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ビアンカを追って_7

 控室を前にリョカは手を払う。誰ともわからぬ偽フローラを睨み、感情を抑えて尋ねた。
「君は一体誰なんですか? なぜこんなことを?」
「ん? あたしは旅芸人のビビアン。お見知りおきを、新夫様」
「ふざけないでください。なぜ他人のあなたがわざわざフローラを名乗って僕と結婚式をする必要があるんですか!?」
「それはまぁ……、雇い主さんから直接聞いてくれるかしら? ほら、そっちの部屋で……」
 ビビアンはヴェールを脱ぐとウィッグを外し、赤味の強い茶色のショートヘアをなびかせ控室へと入る。
「お疲れ様でした。しっかし、やるねぇ~、この人、あたしの変装を一目で見破ったよ? 水妖マールの再来とすら噂されるこのあたしの変幻術も焼きが回ったかしらね?」
「ふむ、わしにはわからなかったが、さすがはリョカ君といったところか?」
 天蓋付きのベッドのそばでルドマンが告げる。
「あの、ルドマンさん、これはどういうことなんですか? それにフローラさんは一体……」
 天蓋が揺れ、女性が身を起こすのが見えた。青い髪が靡き、凛とした声が響く。聞くものを侮らせるそれこそ聞き覚えがあった。
「フローラさん?」
 具合が悪いのだろうと駆け寄るリョカは、ベッドを前にぎょっとする。
 それはフローラがかつてのたおやかなシルエットではなく、腹部の膨らんだ妊婦の姿だったからだ。
「フローラさん、その身体……、まさか妊娠なさっていた……」
「ええ、見ての通りですわ……」
 いったい誰の子だろうか? それが思い浮かんだ時、はっとする。
「すまないな。リョカ君。本来ならフローラに立ってもらいたかったのだが、身重故に今日は気分が悪いと言われてな。急きょ代役としてビビアン君に頼んだのだよ」
「そんな話をしているんじゃないです。いえ、それよりもフローラさんはお加減のほうは大丈夫なんですか? 昨日今日でこんなお腹になったわけじゃないでしょう? まったくなんで貴女達姉妹は身重の身体で無理をするんですか……」
 つい最近別れたばかりの彼女の姉のことを思い出しつつ、リョカは彼女の額を拭う。地図の中心にあるこの島は昼は日差しを遮るものが無く、夜はふきっさらしの海風で底冷えする。部屋の中は季節はずれの暖房がたかれているが、彼女の油汗は体調のものだろう。
「お姉さまに粗相をなさった貴方がそれを申しますの?」
「……なんとでも言ってください。ですが、せめてこのお腹の子だけは大切にするのが貴女の仕事でしょうに」
「そう、ですわね……」
 生命を宿したお腹をゆっくりとさする。リョカの想像が正しければそこにいるのはフローラの想う人の子だろう。
「ルドマンさん、僕だって協力を感謝しています。けれど、なぜ身重のフローラさんを連れ出すんです? 船旅で大事でもあったら、貴方は!」
 怒りの矛先を妊婦にぶつけるわけにもいかず、また元凶でもあるルドマンに詰め寄る。
「ワシも名誉市民として次の世代の形成を広く知らしめる必要がある。結婚式はその手段の一つ。こうすることでサラボナに安心を届けるのが、名誉市民の義務なのじゃよ」
「だからといって、それなら時間を置くこともできるでしょう? それこそ別人を用意することだってできた。なぜ、そうまでして名誉市民に拘るのですか!」
「名誉市民はサラボナの人々の為にもある。それに、わしとてフローラの花嫁姿を見たいと思っていた。それは否定しないでほしい」
「……」
 名誉市民、名誉欲や権力、立場を第一に考えているのではないかと疑っていたリョカだが、しょんぼりする老人の姿を見ると何も言えなくなる。
 立場こそ違えど彼もオジロンのように街を守る者。そのささやかな我儘に、リョカも強くは言えなかった。
「いや、すまんかった。なに、上の娘も活発というか、とにかくじゃじゃ馬だからの。せめてフローラの花嫁姿をハルマも見たがっておったしな。それに……」
 すっと周囲を伺った後、小声で続ける。
「フローラの妊娠が分かったあたりから、どうもきな臭いところがあってな。名誉市民制度に疑義を申し立てる者も出始めている。まだはっきりしないが、教団と通じる者たちがゴルドスミス家を亡き者にしようとしている」
「……まさか……」
 サラボナの世事に疎いリョカだが、権力を求める者がどう動くか、それに巻き込まれた経験を持つ彼は納得もできる。
「世界博物館は四方を海に囲まれている。警備もしやすい。もし不審な者が訪れれば対応できる。サラボナの高台で間者を待つわけにもいかぬからな」
「なるほど……」
 まったくの向こう見ずの結婚式でもないらしい。その不届き者の正体はわからずとも、裏で糸を引くのが教団であるのなら、それを討つことがフローラと、その子を守ることにつながるのかもしれない。
「わかりました」
「うむ、それと、斥候から連絡が来た。次の二十三夜月に奴隷を乗せた船が出港する。リョカ君たちにはその時に動いてもらうぞ?」
「はい」
「それじゃあフローラ、わしはお偉方と用があるから失礼するぞ」
「ええ、お父様、ごきげんよう」
 フローラは半身を起こしながら軽く会釈する。部屋を出るルドマンに連れられて執事とボディーガードも出ていった。おそらくは部屋の前で待機しているのだろう。
「……フローラさん。なんだか大変なことになっているみたいですね」
「ええ」
「せめて、その子を守る役目、僕に担わせてください」
「ありがとうございます。リョカさんがそう言ってくださると、心強いですわ」
 笑顔で言う彼女だが、どこか心ここに非ず。あの日、ルドマン邸で約束をした時から、彼女の中の涼しさに終わりはきていないらしい。
「必ず」
 そう約束することで晴らせる霧もなく、リョカは虚しさと無力さを抱く。
 また背負うものを増やすことに、彼は気付いているのだろうか……?

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