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グランバニア その3

 次の日、早速グランバニアでの異変を調べるため、リョカは宿を発った。
 異常発生したメダパニバッタの駆除も兼ねての調査であり、また最近調子の悪いビアンカを宿に残してきた。それが正解だと知るのは、森を抜けて平原に出たときのことだ。
 葉が食い荒らされ、茎だけ残ったみすぼらしい平原から一斉に飛び出てくる紫の蝗の群れ。
「唸れ! バギ!」
 即座に印を組むと、風刃で応戦するリョカ。
「ふん、久々に腕がなるな」
 腰から鞭を取り出し、広範囲にわたってなぎ払うインディ。
「冒険者風情に遅れを取るな! 我らグランバニア騎士団の力を見せるぞ!」
 騎士団の誇りにかけて彼らに負けられぬと剣を振るうドリス達。
「ぐぬぬ、一度に焼き払えたらええのに……」
 そう言いながら一匹ずつ張り倒すシドレーは、ガロンと一緒に後方でちまちまと潰していた。
 昆虫系の魔物は動物系に比べて弱い。ただ、思考力も低いらしく、戦いの優劣に怯まない。敵とみなせば襲いかかり、その一方で生命の危険にも関わらず、まだ枝葉に食いつくもの居る。
 リョカは昆の先に刃を付け、大きな鎌のような獲物で、草木ごと豪快に切り裂く。
 緑のバッタは比較的脆く、リョカにおびえてというよりは餌場をあらされたことで散っていく。しかし、紫のバッタは好戦的であり、見慣れぬ紫の精霊を集める。
「インディ……」
 インディお付の女は風刃で彼にまとわりつくそれをなぎ払いつつ、近づいてくる。
「なんだ? 久しぶりの肉体労働に汗を流していたのだが?」
「あの紫の、運命の精霊を集めだしたわ。きっとメダパニをつかうつもりよ」
「俺に言われてもな。だがこの状況で混乱しては危険だな……。おい、騎士団長殿! 兵士を下がらせろ!」
 インディは声を張り上げるが、功を焦るドリスには届かない。彼女は敵陣深くまで切り込み、部下たちもそれに続いていた。
「まったく、これだから切り込み隊長というものはだな……」
 理屈より先に力技に走るドリスに嘆息するインディ。そしてすぐに悲劇は始まった。
「ぐわ!」
「何をする!」
 突然兵士達を取り囲んだ紫の霧、それに惑わされた兵士達はお互いに剣を向け始める。
「く、どうする? 何かないのか?」
「一人ずつ昏倒させるしかないかしら? けれど、それじゃあバッタの餌食ね」
 中型犬ほどあるバッタには、小枝なら軽く噛み切れそうな鋭い歯が見える。雑食な彼らにしてみれば、戦場で眠る人間もえさに過ぎない。
「やあああああ!!!」
 するとそこへリョカが躍り出る。彼もまた紫の霧を纏っており、立ちこめる霧を中和していた。
「シドレー、焼け付く息を!」
 バッタよりも霧を払うリョカは、メダパニを恐れて遠巻きにしていたシドレーに声を掛ける。
「んえ? 俺!?」
「少しでいい、彼らの動きを鈍らせて同士討ちをやめさせるんだ!」
「おお、なるほど! そんじゃま、恨むなよ!」
 シドレーは風上に回ると、顔を歪ませ、熱い息を吐く。
 空間にまどろみが放たれると、剣を翳しあう兵士達の動きが鈍くなる。それはバッタも同じであり、がたがた震えるとそのまま倒れてしまう。
「そりゃ! そりゃ!」
 リョカは顔を布で覆いながら倒れたバッタにとどめを刺す。まばらになった紫のバッタはようやく生命の危機に従い始めたらしく、散っていった。
「くぅ、リョカか……」
 メダパニに惑わされつつもなんとか正気を保っていたドリスは、散っていくバッタの姿と、それを見送るリョカの後ろ姿に膝を着いた。

