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……タイッ!?_09

マネージャーの仕事

 陸上部の練習は、皆各々の専攻している種目を練習しているらしく、準備運動、アップ以外は別々らしい。
 運動部の練習など経験のない紀夫は、ファイル片手にトラックを回る里美を眺める程度で、特にやることも無い。
「おーい、マネージャー君! こっち手伝って」
 代わりに同部員の伊丹理恵が彼を呼ぶ。彼女はなわばしごのようなものを地面に敷いており、紀夫にもそれを等間隔でしくように言う。
「これ、なんですか?」
「うん? これはラダーじゃん。知らないの?」
「あ、えっと、あんまりハードルは詳しくなくて……」
 凄腕マネージャーと紹介されていたのにと驚く理恵に、紀夫は慌てて弁明をする。
「ふーん、そうなんだ」
 マネージャーとはいえ練習器具も知らないのでは話にならない。
「まいっか。それじゃさ、時間計ってよ。合図かけてね」
 とはいえ、顧問が顧問なせいか、そこまで理恵もとやかく言うつもりはないらしく、そそくさと開始位置に向うと、右手を上げて合図を促す。
「よーい、スタート!」
 合図と同時にストップウォッチを押すと、理恵が小刻みにラダーの上を走る。
 なわばしごのようなそれは二十センチ程度の感覚で開いており、歩幅の感覚を覚える為の練習と理解できる。同時に腿上げと手の振り方を学ぶものなのだろう、理恵の小麦色に焼けた腕と太腿がよく動いていた。
 ――へー、こういう練習があるんだ。
 運動とは縁遠い彼だが、アンチスポーツマンでもなく、また、オリンピックなどは興味がなくとも周囲に促され、惰性で見てしまう。だからだろうか、普通に感心していた。
 理恵は何度となく往復しては汗を迸らせていた。
 そして、走るには不得手と思えるほど肉付きの良いお尻をプルプルと揺らし、彼の脳裏に軽い火花を散らす。
 ――僕、何を考えているんだろ……。でも、理恵さんのお尻、柔らかそう……。
 スポーツ番組を見ているときも普通に下心を抱く健全な少年である紀夫だが、目の前で見せ付けられている彼女の魅惑的なヒップにも充分反応してしまう。
 ――いかんいかん、僕はそういうんじゃなくて、あくまでも……。
「ねー、今何分?」
 往復するたびに脚が下がってくる理恵が、苦しそうに言う。
「え? あ、んと五分三十、一、二……」
「えー! もっと早く教えてよー!」
 理恵はゆっくりと動きを止め、息を荒立てながら彼のほうへと歩み寄る。
「オーバーワークは練習の敵なんだから。マネージャ君、知らないの?」
 赤く上気した頬と怒るというより呆気に取られたという様子の表情に、紀夫はすまなそうに肩をすくめてしまう。
 彼はスポーツ論を知らないわけだが、触れ込み、紹介のされ方はあくまでもスポーツ博士ノリオなのだ。なのにもうメッキが剥がされかけているとは、当人も驚いてしまう。
「ゴメンなさい。ちょっと気を取られることがあって」
 その視線の先にあったものといえば、理恵のおいしそうな太腿。弁明になるはずもない不埒な思惑を飲み込む。
「おーい、マネージャー。タオルどこー?」
 走り込みを終えた部員が汗を垂らしながらやってくる。
「マネージャー、マット出すの手伝ってー!」
 体育館倉庫のほうでは高跳び用のバーとマットを運ぶ姿。
「あ、はーい、今いきまーす」
 都合よく頼まれた仕事にとりかかることでひとまず理恵の疑念の目を欺くわけだが、それも何時まで出来ることなのか?

