唇が重なっただけとはいえ、初めての経験に興奮と幸福感、それに若干の不安を覚えていた。
「理恵……さん?」
「何? やっぱりキスもしたことなかったんでしょ?」
「うん……けど」
――どうして?
いつも勉強を教えている。けれどそれは他の同級生にも同じこと。補習ごとに彼女に付き添うのは優越かもしれないが、キスをされるほどだろうか? 正直なところ勉強で苦労したことの無い彼にはそれほどの対価があると思えなかった。
唇から離れた厚みのある下唇と、それを隠そうと前に出る上唇。その重なり方が得意そうに笑っているようにも見え、唾液で滲んだリップのマーブリング模様が卑猥だった。
「今の全然ヘタクソ」
「しょうがないじゃん。初めてなんだから……」
プライドを傷つける一言に目を逸らす彼。しかし、彼女はそれを許さず顎をくいと剥きなおさせ、再び唇を近づける。
「え、だって……ん、んぅ……」
唇の表面がムズムズする。何かが当たり、無理に開こうとしているのだ。
それが舌だとわかったとき、紀夫は自らのそれを意識せずに突き出し、彼女の出す追試に臨んでいた。
「ん、んちゅ、はちゅ……はぅ……むぅ……んっ!」
舌先を通して伝わる幸福感と悠然と見下ろす目付きに堪えられず目を瞑る紀夫。どことなく負けを認めるようで悔しいが、経験のある彼女にもたれるのも悪くないと思えていた。
「んふ……んぅーんぅ……うふふぅ」
唇が離れたあともしばらくの間目を開けられなかった。哂われるのが怖かったのと、粘膜のやり取りを反芻したかったから。
「んー、まあまあ合格かな。目を閉じたの、あれ雰囲気あっていいね。ちょっぴりエッチだったよ」
「そう……」
羞恥心からです。などと言えず、ただ黙りこくる彼に、理恵は膝でずりずりと忍び寄る。
「ん、ねえ、もう追試は終りでしょ? あんまりからかわないでよ……」
「からかってると思う?」
「んーん、わかんない。けど、理恵さん、どうする気?」
「さっきエッチしそこねたからぁ……紀夫だっけ? 君が代わりに満足させてよ」
「そんな、だって……僕は理恵さんが心配だったから……」
「何をそんなに心配してるの? 理恵は平気だよ?」
「そうじゃなくって、これ内緒にしてもらいたいんだけど、陸上部の男子がさ、その、よくないことをしてるから、だから、女子部員を……」
「守るの?」
「……うん」
女子を守るという、お題目なら立派な気恥ずかしい気構え。
「あっはは、おっかしいんだ……」
哂われても当然だろう。自分だって自分以外から言われればそれを哂う自信があるのだし。
「エッチぐらい普通じゃん。ていうかさ、身体は皆大人なんだしぃ、したくなったらしちゃわない? スポーツみたいなもんだってば」
「そうかな?」
笑顔の彼女に反感を覚える自分。けれど股間を膨らますもう一人の自分は彼女の説を支持しているように見える。
「そうだよ……ねえ、シヨ? したいのぉ……」
お尻のむにっとした感触が膝をゆらし、勃起した逸物がトランクスと擦れてジンジンする。
「だって……」
それでも理性が拒む。
自分の目的、使命は女子陸上部の貞操を守ること。香山里美の涙に誓ったこと。
だが……。
「あ、忘れてた!」
「何を? ああっ……」
理恵が取り出したのはピンク色のしわくちゃな布。
公園の隅に配置されている街灯の明かりが少し届く程度でわかる。それはきっと彼女の下着で、つまり今の彼女は……。
