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……タイッ!?_08

提案

 つまりはこうだ……。
 愛理が和彦と部室で性行為をした。もちろん、里美が脅迫される謂われもないが、もしこれが公になったら?
 未成年への校内での淫行、教師と生徒。写真週刊誌が好みそうな話題であり、教育委員会も黙っていていない内容。
 教師は転任、あるいは諭旨免職。生徒は停学。
 では部活は?
 当面活動は自粛されるだろう。
 一番困るのは?
 大会にそなえて日々研鑽を続ける部員。それも優秀なアスリート……。

 中学の頃から里美は優秀な中・長距離ランナーだった。
 中総体では県の記録を更新し、全国では入賞を逃したものの、将来を渇望される一人だった。
 だからこそ、彼女は怖れていた。
 つまらない淫行、それも他人のそれに足を引っ張られてしまうことなどありえない。最悪、転校も視野に入れるべき。
 そんな時、男子部員が話をしたいと言ってきた。
 平山愛理の行為と部室の利用について。
 黙っている代わりに自慰を見せろ。自分らのを見たのだから、お前も見せろ。と。
 冷静に考えれば飲み込む必要の無い横暴な提案。
 男子三名に囲まれた彼女は軽いパニックに陥った。精液臭い年頃の男子、脚力と持久力ならともかく腕力ではかなわない。しかも相手は三人。自慰の真似事をして済むなら。そんな甘い思惑が、続く悲劇を誘発した。
 もっとも、勇気あるピーピングトムが救ってくれたわけだが……。

**――**

「でね……ひっく、あたし、悪くない……のに……」
「うん、うん……。里美さんは悪くないよ」
「うん……」
 胸元で啜り泣く彼女の髪を手で梳き、天井を見上げる。意識して彼女を見ないようにしていたが、埃臭さとは別に教室でよく嗅ぐ匂いを高濃度で吸い込む。
 ――香山さん、いい匂い。
 女子生徒の甘酸っぱい香りを感じながら、彼は話半分に聞いていた。
「……んもう、ちゃんと聞いてるの?」
「ん? あ、ごめん。けど、もう大丈夫でしょ?」
「うん……けど、わかんないよ。だって、男って性欲、毎日しないとだめなんでしょ?」
「それは、えっと……」
 自分も男なのだが、どうやら彼女からすると男の子なのかもしれない。もっとも、彼自身、性別を聞かれたら男の子としか言い様もないが。
「ね、君もシタイの?」
「え!?」
「だって、さっきから……ヘンナノ……大きくなってるし……」
「いや、それは……生理現象です」
 紀夫が目を空中に彷徨わせていたのは、気を紛らわせる為。もし意識して彼女と触れようなら、彼の愚息は今よりもう少しだけたくましくなっていたのではないか? かといって、それどまりではあるが……。
「あのさ、こんなこと言ってもしょうがないけどさ、僕は香山さんを襲ったりしないよ」
 梳く手を止め、ちょっとだけ力を込める。
「本当?」
 彼女が少し上半身を起こすと、その柔らかな感触が遠のいてしまい、ちょっぴり残念な気持ちになれる。ただ、ニ十センチ程度の距離にある里美の顔から心細そうな視線が来ると、別な意識でどこかたくましくなれる気がした。
「うん。僕が香山さんを守ってあげる」
 脚はともかく、腕も彼女よりも細い。色白で懸垂も五回と出来ない彼がどうやって彼女を守るのか。
「誰も守ってもらいたいなんていってないもん。それに、君なんかじゃ……。なんでアンタあたしのこと知ってるの?」
 話題の定まらない彼女は胡散臭そうな半眼を真ん丸く開き、彼をじっとりと見る。
「え、だって香山さん、中学の頃から有名人じゃない。朝礼のときとかよく表彰されてたし」
「うん。だけど、なんでアンタが知ってるの?」
「それは、同じ中学だもん」
「そうだっけ?」
「そうだよ。僕、影薄いから気付かなかった?」
「うん」
「酷いな。っていうか、同じクラスじゃん」
「そうなの? えー、うそ、いたっけ?」
 大げさに言う彼女だが、冗談ではなさそうな様子には、気の長い紀夫でも呆れてしまう。
「もう……。でもさ、僕で力になれることないかな?」
 自然と出る言葉に偽りはない。けれど、プランも無い。
「だって、こんなこと、誰に相談すればいいの?」
「そうだよね。いつも僕が見張ってるわけにもいかないし……」
 今回はたまたま都合が良かっただけ。何時暴徒化するかわからない獣の牙から女子を守るのは、想像するより困難である。
「あ、イイコト思いついた!」
 かといって、イイコトに良い思いつきがあったためしも無い。
「え、何?」
 しかし、聞かないことには話も進まない。
「あのね、アンタがマネージャーになるの。女子陸上部のマネージャー!」
「え? だって、そんなの。いいの?」
「うん。マネージャーなら男子でも問題ないわ! それに、平山さんじゃ話にならないからね。よし、アンタ明日、入部届け持ってきなさい!」
「そんな……うん、わかったよ……」
 彼が断れなかったのは、今回ばかりはただの優柔不断でもない。
 ゴミバケツの上で芽生えた下心への少しばかりの贖罪の気持ちからかもしれない……。

**――**

「えっと、男子部員じゃなくて、女子部のマネージャー?」
 放課後の職員室、愛理の驚いた声がこっそりと聞こえた。
「ハイ……。その香山さんがどうしてもっていうから……」
 理由は時期ハズレの入部希望者と、その希望先。
「平山先生、彼はこう見えても陸上のことなら何でも知ってるんですよ。スポーツオタクで練習方法とかフォームとか中学の時からお世話になりっぱなしなんです。ねー、紀夫」
 隣では推薦人の里美が笑顔で新マネージャーの背中を叩いているが、当の当人はどこか困っているようにも見える。
「えっと、そうなの? 島本君」
「え、あ、はい……、えっと、近代スポーツで重要なことは、体にかかる負荷をいかに取り除くかと、新陳代謝の活発化とそれに伴う体温変化への対応、はては食品にいたるまでと、約ニ十種類からなります……それは……アミノ酸摂取時における体内時間、あるいは摂取頻度、さらに補強栄養素を充分に……」
 スポーツオタクノリオは前日に里美から吹き込まれた情報に適当な漢字とカタカナ語を付け加えて披露する。もちろん、内容はでたらめだが……、
「うんうん、わかったわ。えっと香山さんの昔のコーチみたいなものなのね? それなら私より詳しいかもね。うん。それじゃあ陸上部のマネージャーとしてがんばってね」
 同じく素人の愛理はすっかり騙されてしまう。難しい話、というよりは取り留めの無い話を遮り、愛理は入部届けを受け取り、部員名簿に彼の名を書き加える。
「えっと、それじゃあ一足先に部室に行きますね」
「うん。それじゃ練習、がんばってね……」
「はい……」
 笑顔の二人とは対照的に、一人気のない返事を返す紀夫だった。

続き

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