにはアルコールが足りなかったかな? で、リョカよ、お前はどうするのだ? まさかこのままおめおめと引き下がるわけにもいくまい? それともサラボナに戻り名誉市民にでもなるのか?」
「名誉市民? 坊ちゃまがなぜサラボナの?」
 サンチョは真っ赤な顔をしながら身を乗り出す。彼も名誉市民のことは知っており、それが大変栄誉のある立場であるも理解している。ただし、居をサラボナに構えるとなれば、グランバニアとの二足のわらじもはけない。彼としては聞き逃せない話題であった。
「ああ、サンチョ。実はかくかくしかじか……」

「なるほど、坊ちゃまがルドマン殿から指名を……」
「うん。まさかあんな結果になるとは思わなくて……」
「しかし不思議ですな。何故ルドマン殿は坊ちゃまを? 彼は旦那様のことを知っておられますし、当然坊ちゃまのことも……。それにもかかわらず、グランバニアへ戻ることを許可するのは矛盾する……」
「ま、奴も人の子ということだろう。愛娘を望まれぬ花嫁にするつもりもないのさ。こうなることも承知のことだ」
「へぇ、あのハゲ、あれで娘想いなとこもあるんやな」
「ちょっとシドレー? まったく貴方は本当に口が悪いのね。でも、だからルドマンさんは戻らないって言ってたのね」
「そうだったのか。なんだか僕だけが知らなかったみたいだな……」
「そうだな。ま、お前にはお前のやるべきことがあるだろうしな。さしあたり、気になるところを調べてみるというところか?」
「ええ。ひとまずバッタの駆除にでも行こうかと。僕のできることなんてこの腕っ節だけだし」
 そう言って昆を握るリョカ。
「ふ、自嘲するには尊大なものだがな」
 グラスの氷が音を立てたところでインディは再びボーイを呼ぶ。するとやってきたのは軽装の女剣士。クセのひとつもない黒髪を腰まで靡かせ、その色白の肌と対照的に際立たせる。切れ長の瞳に目元をぱっちりとさせる睫、整った高い鼻と淡いピンクの唇。紅でわざとめだたせまいと隠しているのが印象的だった。
「ん? 変わったウェイトレスだな。グランバニアでは流行っているのか?」
 彼女の視線が険しいのも気に留めず軽口を叩くインディ。
「ふん、戯言を。貴様、一体どうやって関所を通った? 入国審査もなしに我がグランバニア領内を闊歩するなどと、事情によっては生きて帰さぬぞ?」
「これはこれは第二騎士団長殿、こちら、坊ちゃまのご友人でして、どうかおめこぼしを……」
「サンチョ殿、貴方にとってリョカが大事なのはわかります。けれど、まだ彼の身分は異邦人にすぎません。軽はずみなことでわが国の内情を探られては困ります」
「ふん、バッタに蹂躙される国の内情を知られては、確かに恥ずかしいものだな?」
「貴様!」
「インディ殿!」
 さすがにこれにはサンチョもむっとする。
「まぁまぁ、そう憤るな。たかが蝗の群れ程度、このリョカに掛かれば月の猫が欠伸をする間に解決させるさ?」
「ほう、大きくでたな」
 にやっと唇の端を上げる女剣士。しかし、当のリョカはよく理解していない様子。
「……ねぇシドレー、どういう意味? 月の猫って?」
「……ん? ああ、月の猫ってのはネスのことだな。月の精霊をまとめる猫で、そいつが欠伸するってのは望月から三日月に変わる……一週間くらいかな?」
「……へぇ、本当に物知りだね。って、一週間!? そんなの無理ですよ!」
「なんのことはないさ。お前がバッタを駆除すればよい」
「それが無茶だって言うんですよ」
「……」
 女剣士は慌てるリョカをじろりと見ると、値踏みするようにじーっと見る。
「はい?」
「貴様、本当にあの先代の子なのか?」
「ええと、はい……」
「ふう、まったくそういう風には見えないな。先代は武勲の王、我らの先頭に立ち、魔物の軍勢を押し退けたのだが、貴様にそれができるとは思えぬ」
「ふふ、あんなこと言ってますが、ドリス様もあの頃は坊ちゃまより小さかったんですよ?」
「さ、サンチョ殿!」
「ドリス? ああ、ドリスちゃんか! 見ない間に綺麗になったねぇ。全然わからなかったよ」
 ようやく合点がいったリョカはぱっと表情を綻ばせる。
「リョカ、貴様は……。まったく、いや、そのマヌケ面は子供の頃から変わらぬな……」
「なんだ、知り合いか……」
「ええ、彼女は僕の従姉妹です。つまり、現王、オジロン様の娘です。昔、本当に昔だけど、僕が小さい頃に一緒にちゃんばらをして遊んだこともあるんです。へぇ、でもそのドリスちゃんが今は騎士団長か……」
「話に聞いたときはまさかと思ったが、今こうして会ってみてわかるよ。よく、無事に戻ったな」
 リョカが思い出したことでようやくドリスの険悪さが抜け、本来の穏やかな優しさが見えた。
「だが……」
「だが?」
 そして渋い顔つきになると、
「ドリスちゃんはやめてくれ。部下の手前もあるのだ」

続く

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