「あたしノーパンだったわ……えへへ、失敗失敗」
バツの悪そうな笑顔を浮かべる彼女はぺろりと舌を出す。
「やっぱり理恵さん……、エッチしたいの?」
「ねぇ、お願い……、君じゃないと頼めないよ……」
スカートをたくし上げ、薄い陰毛の生えた股間を見せ付けてくる理恵。一体誰が彼女の願いを断れるのだろうか? 手持ち無沙汰に投げ出していた手が彼女の背中に回り、ブラウスをそっと引っ張る。肌に張り付く布は身体のラインをあらわにし、小さな丘にぷっくりとした突起を見せた。
「あん、もう、ブラもしてないんだっけ……これじゃあヘンタイさんだね?」
「うん……うん!」
気付いたとき、紀夫は理恵を抱きしめていた。
**――**
甘い香りに混ざるのは汗と埃の匂い。鼻の奥がかっと熱くなり、鏡がなくとも自身の紅潮ぶりが分かる。
「あん、もーう、そんなに焦らないの。これだからドーテー君は……、いい? ゴムしてくれなきゃスポーツにならないでしょ?」
理恵は財布からビニールの包みを取り出し、ぺキリと開ける。中から取り出すのは薄い膜。それを紀夫の目の前でくるくると見せ付ける。
「うん、うん……」
理恵を守るという高尚な意志はどこへやら、彼はベルトを手間取りながら外すと、中腰の姿勢になってトランクスごと下げる。
「あは、げんき~……、でもカセー君かあ、ちょっぴり残念」
勃起したそれは捲れかけた包皮が赤味がかった亀頭を少し隠している。それは彼の人に話したくない秘密の一つだが、この状況で恥ずかしがることも出来ず、千載一遇のチャンスに乗ることにした。
「いい? ちゃんと密封するようにつけないと~……、ふふ、できた……」
手際よく逸物をラッピングする彼女の小声の「上手く出来た」は聞き逃し、そのままお尻を揉みしだく紀夫。
――これを持ち上げて僕に乗っけると、それでできちゃうんでしょ? エッチ!
興奮に思考を囚われた男の子は雄になろうと必死で牝の身体を持ち上げようとする。けれど重心をずらして逃げ惑う彼女を捕らえることができない。
「んもう、焦っちゃだめぇ……、エッチってさあ、タイミングも重要だよ?」
唇にひとさし指を立てられる。それだけで男になりかけの紀夫のかすかに残る理性は吹き飛んでしまう。
「理恵!」
理恵の肩を掴み、手探りで陰茎の先端を彼女の窪みに押し当てる。
「ん……んぅ! くそ! んぅ……」
まだ濡れてもいないクレバスは力任せの行為に表面を滑らせるばかり。
膜越しに感じる互いの体温と乱暴な摩擦は確実に二人の理性を削り、蜜のような粘液を溢させた。
「ん、ダメだよ、そんな乱暴なの……」
「だって、だって……」
ただ闇雲に彼女を求め、そのうちの一回が秘裂を穿つ。
「あ、ああーん!」
「う、っくぅ!」
先端に感じる圧迫感、背筋に軽い痺れが走り逃げ出したくなるくらいの刺激があった。
「だめ!」
理恵の手が尻蕾になる彼の身体を掴み、短い爪を立てる。
「ダメなの。君がしてくれないと、ダメなの……」
何か必死な、どこか寂しそうな声ですがりつく彼女に、紀夫は少しだけ冷静さをとりもどした。
――理恵さんは何かを隠している。
視聴覚室の一件もそうだが、他にも何かあるきがした。
先ほどの性に関する倫理感にも違和感があった。どこか自分を偽る彼女の乾いた声と上擦った笑いは付き合いの短い紀夫でもおかしいと感じていた。
「ねえ理恵さん、エッチ……いいの?
