FC2ブログ

目次一覧はこちら

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

グランバニア_その9

「さて、お手並み拝見と行くか……」
 正門から西の森の防衛線を展開したドリスに、インディは告げた。
「ふん、ここまでの失態を取り戻すまでだ。見ておれ」
「力むのは勝手だが、失態を認める冷静さはあるのだな。今のところ、五十点というところか?」
「ちょっとインディ……」
 挑発的な物言いにエマはおろおろとインディの袖を引っ張る。
「かまわぬ。この防衛戦が終るころにはその減らず口も叩けぬであろうしな!」
 意気揚々と先頭に立つドリスは剣を構える。
「もう、インディったら……」
「エマ、先の城下での失態がなんだかわかるか?」
「え? ええと、兵士の伝令が遅れたとか?」
「ああ。その原因はなんだ?」
「そうね、指揮系統の乱れよね。となると、あっ……!」
 おそらくこうなのだろうと思い至ったところでインディが頷く。
「俺の合図で魔法を解け」
「いいの? だってここ、グランバニアでしょ?」
「ああ。だが、今は友好国だ。それに風来坊の言うことをきくものもおるまい? それに、奴に負い目があるのはお前も同じだろう?」
「わかった。けど、死なないでね」
「ふ、可愛い心配だな」
 そう言うとインディは腰に備えた鞭に、別の鞭を新たに加えた。

**

 傷病兵の手当ても終わり、ひとまず仕事を終えたリョカ。
 ビアンカはこれくらいはとお茶を淹れ労う。
「ふぅ、一時はどうなるかと思ったよ。あとはみんなの健闘を祈るだけだ」
「ええ、そうね……」
 リョカに寄り添うビアンカ。けれどその表情は優れない。
 彼の腕を取ればわかる。今はこうして自分の傍に居てくれる。だけれど、彼には彼のできることがある。武器を取り、戦場を駆けるだけの能力がある。
 父、パパスと同じく勇敢に戦い、祖国を守る為に戦える。
 それほど高尚な気持ちでなくとも、少しでも被害を減らせるのならと、本音があるだろう。
「リョカ……。行きたい?」
「え? 僕は、君の傍に……」
「貴方は戦える。そして、戦って、グランバニアを守りたい。そう思ってるんでしょ?」
「僕は……。思ってるさ。ここで、この国を、この町を守って、君との明日を守りたい。けれど、君を置いてはいけない。君を不安にさせては、きっと……」
 リョカは彼女の手を取った。そして自分の手が不自然に強張るのを感じる。
 心の中で暴れる気持ち。けれど、彼女の傍を離れたくないという気持ち。それがぶつかっていた。
「……うん」
「……ああ」
 気持ちの押し合いはビアンカにそっと押されて萎えた。
 その強張りが消えた頃、不穏な声が上空から響いた……。
「魔の娘! そこにいるのだろう! わかっているぞ! 出て来い!」
「!?」
 酷く低いが女の声だとわかる。だが、それが何を意味しているのかはわからない。
「出てこぬというのならそれもよかろう! このまま城ごと炙り、蒸し焼きにしてくれる」
 壁際に炎の塊がぶつかるのが見えた。近くのカーテンが炎で焦げ、兵士が慌てて消す。
「炎の魔物か!?」
「リョカ」
「うん、すまないけど、行ってくる。君はここを動かないで」
 リョカは昆を構えると声のする上へと向かった……。

++

 北の戦場では前線がぶつかり、魔法による乱戦が始まった。
 業火の塊が放たれるも、計算されて配備されている魔法部隊のマホカンタの前には無力。その勢いを丸ごと跳ね返し、逆に馬車を挫く。
「弓兵、つがえ……、一斉掃射!」
 櫓に構えていた弓兵が鉛の矢を空に向かって放つ。矢を打ち破ろうと炎が放たれるも、空中で解けた鉛にラムポーンは悲鳴を上げる。
「まったく、力押しに頼るとは愚かな……」
 サンチョは優勢に安堵していた。だが、先ほど一瞬の隙を突かれ突破していった魔物が気になる。
 炎を纏った女の魔物と、冷気を放つ女の魔物。互いにいがみ合っているようだが、何か目的があるのか、まっすぐ城を目指していた。
 およそ地力を過信した魔物の独断専行だろうか。
 それでも消えない不安は、彼の采配の隙をなくさせていた。
「あれは……?」
 他の馬車とは違いゆっくりと縦列陣形で前進する馬車が見えた。それらは城攻めに用いられる移動式投石器が引いている。
「おかしい。魔物共がわざわざ人間の戦争兵器を持ち出すとは……」
 従来の魔物による侵攻は、己の五体、精神、魔力、もしくは精霊や不死、物質などの存在性で圧すことが多かった。それはある種魔物の矜持なのだろう。
 それが今、人の知恵である投石器を積んでの城攻めを図っている。
「過去に拘っていたのは私のほうか……。魔法部隊を集光閃熱陣形に配備せよ! 目標は長距離広域に展開されている投石部隊。敵に悟られるな」
 サンチョは伝令兵に大声でいいつけると、弓兵を下がらせた。

