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……タイッ!?_10

調査、さもなくば雑用

 人には向き不向きがある。
 自分は運動が苦手。その分勉強をがんばればいい。
 その結果は四月最初の実力テストで如何なく発揮された。
 一学年三百ニ十四名中二十一位。男子だけで見れば十二位と健闘したもの。
 それもそのはず、彼の実力からすれば桜蘭高校は一ランク下のレベルなのだ。
 受験に失敗した。志望校に落ちた。周囲からすればそう見えたかもしれない。
 ただ本人にしてみれば、狙ってのことでしかない。テスト前だけ擦り寄られることの多かった彼は、都合の良い友人と縁を切りたかった。
 きっとこの先も利用される。
 中学生ならではの逼迫した問題に、彼なりの答えを出したつもりだった。
 それに「女子ならそこまで男子に話しかけないだろう」という予想があった。彼の中学では手を繋ぐ男女など皆無に等しく、それは高校でもそうなのだろうと甘い見通しを立てていた。
 甘かった。
「んでね、充ったらさ、あたしにコクっておきながら、山陽校の子とも付き合ってたの。わかる? 二股されてたんだよ?」
「ふーん……そうなんだ。んでもさ、それとこれ、関係ある?」
 補習教室の隅で机を寄せ合う紀夫と理恵だが、本来問題集とにらめっこするはずの彼女は爪のお手入れに精を出し、最近別れたらしい彼氏の愚痴を語る。
「大問題じゃない! 青春を生きる乙女の純真が踏みにじられたんだよ? もう、マネージャー君は女心がわかってないの?」
 さも大事に言う彼女だが、彼女自身、補習授業の重要性が分かっていないらしい。
「うん。ごめん。だけど伊丹さん、伊丹さんがしないといけないんじゃないの?」
「だってぇ、数学苦手なんだもん。あと物理と化学、それに政経も日本史も、そうそう世界史も嫌いだわ」
「そんな、全部じゃん……」
「だ~か~ら~、マネージャー君しか頼りにならないの、お願い!」
 手を合わせる理恵は悪びれる様子もなく、媚びた上目遣いをよこしてくる。
 これまで何度も利用されてきた紀夫にしてみてれば、うわべだけの「頼りにしてます」など薄ら寒いだけ。ただ、最近芽生え始めた異性への興味からか、それも悪くないと思えるようになっていた。
 ――伊丹さん、彼氏いたんだ。じゃあ、やっぱりエッチ、したことあるのかな?
 喋るたびに揺れる胸元のリボン。そして、性格に比べてずっと控えめな胸。
 ――あんまり大きくないんだ。
 里美と重なったあの日に感じた質感と比べれば見劣りもする。そう思うと多少なり冷静さを取り戻せた紀夫だが、
「あ、今エッチなこと考えたでしょ?」
 とはいえ、視線は確かに彼女の胸を見ていたわけで、それなりに弁明も用意すべきこと。
「あ、ごめん」
「やっぱりマネージャー君も男の子ね」
 目を伏せるも視線は未練がましくスカートの裾を見てしまう。理恵はそれに気付いているのか、わざとらしく脚を組み替えて頬杖を着く。
「ねえ、やっぱりサトミンのこと好きなの?」
 年頃の女子らしく恋愛は大好物。理恵は食堂での続きを所望している様子。
「香山さんとはなにも無いよ。ただのマネージャーと部員だってば」
「うっそだー。ラダーも知らないでマネージャーなんてさ……それにぃ……」
 彼女は立ち上がると紀夫の腕を取り、ワイシャツの袖を捲り上げる。
「こんなに色白とかありえないってば」
 最近は日に当たることも多くなったわけだが、まだまだ漂白されたもやしのような腕。
「いいでしょ。別に……」
「ま、いいけどさ、なんで嘘ついてまで陸上部に入ったの? それも女子のマネージャーとかさ」
「それは……」
「サトミン狙い。普通そう考えない?」
 陸上部では女子の中で男子が一人となにかと肩身の狭い紀夫だが、入部するきっかけとなった里美とは話をしている。しかし、逆に見ればそれはそういう理由。つまり、好意を寄せる相手の力になりたい、傍にいたい。そんな邪推をされるわけで……。
「香山さんの力になりたい。それだけだよ」
「ふーん、サトミンの力にだけなりたいの?」
「なんだよ、こうして伊丹さんの補習も手伝ってるでしょ? そういうんなら辞めちゃうよ」
「あ、ゴメン……気に触ったら謝るよ……。でもさ、やっぱり、ほら、ねぇ……」
 喋るたびに揺れるポニーテールを指でくるくる回し、言いにくそうに半眼をよこす理恵。
「なにさ、まだあるの?」
 まだ里美との仲を邪推されるのかと不快感をあらわにする紀夫だが、
「応援してあげてもいいよ? なんてね……」
「な、別に僕と香山さんはそういう関係じゃないよ。本当にただ力になりたいだけで……」
 口調こそ荒げているものの、笑顔を向けられると怒る気持ちが薄れる。そんな魅力が、理恵にはあった。

