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グランバニア_16

 グランバニアの城下町の復興に携わるリョカ達。崩れた家の解体、新たに建築したりと忙しい。
 リョカは真空魔法による材木の調達と負傷者の治療、ネッドの開拓地からの移住者の警護を行っていた。
 本来ならすぐにでもビアンカの捜索へ行きたいのだが、港の復興が終らず、また資材優先、魔物との戦争の噂で客船が来ない。
 いくら翼竜とはいえ洋上をリョカを乗せて横断することは難しく、もし時化に遭えばそのまま海の藻屑となりかねない。
 焦りと苛立ちが募る日々だった。

「んぎゃぁんぎゃぁ……」
「はいはい、ミルクですか? ボルカノちゃんは元気でしゅね~」
 大声を張り上げるボルカノにフレッドがかいがいしく動く。暫く前に孫の世話をしていたせいか、その動作は馴れたものだった。
 当のデボラはと言うとオシメを変えるのも一苦労とフレッドに小言を言われてばかり。さらにリョカにも暇さえあれば抱っこしろだの寝かせつけろと指示を飛ばす。それらは全て予行演習とのことだ。
「リョカ君、ミルクを飲ませるときはこうして首の角度を調整しないといけないのですよ」
「はぁ……こうですか?」
 ボルカノを抱っこするリョカにフレッドがにやけた顔で見ていた。
「そうそう、上手ですな。お嬢様よりも……」
「だって、しょうがないでしょ? 私、あんまり重いものもてないし……」
「はは、落としたら大変ですよね」
 そんな風景を見つめるルカは、どこか気恥ずかしそうな様子。
「……」
 リョカとしては、本来彼がすべきであろうことを自分がしていることに不思議というべきか、いたたまれない気持ちもある。特に、厳しいはずのフレッドがルカに目もくれず、代わりにリョカにばかり注文を出すのが不思議でならなかった。
「……すぅすぅ……」
 ミルクを飲み終えたボルカノはリョカの腕の中ですっと眠ってしまう。ベビーベッドに寝かしつけたところで、ようやく任から開放された。
「ええと、それじゃあ僕は仕事があるから……」
 材木集めや建築の手伝いのほうがまだ気が楽だと、リョカはそそくさと部屋を出ようとする。
「待って、リョカ……」
「ええと……」
「フレッド、ルカ、大事な話なの。ボルカノの面倒、お願いできる?」
「はいはい、ボルカノぼっちゃんのことならお任せあれ……。さ、ルカ、いくぞ」
「はい……」
「それと、お嬢様……」
「何? ああ、そのことじゃないのよ。ビアンカさんのことで……」
「はぁ……そうですか……」
 フレッドはどこか落胆した様子だが、布団をはがそうとするボルカノにすぐに夢中になる。

 隣室でデボラはあの日の出来事を語り始めた。
 ビアンカと出会った瞬間に感じた共感。養父母、フローラとも感じ得なかったことに戸惑った。それは彼女も同じであり、他人という気がしなかった。
 遠い昔、どこかで繋がっていた、親子、兄妹、それよりももっと近い関係。
 しかし、自分は人であり、彼女は魔界の貴族。一体どんな接点があるのかわからず、悩んでいるのだと。

「ビアンカは、デボラさんのことも大切にしていたのを僕も見た。でもそれがどうしてなのかは彼女もわからない」
「そうなの。何か手がかりみたいなのがあればよいのだけれど……。そういえば、父さんが私を拾ったとき、産着に書いてあったものがあるのよ。エドガンとか……」
「エドガン? 聞いたことないな……、いや、前にどこかで……」
 記憶を紐解くリョカはコメカミを抑えて暫く唸る。過去、どこかで聞いたような記憶があり、思い込むことでうっすらと刺激されてくる。
「ちなみに、フローラさんも同じ……わけないか……」
「フローラは確か、レイクニアって……。拾ったときはレイクしか読まなかったのだけれど、よく見たらレイクニアだったわ。私もエドだけじゃなく、ガンがあったわけ」
「レイクニアって、確か……アニスさんのファミリーネームだ。あと、他にも何か……そう、確か、ポーロさんもレイクだったような……」
「アニスってあの、貴方に……」
 むっとした様子のデボラは幼い日のことを思い出し不機嫌な様子。
「ポーロさんていうのは?」
「本の著者。竜の神様が居た時代の話を書いていた人で……」
「それ、ポーロじゃなくてポポロよ。ポポロ・レイクニア……」
 言いかけて気付くデボラだが、そんな偶然とおもいつつリョカを見る。