++

「怯むな! 地の利は我らにあるぞ!」
 竜戦士をなぎ払い、兵たちを鼓舞するドリス。それに続く精鋭達はどんどん敵を蹴散らす。また怪力をほこる魔物たちはその大きな獲物を木々、枝に阻まれ、思うように戦えない。それがドリス達の歩を加速させていた。
「むっ!」
 敵をなぎ払い進撃するドリス。退く魔物たち。しかし、開けた場所に出たとき、それは一変した。
「バギ!」
「バギ!」
「バギ!」
 開けた場所には上空にガーゴイルたちが居た。それは待ち構えてというよりは撤退の途中で敵を見つけたということだろう。
 散発的なバギにドリスは身を翻す。しかし、兵士達の幾人かが刃に傷付き、倒れる。
「く、大地の力よ、我が呼び声に応えて爆ぜろ、イオラ!」
 咄嗟に詠唱をして中級爆裂魔法を放つドリス。遅い魔法にガーゴイルたちは悠々と逃げる。
 その間にソルジャーブルの部隊がやってきて、凶刃にて兵士達に襲い掛かる。
「怯むな! 我らが倒れてはグランバニアの明日はない!」
 振りかぶられた鉈のような剣を寸前でかわし、腹筋にのみ守られた腹部に剣を突き刺す。そのまま上へと切り裂き、返り血をかわして次の敵に切りかかる。
 騎士団長として剣の技術に申し分はない。彼女の舞うような戦いに精鋭達も負けじと抵抗する。だが、自軍の優勢を見るに集まってくる魔物達に、次第に方位されていく。
「なんとしたことだ。私としたことが、功を焦り、敵の罠にかかるとはな……」
 互いに背中を預けながら敵を睨む兵士達。状況は極めて悪い。
「だが、グランバニアの兵士としてただでは死なない。一匹でも多く倒し、明日のグランバニアの礎になる!」
 高らかに告げるドリスは、切りかかってきた竜戦士を一刀に伏す。
「都合がいいな!」
 するとその首に鞭が巻きつけられ、円陣に覆いかぶさるようになる。
「なんだ!?」
 突然のことにそのまま竜戦士の躯に乗っかられるドリス。
「ドリス達に盾が出来た。今だ、矢を放て!」
 インディの声に応じて放たれる矢の雨。肉体の強さに固執しすぎたソルジャーブルや竜戦士は無数の矢に穿たれ、ばたばたと倒れていく。
 上空のガーゴイルも翼を撃たれ、そのまま揚力を失い墜落する。
「よし、一旦やめ!」
 号令に矢が止まる。
「これは一体……助かったのか?」
 矢の雨が止まるのを見て竜戦士の躯を捨てる。そこには無数の矢がささり、無体な姿があった。
「第二騎士団長ドリス殿、指揮官自らの囮作戦は成功ですぞ!」
「何を言っている! 誰が囮だ……貴方は……?」
 インディの言葉に苛立ちを隠さず振り向くドリス。けれど、そこに居たのは緑髪の青年。額には斜めに傷が走っていた。
「まさか、アルベルト・アインス……、ヘンリー・ラインハルト第一王子!」
「今はアルベルトで頼むぞ? さぁ! 愚かな魔物は所詮部隊を整えたところで烏合の衆。指揮官自らの突撃に功を焦り、まんまと罠にかかってくれたな! 礼を言う!」
 たからかに響くヘンリーの声。エマが密かに空気の密度を変えることでそうなるようにしているのだ。
「……!!」
 人語を理解しているものは当然ながら、そうでない魔物も仲間の躯と高らかに響く声に劣勢を感じ始める。
「どうしてここに……」
 優勢になったことは良しとして、いま一つ理解できないドリスは目をぱちくりさせて彼を見る。
「リョカに義理があってな。そして、奴にもな……」
 ヘンリーは森の奥を睨む。
 奥からは魔物の悲鳴が上がり、躯が放物線を描いて落ちてくる。
「貴様ら、人間ごときに撤退など赦さんぞ! 我ら怪力兵団の名折れ! 敵前逃亡はこのゴンズ様が直々に処刑してくれる!!」