**――**

 ――応援してあげてもいいよ?
 補習授業もそこそこに先にグラウンドへと向かった彼だが、胸中には理恵の言葉が渦巻いている。
 応援というのはつまり、二人の仲を近づけること。とはいえ、理恵にそんなことができるのだろうか? 彼氏に二股をかけられる程度の恋愛技術ではそれほどとも思えない。
 ――バカバカしい。何を期待してるのさ。そんなことより香山さん、大丈夫だよね?
 放課後とはいえ、まだ日も落ちていない時間帯。部室棟も人の出入りが激しく、衆人の目が届かない場所など無い。それに、グラウンドを見れば、ペースを保ちながら走る彼女の姿がある。隅っこでは男子部員達が筋トレをしており、特に心配することなどない。
 ――取り越し苦労なんじゃないかな?
 確かに倉庫の一件はあるが、平穏な練習風景をみているとそれも見間違いなのかもと思えてくる。
「……遅いぞ、マネージャー」
 振り向くと綾がタオルで汗を拭きながらやってくる。
「ゴメンなさい。ちょっと補習があって」
「アンタが補習?」
「いや、伊丹さんのをちょっと……」
「ふーん。でもそれはアンタの仕事じゃないでしょ? ダメだよ、甘やかしちゃ」
「ご、ごめんなさい」
 強気な綾にはついつい下手に出てしまう。というか、自分より頭一個背の高い彼女に射すくめられると、変な汗をかいてしまう。
「マネージャーはさっさと洗濯物干してきてよ。部屋干しすると臭うから気をつけてね」
「あ、はい……」
 すっかり雑用に成り下がった彼は、ベンチに溜まっている洗濯物をカゴに詰め、部室棟脇にある洗濯場へと向う。
「ん? あ、あたしのはいいよ」
 綾はカゴの中から自分の使っていたタオルとユニフォームを奪うと鞄に無造作に詰め込んでしまう。
「え、別にいいですよ? 手で洗うわけじゃないし、そんなに気を使わなくても……」
「いいんだってば、あたしは自分で洗うの!」
 真っ赤になって言い返す綾はいつものクールな面影が見られず、その必死さだけが伝わってくる。
「そ、そう……」
 よく知らない男子に私物では無いにせよ洗濯物を預けることに抵抗があっても不思議ではない。事実、部員の何人かは自分で洗濯しているのだし。
 ただ、ユニフォーム、特に短パンはともかく、タオルまで拒む理由がわからない。そもそも部の備品であるタオルを一つだけ別に洗うとういうのは非効率でしかない。
「おーい、島本―、こっちも頼むわ~」
 男子部員の市川稔がタオル片手に走ってくる。
「すげー量、運ぶの手伝うわ」
「あそう? 悪いね」
 もともと男子部は管轄外だが、彼等を監視するという裏任務を持つ紀夫には都合が良い。
「ねえ、最近どうかな?」
 ただし、話題を振るスキルがあるかは別のこと。
 稔とはクラスが違い、普段の様子をお互いしらない。
「最近? いや、別に……つうか、まだ俺らも一ヶ月そこそこだし、どうってことばかりじゃないかな?」
 それでも爽やかに笑う彼はそこまで悪い印象はない。もちろん、彼も例の手淫のメンバーの一人だが……。
「そっか。そだね」
「あ、そういえば何で島本は女子部なんだ?」
「え? それは、その……香山さんに頼まれて……、人手が足りないからってさ、ほら、先生、あんまり運動詳しくないみたいだし」
 ウソを着いたところでばれてしまう。それならいっそ真相の半分を話してしまえばいい。
「うん、まあ、あの人はちょっとずれてるからな……。んでも、羨ましいな。なんつうか、女子に囲まれてさ……」
「あはは、教室じゃ皆そうでしょ?」
「あ、そっか。それもそうだな。ははは」
 背が高くがっしりした体躯。特に汗臭そうト言うほどでも無く、目鼻も控え目な好青年タイプ。少なくとも自分よりは女子からの評価が高そうな彼が、どうして自慰に耽るのだろうか? 同じ男として抑えられない気持ちはわからないでもないが、彼ぐらいのスペックを持つのなら相手にも不自由しないのではないだろうか?
「ねえ、市川は彼女いないの?」
「え? なんだよ急に。まさか、お前、俺のこと?」
「な、違うよ。僕はそんな趣味ないよ。ただ、気になって……」
「う~ん、彼女っていうか、頭の上がらない人ならな……」
「ふーん、そうなんだ」
 ――頭の上がらない人? 誰だろ? でも女の子だよね。
「そういう島本は?」
「いや、僕は居ないよ。っていうか、そういうの、わからないよ」
「そうか? てっきり香山とそういう関係なのかと思ってたけど……」
 そういえばあの日見た後姿に稔の姿が無かった。彼は参加していなかったのだろうか? その理由は?
 考え込むうちに部室棟脇にたどり着く。稔は洗濯機に適当に放り込むとカゴだけもって帰ろうとする。
「あのさ、市川は香山さんのこと、どう思ってる?」
「香山? うーん、そうだな……」
 里美の名前を出すのは少々強引過ぎたかもしれない。稔は少し遠くを見て考える風をしたあと、
「困った……かな?」
 と笑顔に近い顔で言い切った。

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