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……タイッ!?_13

教えてあげたい……。

「ねえ、理恵さん。いるんでしょ? お願いだから出てきてよ……」
 ドアで隔たれた向こう側では一体なにが起こっているのか? 気が気でない紀夫は半ば狂乱しながらドアを叩いていた。
「待っててよ。もう、マネージャー君ったらせっかちさん!」
 中から聞こえてきたのは理恵の声だった。紀夫はひんやりした壁にもたれ、ふうと安堵の息をつく。
 疑惑の段階とはいえ、心配にしすぎもない。理恵を探す彼は部室棟を一通り調べた後、倉庫や体育館裏を調べていた。しかし、その影も見つからなかったので、続いて校舎を調べることにした。
 その途中、視聴覚室の電気が点滅したことと、カーテンが閉まっていたことから不審感を持ち、直接向ったのだった。
 その結果が理恵の間延びした声。だが、おそらくは……。
「お待たせ! うふふ、どうしたの? そんなにあわてちゃって……」
 笑顔の彼女だが、チャームポイントのポニーテールが解けている。どことなくブラウスに皺が目立ち、彼の心配を裏付けていた。
「大丈夫だった?」
「なにが?」
 何事も無かったように振舞う彼女をよそに紀夫は教室の中を調べる。
 カーテンは相変わらず閉まっており、電気もついていない。よく見ると準備室へのドアが開いており、違和感が漂っていた。
「ちょっと、どこいくの?」
「え? あ、いや、なんでも……」
 準備室を調べようとした紀夫を理恵の手が止める。
 柔らかく温かい手だが、気持ち揺れていた気がする。
「ねえ、送って行ってくれるんでしょ? ほら、早く帰ろう? ねぇ……」
「うん、そうだね……」
 まだ少し疑念が残るものの、それは今解決すべきでないと思い、その手を握り返すことにした。

**――**

 通学はいつも自転車の紀夫だが、理恵はトレーニングを兼ねて徒歩らしい。
 紀夫は自転車のカゴに二人分の鞄を入れて左手で押していた。
 それというのも右手がさっきから柔らかな手に拘束されているためだ。
 帰り道、手を繋いで帰るなどと小学生以来のこと。いくら日が落ちているとはいえ、気恥ずかしさを覚えてしまう。
「あ、あたしんちこっちだから」
 しばらく歩いた後、十字路に差し掛かったところで理恵が引っ張る。
「そう、それじゃあ……」
 自転車を身体で支え、彼女の鞄を取り出して手渡す。
 もう脅威は無い。視聴覚室で何をしていたのかは落ち着いたときに聞けばいい。もし隠すようなら、自分は無粋なことをしただけ。それこそ彼氏と一緒だったのかもしれないのだし。
 自分に言い訳をしつつ、どこかもったいない気持ちがあったりもする。
「何?」
 それがなんなのか、右手を引っ張る手が思考を中断させた。
「送ってくれるんでしょ?」
「だって、家そっちでしょ?」
 自分の家はこの道をまっすぐいったところ。もちろん右に回っても遠回りになる程度だが、それ以上は……?
「んもう、こっちがあたしの家だから曲がってって言わなきゃダメなの?」
「あ、うん、ゴメン」
 紳士としての下心の未熟な彼の態度に腹を立てたのか、理恵は握っていた手を離し、先に行ってしまう。
「待ってよ」
 それでも一抹の寂寥感が薄れたのは事実だった。