 のっしのっしとやってきたのは巨大な牛の魔物。そして、それはかつてパパスを弄り殺した片割れだった。
「ふん、マヌケな面は相変わらずか……」
「ん~? 人間ごときが我の進撃を阻もうというのか? くくく、小細工を弄したところでいかにして我を止める? この怪力をな!!」
 ぶうんと鉈のような大剣を振り回すゴンズ。その風圧に周囲に絶望が舞う。
「小細工か。たかが人間一人倒すに二人がかりで事足りぬ小物が何を言うかと思えば……」
「二人がかり? この俺様が何時人間ごときに……」
「よもや忘れたのであろうが、パパス・グランバニア、貴様の親分が姦計に陥れた力強き戦士よ」
「パパス……ああ、あの人間か……。ほほう、ようやく思い出した。貴様はあの時のガキか……。くっくっく、わざわざ総本山を逃れたというのに、こうして殺されに来るとはな……。人間とはかくも御し難い……」
「難しい言葉を並べれば賢く見せられるとでも思っているのか? 貴様は見た目と知能が正比例しているようだな?」
「抜かせ!」
 ゴンズの力んだ一撃は、二人の間に大きな穴を作る。
「力だけでなんともできると思うな。貴様ごとき、幼少の自分ですら片手で余る!」
 そっと翻し、お返しに斑蜘蛛糸を放つヘンリー。それはゴンズの顔面でぱっと弾けて、身体に纏わりつく。
「ぐわ! く、ちょこざいな!」
 一瞬視界を奪われたゴンズはところかまわず剣を振るう。けれど刀身にまで絡みついた粘つく糸は切れ味を悪くさせ、斧が大木に噛まれるように抜けなくなる。
「ヘンリー、援護するわ! 距離をとりましょう」
 人間の大人二人分はあるソルジャーブルを吹き飛ばすだけの怪力に不利とみたエマはヘンリーに駆け寄り、時の精霊を呼び出す。
「必要ない。これは俺の因縁だ。それに、あの程度のアホ、俺一人で十分だ」
 しかし、ヘンリーはその手を払い、離れるようにいう。
「だって、あの怪力にあなたの鞭が通じると思うの!?」
「心配ないさ。要は使いようだ」
 そう言うとヘンリーは腰に備えた複数の鞭のうち、鱗が幾重に連なった二つを選ぶ。
「何時まで泣いている? 今は戦争中だぞ?」
 ヘンリーは鞭を放つ。竜の尻尾を模したそれはしなやかかつ、鞭自身に刃の返しがついており、ゴンズの腕に巻きついたそれは締め付けるのと同時にぎりぎりと食い込んだ。
「ぐ!」
 右腕、そして右足と食い込むドラゴンテイル。
「フン! 巻きついて優位に立ったつもりか?」
 だが、ゴンズは剣を大木からむりやり引き抜くと、鞭の絡まった腕を怪力に任せて振り回す。鞭をもったままのヘンリーはそのまま勢いよく宙へ舞う。
 振り回されるヘンリー。彼はそんな状態でさらに鞭を操り、枝に巻きつけ、空中で軌道を変えた。
「ん!?」
 そして再び放たれるドラゴンテイル。今度は右肩に掛り、左腕、左足に絡まったそれでゴンズの身の自由を奪う。
 ゴンズの身体に巻きつく鞭はその端を木々に巻きつけられ、四方で互いに引っ張られる格好となる。
「ちょこざいな!」
 ゴンズは剣で鞭を断とうとするが、蜘蛛の糸が粘ついて切れ味を鈍らせる。
「ふん、元を断てば!」
 鞭を諦めたゴンズはヘンリーに向かう。
「はは、たいしたもんだな!?」
 木々をへし折りながら猛突進するゴンズ。ヘンリーは伸縮性に優れた蛇皮の鞭を高い枝に絡めると、反動に合わせて跳躍する。
 一見不利に思えた森林での戦闘。けれど、ヘンリーは前後左右に留まらず、上空へも自在に移動する。
「くっ! ゴミ虫が。バッタのように飛び跳ねおって!」
 ヘンリーの上った木を力任せに倒す。けれど、それは自分から足場を悪くすることに繋がることになる。
 剣を振るおうにも腕の自由が奪われ、さらに足場の自由を自ら放棄した。その間もヘンリーは攻撃を休めない。