**――**

「ふーん。そっか、理恵がねぇ……」
「うん。正直、ただの雑用と紹介してくれたほうがよかったんじゃないかな?」
 昼休み、食堂でサンドイッチをつまみながら話す二人。男女比率一対四の学園ではそう珍しい光景でもない。
「でもね~、男子部員となると男子部のほうのマネージャーにされると思うし」
「だけど、監視するならそのほうが都合よくない?」
「いや、でもさ、雑用してもらいたいし」
 しれっと言う里美だが、もしかしたら本心はそこにあるのかもしれない。
 ここ一週間女子陸上部のマネージャーとして過ごした彼だが、日々頼まれる雑用の量は半端ではない。部員数二十余名程度とはいえ使用する器具は種目ごとに様々であり、洗濯物も備え付けの洗濯機を一日一回回す必要がある。
「んで、何してんの?」
 オヤツのウエハースをかじりながら仕切りに書類にペンを走らせるマネージャー。どうやら申請書とあるが?
「うん、部室の申請書。男子部と女子部で分けられないかなと思って」
「あそっか。そうすればああいうことされなくて済むんだ」
「うん。けど、男子部は今五人だからね。通るか難しいと思う。せめてあと五人いればね……」
 いくら兼任が許されるとはいえ、一人の生徒が五人分登録するわけにも行かず、こればかりは生徒会の掌の上というもの。
「でも、あたしが心配してるのは……」
 強姦未遂。
「大丈夫。きっと僕が守ってあげるから!」
 薄い胸板をドンと叩くも、そう頼れるものでないというのは理解のうえ。出てくるのはため息なのかもしれない。
「おっ、マネージャー君だ。サトミンも一緒? 何してたの?」
 声の方を振り返ると理恵がいた。
 彼女は素うどんをトレイに乗せながら席を探しているようだが、時間帯が時間帯のせいか、どこも空きがない。
「隣いいよね。いいよね」
 里美の返事を待たず強引に相席をする理恵だが、フンワリ茶髪に染められたポニーテールがよく似合う彼女に言われると、反論する気持ちもなく「まいっか」と受け入れてしまう。
「えへへ、イタダキマス」
 割り箸をパチンと割ってちゅるちゅる啜る彼女に、二人だけのミーティングも一時中断。理恵も当事者なのだから教えても良いのだが、あまり拡大しても都合が悪い。そもそも秘密裏に済ませたい内容なのだから。
「ねぇ……、マネージャー君ってさ、本当に陸上部だったの?」
「え? あ、いや、それは……」
「うん。そうよ。私の中学では結構知られた存在だったんだから」
「そうなの? それにしてはあんまり知らないよね?」
「え、まあ、その、長距離とか専門に調べてたからさ、あんまりハードルとか詳しくないんだ」
「ふーん、そうなんだ。え? なに? もしかして、サトミンのためにマネージャーになったとか? ……いいな、いいな。専属マネージャーとか、しかも男の子……」
「何よ。言いたいことがあるならはっきりいいなさいよ」
 専属、男の子をやけに強調する理恵に、里美は妙な苛立ちを覚えてしまう。
「ん? いいの?」
「いいわよ」
「じゃあ言うね。マネージャー君とサトミン、付き合ってるとか?」
「「……!?」」
 ピンクの渦巻きのナルトを箸で器用につまみ、二人を交互に見る理恵。ナルトがどことなくハートに見えたところで、里美はドンと机を叩く。
「馬鹿言わないでよ。こいつなんかと何もないわよ。ただのマネージャー。それだけだってば!」
 あまりの物音に周囲の生徒も食の手を休めて彼等のほうを見る。
「あ、いや、だからその、あたしと島本は別にそうなんじゃなくて、ただ都合の良いマネージャーだからって……」
 里美は俯き加減で小声になり始める。
「ふーん。そうなんだ。ホントに?」
「ホントよ……。ああ、もういいわよ。島本、あとお願いね」
 一体何がお願いなのか不明だが、彼女は自分のトレイも片付けずに、学食をあとにする。
「あ、香山さん……」
 展開的につい追いかけようとする紀夫だが、裾を掴む理恵に止められる。
「ん? 何? 伊丹さん」
「なんでもないんでしょ? 追いかけなくていいじゃん」
 なんでもない。
 確かにその通りだが、改めて意識すると切なさに似た涼しさが心に訪れる。
 才能のある彼女を助けたい、力になりたい。そんな裏方的精神が、どこか否定されたような気もあるし……。
「ねえ、本当のこといいなよ」
「本当って、嘘なんかついてないよ」
「別にいいじゃん。マネージャー君、雑用がんばってくれてるし、今更陸上素人ですって言われても誰も怒らないよ。先輩だって皆雑用二号としか見てないし」
「雑用二号って……。あれ? 一号って誰?」
「えっと、そういえば名前なんていったけ? まあいいや。それよりさ、マネージャー君、ちょっとお願いしていい?」
 引き止めたのはどうでも良い疑惑の追及ではなく、これらしい。
「まあ、マネージャーですし」
「数学の補習、手伝って……?」
 拝むように手を合わせ、にっこりと笑いながら首を傾げる理恵の頼みなど、マネージャーでなくとも断れるはずが無かった。

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