「フローラさんはポポロさんの子? ええと、子孫とか、関係者かな?」
「そう……かもね……」
 古い書物の作者と同じレイクニアを冠するフローラ。もっとも、それが真実であったとしてもそれほど不可解というものでもないだろうと飲み込む二人。
「で、エドガンだけど、確かベネット爺さんのところで読んだ本に、そういう名前があったような……」
 コンコン……。
「誰!?」
 ドアを叩く音にびくっと声を荒げるデボラ。すると緑髪の青年が顔を出し、不思議そうに二人を見る。
「お取り込み中かな?」
「ああ、ヘンリーか。ええと、昔、君のお城で読ませてもらった本のことを話していたんだけど、エドガンという名前に聞き覚えはないかい?」
「エドガンか。あるな。確か錬金術に関する人物だ。我がラインハルト地方……神話の時代ではフレノール地方と呼ばれていたが、そこの出身だ。元は鋳物や鍛冶をしていたが、なんでも進化の秘法などという胡散臭い技術に傾倒して国を渡り歩いき、どこかの王を騙して処刑されたとかな。いわゆる山師だろう」
「山師か……」
「となると、あんまり関係ないかな?」
 どこか神秘的な話から詐欺的な話になり、がっくりとする二人。
「で、その秘法なのだが、それがかつて竜の神とやりあった魔物と関係があるらしい」
「ほんと!」
「だが、その本を書いたというのがポポロ・レイクニア。これがまたいわゆる噺家だ」
「……」
「ま、つまり御伽噺の中さ……。本気にする奴もいないだろう」
 語るたびに喜びと落胆を繰り返す二人に、ついついイジワルな言い方をしたくなるヘンリー。
「まさかいい大人が二人揃って御伽噺を語り合っていたのか?」
「君だってアルベルトって名乗っていたじゃないか……」
「まぁな」
 物語の英雄に自分を重ねたこともあり、そこは照れてしまうものがある。ヘンリーはコホンと咳払いをして誤魔化していた。
「そうだ、俺はそろそろグランバニアを発つ予定だ」
「もう船が出ているのかい?」
「ああ、ただし、テルパドール、サラボナ経由だ。リョカには頭の痛いルートだな」
「それは、まぁ……」
 サラボナではルドマンがおり、テルパドールでは御尋ね者扱いをされている。その様子にデボラは二人を見ていた。
「ありがとう、ヘンリー」
 ヘンリーは軽く手を振ると「サンチョ殿によろしく」と去っていった。
「……しかし、貴方って意外な人脈があるわよね。まさかラインハット前王と知り合いだなんて」
「まぁ……ね」
「父さんにも目をかけられているし、グランバニアの王子様……。やっぱり私の目に狂いはないわ」
 しみじみと頷くデボラ。
「でも、もう……」
 リョカはヘンリーを見送るふりをして彼女を見ない。
「リョカ?」
「……いや、それは僕の我儘か……。それより、話はもうないの?」
「ええと、今はそれぐらいかしら……」
「そう、それじゃあ僕の話なんだけど、そろそろグランバニアを発とうと思うんだ。港の復興のほうも大分進んだし、灌漑技術はヘンリーが技術者を派遣してくれる。もう僕も必要ないみたいだし……」
「ちょ、そんなことないわよ。まだ貴方は……」
 グランバニアの復興は早かった。もとよりネッドの開拓地の労働人口があり、そこへラインハット国からの技術支援が加わった。魔物の脅威もある程度薄れたおかげかグランバニア山脈越えもそれほど難しくない。また、人が通る道になってからは魔物もよりづらくなっていた。
 きっかけの一つであったリョカの功績は大きいが、あくまでも非公式のこと。今は労働者の一人でしかない。それに彼自身、いつまでもこうして手をこまねいているつもりがなかった。
「デボラ、僕は取り返しに行くんだ。止めないでくれ……」
「……それはわかるけど……」
「それに君にはルカさんがいるんだろ?」
「……!?」
 やや批難めいた口調になるを感じつつ、リョカは作り笑いで誤魔化す。
「勝算はあるの?」
「勝算?」
「そうよ。だって、相手は魔物の軍勢よ? それに大規模な組織を作っている。いまやどの国にもその根を伸ばしているのに、貴方は本当にやれるの?」
「わからない。けど、勝算がなくてもやるしかない。僕は奪われたものを取り返す」
 奪われたものにはけして戻らないものもある。父の死を悼み、妻となるべき人を奪われ、二つの故郷を破壊された。
 デボラはそれがすでに個人の復讐の域を超えていることに不安を感じていた。
 非公式とはいえリョカは前王の子であり、それが教団とぶつかればどうなるのか?