「いれといて今更なにいってるの? もう……君がしたんじゃない?」
「だけど、理恵さん……」
「紀夫なんて怖くないもん。だから、君にされても平気なの……。エッチだって怖くないもん……」
「怖いの?」
「怖くないもん!」
声を荒げる彼女と目が合う。
鼻の辺りに薄っすらと汗をかいた彼女の目はまん丸で、背中ではシャツをきゅっと掴んでいた。
「エッチ、怖くないもん。あたし、エッチしたことあるし、彼氏とは別れちゃったし、誰としたって平気だもん。君じゃなくたって怖くないし、あいつらだって怖くないもん」
「うん……うん」
「だからね、君のことリードしてあげるの。全然大人なあたしだもん。大丈夫だよね?」
彼氏のこと。
視聴覚室でのこと。
性についての正直な気持ち。
理恵の持つ不安で不満な不快なこと。
「うん。理恵さん、僕に教えてよ……大人な理恵さんを……」
それを解消する、もしくは誤魔化して上げられるなら、それは誰に対しても嘘をつくことにはならないだろうし、そもそも弁解する相手もいないはず。
若干の役得は目を瞑るとして……。
続き
唇から離れた厚みのある下唇と、それを隠そうと前に出る上唇。その重なり方が得意そうに笑っているようにも見え、唾液で滲んだリップのマーブリング模様が卑猥だった。
「今の全然ヘタクソ」
「しょうがないじゃん。初めてなんだから……」
プライドを傷つける一言に目を逸らす彼。しかし、彼女はそれを許さず顎をくいと剥きなおさせ、再び唇を近づける。
「え、だって……ん、んぅ……」
唇の表面がムズムズする。何かが当たり、無理に開こうとしているのだ。
それが舌だとわかったとき、紀夫は自らのそれを意識せずに突き出し、彼女の出す追試に臨んでいた。
「ん、んちゅ、はちゅ……はぅ……むぅ……んっ!」
舌先を通して伝わる幸福感と悠然と見下ろす目付きに堪えられず目を瞑る紀夫。どことなく負けを認めるようで悔しいが、経験のある彼女にもたれるのも悪くないと思えていた。
「んふ……んぅーんぅ……うふふぅ」
唇が離れたあともしばらくの間目を開けられなかった。哂われるのが怖かったのと、粘膜のやり取りを反芻したかったから。
「んー、まあまあ合格かな。目を閉じたの、あれ雰囲気あっていいね。ちょっぴりエッチだったよ」
「そう……」
羞恥心からです。などと言えず、ただ黙りこくる彼に、理恵は膝でずりずりと忍び寄る。
「ん、ねえ、もう追試は終りでしょ? あんまりからかわないでよ……」
「からかってると思う?」
「んーん、わかんない。けど、理恵さん、どうする気?」
「さっきエッチしそこねたからぁ……紀夫だっけ? 君が代わりに満足させてよ」
「そんな、だって……僕は理恵さんが心配だったから……」
「何をそんなに心配してるの? 理恵は平気だよ?」
「そうじゃなくって、これ内緒にしてもらいたいんだけど、陸上部の男子がさ、その、よくないことをしてるから、だから、女子部員を……」
「守るの?」
「……うん」
女子を守るという、お題目なら立派な気恥ずかしい気構え。
「あっはは、おっかしいんだ……」
哂われても当然だろう。自分だって自分以外から言われればそれを哂う自信があるのだし。
「エッチぐらい普通じゃん。ていうかさ、身体は皆大人なんだしぃ、したくなったらしちゃわない? スポーツみたいなもんだってば」
「そうかな?」
笑顔の彼女に反感を覚える自分。けれど股間を膨らますもう一人の自分は彼女の説を支持しているように見える。
「そうだよ……ねえ、シヨ? したいのぉ……」
お尻のむにっとした感触が膝をゆらし、勃起した逸物がトランクスと擦れてジンジンする。
「だって……」
それでも理性が拒む。
自分の目的、使命は女子陸上部の貞操を守ること。香山里美の涙に誓ったこと。
だが……。
「あ、忘れてた!」
「何を? ああっ……」
理恵が取り出したのはピンク色のしわくちゃな布。
公園の隅に配置されている街灯の明かりが少し届く程度でわかる。それはきっと彼女の下着で、つまり今の彼女は……。
「あたしノーパンだったわ……えへへ、失敗失敗」
バツの悪そうな笑顔を浮かべる彼女はぺろりと舌を出す。
「やっぱり理恵さん……、エッチしたいの?」
「ねぇ、お願い……、君じゃないと頼めないよ……」