**――**

 近くの自販機でジュースを二本買う。
 彼女はスポーツドリンクで自分はコーヒー。ただしミルクと砂糖入りの苦くないもの。
 何故彼がつかいっぱしりをしているかというと、
 ――ねえ、あたし喉が渇いたの。ジュースおごってよ。
 公園を通りかかった時、理恵は急に我侭を言い出したせいだ。
 最近は当たり前になりつつある理恵との関係に、紀夫はそれほど抵抗もない。というより、どこか不安定な素振りを見せる彼女の気を紛らわせるためと素直に従うことにした。
 ペットボトル片手にベンチを目指す。
 そこそこ広い公園で昼間は小中学生で溢れかえっており、日が落ちると高校生のカップルがちらほら湧いてくる。ただ、一組でもいると気を使ってか後発の男女がやってくることが無く、不思議な秩序があった。
 今日は紀夫と理恵がいる。そのせいか誰も来なかった。
 もっとも紀夫はそんな裏ルールなど知らないわけだが。
「お待たせ……って、伊丹さん?」
 ベンチに戻るも誰もいない。不安が再びやってくる。
 周囲を見渡すも公園は無駄に広く、鬱蒼とした林がすぐそばの小山と繋がっており、人一人かどわかすことも容易なこと。
「伊丹さん! 伊丹さん!?」
 驚き叫ぶ紀夫はペットボトルも投げ捨て、走り出していた。
 どこへというわけでもなく、当ても無い。けれどじっとしてもいられない。
「理恵、理恵―!」
 まるで映画のワンシーン、恋人と引き裂かれた主人公を気取る彼だが、背後から追走する笑い声にしがみ付かれ、現実に戻される。
「うふふ……なに慌ててるの?」
「あ、理恵さん……。んもう、どこ行ってたのさ! 心配したんだよ」
「あはは、怯えちゃって可愛い。マネージャー君、そんなに怖かった?」
 木陰にでも隠れていたのだろうか、理恵の制服には小枝と葉っぱがついており、けらけら笑うたびにそれが舞い落ちていった。
「理恵さん。冗談じゃないよ。もう、心配したんだよ。本気で……」
「うふふ、ごめーん」
 どこか温度差があるものの、どっと疲れがでた紀夫は落としてしまったペットボトルを広い、ベンチに腰を下ろす。
「どうしてそんなに焦ってるの?」
「理恵さんが危ない目に遭ったら困るから」
「ふーん、危ない目って?」
「それはその……」
 ――男子部員からレイプされてしまうかもしれないから。
 未遂の段階であり、大事にすべきではないと口ごもる紀夫。下手に心配させてもよくないと言い訳を考えるが、何も浮かんでこない。
「あたしがエッチなことされちゃうかもしれないからでしょ?」
「え? 理恵さん、知ってたの?」
「うふふ。知ってたもなにもあたしは全然平気だもん。さっきだってマネージャー君が来なくたってへっちゃらだしぃ、久しぶりにエッチできるかもって期待してくらいだもん」
「そうなの?」
 隣に座ってスポーツドリンクをぐびぐびと呷る理恵は、確かに普段と変わらぬ様子。先ほど震えていたのは気のせいなのだろうか?
「エッチってさ、すごいキモチイイんだよ。皆そういってるしさ。もちろん好きな人とするのが一番だろうけど、でも、女の子だってしたいときってのがあるのよねぇ……」
 夜空を見上げながらあたかも「せっかくのチャンスをふいにされた」と言う理恵に、煽られる耐性の低い紀夫は反感を覚えてしまう。
「ねえ、マネージャー君って童貞でしょ? うふふ、隠さなくたってわかるよ。だってさ、あたしが近づくと変に意識するでしょ? なんか肘とかぶつかっちゃわるいとか考えてるんでしょ? でしょ?」
「それはまあ……」
「それにさ、お手て。ちょっと繋いだだけでも震えちゃってさ、情け無いの。そんなんじゃ彼女できないよ?」
 クスクスと含み笑いをする彼女だが、あまり怒りが湧いてこない。なぜなら、震えていたのは彼女の手だから。
「しょうがないからあ……あたしがお勉強させてあげるね」
 そういうと理恵は彼の膝に正面から跨り、見下ろす位置を取る。
「理恵さん? 何を?」
「さっきから理恵さんだって。いつからそんなに仲良くなったの?」
「え?」
 そういえば先ほどから無意識の内に理恵と呼び捨てにしていた。ここ数週間、放課後に理恵の補習に付き合っていた紀夫は、彼女に対する神経質な気遣いが薄れていたのを知っていた。それでも「伊丹さん」「マネージャー君」でしかなく、その原因を作った里美に対しても「香山さん」「君」もしくは「島本」でしかない。
 思い当たる理由は指先のスキンシップくらい。文字通り小指程度のふれあいでいい気になる自分を童貞らしいと笑いつつ、それ以上に膝にかかる重さを意識する自分がいた。
「お勉強? なんの?」
「お・ん・な・の・こ……うふふ!」
 最初に教えてもらったのはふっくらとした唇の感触だった。

続き

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