 最近はテルパドールに根を延ばした教団は、女王アイシスに取り入り、天空の装備について捜索しているらしい。
 灼熱の大地にありながら疲れを知らぬ紫の集団がその破片を探している。まるで狂気の沙汰だが、着実に形を成しているとのこと。
「リョカ……せめて父さんに会って……」
「それはできない。僕が再びルドマンさんに会うとしたら、それはフローラさんとのことがある」
「そんなこと言ってる場合じゃない。んーん、父さんも父さんよ……、そんなわけのわからない取引持ちかけて……」
「僕もかかわりすぎたんだ。それよりもう行くよ。出発の準備をしないといけないし……」
「ええ……」
 これ以上説得するのは無駄、いや、始めから無駄だろうと思いつつ、部屋を出る二人。するとそこには鬼のような顔をしたサンチョが居た。
「なりませんぞ!!」
 開口一番叫ぶサンチョにリョカは動じない。
「すまない、サンチョ。僕は決めたんだ」
「坊ちゃまは王子なのですぞ? グランバニアにて旦那様の後を継ぎ、王となり国を治める必要があります」
「サンチョ、僕は妻となる人、一人守れない人間だ。そんな僕に大勢の人の人生を背負せようなんて無謀だよ」
「そんなことはありません。坊ちゃまは旦那様との旅で多くのことを学び、虜囚の辱めを克服し、世界を旅した経験があります。此度のグランバニアの危機をお救いになられたのも坊ちゃまの知恵と人脈のなせるものです」
「それは偶然さ。サンチョはいつも僕を買被る」
「いいえ、ゆずれません。どうしてもいくというのであれば、せめて私をお供に……」
「できない。これは僕の戦いだ。それにサンチョはこの国の防衛に欠かせない人だ。これからも魔物の軍が攻めてこないとは限らない。君はこの国を守ってくれ」
「ですが!」
「父さんが愛したこの国を守って欲しい……」
「坊ちゃま……」
 欺瞞に満ちた言葉にリョカ自身目を背けたくなる。けれどサンチョはいたく感動しているらしく、目に涙を溜めて震えている。
「おぎゃあ、おぎゃあ!!」
 するとボルカノの泣き声が聞こえてきた。
「リョカさーん! デボラさーん!」
 続くルカの声はてんてこまいで助けを求めるなさけないもの。
「あ、あ、大変! リョカ、急いで! 貴方が抱っこしないと泣き止まないから!」
「え? 僕かい!?」
「そうよ。というわけで、ボルカノが落ち着くまでしばらくいなさい!」
「そうですよ。このサンチョ、赤ん坊をたくさんみてきましたが、ボルカノ君ぐらいきかんぼうはみたことがありません。ですが、不思議と坊ちゃまが抱っこなさると安らいでくれます。どうぞ、暫くの間は……」
「おいおい、サンチョ」
「ほら、ぐずぐずしない!」
 デボラはリョカの腕を引っ張ると、そのままボルカノの居る部屋へと急ぐ。

 おしめを代えて抱っこして寝かしつける。この一連の動作をリョカが行うと不思議とボルカノは素直になる。それはフレッドもサンチョも感心するほどだった。
「……なんだか不思議だね。どうして僕にこんなに?」
 寝顔を見つめつつ、リョカは呟く。そしてはっとしてルカをみると、慌ててベッドから退く。
「かまいませんよ。ボルカノはリョカさんに懐いていますから」
「はぁ、どうも」
 リョカだけがわからない真実に、皆視線を泳がせるばかり。
「まあ、そういうこともあるわな……。たまたまじゃろ」
 シドレーはりんごを剥くと、デボラに一切れだけ渡し、丸齧りする。
「こうしてボルカノ君の顔を見ていますと昔のことを思い出しますよ。あれは坊ちゃまが始めて旦那様をパパとお呼びになったときのことです。旦那様は感激のあまり、坊ちゃまを……」
「あはは、サンチョ、その話はまあ、そのうちで……」
 興味津々な面々とは別に幼き日のこと、特に自分のあずかり知らない記憶を語られる気恥ずかしさから、リョカはサンチョを部屋の外へと押し出そうとする。