スカートをたくし上げ、薄い陰毛の生えた股間を見せ付けてくる理恵。一体誰が彼女の願いを断れるのだろうか? 手持ち無沙汰に投げ出していた手が彼女の背中に回り、ブラウスをそっと引っ張る。肌に張り付く布は身体のラインをあらわにし、小さな丘にぷっくりとした突起を見せた。
「あん、もう、ブラもしてないんだっけ……これじゃあヘンタイさんだね?」
「うん……うん!」
気付いたとき、紀夫は理恵を抱きしめていた。
**――**
甘い香りに混ざるのは汗と埃の匂い。鼻の奥がかっと熱くなり、鏡がなくとも自身の紅潮ぶりが分かる。
「あん、もーう、そんなに焦らないの。これだからドーテー君は……、いい? ゴムしてくれなきゃスポーツにならないでしょ?」
理恵は財布からビニールの包みを取り出し、ぺキリと開ける。中から取り出すのは薄い膜。それを紀夫の目の前でくるくると見せ付ける。
「うん、うん……」
理恵を守るという高尚な意志はどこへやら、彼はベルトを手間取りながら外すと、中腰の姿勢になってトランクスごと下げる。
「あは、げんき~……、でもカセー君かあ、ちょっぴり残念」
勃起したそれは捲れかけた包皮が赤味がかった亀頭を少し隠している。それは彼の人に話したくない秘密の一つだが、この状況で恥ずかしがることも出来ず、千載一遇のチャンスに乗ることにした。
「いい? ちゃんと密封するようにつけないと~……、ふふ、できた……」
手際よく逸物をラッピングする彼女の小声の「上手く出来た」は聞き逃し、そのままお尻を揉みしだく紀夫。
――これを持ち上げて僕に乗っけると、それでできちゃうんでしょ? エッチ!
興奮に思考を囚われた男の子は雄になろうと必死で牝の身体を持ち上げようとする。けれど重心をずらして逃げ惑う彼女を捕らえることができない。
「んもう、焦っちゃだめぇ……、エッチってさあ、タイミングも重要だよ?」
唇にひとさし指を立てられる。それだけで男になりかけの紀夫のかすかに残る理性は吹き飛んでしまう。
「理恵!」
理恵の肩を掴み、手探りで陰茎の先端を彼女の窪みに押し当てる。
「ん……んぅ! くそ! んぅ……」
まだ濡れてもいないクレバスは力任せの行為に表面を滑らせるばかり。
膜越しに感じる互いの体温と乱暴な摩擦は確実に二人の理性を削り、蜜のような粘液を溢させた。
「ん、ダメだよ、そんな乱暴なの……」
「だって、だって……」
ただ闇雲に彼女を求め、そのうちの一回が秘裂を穿つ。
「あ、ああーん!」
「う、っくぅ!」
先端に感じる圧迫感、背筋に軽い痺れが走り逃げ出したくなるくらいの刺激があった。
「だめ!」
理恵の手が尻蕾になる彼の身体を掴み、短い爪を立てる。
「ダメなの。君がしてくれないと、ダメなの……」
何か必死な、どこか寂しそうな声ですがりつく彼女に、紀夫は少しだけ冷静さをとりもどした。
――理恵さんは何かを隠している。
視聴覚室の一件もそうだが、他にも何かあるきがした。
先ほどの性に関する倫理感にも違和感があった。どこか自分を偽る彼女の乾いた声と上擦った笑いは付き合いの短い紀夫でもおかしいと感じていた。
「ねえ理恵さん、エッチ……いいの?
「いれといて今更なにいってるの? もう……君がしたんじゃない?」
「だけど、理恵さん……」
「紀夫なんて怖くないもん。だから、君にされても平気なの……。エッチだって怖くないもん……」
「怖いの?」
「怖くないもん!」
声を荒げる彼女と目が合う。
鼻の辺りに薄っすらと汗をかいた彼女の目はまん丸で、背中ではシャツをきゅっと掴んでいた。
「エッチ、怖くないもん。あたし、エッチしたことあるし、彼氏とは別れちゃったし、誰としたって平気だもん。君じゃなくたって怖くないし、あいつらだって怖くないもん」
「うん……うん」
「だからね、君のことリードしてあげるの。全然大人なあたしだもん。大丈夫だよね?」
彼氏のこと。
視聴覚室でのこと。
性についての正直な気持ち。
理恵の持つ不安で不満な不快なこと。
「うん。理恵さん、僕に教えてよ……大人な理恵さんを……」
それを解消する、もしくは誤魔化して上げられるなら、それは誰に対しても嘘をつくことにはならないだろうし、そもそも弁解する相手もいないはず。
若干の役得は目を瞑るとして……。
続き