++

 駆除を一旦終えた一行は、メダパニにうなされていた兵士達の手当てをしていた。
 特に怪我もないインディは落胆しているドリスを見つけて声を掛ける。
「思った以上に厄介なものだな。どの国でも蝗は悩みの種だが、まさか犬よりもでかいとはな」
「……メダパニバッタが発生するようになったのは、グランバニア東部、森林だ。最近は開拓地の資材供給のために伐採を行っているのだが、それが原因の一つとも考えられている」
「なんだ、原因はわかっているのではないか。なら対処も早いだろうに」
「いや、あくまでも推測に過ぎないのだ。それに、たとえ伐採が原因だとして、それをやめるわけにもいかないのが現状だ」
「うーん……」
 そこへ治療を終えたリョカが思案気な様子でやってくる。
「グランバニア山脈でも思ったんだけど、きのこが見当たらないんだ」
「きのこ? こんなときにきのこなのか?」
「いや、きのこは重要なんだよ。長旅の場合は食料になるし、森の活力を知るバロメーターだもの。庸兵仲間に詳しい人がいてね、教えてもらったんだ」
「だが、それがバッタとどう関係する?」
 ドリスもようやく振り返る。
「魔物は一枚岩じゃない。たとえばクックルーはグリーンワームを餌にしている。けれど、オラクルベリー東から出られないのは、ガスミンクが卵を食べちゃうから。だからグリーンワームが食べつくされちゃうことが無い」
「ほうほう」
「で、きのこなんだけど、マタンゴやマージマタンゴなんかはキリキリバッタの天敵なんだ。もともとバッタがきのこみたいな菌糸類を苦手としているのも理由の一つなんだけど、もしかしたらバッタの魔物が増えたのはそれが原因なのかもしれない。地図を見せてもらったけど、切り開かれた森は沿岸部から。そこには潮風が吹くでしょ? 潮風はきのこに対して悪影響を及ぼす。それが原因できのこやマタンゴ系の魔物が減った。さらに灌漑が上手くいっていないみたいで、水の流れが代わった。結果、マタンゴ系の魔物の縄張りがずれて、グランバニア東部にバッタの天敵が居なくなった……」
「ならばおおむねグランバニア側の推測も当たりなわけか。しかし、伐採をやめることもできまい?」
「そう。だから、逆に天敵を増やしてバランスを保つ必要があるのかもしれない」
「マタンゴを増やせというのか?」
「一つの方法だよ」
「ふむ……考えておこうか……」
 ドリスは意外そうな様子で頷くと、部下に指示を出す。
「リョカ、貴方は魔物の生態にも詳しいのかしら?」
「詳しいってほどじゃないけど、父さんと一緒に色々な国を回ったしね。そんな時にいろいろ教えてもらったんだ」
「なるほど、さすがはパパス伯父様の息子だ」
「んでも、きのこはいいとして、他の問題は?」
「うん。たしか君、ダックカイトにメダパニを受けたって言ったよね?」
「おう。なんか青いのが唱えてきたで」
「それって多分、増えたメダパニバッタを餌にしたバルーンカイトが進化したんだよ」
「まじ? 食べると魔法使えるようになるん?」
「ほら、向日葵の種を食べていたら僕だけ天候の精霊に好かれちゃったでしょ? 蝗も関係してるんじゃないかな?」
「ああ、そういえば蝗は古くから災厄の象徴やったな。いかにも教訓めいたダーマが好きそうなものじゃの」
「ほう、シドレーは博識なのだな? たかが焼き鳥に尻尾を振るだけのトカゲではないのか」
「なはは、誰がそんなもんにまどわされるかいな」
 どこか鳥頭な彼はインディの軽口を笑い飛ばしていた。
「でも、そうなると、蝗を駆逐することで大半のことは片付くん?」
「灌漑のほうは僕じゃわからないけど、技術力不足ってところじゃないかな? 西側の水はけが悪いのは素人目にもあきらかだったし」
「ほう、よく見ているな。だが灌漑なら問題ない、東国から技術者を呼ぼう。おい、頼まれてくれるか?」
 そういうとインディはつれの女性を見る。
「いいけど、でもいいの?」
「ああ、東国の紛糾に巻き込んだのはラインハット国の失態だ。これぐらいは構わんさ」
「インディはんはラインハットの人だったん? 旅人じゃなかったの?」
「まぁな」
「貴様、やはりラインハットの間者か?」
 さすがに見過ごせないとドリスは声のトーンを下げる。
「そう言うな。どの国でも間者の一人や二人巡らせているものだ。それに現状ラインハット国とグランバニア国は先の戦争を乗り越えて国交を結んだはずだが?」
「先代の王を謀事に巻き込んだラインハットを信じろと?」
「友国の危機には協力を惜しまないさ」
「そうやって併呑された国もあるだろう」
「まぁ、そうだな。だが、これは一つの罪滅ぼしみたいなものさ。無理に信じろとも言わんがな」
「……」
 視線がふいにリョカに向くのを感じ、たじろいでしまう。
「ええと、僕はですねぇ、まだ王様でもありませんし、とはいえ、技術力の提供は必要かなあと……」
「素人だな……」
 それも仕方なしとため息をつくドリス。インディも同様らしく、ふっと鼻で笑う。
「……ねぇ、駄目かな? シドレー」
「……ん~、俺も政治はよくわからんのよ。でも、今のまんまじゃ上手くいかないのも事実やし、いんでないの?」
 最近の博識ぶりも苦手な分野があるらしく、腕を組んで首を傾げるのみ。
「ああ、おおよその見当もついたのだ。ならばそれに沿って動けばよい」
 そう言うとインディは連れの女性と共に森に消える。
「おい、貴様!」
 ラインハットの間者と疑えば黙っていかせるわけにもいかず立ち上がるドリス。けれど、太い木とすれ違った二人はどこにも見当たらなかった。
「いったい……!?」
 きょろきょろと見渡すドリス達。
「神出鬼没やね」
 シドレーは不自然に舞う精霊たちを見つめていた。


続く

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