「ですが、坊ちゃま? どうかボルカノ君のことを考えてですね」
「ああ、わかったよ。暫くはグランバニアに滞在するから……」
「約束ですぞ?」
「ああ、サンチョとの約束を破ると後が怖いからね」
「ふふ……」
 意味深な笑いを浮かべると、サンチョはようやく部屋を出る。
「ふう……」
 昔のことを知る人がいかに厄介かと思いつつ、にたにたした視線を向けられることにリョカは半眼を返すしかできない。
「……で、シドレー、用意できたのかしら?」
「ん? ああ、できてたで」
 シドレーは肩がけの鞄からごそごそと荷物を取り出す。黒く鈍い輝きの昆だった。
「リョカ、もってみ?」
 受け取ると、それはずしりと重く、周囲の精霊が囁き始めるのが見えた。
「これは?」
「ああ、前に拾ってきたクズ金属あったろ? あれを鋳なおして昆にしたんよ。なんでもミスリル銀だっけかが含まれてて、魔法の伝導性が強いんやと」
「そう。あの生意気な銀髪のもっていた剣と同じ材質よ。まあ、小さいのを鋳なおしている分劣るけれど、それでも前までに使っていたものと比べて強靭かつ、優れているわ」
 少し振るうことでわかる。大地の精霊が呼応していることが。これまでの昆とは比べ物にならないほどの性能に、リョカは驚きをかくせない。
「それと、お父様の剣だけど、宝石が砕けていたの」
 さらに取り出すのはパパスが愛用していた剣。柄に埋め込まれている宝石が変わっていた。
「風のオパールが効力を失っていから代わりにアメジストをはめ込んだの。勝手に外してごめんなさいね。でも、砕けた宝石は元に戻らないから、ルカに頼んでカットしなおしたの」
 もう一つは指輪だった。銀のリングに緑の宝石が飾られていた。
「指輪?」
「ええ、貴方のことだからお嫁さん迎えにいくにも指輪の一つもないんでしょ?」
「あ、ええと……そういえば……」
「私は我慢してあげるから、それを彼女に……」
「うん。ありがとう」
「さてと、そろそろいくか? サンチョのおっさんものんきにしてるし……」
 シドレはー窓を開けると、背中に乗るように示す。
「シドレー?」
「いくんやろ? ビアンカはんを取り戻しによ。俺もほら、アイツラには借りがあるし、船で行くにはきっとおっさんが見張ってるじゃろ?」
「ああ……」
「リョカ……」
 指輪を持つ手が握られる。
「デボラさん」
「行かないで欲しい。きっと戻ってこれないから。だから、その旅を応援したくない。けれど、それでも貴方は行く。それほどまでにビアンカさんが大事なの?」
「デボラさん、聞かないでくれ」
「ねぇ、もし、もしよ? もし、ビアンカさんじゃなく私が連れて行かれたら、貴方は助けに来てくれる?」
「それは……」
 ちらりとルカを見て、そしてボルカノを見る。
 どうにも聞く相手が違うのではないかと思うも、ルカも彼のことを真剣に見つめている。それは嫉妬などの感情ではなく、リョカの真意を知りたいということだろう。
「君は僕に嘘をついたね?」
 おおよそ知っているだろうシドレーをちらりと見たあと、デボラに向き直る。
「ええ」
 彼女もようやく気付いた彼にふっと笑い、頷く。だが、あえて口にしない。
「僕は行く。いつかは辿り着く真実だ。そして君を奪い返す」
「そう……。なら、やっぱり行かないで欲しいと言うわ……。お願い、諦めてくれないかしら?」
「そのこたえはわかっているね? でも君は間違っているよ。僕は必ず戻ってくる。はは、問題は山積みだけど……、そのことで悩みたいな……」
 リョカは頬を掻くと、シドレーの背中に飛び乗る。
「きっと戻ってくる! 今は赦してくれ!」
「前にも言ったわ。貴方が探しにきなさいよ」
 デボラは窓から飛び立つ影に向かい、そう呟いていた。

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