 四方八方、どこからでも遅い来る鞭、斑蜘蛛糸にとうとうゴンズの身体はがんじがらめになっていた。
「ぐぬぬ、どういうことだ!」
 蛇皮の鞭を首に巻きつけ、枝を介して上に締め上げる。
 ゴンズもただされるがままにするわけではなく、剣を握る右腕だけはなんとか死守せんと、放たれる鞭を挫く。
「はっ!」
 けれど、森林を颯爽と走るヘンリーの手数が上回り、四肢は複数の方向から締め上げられる。
「卑怯なり! 正々堂々と戦え!」
「その台詞、過去の貴様の行いを見ていえるのか?」
 右腕に放たれた蛇皮の鞭を最後に、ゴンズは剣を落とし身動きが出来なくなる。
 一体どれだけ隠していたのか、十数と鞭が絡まっていた。
「無用心に走り回るから鞭にも絡まる。バリケードを自分で作れば、俺も影に隠れるさ」
 完全に動きを封じたとみたヘンリーは腰に刺した儀礼用の剣を抜き、悠々と歩み寄る。
「ゴンズよ、何か言い残すことはあるか?」
「ぐ、ぐ、人間ごときが、我を倒すというのか?」
「ああ、そうだ。貴様の負けだ」
 ヘンリーは剣を構えると、ゴンズの心臓目掛けて構える。
「くくく……、右腕の締め付けが甘かったな!!」
 堪えきれず笑い出すゴンズ。
「ぬ!」
 蛇皮の鞭は柔軟性に優れており、例え幾重に絡み付いていたとしてゴンズの怪力をもってすれば比較的自由に右腕が動かせる。
「死ね!!」
 こぶしをヘンリー目掛けて振りかざす。
「ヘンリー!!」
 エマの声にもヘンリーは微動だにしない。というのも、彼の眼前でこぶしが止まったからだ。
「ぐぎ、ぐぇぇ!! げぇはぁ!!」
 再びゴンズの悲鳴。周囲の木々がみしりと悲鳴を上げると、ゴンズの四肢の根元がおかしな形で伸びていた。
「ふん……計算以上にバカ力だな。だが、おかげで技に“しまり”が出たな」
 ゴンズの右腕に絡まる蛇皮の鞭の端は全てドラゴンテイルに結びついていた。それらはでたらめな網と見せかけて、四肢をばらばらの方向に引っ張るよう、計算されたもの。
「お、おごご……ぐぇ……げぇ……」
「ラインハルト流操鞭術処刑法、斑蜘蛛、犇き。斑蜘蛛は木々に鞭を通し、相手を捕らえる術の総称。さしづめ斑蜘蛛糸に絡まるがごとく、獲物は身動きが出来なくなる。そして派生技、犇き。これは四肢の関節を破壊しつくすことを念頭においた拷問的処刑の技術」
 自慢の怪力で一気に四肢をばらばらの方向に締め上げられたゴンズは脱臼、関節が破壊され、首に巻かれたそれが強く引かれたとき白目を剥いた。そして泡を吹くとおかしな方向に首を倒したまま動かなくなった。
「パパス殿の痛みを知るには丁度良いか?」
 ヘンリーはゴンズの生死も確かめず、埃を払うと背を向ける。
 ぴくりとも動かない指揮官に、侵攻作戦の失敗を感じた魔物達はわれ先にと逃げ出した……。

続く

彷徨いし者達~目次へ戻る
トップへ戻る

Trackback

Trackback URL
http://13koharu.blog73.fc2.com/tb.php/701-75bfa4b5

Comment

Comment Form
公開設定

プロフィール

小春十三

Author:小春十三
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ

創作検索ぴあすねっとNAVI
dabundoumei
trt
オンライン小説/ネット小説検索・ランキング-HONなび  
リンク予定


二次元世界の調教師様のサイトです。



無料アクセス解析
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。